宮内悠介のレビュー一覧
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本作品は作者の宮内悠介が現地ウクライナにまでに行って取材した内容を基に作られたとのこと。それだけに、詳細な記述による現場の臨場感がこちらにビシビシと伝わってくる。実際に行った者にしか判らない空気、風景から感じ取れる恐怖と絶望感をこれだけリアルに書き留めるためには相当の危険が伴ったことだろう。戦火は一頃に比べればだいぶ収まったものの、実質的にはまだ戦争が継続中なので、危険極まりない命を懸けた作品であることは間違いない。ここまでして作者が描きたかったことを、現在の我々日本人はどう受け止めるべきなのか。開戦当時、メディアは連日に亘って報道し続けたが、今では膠着状態が続いており、時々ガイキチ大統領とロシア・ウクライナからの一方的な発言を単に垂れ流しているだけ。終戦の兆しはまるで見られない。
内容は、ウクライナの外人部隊に参戦して現地で戦死した日本人の母が、息子の死に際の情報を求めて危険地帯に潜入するお話。行けるところまで行って、現地で少ない情報を得ながらついに戦死した現地に到達する訳だが、あまりにも都合の良い偶然が次々と重なり、遂には目的を達成して帰国するとは・・・ちょっと強引なストーリー展開、まあ小説だから。もしかしたら、この本は賛否が分かれるだろう。私としては、もう少し母の心の叫びがエキセントリックだったら何らかの賞は貰えるのではないかと考えている。ちょっと押し殺し過ぎすぎでは。
一年前に読んだ中山七里の「とどけ チャイコフスキー」でもウクライナ戦争の話が出ていた。ここでは敵と味方に分かれた音楽院の先生と生徒が、戦地で偶然に会い、戦地に放置されていたピアノで連弾をするというありえへん話だった。それに負けず劣らず、息子を亡くした母二人が協力して息子たちの状況・真実を突き止め、その結果お互いの息子は戦地で偶然出会った敵同士だったという設定。ウクライナとロシアは共に旧ソ連の隣国同士て、戦争前は親戚が分かれて住んでいた家族もかなりいたと言う。非常に辛い戦いだ。東京都民と神奈川県民が銃を取って戦争するものだといっても、日本人にはピンと来ないだろう。
ガイキチ大統領は就任後直ぐにウクライナ戦争を終わらせると豪語していたが、終戦どころかイランと新しい戦争を始めてこちらも膠着状態に陥っている。これでは中間選挙で共和党が大敗するだけではなく、残りの2年間でガイキチはどんな愚策を撒き散らし続けるのか、世界中の人々は戦々恐々と日々の生活を送ることになるだろう。 -
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ラウリ・クースクとまったくの同世代のため否応なしに感じ入ってしまった。
日本とは大分背景が異なるソ連で、そこで生活する人々の不安定さを初めて知った。当時我々日本人にとってソ連崩壊はほんとに遠い国のお伽噺だったが、ラウリ・クースクにとってはリアルだったのだなと思うと急に歴史が現実味を持った気がした。
彼らは、昨日の善行が今日の悪行となるような目まぐるしい社会の中で多感な青春時代を送らざるをえなかった。
そんな中で育まれた友情がまた複雑で儚い。
どうにもやりきれない感情、数少ない苦しい選択肢を乗り越えて現代に繋がるところは、読んでいて心があたたかくなった。時間が経つのは残酷なようで、全てを包みこんでくれるようなそんな側面もあるのだと感じた。 -
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小説というのは純粋に中身を楽しむものもあれば、その中身に自分の人生に類似ている部分を見つけて、同じ状況ながら違う選択をしたり、もしくは未選択な今の状況の選択後のシミュレーションを見せつけられるような内容もあると思う。自分にとってはまさに本書は後者であり、単行本が出たときにも読んだが、今回文庫化されてもまだ同じ状況の自分にとって今回こそは行動を起こさねばと思うのです。
本書のラウリ・クースクというのはエストニア人。どうやら本書の語り手はかつてラウリを知っていた人物であり、今必死で探していることがわかる。ラウリとはある時点で別れたのだが、ラウリの知り合った人物を訪ね歩き、ラウリがいつの時点でどうしていたのかを知っていくという構成。そんな構成ながら、あれ、この語り手は?という部分が結構ミステリ的だったりもしてそんな点も面白い。
ともあれ、私も高校時代の友人とかつて18年前に偶然再会し、そんな奇跡的な出来事があったのに連絡先を失くして以降、どうしているんだろうとほとんど毎日のように心のなかで問いかけている。実家住所は知っているので手紙を書こうと思うのだけど、果たして彼はどう思ってくれるのか。でもこの本を読み返したし、今度こそ手紙を書いてみようと思う。ありがとう、宮内悠介さん。 -
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ネタバレ第11回高校生直木賞、第4回加賀乙彦顕彰特別文学賞受賞。第170回直木賞候補作。
エストニアの小さな村に生まれた一人の男性が辿った人生の道のりを描くことで、旧ソ連の崩壊と国家の独立、ナショナルなアイデンティティの確立と「記憶の戦争」のただ中で生きることを余儀なくされた人々の生が書き込まれた小説。物語の最終盤で叙述トリックが仕掛けられていて、「ラウリ・クースク」を探していた語り手が、少年時代の彼の唯一の親友・イヴァンだったことが明かされる。
バルト三国の中でもエストニアは、ロシア系住民とエストニア独立派との歴史認識をめぐる対立が先鋭化した土地だったことは、知識としては知っていた。しかし、第二次大戦後の反ソ連派(作中では「森の人々」と語られる)の評価・位置づけを含む、根深い葛藤と対立が伏在していたことに改めて気づかされた。
巻末のマライ・メントラインによる解説も秀逸で、ラウリとイヴァンとカーテヤとの再会をハッピーエンドとして終わらせないことで、「わかりやすい物語」として消費されることを拒む作者の姿勢を的確に捉えている。人間はそんなにドラマティックな人生を生きないし、一度起きてしまった対立や葛藤はそんなに簡単に「和解」などできない。本作の淡々とした語りの展開は、安易な物語=ナラティヴだけには流れない、という静かな決意に支えられている。 -
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ソ連の崩壊とバルト三国の行く末に翻弄された3人の少年少女。いつしか大人になり3人は何を得て何を失ったのかを追うような物語だった。
ソ連やエストニアについて深く知らなくとも、ソ連が昔崩壊したんだったよなぁというくらいの知識でも読めるし、歴史の複雑さや詳細がテーマではなく、友情が根底にあったからこそ高校生直木賞にも入ったのだろう。
もう一つのテーマとしてはその時代に翻弄された市民の一人の物語であり、個人の苦しみ、葛藤が身近な存在として感じられることにある。
輝かしい時代もあり、燻るような時代もある。それらを経た後、去来する想いに心を馳せることのできる作品で、読み終えた時、一抹の哀しさと共に清々しい気持ちになった。
生きていこう、どんな時代が訪れても興味関心を持って自分ができることをしていこうと感じた。 -
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ネタバレ「日本スゴイ」系の番組を作らされることに心底飽き飽きした硬派(で、不器用かつナイーブな)40代のテレビディレクターが一念発起して、フィリピンで戦死した詩人・竹内浩三の幻のノート(「第三のノート」)を捜し求めて旅に出るところから物語が動き始める。「フィリピン」を決して定型化された紋切り型で語らず、ミンダナオのイスラム系の人々、国家の政治と経済を牛耳る財閥、資本による無軌道な開発に抗う地域の人々など、一筋縄ではいかない社会のありようを描きだそうとする姿勢からは、題材と主題に対する深い敬意を感じさせる。
複雑であるがゆえに複数の「縛り」が意識されて身動きがとれなくなってしまう男たちの心身を解きほぐすのが詩の言葉であるというのが面白い。主人公のテレビディレクターは、竹内のゆるいけれども率直なことばの前に繰り返し立ち返り、ミンダナオの精悍な青年はリサールのことばに背中を後押しされる。「石」が持ち主の記憶をつなぐ通路になるという細部は、どこか奥泉光の小説を思わせる設定でもある。 -
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ネタバレ連作の劈頭を飾る表題作はかつて「2010年代SF傑作選2」で知ったが、6年ぶりの再読という事実がまったく気にならない、それほど面白い。
各エピソードの構成自体は類型的とも言えるが、ずばりと読者の関心を鷲掴みして惹きつける技術が存分に活かされたものなので、むしろそのパターン化が好ましいぐらい。
何より、ツカミが上手いというのは、エンターテインメントにおいては非常に強い点。
著者が提唱? する"量子金融工学"なる新分野は、その道の専門家からすればツッコミどころがあるのかもしれないが、私のような素人が説明を読んで、なるほど…! と深く感心してしまうには十分過ぎる説得力を持っている。
どこまでいっても欲が尽きない愚かな人間という存在と、そんな人間の産物でありながらピュアで賢明なアンドロイドという対比が、全編を通して根底に敷かれているように思うが、とりわけ、遥かに科学技術が進んだ末に未来の社会が帰結する選択肢が、人間の対照である動物であり植物であり自然であった、という締め括りは極めて示唆的であるように思う。 -
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表題作の「暗号の子」を含めて8作。SNSやAIなどのテクノロジー関係の話が多い。唯一「行かなかった旅の記録」だけはソフトウェアの話が出てこないがCOVID-19禍でのバーチャルな旅行として含まれているのだろう。SNSの良い点と、それ以上に荒れている点を踏まえたものも多く「ローパス・フィルター」が特に印象深かった。一方で、暗号通貨と合意形成を扱った話もいくつかあり、暗号通貨をよく知らないままに胡散臭いと敬遠していた私の考えを改めさせられる内容でもあった。(でも、暗号通貨に手を出すつもりはない。)AIに書かせた小説も入っていて、それなりに小説の形を成しているのがすごい。(後書きによるとSFマガジンの企画だったとのこと。)
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ネタバレ
4.5くらい。
面白かったけど、技術知識についていけないところもあったので。
でも面白かった。
「暗号の子」
表紙がこのヒロインなんだなとわかった。
技術革新と新自由主義。
主人公のような人間はどうやって生きていくべきか、居場所を作るか、守るか、あるいは距離を取るか、な話かなと感じた。
「偽の過去、偽の未来」
未来予測をするが結局は嫌になってやめる話。
未来にだけ目を向ける娘、過去にばかり目を向ける父が、交差して、互いに調和する。
「ローパス・フィルター」
ツイッターではおすすめ欄があり、アルゴリズムでツイートが流れてくる。
これも一種のローパス・フィルター。
見たいものしか見ないので、見たくないものは取り除かれる。
「明晰夢」
ルーシッドという映像型のVRアプリ。
新たなドラッグとその末路。
一過性のうねりを見守る話だったな。
やる自由、やらない自由。
「すべての記憶を燃やせ」
AIに書かせたという触れ込みが無くても面白いとは思えなかった。
AIは入力した情報に対してそれらしいものを付加して作り出すだけで、物語や思想というものを感じられない、というのがよくわかった。
「最後の共有地」
天才の悲劇。天才に振り回される世界と自分。よくある話だが、経済やIT技術の話で面白かった。
「行かなかった旅の記録」
伯父に絵の具を贈ったエピソードが人間らしくて良かった。
作者も行ってないの読者に行った気にさせる文章で楽しい。
「ペイル・ブルー・ドット」
良い話だった。理想に邁進して疲れはてる。かつての理想を子供を通して思い出す。良い話だ。