葉真中顕のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
戦時下、民族差別といったシリアスな設定ながらも、一方でエンタメ要素も十二分に盛りこまれたミステリー。非常に力のこもった力作だということは、読んでいて伝わってきました。
書き出しから濃い場面から始まって引き込まれる。
凍える寒さの北海道室蘭の貯炭場で重労働を課せられる朝鮮人の人夫たち。その過酷な環境下の中で、ある指令のため人夫たちにまじり潜入捜査をする刑事。
ここまでですでに相当カロリーの高い設定だけど、これはあくまで序章に過ぎないのがまたすごい。
そこから軍需工場関係者の連続殺人や、犯人が現場に残した血文字の謎めいたメッセージと興味を惹く展開で、物語を引っ張っていく。
そして主人公を追い込んでいく展開が容赦ない。主人公の刑事がアイヌにルーツを持つ出自であるがゆえ、同僚の刑事にも疑惑の目を向けられ、そこからさらに拷問、収監と徹底的に追い込まれていく。そこもまた引き込まれるゆえんです。
時代背景や展開も重厚だけど、そこから浮かび上がるテーマもかなりシリアス。
国家、戦争、そして民族。個人を捨て国家や天皇に従属することが求められた戦時下の大日本帝国。そこの矛盾や、国や体制に虐げられた個人の叫びが事件を通して浮かび上がっていく。
葉真中さんの作品って社会の闇に飲まれていった個人に焦点を当てた社会派ミステリという印象が強いけど、その持ち味や視点を戦時下という時代の作品でも遺憾なく発揮されています。
軽く読める作品ではないけれど、読み応えのある作品だったと思いました。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ2017年10月に文庫オリジナルで刊行されていた、葉真中顕さんの短編集である。『W県警の悲劇』ではブラックな作風が垣間見えたが、本作はそのものずばり、ブラックユーモアに特化した作品集となっている。
「秘密の海」。虐待を受けて育った2人が結ばれ、子宝も授かった。ところが運命は酷だった…。テーマ的に重い描写は避けられないが、本作中唯一、温かい気持ちになる1編。虐待は連鎖するとよく聞く。どうか乗り越えてほしい。
「神を殺した男」。史上最強棋士がライバルによって惨殺され、犯人もその場で命を絶った。その真相は…。あまりにも身勝手な理屈だが、彼なりに筋が通っているのか。羽生善治や藤井聡太は、選ばれし者なのは間違いない。
「推定冤罪」。かつてのホラーバッシングを想起させる。エログロもまた表現の自由には違いないが、こういう無理筋な逮捕があってもおかしくはない気がする。社会派作品という側面はあるが、結末は予想の斜め上だったとさ。
「リビング・ウィル」。自分も、寝たきりや脳死になったら、延命せずに尊厳死させてくれと思う。医師や家族の思惑が絡み合い、至った結論は…。いい話だと思わせておいて、何だこの結末は。なるべく健康で長生きしたいものである。
「カレーの女神様」。母が失踪した経験を持つ青年。彼が偶然たどり着いたカレー店に入ってみると…。色々な意味で安直な、大変わかりやすいブラックユーモアとだけ書いておきましょう。一応伏線になっているのが何ともはや。
最後の表題作「政治的に正しい警察小説」に、全部持っていかれた気がする。売れっ子作家がフリーの編集者に罵倒され続け、遂に至った境地とは…。もちろん差別はいけないが、この言葉に雁字搦めになるのも違うだろう。
葉真中顕という作家の本質が、ますますわからなくなってきた。笑える面もないことはないが、ブラックユーモアは日本人にはハードルが高いかな。読者にとっても作者にとっても。