宮内悠介のレビュー一覧
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東京創元社が、社名の「創元=GENESIS」を冠して二〇一八年に刊行したSF書き下ろしアンソロジー第一集。各作品の前に編者による洒脱な紹介コメントも寄せられていて、「日本の現代SF小説界、作家も出版社も一丸となってこんなメンツで盛り立てていきますぜ」という顔見世興行的な気合いの入りようが感じられる。今のところ二〇二一年の第四集まで毎年刊行が続いているようだ。
SFに限らず同時代の作家の好きと思える小説に出会えることには、古典名作を楽しむのとはまた違う喜びがある。創元さんの四年前のお薦め、彩り豊かで「ぜんぶ好き」とはいかないが、これだけいろいろ並べて出してくれたことにありがとうという気持ち。
以下、備忘メモ。
■久永実木彦『一万年の午後』
聖典(ドキュメント)に従い「特別」を作らないことにこだわるマ・フたち。マ・フとは、人類が遺した人類そっくりなロボット。
■高山羽根子『ビースト・ストランディング』
ちょっとよくわからなかったけど、木綿が人類を救った?(違)
■宮内悠介『ホテル・アースポート』
やっと読みやすいのがきた。SFなのにミステリー。弦楽器や香水もいい味出してる。
■秋永真琴『ブラッド・ナイト・ノワール』
王族とかヴァンパイアとか、ラノベっぽい。でも嫌いじゃない。好みが似てたのか(眼鏡とか)。片仮名タイトルが続くなあ。
■松崎有理『イヴの末裔たちの明日』
ここまででいちばん好き、王道の、すぐそこの近未来らしさ。AIに次々と仕事が奪われる時代、「人間にできる仕事」というキーワードで求人検索する主人公の姿が、なかなか笑えない。
■倉田タカシ『生首』
不条理もの。夢みたいな目まぐるしい混沌。意味はわからないけど不思議に好き。
■宮澤伊織『草原のサンタ・ムエルテ』
(未読)「本格的近未来アクションSF」とのことだが、私の頭にはぜんぜん入ってこなくてギブアップ。みんな大好きらしいガンダムが私にはぜんぜん見られない感覚と似ているが、この作品がガンダムと似てるかどうかは知らない。
■堀晃『10月2日を過ぎても』
トリは大御所らしい。しかも大阪SFというジャンル?らしい。高齢者ばかりになったマンションの理事をしてる設定もリアル。でもちょっと受け止めきれなかった。 -
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盤上ゲームをテーマにした短編集
収録は6編
・盤上の夜(囲碁)
・人間の王(チェッカー)
・清められた卓(麻雀)
・象を飛ばした王子(チャトランガ)
・千年の虚空(将棋)
・原爆の局(囲碁)
四肢を失った女性
生涯ほぼ負けなしのマリオン・ティンズリー。
宗教団体教祖の女性、プロ雀士、サヴァン症候群の少年、一人の女性を追いかける医師
父親に捨てられた王子
将棋で現実世界に影響を与えようとする弟、ゲームを殺すゲームを作ろうとする兄、二人の人生に大きく関わる女性
広島に原爆が投下されるまで打たれていた一局
・盤上の夜
四肢を失う経緯がちょっと……
ただ、解説でも書かれてある通り、不幸そうではないというギャップが物語の雰囲気を魅惑的なものにしている
棋譜と自身の感覚器と言語を結びつける発想はとてもユニーク
ま、言葉が先にあるのか、物事が先にあるのかというのは物によるんじゃなかろうか
基本的には現象が先ですけど、先に言葉が存在する社会では順番が逆になるケースもありますからね
将棋の読みは、マンガではハチワンダイバー、3月のライオンのように「潜る」と表現される事が多いけど、氷壁を登るという比喩もなかなかしっくりくる
登るルートは複数ある中で正解を探すという行為を極限状態の中で繰り返す行為のようですものね
ちなみに、私の囲碁に関しての知識は「ヒカルの碁」に影響されて基本的なルールを知ってるくらい
当時は将棋人気を抑えた盛り上がりをみせたものですけど、あれ以来ぱっとしないですね
・人間の王
読んでいくうちに、「架空のキャラじゃなくね?」という思いと「この勝率は非現実的過ぎだろ」というツッコミを入れたくなったものの
後で調べてみたら作中の設定は勝率も含めてほぼ実話
この人、マジで最適解が見えていた人なんじゃねーの?と思ってしまう
ちなみにチェッカーはなんとなくのルールを知ってて、これを読んだ後にちゃんと調べてみた
確かに他の二人零和有限確定完全情報ゲームよりはプレイヤーの選択肢は多くはないけどさ
だからといって人がそこまで読み切れるものなのか?
コンピュータによるゲームの解析と、人との対戦という意味ではチェスでカスパロフがディープブルーに負けたあたりが一つの転換期でしたね
チェスに限らず将棋にしても、評価値の精度が上がったので知識のない観戦者でも容易にどちらが優勢かを知ることができるようになったのは良いことだと思う
加藤一二三が言っていたように、人のサポートとしてのコンピュータとしてプロが研究に使えるようになったのも面白い
また、コンピュータ同士でも1年前のソフトでは勝率が落ちるという、今でも完全解明には至っていないというあたりにもまだ人の入り込む余地がある気がする
・清められた卓
他の話に対して、麻雀だけが運の要素がルールの時点で含まれている
そして手札が明らかにされない事により、心理的な読み合いも含めて描けるのは創作の題材としてはやりやすいでしょうね
実際、麻雀マンガって面白いですしね
ランダムなものでも、むしろ完全にランダムなものだからこそ「流れ」に相当する連続で同じ目が出続ける現象は起こる事は証明されているわけで
ツキというものもあるのはわかる
ただ、それは連続の試行の末、結果的に「ここかそうだったんだね」と言えるものなわけで、今その流れになっているかどうかは現在進行系ではわからないんですけどね
その偶然性にストーリーをもたせる手腕は評価したい
・象を飛ばした王子
チャトランガというチェスや将棋の起源とされるゲームの架空の発祥のお話
ブッダの息子、ラーフラ
「聖☆おにいさん」のイメージが強く思い出されてしまって、物語に没入できなかった(笑)
・千年の虚空
壮絶な生い立ちの三人
兄はゲームを終わらせるゲームで世界を変えようとし
弟は将棋で現実に影響を与えようとする
歴史研究の新たな方法の設定が面白かった
ただ、実際にやろうとしても、統計的な観点から数の暴力で結果がブレる気がする
結局、事実は一つでも真実は人それぞれですからねぇ
・原爆の局
戦時中、戦後の囲碁の歴史の一部
厳しい情勢下でも続けた人たちがいるからこその現在なんだと思う
果たして、囲碁は二人零和有限確定完全情報ゲームなのか?
打った石が生きるかどうかは理論上は可能だとしてもそれを計算できるわけではないので、現実問題として運の要素はあるのかもね
そして最後のセリフがとてもよい
総括として、それぞれの話に直接の繋がりはないが、全て合わせて一つの流れになっていると思った
人の可能性、コンピュータの存在意義、ゲームの神秘性、ゲームによる現実への影響力など、他の話と複合的なものが描かれている
あと、「失ったものと得たもの」というのもテーマにあるかも
ゲームの一手にしても、何かを失うながらも何かを得るという選択の積み重ねの上に成り立っているという事なんじゃないかとも思った
ってか、解説で冲方丁が語っている以上の事は言えないかな
あの解説で十分なんじゃなかろうか? -
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く、く、くだらねえええ・・・。と切り捨ててしまうのは惜しすぎる、バカミスおよびバカSFを16編も収めた短編集です。こういう作品ばかり描かれても困るけど、重たい作品ばかりじゃ書くほうも読むほうも精神的にきついだろうし、たまにはいいんじゃないですかね。一本目の「トランジスタ技術の圧縮」やラストを飾る「星間野球」あたりの、しょーもないところに真剣にコストをかけているあたりが結構好きです。ヴァン・ダインの二十則とかシュレディンガーの猫とか、まあ表題作のネタなんかもそうなんだけど、割とマニアックな題材を扱っているので一般人向けには少々敷居が高くなっているのが難点かな。「今日泥棒」や「かぎ括弧のようなもの」なんかはだれでも楽しめると思うけど。しっかしこれだけの多種多様なネタ、よく思いつくなあと感心します。やっぱり宮内さんは天才ですわ。
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2018年末に刊行された新しめの日本SFアンソロジー。短編8編+エッセイ2編が収録されています。
アンソロジーを読むこと自体、ちょっと良い(と見込んだ)食事処にぷらっと入って「おまかせコース」を頼むようなもので、満足したい気持ちと、意外なものを味わいたい気持ちが同居していると思います。
個人的には両ポイントともにちょうど良い感じの1冊でした。編集者の匙加減の素晴らしさもあるんでしょうが、SFというジャンルの中での振れ幅もなかなか心地良かったと感じました。
(正統派SFもありつつ、一見ファンタジーでは?日記では?となる作品や、突き抜けたシュールさの作品があって、色彩豊かでした)
1編挙げるとすると、個人的には「イヴの末裔たちの明日」が面白かったです。AIに仕事を奪われ、ベーシックインカムで養ってもらう世界を舞台に、「これから人間にできるのは新薬治験くらい」というネットの書き込みを見て治験ボランティアを始めた主人公は…という話。
結末を読んで、こういう世界は本当にあり得るよなぁ…と思いました。でもそれはユートピアなのかディストピアなのか、正直悩んでしまいます。
あと、個人的に短編を読むときに気にしているのが、どれだけ早くその短編の世界を理解できるか、です。
別に早い方が良い訳ではなく(遅すぎると短編だと終わってしまいますが…)、書き出しに個性が出ると言うか。割り切って説明調で書くケースもあれば、最初に象徴的なパーツを掘り下げて書くケースも。
本著を読んで感じたのは、前者のような親切かつクイックな、ある意味ラノベ的な書き出しもアリだなぁというコト。時代に合わせた変化なのでしょうか。
各短編それぞれの個性が組み合わさった、面白いコース料理でした。
次巻も読んでいきたい、出版元の矜持を感じる作品集です。 -
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シリアスからユーモラスを通り越して(良い意味で)バカみたいな短編まで、宮内さんの引き出しの多さ、アイディアの多彩さに驚き、そして時に呆れる短編集です。
シリアス路線では「アニマとエーファ」がよかった。少数言語を操って小説を書くロボットを描いた短編。革命や紛争、消えゆく文化への郷愁、数奇な人間たちの運命、小説、そして物語の意味……、ロボットの繊細な語り口と、どこか虚無的な作品の空気感とテーマが何とも言えない余情を残す。『盤上の夜』『ヨハネスブルグの天使たち』など、初期の宮内さんの空気感の強い作品でした。
宮内さんというと、どちらかというと上記したような文学的な雰囲気と、人間の拡張やロボット・アンドロイドを掛け合わせた抒情のあるSFのイメージが自分の中では強いです。
しかし本人のあとがきいわく、そうしたイメージが初期につけられたことにだいぶ苦しんでいたらしく『洒落や冗談の通じないやつだと思われてしまわないだろうか』と深刻に悩み、『くだらない話』を書く必要性に迫られていたそう。
そんなわけで、この『超動く家にて』はどちらかというと、そのくだらなさが印象に残る作品が多かったです。
分厚い雑誌を圧縮する架空競技に人生を懸ける男たちを描いた「トランジスタ技術の圧縮」
競技はよく分からないけど、少年漫画のスポ根物を読んでいるような熱さとお約束を詰め込みつつ、至極真面目に雑誌を圧縮する技術やその大会の歴史を描いているのがシュール。
「文学部のこと」はタイトル詐欺だわ、これ(笑)
自分たちの世界とはまったく違う、文学部のことが延々と語られる短編。文学に対する皮肉もあるのかな。どことなく森見登美彦さんっぽさも感じました。
宇宙ステーションでの野球盤対決を描いた「星間野球」も面白かった。宇宙という舞台を生かした、心理戦あり、イカサマあり、熱さありの野球盤勝負! 自分たちだけのルールを作り、ゲームに興じる様は男子っぽいあほらしさを感じます。「テレビ千鳥」で千鳥が二人だけの企画に興じてるシーンが思い浮かぶ。
そんなあほらしさの中に人生の酸いもかんじさせる。あとがきによると、この「星間野球」をはじめは『盤上の夜』のラストに収録するつもりだったそうですが、もしそうなってたら、宮内さんの作家人生全然違うものになっていた気がする(苦笑)
ミステリ系の短編もいくつか収録されていますが、これも一筋縄でいかないものが多い。
日めくりカレンダーをめくったのは誰か、という日常の謎が描かれる「今日泥棒」は、登場する一家のコメディチックなやり取りが面白い。
駆け落ちしたカップルと二人の二人のヒッチハイカーが何者かに追われる「ゲーマーズ・ゴースト」のドタバタなやり取りがツボにはまりますが、そんなのはまだまだ序の口。
罠、罠、そして罠だらけのまさにバカミスと言うべき表題作「超動く家にて」
ヴァン・ダインの20則が支配する世界での殺人計画を描いた「法則」など、ミステリ好きが悪ノリに悪ノリを重ねたような短編があったかと思いきや、
ついにはかぎ括弧が凶器にまでなってしまう(自分で書いていても訳が分からない……)「かぎ括弧のようなもの」。
架空の都市伝説をwikipedia風に紹介する「エラリークイーン数」など、どれだけ『くだらない話』という強迫観念に縛られていたのか、と宮内さんの心理をおもんばかってしまう……
宮内作品を何冊か読んで、その魅力にハマったならこの『超動く家にて』も読んでもらいたい。さらに宮内作品にはまるか、はたまた理解が遠のいてしまうか。面白さは保証できないけれど。 -
Posted by ブクログ
失踪した音楽家の父を探すため、アメリカの難関音楽大学を受験した主人公の脩。
型破りな試験が行われる中、会場でアメリカ最初の実験と謎のメッセージが残された殺人事件が発生。
やがて、第二、第三と連鎖し...
音楽に身を捧げる若者たちの青春冒険譚と思いきや、どういうジャンルに分けて良いのか分からない。アメリカそのものに対するアンチテーゼなのか。音楽とは何か。主たる軸はそこなのだろうが。
ピタゴラスによって音律が作り出されたのが、紀元前六世紀。そこから音を重ねあわせる和声や調性が発見されるまでには、およそ1500年の歳月が費やされた。元は呪術や田畑の豊穣を祈るものであったものが、やがて芸術へと昇華する。
アメリカとは常に実験国家である。最後の市場の形は何か。
17世紀、ピルグリムファーザー達は信仰の自由を求め、英国を流れてメイフラワー号で北アメリカへ移住した。ピューリタンであった彼らは厳格な性の抑圧を掲げ、地上に楽園を作ることを夢見ていた。
そして、侵略戦争が始まった。
そこには土着の音楽もあったはずだ。しかし、この船に詰め込まれてやってきた奴隷達が黒人霊歌を持ち込みやがてジャズが生まれ、ブルース、ロックが生まれ、ブレイクビーツ、ヒップホップ、R&Bへと。
一冊の中に、音楽を通じてではあるがアメリカという国が孕む二律背反の闇を描いてるように感じました。