葉真中顕のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
葉真中顕、中山七里、呉勝浩、深町秋生、下村敦史、長浦京、柚月裕子『警官の道』角川文庫。
7人の作家の短編を収録した警察小説アンソロジー。7人の作家全員が自分の好みというのはなかなかあり得ないことだ。読んでみれば、柚月裕子の『聖』がピカイチで後は平凡な短編ばかりで、少しがっかりした。
葉真中顕『上級国民』。本作に描かれる刑事事件とされなかった交通死亡事故は、2018年に東京都港区で起きた元東京地検特捜部長による自動車死亡事故を思い出す。実際にこういうことはありそうだ。90歳の佐々木嘉一が交通事故で亡くなった。しかし、車を運転していた谷田部洋は逮捕されなかった。その裏には驚愕の事実が隠されていた。★★★★
中山七里『許されざる者』。復興五輪などと銘を打って、コロナで延期された汚職に塗れた東京オリンピック。犬飼隼人シリーズの短編。今の時代、こんなこともありそうだ。東京オリンピックの閉会式を演出する予定の演出家の三浦伽音が殺害される。一体何があったのか。★★★★
呉勝浩『Vに捧げる行進』。警察官の名前がモルオとは。コロナ禍で疲弊する日常の中、町で頻出する落書き犯。その驚愕の意図とは。モルオという名前がどうにもこうにも。ストーリーが入って来ない。★★★
深町秋生『クローゼット』。ゲイの警察官か。世も末だななんて言うと顰蹙を浴びる、何とも嫌な世の中になったものだ。LGBTQなる少数派ばかりを擁護して一体何になるんだろうか。上野署の荻野大成と相棒の中澤祐一は荒神と呼ばれ、重宝されながら管内で起きる様々な事件現場に臨場する。その荻野には誰にも言えない秘密があった。★★★
下村敦史『見えない刃』。最近、やたらと性犯罪のニュースを耳にする。世の中、おかしなことになっているな。ある日、刑事課長に呼ばれた明澄祥子は性犯罪を専任することを命ぜられる。東堂とコンビを組んで性犯罪の捜査に乗り出した明澄が見た現実とは。★★★★
長浦京『シスター・レイ』。最近、注目している作家の短編。フランス帰りで予備校の講師という能條玲という謎の美女が主人公。玲は半グレ集団のトラブルに巻き込まれた知人の家族を救うために、果敢にも半グレ集団のアジトに乗り込む。★★★★
柚月裕子『聖』。最後の最後に納得のいくレベルの短編が収録されていてほっとした。母親と自分を虐待し、母親と別れたろくでなしの父親に復讐するためにヤクザに憧れ、組事務所に出入りする少年・聖。中華料理店でアルバイトをしながら、神戸の金坂組のバッジをもらうチャンスを狙う聖は、組に出入りするサングラスをかけた迫力十分の男に弟子入りを懇願する。★★★★★
本体価格820円
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Posted by ブクログ
戦時下、民族差別といったシリアスな設定ながらも、一方でエンタメ要素も十二分に盛りこまれたミステリー。非常に力のこもった力作だということは、読んでいて伝わってきました。
書き出しから濃い場面から始まって引き込まれる。
凍える寒さの北海道室蘭の貯炭場で重労働を課せられる朝鮮人の人夫たち。その過酷な環境下の中で、ある指令のため人夫たちにまじり潜入捜査をする刑事。
ここまでですでに相当カロリーの高い設定だけど、これはあくまで序章に過ぎないのがまたすごい。
そこから軍需工場関係者の連続殺人や、犯人が現場に残した血文字の謎めいたメッセージと興味を惹く展開で、物語を引っ張っていく。
そして主人公を追い込んでいく展開が容赦ない。主人公の刑事がアイヌにルーツを持つ出自であるがゆえ、同僚の刑事にも疑惑の目を向けられ、そこからさらに拷問、収監と徹底的に追い込まれていく。そこもまた引き込まれるゆえんです。
時代背景や展開も重厚だけど、そこから浮かび上がるテーマもかなりシリアス。
国家、戦争、そして民族。個人を捨て国家や天皇に従属することが求められた戦時下の大日本帝国。そこの矛盾や、国や体制に虐げられた個人の叫びが事件を通して浮かび上がっていく。
葉真中さんの作品って社会の闇に飲まれていった個人に焦点を当てた社会派ミステリという印象が強いけど、その持ち味や視点を戦時下という時代の作品でも遺憾なく発揮されています。
軽く読める作品ではないけれど、読み応えのある作品だったと思いました。