あらすじ
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地図になく、検索でも見つからないイシュクト山。
時空がかかった疾患により説明不能なバグが相次ぐ世界で、
「偶然の聖地」を目指す理由(わけ)ありの4組の旅人たち。
秋のあとに訪れる短い春「旅春」、世界を修復(デバック)する「世界医」。
国、ジェンダー、S N S――ボーダーなき時代に鬼才・宮内悠介が描く物語という旅。
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感情タグBEST3
Posted by ブクログ
バグか仕様かは、人と社会によってしか判断できない。
旅行記かと思いきや、マトリックス的な世界に引き込まれ、終盤は安定の宮内節。
真面目に意味を調べようと思ったフレーズは大抵「書いてみたかっただけ」との脚注あり、まんまとやられ感じも楽しめる。
Posted by ブクログ
中央アジアを舞台にしているということで、中央アジア旅行の前に空気感を知っておこうと思って読んだ本。中央アジアというより南アジアが主な舞台だったので予習にはならなかったけど、レイとジョンの旅を読んでいると、ラダック旅行をした時の空気感が蘇った。
様々な登場人物がそれぞれの理由で目指す幻の山イシュクト。あらすじを読んだ時は冒険譚かと思ったけど、冒険譚でありつつ、エンジニア的視点が多分に織り交ぜられたSFだった。世界の不具合をデバッグする「世界医」と呼ばれる人たちの仕事やイシュクトに対する捉え方、大量のメタ注釈がとてもエンジニア的で、リアルと空想が混ざり合う不思議な小説だった。
前半は登場人物が多く、あまり話の全体が見えてこないけど、後半になると一気にそれぞれの物語が繋がって面白くなってくる。
Posted by ブクログ
古本屋で偶然見つけた本。装丁に惹かれて購入。物語の大筋がわかるまでが、分からない単語も多いし場面が切り替わるしで読んでいてつまらなかったけど、途中から物語が掴めてきて最後が面白かった。世界医がこの世界のバグを直してるなんておもろすぎる。
Posted by ブクログ
岸本佐知子さんがアトロクで推薦図書として挙げていた。
大森望、武田砂鉄が帯文。
宮内悠介は「たべるのがおそい vol4」に掲載された「ディレイ・エフェクト」があまり好きでなかったのだが、他の著作があまりにも面白そうなのでいずれ読もうとぼちぼち買い集めており、再挑戦するなら本作と決めていたのだ。
結果的には正解で、一気読みだった。
ルネ・ドーマル「類推の山」を最初は連想したが、ちょっと違うみたい。
むしろ、夢枕獏「神々の山嶺」のように、気象条件が奇跡的に整った瞬間のみに現れる聖域のような……あれ、「神々の山嶺」にそんな箇所あったっけ。
まあともかく下敷きにしたり参照したりネタとして取り込んだりした作品は多いのだろう、作者にしかわからないレベルでも。
自分はバックパッカーとは程遠いインドア派だし、プログラミングには疎い者だが、ざっくり世界5分前仮説やシミュレーテッド・リアリティについて把握しておけば問題なく読める。
視覚的には大友克洋「童夢」のごとき超能力戦闘を想像してもいいだろう。
本文も、注釈も、実に楽しそうに書いているところが、愉しめた。
以下のメモに書き足していきながら、いずれ再読したい。
@
◇登場人物
怜威
ジョン
ロニー
泰志
レタ
フアナ
ルディガー
バーニー
●第一部
■1.イシュクト山 008
■2.ティト・アルリスビエタ 014
■3.黒い礫 020
■4.カラコルム・ハイウェイ 027
■5.川下り 036
■6.世界医 042
■7.エウロパの鱒釣り 047
■8.確率的な攻略 053
■9.緑の感謝祭 058
■10.幻の鳥 063
■11.レタとフアナ 068
■12.ワームホールのある密室 074
■13.ユーチューバー探偵・勇一 080
■14.このたびの解体子(デストラクタ)葬につきまして 085
■15.宇宙エレベーターを奏でる巨人 090
■16.プログラマ、点を動かす 096
■17.刑事ルディガーの乱心 106
■18.精神の氷河期において 115
■19.腐らなかった死体 122
■20.航路 130
■21.常春のABC 138
■22.アナーキー・イン・ザ・PK 144
■23.刑事ルディガーの無謬 150
■24.コンクリ車いっぱいのレモンティー 158
■25.ラーワルピンディ特別区 165
●第二部 (複素数的な? 第一部と対応)
■i.ティト・アルリスビエタの場合 176
■2i.ロニー・”シングルトン”・ルルフェの場合 181
■3i.レタの場合 187
■4i.刑事ルディガーの回転 194
■5i.桃源郷を目指して 202
■6i.フンザにて 211
■7i.メタフィクションにおけるダイヤモンド継承 217
■8i.メタフィクションにおけるコンポジット・パターン 229
■9i.収束条件 241
■10i.氷河を渡りに 248
■11i.死は天帝に捧げる 255
■12i.氷河にて 263
■13i.ふたたび氷河にて 269
■14i.偶像を直す 275
■15i.思い出の列車 281
■16i.イシュクト郷 291
■17i.つながらない迷路 299
■18i.物語の争奪戦 305
■19i.永遠の墓標 311
■20i.巡礼の宿 320
■21i.ロニー・”シングルトン”の二択 326
■22i.邂逅 335
■23i.最後の一撃 341
■24i.素子の中の失楽 348
■25i.そして、それから 356
◇偶然にまかせて(初出 単行本カバーにデザイン使用)
Posted by ブクログ
多数のバグを抱えたこの世界。それを日々修正する世界医と呼ばれる人々の間で「この世に残された、最後の特Aランクのバグ」と呼ばれるのが、地図に無くウエブで検索しても見つからないイシュクト山。
本作はその山を目指す4組の旅人たちを主人公にした物語である。
まじめに概略を書くと上記のような感じになると思うんだけど、普通の小説とは一線を画すヘンテコな作品であることも確か。ハマる人はとことんハマると思うんだけど、ダメな人はとことんダメなんじゃないかなあ。
実はあっちに行ったりこっちに行ったりするメインストーリーのほうは自分も途中でついていけなくなってしまった。いや、そもそもストーリーなんてあってないようなものなんじゃないかなあ・・・。よく分からんけど。
個人的にはそれより、脇道として書かれたマニアックな小ネタや、大量に記された注釈のほうが断然面白く読めた。
たぶん、これまで読んだ宮内さんの作品の中で一番笑ったのはこれ。
特に数学とプログラミングに関する部分は個人的に関係の深い分野ということもあり、大いに楽しめた。
なので小説としてはともかく、一冊の娯楽本としては大満足なのであった。
それにしてもこの膨大な知識というか博識というか、単純に凄いと改めて思った。
この方にしか書けない唯一無二の作品であることは間違いない。
Posted by ブクログ
秋のあとに訪れる短い春「旅春」、このような事象を「時空の側がかかった病=バグ」とし、それを直すこと(デバッグ)ができる「世界医」という存在がある、という世界観。地図にも検索結果にも出てこないイシュクト山を目指す、旅とデバッグのお話。
SF小説と注釈エッセイ。私自身もPG/SE系の仕事なので用語やあるあるの理解に問題なく、エッセイも好きなのですごく楽しめた。こんな書き方もあるのか、と目から鱗。
どうしても技法というか上下注釈のスタイルに気が行ってしまうけど、小説の内容自体もしっかりと面白い。中盤あたりから「あれ?これは?」と気づき始め、終盤のタネ明かしやそれぞれの収束はカオスだったが興奮を憶えた。
アトロク(2021-11-01)、岸本佐知子さんの推薦図書。
以下、ネタバレ有りで雑感。
プログラミングやライフハック系のリテラシーが高いとより楽しめる内容だけど、なくても呪文詠唱だと思えば大丈夫。
「世界医」という設定に、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の「計算士・記号士」の設定が頭の中でつながってしまい。
「解体子葬(デストラクタそう)」という造語がなんか好き。PCのデータを消す、とかそういう処理が含まれそう。
ジョンが実は野良世界医という設定すごく好き。
「両性具有」というワードで、ドラマスペシャル版のリングを思い出した(貞子が両性具有者)。
怜威を男性か女性か決めていなかった、というあたりでこの設定もあったんだろうか。
「カナダの国旗」も回収されている。
すべては世界医の手中なのだ。
Posted by ブクログ
人工衛星もGoogleマップも寄せ付けない神出鬼没の山、イシュクト。バックパッカー、刑事、世界医、さまざまな思惑を抱いた奴らが〈世界のバグ〉であるイシュクトを目指して動きだす。大量の注釈を施したメタSF。
円城塔の『プロローグ』と『エピローグ』をお話的に混ぜちゃって、『烏有此譚』の形式を後付けしたみたいな感じだな、と思ってしまうのは許してほしい。宮内さんは完全にエンタメにチューンナップされていて抜群にわかりやすいけど。注も読者をケムに巻くためには使わず、「ああ、これはね」とポテチ片手に横から話しかけてくるような親密さが楽しい。
いろいろ盛り上がりそうなバトルシーンはすっ飛ばすのに、世界医バディが瑣末なバグを修正するくだりをしっかり書いているのが、デバッグという作業の実情を描いているようで好きだった。この世界を動かしているシステムエンジニアの愚痴を聞かされる展開は西崎憲の『ゆみに町ガイドブック』でも読んだばかりだが、本書は神も意味も目的もない世界をキャラクターが飄々と乗りこなしている。「さーてと、地球救っちゃいますか」な展開も、注で挟まれる与太話も併せて「バグも楽しんだもん勝ち」なエンタメ作。
Posted by ブクログ
2022-09-04
自由闊達。シミュレーション仮説を大胆に取り入れた軽やかな本編に、旅にまつわる思い出やプログラマあるあるが挟み込まれた、開かれた物語。意外と読後はさわやか。
そう言えば、宮内さん紙の本で読むのははじめてだわ。