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アンリ三世とその宮廷
一般に日本でのフランス・ロマン主義の研究は手薄だが、なかでもアレクサンドル・デュマについての研究は皆無に等しい。デュマと言えば『三銃士』や『モンテ・クリスト伯』といった大衆娯楽作品の印象が強く、また数知れない代作者を使ったという理由で悪名も高い。また、その作品の全体について正確な総数すらわからないほどのいわば濫作者であったからよけいに始末が悪いのかもしれない。いったいどれだけ作品を出版したのだろうか。 カルマン・レヴィー出版社が1920年に出したアレクサンドル・デュマ作品総カタログによる作品分類は以下の如くであった。 (1)歴史小説および歴史研究128作品218冊 (2)小説、短編、個人伝 41作品、64冊 (3)回想録、閑談九作品、11冊 (4)少年少女物語五作品、6冊 (5)旅行記十八作品、35冊 (6)戯曲66作品25冊。以上合計271作品、359冊 アレクサンドル・デュマ協会のウェブサイトでは325作品がリストされている。また、個人のデュマ愛好家が作っているサイトによれば、すべての作品を取り混ぜて688作品としている。 「誰もが皆デュマの話は聞いたことがあるし、彼の作品の何冊かは読んだことはあるが、彼の才能の大きさを意識している人はごく少ない。『アンリ三世』から一夜明けた日の彼の栄光はたくさんの妬み屋のしつこい中傷をひき起した。彼らの言を信じれば、デュマは先人を剽窃し、代作者たちに自分の作品を書かせた無知無学の人間ということになるだろう」(フェルナンド・バッサン) 「『アンリ3世とその宮廷』を研究した人間はデュマの公式が一挙に分かる。彼はまことに多様な戯曲を書く。ところが本質的なものは最初の戯曲『アンリ三世』にある。つまり、民衆的な登場人物、地方色、変化、アクション、情念があるのだ。」(イポリット・パリゴー)この戯曲は、デュマ最初の本格的な五幕散文ドラマであり、スタンダールの理想の実現でもあり、ヴィクトル・ユゴーの『エルナニ』に先立つこと1年、ロマン主義演劇の最初の勝利を獲得した記念碑的作品でもある。 時は1578年7月20日のことである。フランス国王アンリ3世の母、フィレンツェから亡き国王アンリ2世に嫁いだカトリーヌ・ド・メディシスと占星術師ルッジェリは、アンリ3世の寵臣サン=メグランがギーズ公爵の夫人に恋い焦がれていることを利用して、サン=メグランとギーズ公爵の両方から気弱な国王への影響力をそごうと画策する。カトリックとユグノーの殺し合いの宗教戦争の只中で、後にアンリ4世になるナヴァール王アンリを加えて3アンリの戦いと言われる時代である。ルッジェリは眠り薬で眠らせたギーズ公爵夫人とサン=メグランを引きあわせて二人が両思いであることを悟らせる。 新教徒に対抗するカトリック同盟の盟主に自らなって、次期国王の座も狙おうとするアンリ・ド・ギーズのカトリック同盟に盟主の任命という性急な要求に、ブロワの三部会まで待てと諭すアンリ三世。事態は切迫していると反論するギーズ公。甲冑で登場したギーズ公が弾丸が飛んで来ても正面で受けてみせようと豪語するのを、サン=メグランが吹き矢筒でボンボンを命中させる。怒りに燃える両者の間で決闘が決まる。 怒りに任せたギーズ公爵は鉄の籠手で青癒ができるほど夫人の腕を締め上げ、無理強いにサン=メグラン伯爵をギーズの館におびき出す偽手紙を口述させる。 一方、宮廷ではカトリック同盟の盟主の任命決議に入り、「余の権威において余自身を盟主と宣言する」と自ら盟主になることを宣言したアンリ3世。ギーズ公爵はカトリーヌ・ド・メディシスに何事か訴えようとするが、アンリは早く署名せよとダメ押しをする。第1の企みは失敗に終った、埋合せはつけてやる、憤怒のなかで署名するギーズ公の前で会議の閉会が告げられる。 半信半疑でギーズ公爵夫人の元に忍んできたサン=メグラン伯爵は来ないようにと祈る夫人の声を手がかりに部屋までたどり着く。危機一髪で部屋から逃げ出したサン=メグランは待ち伏せした手のものに暗殺される。公爵が最後の台詞を吐く。「よし!さあ、家来の始末はつけた、今度は主人の番だ!」 劇場が興奮のるつぼであった。臨席していたオルレアン公爵は名前も知らない自分の使用人が詩人として聖別されるのをきいたのである。こうしてアレクサンドル・デュマはフランス演劇史にみずからの名前を深く刻んだのである。 -
新編 日本の面影【全2巻 合本版】
代表作『知られぬ日本の面影』から、詩情あふれる新訳で合計21編を新編集。ハーンの描く、失われゆく美しい日本の姿を感じる、文庫オリジナルの新訳決定版。 はじめに 東洋の第一日目 盆踊り 神々の国の首都 杵築――日本最古の神社 子どもたちの死霊の岩屋で――加賀の潜戸 日本海に沿って 日本の庭にて 英語教師の日記から 日本人の微笑 さようなら 弘法大師の書 鎌倉・江ノ島詣で 盆市 美保関にて 日御碕にて 八重垣神社 狐 二つの珍しい祭日 伯耆から隠岐へ 幽霊とお化け 思い出の記 小泉節子 ラフカディオ・ハーン略年譜 ※本書は「新編 日本の面影」「新編 日本の面影 II」の2冊を合わせた合本版です。 -
響きと怒り
フォークナーは全く予備知識を与えぬまま読者を白痴ベンジーの意識のなかに連れこむ。そしてその錯乱の意識を通りぬけた読者は第二部で再び意識の流れの激しい屈折に戸惑う。しかし第三部、第四部では次第にこの作品の主題と意味が明らかにされてゆく。この作品は現在と過去との交錯がいちじるしい。とくに一部、二部はそうであり、たとえば第一部ではベンジーの意識が現在の知覚から過去へ移るときにはたいていイタリック体で書き表わされているが〔訳文では【 】で囲った〕、同じ技法が第二部でも用いられている。そしてこれら錯綜する時間と映像の下に、登場人物の心にとって意味の深い出来事が埋められているのである。米国南部社会の醜悪で陰惨な人間心理を描写し、『響きと怒り』は二十世紀の傑出した小説のひとつと評価される。 -
心は孤独な狩人
舞台はジョージア州のうらぶれた工場町。人々は無気力な状態にある。主人公の唖(おし)で聾(つんぼ)のシンガーは、同じく唖のアントナープロスと共同生活をおくり、思慕を寄せるが報われない。そのシンガーに、多感な少女ミックはほのかな思いを寄せるが、当のシンガーは少女の思慕に気づかない。またそのミックに、ニューヨーク・カフェの主人ビフ・ブラノンは年甲斐もなく愛情を感じているが、ミックは彼を気味悪く思うばかり。作中人物はそれぞれが《報われざる愛》の連鎖関係のなかに生き、そこに解決はない……魂の孤立を透徹するまなざしで描ききった20世紀アメリカ文学の代表的古典。 -
ナプキン・ノート Napkin Notes
もしも突然、わずか数年の余命宣告を受けたら、 残された時間、あなたは家族のために何をしますか ――? 妻リッサと愛娘エマと暮らすガースは、毎朝娘のお弁当を作るイクメンパパ。 お弁当の袋に、「その日のひと言」を書いた紙ナプキンを忍ばせてエマを送り出すのが日課だ。 だが、エマが12歳になった年、ガースに腎臓がんが見つかる。翌年には前立腺がん。さらに腎臓がんも再発……。そしてついに医師より余命宣告を受ける。 彼がエマの高校の卒業式を見届けられる確立は、わずか8%。 この命が尽きるまでに、彼女に伝えたいことをすべて伝えることができないかもしれない……。 ガースは決意する。たとえ自分に何があったとしても、エマが高校を卒業するまで「1日1枚」、 彼からのメッセージを受け取れるようにしておこう、と。 余命宣告を受けた父が紡ぐ、愛する娘へのメッセージ -
三銃士 上中下合本版
時は17世紀のパリ。ルイ13世の治世。花の都で一旗あげようと希望に燃え、意気揚々と上京してきた青年剣士ダルタニャン。3人の銃士、アトス、ポルトス、アラミスにひょんな行き違いから決闘を申し込まれるが……。固い友情で結ばれた4人の男が、悪玉リシュリユー枢機卿らの企みに挑む! あわや身の破滅かと思われた王妃の危機、謎の妖女ミラディーの陰謀――。フランスとイギリスをまたにかけ、ダルタニャンと三銃士が縦横無尽に駆け巡る! 恋と冒険に彩られた、生き生きと躍動する義侠心に満ちた男たちの物語! 読み継がれるのには訳がある。本当に面白い冒険物語が合本版で登場! -
レ・ミゼラブル
若い時分にやむをえぬ事情で盗みを働いたジャン・ヴァルジャンは牢獄で長年の刑期を務める。 40歳を過ぎて出所した彼は、とある司教との出会いを境に心を改め、まったく新しい人生を歩み始める。 薄幸の美女ファンテーヌを救えなかった彼は、ファンテーヌの娘コゼットと出会い――。 フランス近代文学の最高傑作と名高いヴィクトル・ユゴーの長編小説を美しいイラストで電子書籍化。 ●表紙イラストについて● 2015年 夏の代々木アニメーション学院 学内イラストコンクール 携帯小説表紙イラスト部門で 最優秀賞を受賞した応募作品を、ゴマブックスがタイアップし表紙に採用しました。 【著者プロフィール】 ヴィクトル・ユーゴー 1802年 フランス東部のブザンソン生まれ。ロマン派の詩人・作家として成功し、政治家としても活躍。 1885年パリにて死去。 -
三文オペラ
ロンドンの大泥棒メッキは当地の乞食界を牛耳る大物ピーチャムの一人娘ポリーとひそかに結婚する。ピーチャム夫婦はメッキを葬ろうと画策し、警視総監ブラウンをけしかける。だが、ブラウンとメッキは裏でつながる仲だった。メッキは売春婦の裏切りで入獄するも、ブラウンの娘ルーシーの助けで脱走、だが再び売春婦の裏切りで捕まり絞首台へ。最後の土壇場でメッキは国王の恩赦で釈放、貴族に列せられる。英国のジョン・ゲイの「乞食オペラ」をもとに作曲家クルト・ヴァイルとの協力で完成したこの作品で、ブレヒトの名は一躍世界に知られることになった。この翻訳は現代の生きた日本語を駆使してつくられた現代を反映する新訳である。 -
知られざる傑作
一つの作品に打ち込む老画家の十年にわたる執念が狂気にまでいたる経緯を描く「知られざる傑作」。この作品は、世代の異なる画家3人をパリに集めて出会わせ、具象と抽象という造形芸術の永遠の問題をうきぼりにしてもいる。重厚な描写とあわせてバルザック特有の「軽み」にも意をもちいた改訳版である。併録した「ピエール・グラスー」は「知られざる傑作」の幻想的な雰囲気とは異なり、リアルな物欲・名誉欲にかられる人物たちをコメディー・タッチで描く。画家を主人公としたこの2作は、いわば能楽と狂言のような関係にある。後者の主人公は贋作作家であるが、当代注目されている公式肖像画家をモデルにしており、芸術と金銭・権力との関係に興味のある人には必読の書。両作ともに、豊富な参考画像と当代の事情を明らかにする詳しい解説を付した。 -
トウェイン完訳コレクション ハドリバーグを堕落させた男
ハドリバーグは誠実で高潔な町。その立派な評判はこれまで一度として汚されたことがなく、親子三代近くにもわたって続いていた。町の住人はそのことを誇りに思い、他に持っているどんな宝ものよりも自慢していた。しかし、一人の男の怨みをかってしまったために、この町始まって以来の危機が訪れる。男は周到に準備し、町中一人残らず丸呑みにし無傷ではおかないような計画を練った。その恐るべき狡猾な計画とは、そして、清廉潔白な町ハドリバーグの運命は……?! サスペンスタッチで人間の表と裏の顔を描き出す、マーク・トウェインの真骨頂。入手困難な作品が、大久保博の名訳で蘇る! 他では読めないKADOKAWA電子書籍版トウェイン完訳コレクションならではのとっておきの一作。本書は訳し下ろしです。 -
シェークスピア「ベニスの商人」の金貸しシャイロックは悪人か。
10分で読めるミニ書籍です(文章量6,000文字程度=紙の書籍の12ページ程度) 「役立つ」「わかりやすい」「おもしろい」をコンセプトに個性あふれる作家陣が執筆しております。自己啓発、問題解決、気分転換、他の読書の箸休め、スキルアップ、ストレス解消、いろいろなシチュエーションでご利用いただけます。是非、お試しください。 まえがき 「ベニスの商人」の金貸しのシャイロックは、貿易商人アントーニオに大枚の金を貸す。そして担保も利子も取っていない。ただ証文には、金を返せない場合、「借主の胸の肉一ポンド切り取る」と書かれ、その条件で契約を交わす。 借主の船が難破して、期日までに金が返せなくなると、金貸しのシャイロックは裁判所で証文を振りかざし、胸の肉を切り取ろうとする。裁判官も許可するが、ただし「肉は切り取っていいが、血は流してはいけない」と、知恵を働かして借主のアントーニオを救うというのが、大体の粗筋。 シェークスピア物語の「絵本」などでは、この肉を切り取ろうとする場面が紹介されている。この絵では、金貸しのシャイロックが悪相で剣を振りかざしている場合が多い。ひどいのになると、ニヤニヤ笑った変質者のように書かれている。だから、シャイロックは悪人のイメージを持たれるのだ。 歴史的には、シャイロックが悪人一辺倒に描かれていたが、ヒットラーのユダヤ人迫害で、シャイロックが被害者として描かれるのが流行となったのである。 果たして、シェークスピアはシャイロックを悪人として登場させたのだろうか。それとも被害者か。 シェークスピアは善悪で人間を描くような単純なことはしていない。 -
トウェイン完訳コレクション 王子と乞食
素直でやんちゃな乞食のトム・キャンティと利発で思いやりあふれる英国皇太子エドワード。ある日二人は出会い、戯れに衣服を交換すると、王子は乞食として追い払われ、乞食は王子と誤解される羽目に……。なんとか宮廷生活をこなしながら、家族が恋しくてたまらないトムと、無慈悲な世間に驚きつつも、かわらず威張り調子のエドワード王子。やがて国王の崩御によって、トムは王となり、慈悲深い名君としてあがめられる。そして王子は連れの浮浪者とともに捕らえられ、牢獄で窮地に立たされることに。二人に待っている結末とは――?! 子供の姿を通して富と貧困と心の尊さの根源を説く、児童文学の先駆者としてのマーク・トウェインの傑作! -
テネシー・ウィリアムズII 地獄のオルフェウス
大竹しのぶ、三浦春馬、水川あさみ、三田和代、ほか出演で上演中! 5月31日(日)まで東京・Bunkamuraシアターコクーン、6月6日(土)~14日(日)まで大阪・森ノ宮ピロティホール/アメリカ南部の田舎町。病気で伏している雑貨店店主ジェイブを夫とするレイディ。二人の夫婦生活に、もはや愛はない。ある日、この町に現れたのは、蛇革のジャケットにギターを持った若い男ヴァル。レイディは野性味あふれるヴァルに惹かれ、希望を見出す。レイディが手にした愛の代償とは……。ギリシャ神話の英雄オルフェウスの話をもとに発表した『天使の闘い』の改作戯曲。マーロン・ブランド主演で映画化もされ、話題に。 -
ネールの塔 五幕九景ドラマ
『三銃士』(ダルタニアン物語を含む)や『モンテ・クリスト伯』を始め『王妃マルゴ』、『モンソローの奥方』、『黒いチューリップ』などの小説で世界的な文学者となったアレクサンドル・デュマは、最初、劇作家としてデビューしたという事実は意外に知られていません。今回、デュマの劇作品の中でも傑作の呼び声が高い『ネールの塔』をお届けします。フランス王妃とビュリダンとの権力と知力の戦い、尊属殺人、嬰児殺し、近親相姦、恐るべき人倫の蹂躙を舞台にのせた作者の勇気と革命と戦争を通じて権力に潜む非人間性を知ったためにそうした表現を受け入れることができた観客を感じていただければ幸いです。 ネールの塔にまつわる歴史は次のようなものでした。 中世の物語、特にネールの塔の伝説的な物語は当時流行であった。史実では、女王マルグリット・ド・ブルゴーニュ(1290-1315)と義妹のブランシュは、それぞれフィリップ・ドルネとゴーティエ・ルネという兄弟を愛人にし、モービュィッソンの修道院で逢い引きをしていた。1314年、四人は密告されてルイ強情王と呼ばれたLouis Xの命令で全員逮捕された。一人の若者は尋問によって自白(しかし、裁判の一切が秘密であったために、すべて憶測の域を出ない)し、拷問の果てに死んだ。1315年4月のことであった。1322年、女王は、伝説の語るところでは、1315年4月30日王の命令によりシャトー・ガイヤールで絞殺されて死んだ。ブランシュは1322年解き放たれ、僧籍に入り、モービュイッソンの修道院に赴いて翌年そこで死んだ。この姦通を手引きした端役たちは死刑か、または逃亡した。さらに二番目の義妹ジャンヌは一旦告発されたが、身の潔白を証明することに成功した。これがこの事件にたった2頁しか割いていない同時代人のド・ナソジの『年代記』の継承者が教えてくれるすべてである。ネールの塔がフィリップ美男王の嫁たちの放蕩三昧(ほうとうざんまい)の本山であり、一夜限りの愛人の死体を翌朝セーヌ川に投げ落とさせたという、これといった根拠もない一つの伝説が生まれたのはかなり古いことである。これらの情夫のうちビュリダンなる人物が問題である。事実、ビュリダンという人物はどこにも見当たらないうえに、さらにもっと可能性が薄いのはパリ大学の総長であった哲学者ジャン・ビュリダン(1290-1358頃)がマルグリット・ド・ブルゴーニュの愛人であったということである。様々な伝説がジャンヌ・ド・ブルゴーニュあるいはマルグリット・ド・ブルゴーニュとの関係を彼に負わせ、その二人のどちらかが(ヴィヨンが書いているように)彼を袋に入れてセーヌ川に投げ入れ、そのために死んだかどうかは様々な異本がある。ブランドームはその『艶婦列伝』のなかで有罪の女王のことには触れることなく、ネールの塔における王家の血みどろの乱痴気騒ぎの伝統について言及している。 これを題材にしてフレデリック・ガイヤルデという若者が脚本を書きました。着想はよかったが、劇場に上げるまでではなかった原案をロマン主義演劇の傑作に仕上げたのがアレクサンドル・デュマでした。熱狂をもって受け入れられた『ネールの塔』はその後、著作権を巡るガイヤルデによる執拗な訴訟が作者2人の死後まで続く因縁の作品でもあったのです。『ネールの塔』に付けた解説では、この問題を詳細に説明しています。お楽しみ下さい。 -
帰郷
クリムは英国の大学を出てパリに行き、宝石商として成功したが、貴婦人の虚飾にへつらう商売がいやになり、愛する郷里エグドン荒野で、学校を開こうと考えて帰ってくる。そこに待ち受けていたのは女神のように気ままで誇り高いユーステイシアだった。クリムは母の猛反対を押し切って結婚する。だが、ユーステイシアにはワイルディーヴという密通の相手があった。クリムの母の死をめぐるいさかいから二人は別居し、沈むユーステイシアはワイルディーヴの誘いに乗ってパリへ脱出を図るが……全体はギリシア悲劇の様式にならって、長い物語は1年と1日で終止符を打つ。立ち読みに取り上げた冒頭はエグドン荒野の描写の一端で、深く暗いながらも崇高な永遠性をもつ物語の背景が的確に描写されている。 -
魔の山
ハンブルク生まれのハンス・カストルプはアルプスの山中にあるサナトリウム「ベルクホーフ」で7年間の療養生活を強いられる。その間、ロシア婦人ショーシャに愛を寄せ、理性による文明の進歩を信ずる民主主義者のイタリア人セッテンブリーニと、独裁によって神の国を実現しようとするユダヤ人ナフタとの、決闘にまで立ち至る壮大な論争に巻き込まれる。また、精神の世界に対して感覚的な生の世界を代表するオランダ人ぺーペルコルンからもハンスは深い感銘を受けるが、ペーペルコルンは自殺し、ショーシャも山を去る。雪のなかの彷徨で感じた至福感を胸中に抱きながらも、ハンスは突如として襲ってきた大戦に勇躍参加する選択をする。トーマス・マンの代表作。 -
アントニー 5幕散文ドラマ
アレクサンドル・デュマの最も一般的な略歴は以下である。 1802年フランスのヴィレール・コトレ生まれ。 19世紀フランスを代表する作家の一人。幼少よりラテン語、古典文学を学び、17歳で『ハムレット』を観て劇作家を目指す。20歳でパリに出た後、『アンリ三世とその宮廷』、『クリスティーヌ』の大成功によって劇作家としての地位を得る。その後も数多くの劇作を発表し続けるが、フランス・ロマン派の影響を受け、徐々に歴史小説に移行する。1844年、「ル・シエークル」誌に連載された『三銃士』が爆発的な人気を得た他、『王妃の首飾り』、『黒いチューリップ』などの大作を世に送り出す一方で、革命に積極的に参加するなど当時のフランス国内に多くの影響を与えた。晩年はフランス、ベルギー、ドイツ、オーストリアなどを転々としながら創作活動を続け、1870年、ピュイの別荘にて死去。 主な作品は、『三銃士』、『二十年後』、『モンテ・クリスト伯』、『王妃マルゴ』、『王妃の首飾り』、『黒いチューリップ』など多数。 もちろん、フランス文学史がロマン主義を避けて通ることができないかぎり、デュマに触れないわけにはいかないが、ヴィクトル・ユゴー、アルフレッド・ド・ミュッセ、アルフレッド・ド・ウ゛ィニーなどと比較すると、デュマは明らかに挿話的な扱いしか受けないのが普通である。しかし、2002年11月、ついにアレクサンドル・デュマの亡骸が国葬としてパリのパンテオンに移され、国民作家の列に加わったのだ。 一般に日本でのフランス・ロマン主義の研究は手薄だが、なかでもアレクサンドル・デュマについての研究は皆無に等しい。デュマと言えば『三銃士』や『モンテ・クリスト伯』といった大衆娯楽作品の印象が強く、また数知れない代作者を使ったという理由で悪名も高い。また、その作品の全体について正確な総数すらわからないほどのいわば濫作者であったからよけいに始末が悪いのかもしれない。いったいどれだけ作品を出版したのだろうか。 カルマン・レヴィー出版社が1902年に出したアレクサンドル・デュマ作品総カタログによる作品分類は以下の如くであった。1)歴史小説および歴史研究128作品218冊。2)個人伝41作品、64冊。3)回想録、閑談9作品、11冊。4)少年少女物語5作品、6冊。5)旅行記18作品、35冊。6)戯曲66作品25冊。以上合計271作品、359冊(若干数の作品は重複の可能性がある)。シャルル・グリネルの『アレクサンドル・デュマとその作品』ではカルマン・レヴィー版全集で298作品142巻という数字を出している。Webサイトで検索すると688作品がリストされていて、270作品とか289作品とかをはるかに超えた多作家であることは間違いがない。ジャンルも小説、伝記、回想録、おとぎ話、旅行記そして戯曲と多彩である。 ≪Elle me resistait, je l’ai assassinee!....≫ 「俺を拒んだ、だから殺したのだ!」 有名なこの幕切れの台詞と共に、愛人アデルを殺した暗い目付きの主人公アントニーは、1831年以後しばらくの間フランスの若い世代を席巻した。1831年5月3日ポルト・サン・マルタン座で初演された『アントニー』は、当時の上演事情から見ると異例としか言いようのないほどの連続上演記録を作った。「このドラマはパリで連続131回上演された。内訳はポルト・サン・マルタン座で100回、オデオン座で30回、イタリアン座で1回である。そればかりか、またフランス中で巡回公演され、その年1831年は非難ごうごうであったが、1833年から1837年までは大成功を収めた。 今日のわれわれから見るといささか大時代なこの姦通劇が、どのように着想され、どうしてこのような熱狂的な反響をもたらしたのであろうか。 -
地球からの手紙
“キリスト教と性”をテーマとした表題作は、「大天使」サタンに擬し、人間のもつ偽善性を赤裸々に描く。「アダムとイヴの日記」は、「創世記」にヒントをえてトウェインの女性観を披露した作品。「クリスチャン・サイエンス」は本邦初訳。 -
ハックルベリィ・フィンの冒険
「トム・ソーヤーの冒険」の続編にあたる本書は、放浪を宿命づけられたハックを主人公に描いたもので、“南部人”としてのトウェインの顔が随所に現れた作品としても論争の的になっている。巻末に新たに発見された原稿を追補。 -
細菌ハックの冒険
生物実験で本当は鳥になるはずだったのに、コレラ菌になってしまった主人公は人間の体内に入る。そこには騒然とした細菌国家があった……。当時、世界的に注目を浴びていたダーウィンの『進化論』への痛烈な批判を込めて描く。 本邦初訳。 -
ミシシッピの生活
「ハックルベリィ・フィンの冒険」の素地となった作品。前半はマーク・トウェイン自身の4年間の水先案内人時代の生活を描き、後半は、21年ぶりに訪れたミシシッピ川やその流域の変貌を描く。当時の状況を知る優れた風土記でもある。 -
まぬけのウィルソンとかの異形の双生児
「まぬけのウィルソン」は、指紋採集を趣味とする弁護士が、黒人と白人の取替え、そして殺人事件に至る悲喜劇を解決するミステリー作品の原点。「かの異形の双生児」は、奇形のイタリア貴族が米国で巻き起す南北戦争時代のコミカル劇。 -
ミステリアス・ストレンジャー44号
時代は中世。舞台はオーストリアの古城。超能力を持つ正体不明のストレンジャー44号に「分身」と「本体」に分裂した人間像を与え、その自由奔放な行動を通じて、「無意識」という名の人間の深層心理を浮き彫りにした先駆的作品。 -
ヨーロッパ放浪記
“旅人”トウェインの長編紀行 “A Tramp Abroad” の本邦初訳。1878年、百余年前のドイツを行くトウェイン、ある時には勇者ビスマルクを論じ、ワグナーを語り、ターナーを描く。下巻はスイス、イタリアを旅し、ヨーロッパを語る。 -
地中海遊覧記
トウェインを空前のベストセラー作家にしたアメリカの“お上りさん”の旅。豪華蒸気船に乗りジブラルタル海峡を渡り、フランス、イタリア、ギリシア、トルコ、パレスチナ、エジプト、スペインなど地中海沿岸を回遊した紀行文学の傑作。 -
ファンタジーの七つの時代
著者ピーター・ミルワード氏は『ファンタジーの七つの時代』において、イギリス文学におけるファンタジーの伝統を、西洋の歴史をたどりながら探求しています。 本書は以下の各章で構成されています。 プロローグ ファンタジーという別世界 第一章 創造と壊滅のファンタジア 第二章 神話のふるさと 第三章 妖精物語のファンタジー 第四章 聖杯探求 第五章 ルネサンス・マジック 第六章 楽園喪失から新しきエルサレムへ 第七章 ナンセンスの世界 エピローグ 現実への回帰 『ロード・オブ・ザ・リング』や『ナルニア国物語』、『不思議の国のアリス』など、今日、映画化されて人気のある、有名なファンタジーの作品も登場します。こういったファンタジーが、イギリスという国で育まれた文化・宗教を背景にしていることについて、本書はわかりやすく解説しています。また、英文学研究者の方だけでなく、幅広い層の読者の方に親しんでいただけるよう、各章の人物・歴史的事項・作品に関する注が訳者によって付けられています。 -
追憶の文化大革命
文化大革命(1966-1976)、若者が赤い旗を振り、毛主席語録を振り上げ歩く姿がイメージされるであろう。これが中国全土を席捲した。官僚も、文化人も、資本主義の道を歩む反動として打倒された。彼らも革命のために生き続けるという信念があった。李城外は文革終息後の文化人たちの「追憶」を記述した。同じ境遇にあった複数の文化人の思いが語られている。文革の実態をより客観的に知ることができる。事件当事者たちの生の体験は、事件を共有させ、せめて同じ過ちを繰り返すまいとする人々の誠意と哀切が込められている。すべての事件が風化するという社会事象の中で、私たちに時代を生きるとはどういうものであるかを示唆している。 上巻に登場する人物: 謝冰心(作家)/臧克家(詩人)/張光年(中国作家協会副主席)/周巍峙(文化部部長代理)/韋君宜(作家)/薛徳震・楊瑾(夫婦出版家)/牛漢(詩人、『新文学史料』誌主編)/陳羽綸(『英語世界』誌主編)/許磊然(女性翻訳家)/楊静遠(女性翻訳家)/侯愷(もと栄宝斎総経理)/丁寧(女性作家)/張兆和(沈従文夫人)/李小為(李季夫人)/胡海珠(侯金鏡夫人)/陳今(王子野夫人)/趙友蘭(曹辛之夫人)/司徒新蕾(司徒慧敏の娘)/楊絳(翻訳家)/杜惠(郭小川夫人) -
アンクル・トムのキャビン
トムはケンタキーの温厚な農場主に雇われていた忠実な黒人奴隷だったが、事業に失敗した主人によって、小間使いイライザの息子ハリーとともに奴隷商人に売り渡される。トムの苦難はここから始まる。トムは ニュー・オーリアンズの富豪セント・クレアの一人娘エヴァが河に落ちたのを救った縁で、同家に買い取られる。だが、比較的落ち着いた暮らしも、エヴァの死、つづく主人の急死によって一転する。トムは飲んだくれで残忍なミシシッピの農場主 レグリーに買い取られていく。その果てに待っていたものは……19世紀アメリカが生んだ代表的な社会小説であり、黒人奴隷のさまざまな姿を鮮烈に描いた秀作として呼び声たかい長編小説。
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