坂口安吾のレビュー一覧
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驚きの幕切れ
幕末から明治初期へかけて、息の長い推理小説である。と言うよりも、ほとんど時代小説、ないしは風俗小説とでも言いたいような内容だ。推理要素は非常に薄いが、一人の男の流転の人生行路や、貧民窟描写に面白味が多い。安吾はやっぱり、貧乏やら闇市やらと相性の良い作家なのである。
ここでの新十郎も、小粋で話の分かる探偵をやっている。 -
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表面上の問題と、裏に隠れた事件
上手いな〜と思いました。謎が解かれ、全部の不審な点の、裏の事情が明かされていく爽快感。しかも隠された真実が明らかになった後の、探偵の台詞
「末長く◯◯をお続けなさいませ」
こんなの、他の誰に書ける!? ああ、革命的なるかな、安吾。
結城新十郎は、「UN-GO」とはちょっと違い、不愉快な真実を公表しないことを、快しとすることもあるのであった。 -
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原案にはなってないが
アニメ第3話での唐突な乗馬シーンが、ここから取られていると分かる。
番頭、店主、後妻、不義……話としてはえらく古臭いが、安吾の自由な筆致で読ませる。寄席や縁日の賑わいが、風流な雰囲気を醸し出す。
お梨江のキャラクター造形は、今読んでも生き生きしている。
しかし勝海舟は、しょっちゅう瀉血をしているが、ちょっとやり過ぎじゃないだろうか。どんだけ血の気が多いのか……。
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UN-GOを観たのを機に
読んでみました。アニメ化で改変されたポイントが、作者安吾の人生観とちゃんと絡めてあったことが分かる。マア、美少女・美少年キャラを水増しもしてるわけですが。
作者へのリスペクトのある映像化って良いものですね。
小説としては、海舟の悠揚迫らざる雰囲気など、のんびり読めるところが良い。
本格推理ファンには、物足りないかも知れませんが。 -
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安吾らしい
率直で気の利いた挨拶である。読もうという気にさせる。
それと、この人はやっぱり、筋金入りの合理主義者である。無論、情理主義者でもあるわけだが。 -
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第二次大戦直後に若者達の強い支持を得た「堕落論」ほか数編を収めたエッセイ集。「堕落論」で展開される考え方もよかったが、むしろ他のエッセイで書かれた文章の中に興味深いものが多い。文化、文学、恋愛、内省、実存、政治、宗教など、ほとんどの分野における著者の考え方を網羅しているといえるのではないか。それぞれの場面で本業ともいえる文学論を絡めているため、一本筋の通った思想を読み取ることができる。なかには、現代においては一般的な考え方が、当時では異説として扱われていた様子をみてとることができ、そこに時の流れが感じられるような点もまたおもしろい。いずれにしても、作家など自分の思想を表現することを生業とする
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一本の桜がひらひらと花びらを舞い散らせる光景は綺麗だ。
しかし数え切れないほどの桜の森で花びらが降り注ぐ光景というのは、音の無い、しんとした寒々しい世界を想像してしまう。
この話が何の寓意なのかはわからない。寂しさとか、そういうものなのかもしれない。
美しいけどもじっとその場でうずくまっていると、狂ってしまうような場所が、「桜の森の満開の下」だった。
表題作含め13作が収録されている。
持統~孝謙・称徳までの女帝時代の歴史小説、「道教」がおもしろかった。
悪人かと思ってたけどちょっと道教好きになった。孝謙・称徳女帝も好きだ。可愛い人だったんだな。
「梟雄」も好きだ。斎藤道三 -
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ネタバレ最も読んでよかったのは、『不良少年とキリスト』だ。フツカヨイ的……。なんてすげぇ言葉だろう。太宰治についてこう書かれたことは、もっと多くの人が知るべきだと思った。『人間失格』を読んで、偉人を同一視して同化し、浸る人は多いんだろう。その多くの人が、どこかで誰かや何かに出会い、人間の闇を知った上でそれだけじゃないと学ぶ。間違いなく名著であり、読まれるべき本であったけれど、太宰治が自身を追い詰めた決定打にもなったんだろう。読めば、より同一視が進む人の方が多いのかな? 俺はそうだった。今回は免疫から、少しの間で消えるものだったけれど。読後、多くの人が克服して人生に支障が出なくなるものに、作者自身が終
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ただ一言、「なんと無茶苦茶な文章なんだ」と言いたい。
初めはいくらか理路整然としていて、言いたいことをしっかり言っている。
ところが、終わりになるに連れて、何を言いたいのかわからない。酒に任せ、急いでつけたような結論。
だがそれが、人びとにこの堕落論が面白いと言わせる所以たるものなのかもしれない。わかったふうな口を利いているが、ぼくは実は何も理解してはいない。ただただ親近感が湧いている。思わず苦笑してしまうような文章。
ためになる、ならないで二分するような本ではないだろう。読むか、読まないか、ただそれだけである。人に読ませる本である以前に、これは坂口安吾が自分で書いたその証左であるだけにすぎな -
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とある田舎の猟師町。どんな患者も「肝臓病」と診たてたことから「肝臓先生」と呼ばれるようになった町医者は、肝臓病撲滅のために寝食をいとわず患者のために走りまわる。
タイトル、設定の面白さに加えて坂口安吾ときては読まずにいられない。さっそく読んでみたらやっぱり面白かった。
肝臓先生は熱い。お金のない人からはお金を取らず、どんな時でもどこにいても病気の人がいると聞けば駆けつける。風にも負けず雨にも負けず、常に歩いて疲れを知らぬ足そのものでなければならぬ。
こんなに熱く、正しく、力強く生きている男の悲劇を描いているというのに、そこかしこから漂う滑稽さは何なんだろう。褒められすぎると馬鹿にされて