宮内悠介のレビュー一覧
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多数のバグを抱えたこの世界。それを日々修正する世界医と呼ばれる人々の間で「この世に残された、最後の特Aランクのバグ」と呼ばれるのが、地図に無くウエブで検索しても見つからないイシュクト山。
本作はその山を目指す4組の旅人たちを主人公にした物語である。
まじめに概略を書くと上記のような感じになると思うんだけど、普通の小説とは一線を画すヘンテコな作品であることも確か。ハマる人はとことんハマると思うんだけど、ダメな人はとことんダメなんじゃないかなあ。
実はあっちに行ったりこっちに行ったりするメインストーリーのほうは自分も途中でついていけなくなってしまった。いや、そもそもストーリーなんてあってないようなものなんじゃないかなあ・・・。よく分からんけど。
個人的にはそれより、脇道として書かれたマニアックな小ネタや、大量に記された注釈のほうが断然面白く読めた。
たぶん、これまで読んだ宮内さんの作品の中で一番笑ったのはこれ。
特に数学とプログラミングに関する部分は個人的に関係の深い分野ということもあり、大いに楽しめた。
なので小説としてはともかく、一冊の娯楽本としては大満足なのであった。
それにしてもこの膨大な知識というか博識というか、単純に凄いと改めて思った。
この方にしか書けない唯一無二の作品であることは間違いない。 -
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ネタバレ秋のあとに訪れる短い春「旅春」、このような事象を「時空の側がかかった病=バグ」とし、それを直すこと(デバッグ)ができる「世界医」という存在がある、という世界観。地図にも検索結果にも出てこないイシュクト山を目指す、旅とデバッグのお話。
SF小説と注釈エッセイ。私自身もPG/SE系の仕事なので用語やあるあるの理解に問題なく、エッセイも好きなのですごく楽しめた。こんな書き方もあるのか、と目から鱗。
どうしても技法というか上下注釈のスタイルに気が行ってしまうけど、小説の内容自体もしっかりと面白い。中盤あたりから「あれ?これは?」と気づき始め、終盤のタネ明かしやそれぞれの収束はカオスだったが興奮を憶えた。
アトロク(2021-11-01)、岸本佐知子さんの推薦図書。
以下、ネタバレ有りで雑感。
プログラミングやライフハック系のリテラシーが高いとより楽しめる内容だけど、なくても呪文詠唱だと思えば大丈夫。
「世界医」という設定に、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の「計算士・記号士」の設定が頭の中でつながってしまい。
「解体子葬(デストラクタそう)」という造語がなんか好き。PCのデータを消す、とかそういう処理が含まれそう。
ジョンが実は野良世界医という設定すごく好き。
「両性具有」というワードで、ドラマスペシャル版のリングを思い出した(貞子が両性具有者)。
怜威を男性か女性か決めていなかった、というあたりでこの設定もあったんだろうか。
「カナダの国旗」も回収されている。
すべては世界医の手中なのだ。 -
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ネタバレ竹内ノートを追う冒険小説かと思いきや、ハードボイルドになったり、急展開で恋愛小説になったり、宗教問題になったり、華僑の財閥が汚職したり…随分とっ散らかったまとまりのない小説なんだけど、宮内さんの文章だから読めてしまうねんなぁ。
こんなとっ散らかりまくりやのに、最後の50Pでああいう散らかし方してくれるから油断ならん。戦争を選ぶ政治が最低だが、戦争を継続する政治も最低なのだということ。
とはいえ、ウクライナのゼレンスキーは現状戦わないと、国が地獄になるのが分かっての戦争選択だろうし…難しいよなぁ…ってこれは、本作と関係ない気持ち -
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ネタバレ深刻さと軽さ、爽快さのバランスが絶妙。面白かったです。
アラルスタンという中央アジアの架空の国で、高等教育機関「後宮」で学んでた女の子たちが、大統領が暗殺されて議員たちが国外逃亡してしまったために「しょうがないから、国家をやることにしようかなと」と国政を執り行う。
アラルスタンが割と緊張感ある情勢で、周辺国からは侵攻されてるしAIMというイスラム系の反政府組織はあるし、政治系の教育受けてきたとはいえ20代くらいの女の子たちに出来るのかと思ったけど、なかなかどうして惹き込まれました。大の大人の軍部男性が割とすぐ従うのはご愛嬌で。
命がけの場面もたくさんあってヒヤヒヤしました。でも女子高ノリでひたすら爽やか。文化祭()もそれはそれで……。
よく考えると、アラルスタンは旧ソビエトでウズベキスタン領だった自治区なのですが、油田出たから独立する!となったら欧米の協力を得たウズベキスタンが侵攻してくるの、、今の世界情勢に似たとこあると思いつつ東西逆ですよね。
アラルスタン平定したら議員たちが戻ってきて、大統領代行のアイシャの弾劾を始めるの胸糞。まさかのウズマが…となったのは胸熱でした。
ナツキとナジャフは少女漫画的でした…良きです…。。
嫌いになれないイーゴリ。皆さん、ソビエトの被害者というのもそれはそうです。映像化しても映えそうな物語でした。 -
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東京創元社が、社名の「創元=GENESIS」を冠して二〇一八年に刊行したSF書き下ろしアンソロジー第一集。各作品の前に編者による洒脱な紹介コメントも寄せられていて、「日本の現代SF小説界、作家も出版社も一丸となってこんなメンツで盛り立てていきますぜ」という顔見世興行的な気合いの入りようが感じられる。今のところ二〇二一年の第四集まで毎年刊行が続いているようだ。
SFに限らず同時代の作家の好きと思える小説に出会えることには、古典名作を楽しむのとはまた違う喜びがある。創元さんの四年前のお薦め、彩り豊かで「ぜんぶ好き」とはいかないが、これだけいろいろ並べて出してくれたことにありがとうという気持ち。
以下、備忘メモ。
■久永実木彦『一万年の午後』
聖典(ドキュメント)に従い「特別」を作らないことにこだわるマ・フたち。マ・フとは、人類が遺した人類そっくりなロボット。
■高山羽根子『ビースト・ストランディング』
ちょっとよくわからなかったけど、木綿が人類を救った?(違)
■宮内悠介『ホテル・アースポート』
やっと読みやすいのがきた。SFなのにミステリー。弦楽器や香水もいい味出してる。
■秋永真琴『ブラッド・ナイト・ノワール』
王族とかヴァンパイアとか、ラノベっぽい。でも嫌いじゃない。好みが似てたのか(眼鏡とか)。片仮名タイトルが続くなあ。
■松崎有理『イヴの末裔たちの明日』
ここまででいちばん好き、王道の、すぐそこの近未来らしさ。AIに次々と仕事が奪われる時代、「人間にできる仕事」というキーワードで求人検索する主人公の姿が、なかなか笑えない。
■倉田タカシ『生首』
不条理もの。夢みたいな目まぐるしい混沌。意味はわからないけど不思議に好き。
■宮澤伊織『草原のサンタ・ムエルテ』
(未読)「本格的近未来アクションSF」とのことだが、私の頭にはぜんぜん入ってこなくてギブアップ。みんな大好きらしいガンダムが私にはぜんぜん見られない感覚と似ているが、この作品がガンダムと似てるかどうかは知らない。
■堀晃『10月2日を過ぎても』
トリは大御所らしい。しかも大阪SFというジャンル?らしい。高齢者ばかりになったマンションの理事をしてる設定もリアル。でもちょっと受け止めきれなかった。 -
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盤上ゲームをテーマにした短編集
収録は6編
・盤上の夜(囲碁)
・人間の王(チェッカー)
・清められた卓(麻雀)
・象を飛ばした王子(チャトランガ)
・千年の虚空(将棋)
・原爆の局(囲碁)
四肢を失った女性
生涯ほぼ負けなしのマリオン・ティンズリー。
宗教団体教祖の女性、プロ雀士、サヴァン症候群の少年、一人の女性を追いかける医師
父親に捨てられた王子
将棋で現実世界に影響を与えようとする弟、ゲームを殺すゲームを作ろうとする兄、二人の人生に大きく関わる女性
広島に原爆が投下されるまで打たれていた一局
・盤上の夜
四肢を失う経緯がちょっと……
ただ、解説でも書かれてある通り、不幸そうではないというギャップが物語の雰囲気を魅惑的なものにしている
棋譜と自身の感覚器と言語を結びつける発想はとてもユニーク
ま、言葉が先にあるのか、物事が先にあるのかというのは物によるんじゃなかろうか
基本的には現象が先ですけど、先に言葉が存在する社会では順番が逆になるケースもありますからね
将棋の読みは、マンガではハチワンダイバー、3月のライオンのように「潜る」と表現される事が多いけど、氷壁を登るという比喩もなかなかしっくりくる
登るルートは複数ある中で正解を探すという行為を極限状態の中で繰り返す行為のようですものね
ちなみに、私の囲碁に関しての知識は「ヒカルの碁」に影響されて基本的なルールを知ってるくらい
当時は将棋人気を抑えた盛り上がりをみせたものですけど、あれ以来ぱっとしないですね
・人間の王
読んでいくうちに、「架空のキャラじゃなくね?」という思いと「この勝率は非現実的過ぎだろ」というツッコミを入れたくなったものの
後で調べてみたら作中の設定は勝率も含めてほぼ実話
この人、マジで最適解が見えていた人なんじゃねーの?と思ってしまう
ちなみにチェッカーはなんとなくのルールを知ってて、これを読んだ後にちゃんと調べてみた
確かに他の二人零和有限確定完全情報ゲームよりはプレイヤーの選択肢は多くはないけどさ
だからといって人がそこまで読み切れるものなのか?
コンピュータによるゲームの解析と、人との対戦という意味ではチェスでカスパロフがディープブルーに負けたあたりが一つの転換期でしたね
チェスに限らず将棋にしても、評価値の精度が上がったので知識のない観戦者でも容易にどちらが優勢かを知ることができるようになったのは良いことだと思う
加藤一二三が言っていたように、人のサポートとしてのコンピュータとしてプロが研究に使えるようになったのも面白い
また、コンピュータ同士でも1年前のソフトでは勝率が落ちるという、今でも完全解明には至っていないというあたりにもまだ人の入り込む余地がある気がする
・清められた卓
他の話に対して、麻雀だけが運の要素がルールの時点で含まれている
そして手札が明らかにされない事により、心理的な読み合いも含めて描けるのは創作の題材としてはやりやすいでしょうね
実際、麻雀マンガって面白いですしね
ランダムなものでも、むしろ完全にランダムなものだからこそ「流れ」に相当する連続で同じ目が出続ける現象は起こる事は証明されているわけで
ツキというものもあるのはわかる
ただ、それは連続の試行の末、結果的に「ここかそうだったんだね」と言えるものなわけで、今その流れになっているかどうかは現在進行系ではわからないんですけどね
その偶然性にストーリーをもたせる手腕は評価したい
・象を飛ばした王子
チャトランガというチェスや将棋の起源とされるゲームの架空の発祥のお話
ブッダの息子、ラーフラ
「聖☆おにいさん」のイメージが強く思い出されてしまって、物語に没入できなかった(笑)
・千年の虚空
壮絶な生い立ちの三人
兄はゲームを終わらせるゲームで世界を変えようとし
弟は将棋で現実に影響を与えようとする
歴史研究の新たな方法の設定が面白かった
ただ、実際にやろうとしても、統計的な観点から数の暴力で結果がブレる気がする
結局、事実は一つでも真実は人それぞれですからねぇ
・原爆の局
戦時中、戦後の囲碁の歴史の一部
厳しい情勢下でも続けた人たちがいるからこその現在なんだと思う
果たして、囲碁は二人零和有限確定完全情報ゲームなのか?
打った石が生きるかどうかは理論上は可能だとしてもそれを計算できるわけではないので、現実問題として運の要素はあるのかもね
そして最後のセリフがとてもよい
総括として、それぞれの話に直接の繋がりはないが、全て合わせて一つの流れになっていると思った
人の可能性、コンピュータの存在意義、ゲームの神秘性、ゲームによる現実への影響力など、他の話と複合的なものが描かれている
あと、「失ったものと得たもの」というのもテーマにあるかも
ゲームの一手にしても、何かを失うながらも何かを得るという選択の積み重ねの上に成り立っているという事なんじゃないかとも思った
ってか、解説で冲方丁が語っている以上の事は言えないかな
あの解説で十分なんじゃなかろうか? -
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く、く、くだらねえええ・・・。と切り捨ててしまうのは惜しすぎる、バカミスおよびバカSFを16編も収めた短編集です。こういう作品ばかり描かれても困るけど、重たい作品ばかりじゃ書くほうも読むほうも精神的にきついだろうし、たまにはいいんじゃないですかね。一本目の「トランジスタ技術の圧縮」やラストを飾る「星間野球」あたりの、しょーもないところに真剣にコストをかけているあたりが結構好きです。ヴァン・ダインの二十則とかシュレディンガーの猫とか、まあ表題作のネタなんかもそうなんだけど、割とマニアックな題材を扱っているので一般人向けには少々敷居が高くなっているのが難点かな。「今日泥棒」や「かぎ括弧のようなもの」なんかはだれでも楽しめると思うけど。しっかしこれだけの多種多様なネタ、よく思いつくなあと感心します。やっぱり宮内さんは天才ですわ。
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2018年末に刊行された新しめの日本SFアンソロジー。短編8編+エッセイ2編が収録されています。
アンソロジーを読むこと自体、ちょっと良い(と見込んだ)食事処にぷらっと入って「おまかせコース」を頼むようなもので、満足したい気持ちと、意外なものを味わいたい気持ちが同居していると思います。
個人的には両ポイントともにちょうど良い感じの1冊でした。編集者の匙加減の素晴らしさもあるんでしょうが、SFというジャンルの中での振れ幅もなかなか心地良かったと感じました。
(正統派SFもありつつ、一見ファンタジーでは?日記では?となる作品や、突き抜けたシュールさの作品があって、色彩豊かでした)
1編挙げるとすると、個人的には「イヴの末裔たちの明日」が面白かったです。AIに仕事を奪われ、ベーシックインカムで養ってもらう世界を舞台に、「これから人間にできるのは新薬治験くらい」というネットの書き込みを見て治験ボランティアを始めた主人公は…という話。
結末を読んで、こういう世界は本当にあり得るよなぁ…と思いました。でもそれはユートピアなのかディストピアなのか、正直悩んでしまいます。
あと、個人的に短編を読むときに気にしているのが、どれだけ早くその短編の世界を理解できるか、です。
別に早い方が良い訳ではなく(遅すぎると短編だと終わってしまいますが…)、書き出しに個性が出ると言うか。割り切って説明調で書くケースもあれば、最初に象徴的なパーツを掘り下げて書くケースも。
本著を読んで感じたのは、前者のような親切かつクイックな、ある意味ラノベ的な書き出しもアリだなぁというコト。時代に合わせた変化なのでしょうか。
各短編それぞれの個性が組み合わさった、面白いコース料理でした。
次巻も読んでいきたい、出版元の矜持を感じる作品集です。