アガサ・クリスティーのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
クリスティー作品の有名な主人公といえば、ポワロとミス・マープルになるだろうけど、その二つのシリーズとはまた違った楽しみが見いだせるのがトミー&タペンスシリーズのいいところかなと思います。愛嬌ある夫妻のやりとりやキャラクターもそうだし、事件のスケールや展開もひと味違って面白い。
この本の事件の舞台となるのは第二次大戦中。ナチスのスパイを秘密裏にとらえるため、半ば引退状態となり暇と退屈を持て余していたトミー&タペンス夫妻が活躍するミステリーとなります。
ポアロとかミス・マープルは年齢とか本人の性格も相まって、ちょっと落ち着いた印象があるのだけど、トミー&タペンスは中年の年齢になってもまだまだ血気盛んなのが良いし、何より愛らしいなあと思います。特にタペンスが自分だけ蚊帳の外に置かれそうになると見るやいなやの行動力とか、笑ってしまう。
構成としてはクリスティーらしい緻密さや人物描写、日常描写、会話劇が光る。容疑者たちの書き分け、特徴、個性、そういったものを少しずつ読者に見せ、イメージを形作っていき後半の展開につなげる。前半の伏線というか、雰囲気作りがあるからこその後半の展開は特に面白い。容疑者の子どもの誘拐から始まり、トミーとタペンスに迫る影と危機、そして明かされるスパイの正体。こうした展開、見せ方はクリスティーの真骨頂かな、と思います。
トミー&タペンスものだとクリスティーのキャリアといっしょに、二人も同様に年を重ねていくのも味を出しています。前作「秘密機関」では、この「NかMか」以上に冒険ものの印象が強かったけど、それも時代の違い、二人の年齢の違いも大きいのかな、と思います。
作中で二人も話しているけど、戦争に対する考え方がだいぶ変わっているのが興味深いところでもあります。二人が子どもを抱える親になったということもあるだろうし、クリスティー自身も年齢を重ねて、エンタメとしてのミステリーから、考えるところが増えたのかもしれない。そういうところを思いつつ読んでみるのもまた一興のように思います。 -
Posted by ブクログ
自惚れが強く珍奇な見た目、およそ人好きされるとは思えないキャラクターでありながら、ミステリ界で知らぬ者は居ない名探偵ポワロ最初の短編集
それもあってか、彼の人柄を如実に表すようなエピソードが多いね
特にポアロの特徴的な人柄を説明する際に一役買っているのが相棒ヘイスティングズの存在かな
ホームズに対応するワトソン程にはポアロが担当した事件に関わっているわけではないけれど、この短編集では基本的にポアロと共に事件解決に当たっている。それもあって、推理の過程においてポアロがどれだけ奇矯な振る舞いに出ているか、傲慢な発言が多いかを彼の視点を以って知ることが出来る
ヘイスティングスの視点で描かれるポアロはどうしたって小馬鹿にしたくなる人柄。けれど、そんな彼が最後には他の誰も解けなかった事件の枢要を詳らかにしてしまうのだから堪らない。終いにはポアロという名探偵の虜になってしまうわけだ
この短編集に収録されている事件は全て何かしらの取っ掛かりに気付ければすぐに真相を理解できるようなものばかり
だからといってどれも容易な事件だったかと言えばそうではなく、落とし穴目線の事実に気付けるかどうかに掛かっているという点はミステリの短編として完成されているね
収録されている作品の中で特に楽しめたのは『首相誘拐事件』かな
フランスでイギリスの首相が誘拐された。間近には彼が出席しなければならない国際会議が迫っている。国際平和の為には首相が必ず出席する必要がある
それを焦った誰も彼もがフランスへ目を向け、ポアロでもさえ一度は渡仏した。だというのに、フランスでは一切の捜索をせず椅子に座って事件の真相を推理する
その姿は安楽椅子探偵の何たるかを如実に示したものだったよ
他に面白い尺度で描かれていた事件といえば『チョコレートの箱』
ポアロが探偵ではなく刑事だった頃の事件。だからか、他の事件で見られるような尊大さは控えめ。呼応するように事件への対応もどこか覚束ない
最終的に彼は大失敗を喫するわけだけど、読者向けには事件の真相を容易に気付けるポイントが用意されている
事件を楽しめつつも、未熟な名探偵も楽しめるというオトクな短編だね -
Posted by ブクログ
「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃ・・・」エルサレムを訪れていたポアロが耳にした男女の囁きは闇を漂い、やがて死海の方へ消えていった。どうしてこうも犯罪を連想させるものにぶつかるのか?ポアロの思いが現実となったように殺人は起こった。謎に包まれた死海を舞台に、ポアロの並外れた慧眼が真実を暴く。
どう考えても怪しい会話が冒頭で繰り広げられ、犯人としか思えない展開から始まるところが本当に上手いなあと思う。読者はどうしてもそっちに意識がいってしまうので。誰かが嘘をついている中で、時間のアリバイを順序立ててポアロが謎解きする場面はやっぱりかっこいい。ボイントン家の家族と彼らにそれぞれいろんな関係者が絡んできて、訳が分からない。自分ではさっぱり解けませんでした(笑)しかしクリスティは歪んだ精神を描く筆力がすごい。普通に被害者に全く同情できなかった。 -
Posted by ブクログ
ポアロもの。
アンカテル卿の館・ホロー荘に招かれたポアロは、館内のプールサイドで一人の男が血を流して倒れており、その傍らにピストルを手にした女が立っているのを目撃します。
この芝居がかった殺人現場の裏にあるものとは・・・。
殺された男性は医師のジョン、ピストルを持っていた女性はジョンの妻・ガーダ。
ということで、一見単純そうに見えるシチュエーションですが、そこはクリスティー。勿論そう簡単な話ではありません。
何しろ、“事”が起こるまでにホロー荘に集った面々を巡る、複雑な人間模様が綴られているので、全員“腹に一物”抱えているように見えてしまいます。
まずはジョンを巡っては、妻・ガーダ、愛人で彫刻家のヘンリエッタ、昔の恋人で女優の・ヴェロニカという四角関係が展開しているし、それに加えてヘンリエッタの事が好きなエドワード、エドワードに想いを寄せるミッジ・・と、一体何角関係だよ?と言いたくなる程、それぞれの思いが錯綜しております。
そして、アンカテル卿の妻・ルーシーのキャラも強烈でして、その浮世離れっぷりは天然を通りこしてもはやサイコ。
何気に一番怖い人だと思いました(ある意味ラスボス)。
で、今回ポアロは出番も少ないし、終始受け身な感じで“ポアロもの”っぽくないなぁ・・という印象です。
終盤では、犯人と事の真相はわかったけど解決はしていないような・・という感じでしたが、ポアロ曰く「このような終局は、わたし自身は慈悲ぶかいものだと思っています。」とのことなので、これが落としどころだったのかもですね。
因みに、ラストでジョンが実はいい奴だった的な話になっていましたが、序盤でのモラハラエゴイストなジョンの印象が悪すぎて、“今更印象良くしようとしても、手遅れだっつーの”と思った私です。
と、いうことで何だか謎解きより“キャラ祭り”といった感じの本書でしたが、そんな人間描写を楽しませて頂きました。
とりあえず、唯一まともだったミッジには幸せになって頂きたいですね~。 -
Posted by ブクログ
アガサクリスティの未発表作品として販売された中編小説。
学生時代の趣味はいくつかあるが、古本屋を巡り、インターネットでダウンロードしたアガサクリスティの索引を手にしながら、出版社には拘らず女史の作品を集め回っていた頃がとても懐かしい。
そんな中、クリスティの未発表作品があると聞いて心がときめいた(表現が恥ずかしい)のはいうまでも無い。
後に「死者のあやまち」の原型となった作品で、打ち切りの様な形だったものをまとめた様だ。
それでもクリスティファンには嬉しい作品で楽しく読む事が出来た。
相棒はオリヴァ夫人であり、彼女のパワーに圧倒されながらあっという間に読み終えてしまった。
この作品を題材にした「死者のあやまち」と比べてしまうと、明らかに後者の方が面白いのだが、やはり全ての作品を集めた上で(全部は読破できていない。いずれ新品で買い揃えたい)新しく刊行されると嬉しさが勝ってしまう。
作中の導入や序盤の進み方はやはりクリスティ。圧倒的だ。 -
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ポアロシリーズ7作目。1933年の作品。
クリスティー文庫の表紙がビッグ・ベン。作中にビッグ・ベンは出てこないものの、劇場やサヴォイ・ホテルなどロンドンが舞台。
リージェント・ゲート、セント・ジェームズ・パーク、テムズ河畔チズィック、ピカデリー・パレス、ユーストン、コヴェント・ガーデンと地名がいっぱいでてくるのですが、距離感がまったくわからず。タクシーで行って帰ってこれる距離なのか、事件に関わってくるのでマップがほしいところ。
今回は容疑者多すぎ、ミスリードの連続なので犯人がまったくわかりませんでした。ポアロのヘイスティングズいじりとか、当時の流行とされている「スープ皿をひっくり返したような形」の帽子とか、人気女優、映画俳優、公爵が登場する派手な恋愛模様などを楽しみました。
ポアロとヘイスティングズはサヴォイ・ホテルに住んでるのかしら。ロンドンの劇場で観劇して、ホテルでご飯食べて、夜の街を散歩する生活。優雅だなあ。
訳がちょっと読みにくいところがありましたが、福島正実さんは『夏への扉』、『幼年期の終り』なども訳してるんですね。
以下、引用。
177
「こういう帽子は普通右側にかぶるものじゃないですか?」ポアロがすぐ訊ねた。
帽子店のマダムは頷いた。
「でも、反対用も多少はストックしておくのです。というのは、世間には、左より右の横顔に自信のある方もありますし、髪を片側だけに分ける習慣の方もありますからね。」
223
「あなたはいつも優しき心根の持ち主ですよ、ヘイスティングズ。苦難の美女は毎度あなたの気持ちをかき乱すらしいですな」
230
「わたしはあなたが第二の、もしくは二流の〝ポアロ〟たることを望みません。あなたが最良の〝ヘイスティングズ〟たることをこそ望みます。そうしてあなたはまさに最良最上のヘイスティングズです。あなたの内部には、ほとんど完璧に近い正常(ノーマル)なる人間精神があります。」
271
「ジャップのことですよ。犬を飼っていながら、なぜ自分でほえるのか、っていうじゃないですか。」
274
「それから流行の帽子をかぶっていたそうです。女ってものがもう少し帽子よりは顔のほうに注意してくれると助かるんですがねえ」
375
「いま一時間ばかりはある美容院にいたのですが、そこにあなたが見たらいっぺんにあなたのその感じやすい魂を奪われそうなとび色の髪の娘がいましたよ」
398
「息子というものは、決して、母の望むような娘たちとは結婚したがらないものですわ」
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“身上相談探偵(?)”、パーカー・パインを主人公とした連作12話の短編集です。
「あなたは幸せ?でないならパーカー・パイン氏に相談を。」
↑こちらの広告にホイホイされて、パーカー・パイン氏の事務所を訪れた人達のお悩みを、パイン氏の指示を受けた事務所のスタッフ達があの手この手で解決していく展開です。
この、“チーム・パイン”のメンバーとして、ミス・レモンやオリヴァ夫人といった、ポアロものにもちょいちょい出てくるキャラが登場したりというサービス(?)も嬉しいですね。
様々な立場の人々の、あらゆるお悩みを、“今度はどんな筋書きで解決するのかな~”と、何だか大掛かりなドッキリを思わせるような仕込みっぷりを楽しみながら読ませて頂きました。
ただ、解説にもありましたが第七話「あなたは欲しいものをすべて手に入れましたか?」以降は、パイン氏が中東、エジプト、ギリシャ等に旅立ち、行く先々で事件に巻き込まれてそれを推理するという、トラベル・ミステリに方向転換しています。
「“お悩み解決”では“ミステリ”が足りない!」と、クリスティーが思ったのかどうかは謎ですが、個人的にはもうちょい“チーム・パイン”(又は“パーカー・パイン劇団”・脚本オリヴァ夫人)路線を見てみたかった感じです。
因みに、例の新聞広告“あなたは幸せ?・・”の隣に欄に記載されていた、
「フローラ ─── いつまでも待つ ──── J」
という広告も、“Jはフローラに会えたのか?”と、勝手に気になった私ですww。 -
Posted by ブクログ
学生寮で働くハバート夫人から、寮で頻出する盗難事件の相談を受けたポアロ。ほどなく寮生の一人が名乗りでるが、皆の前で罪を告白した翌日にモルヒネを飲んで死んでいるのが発見される。連続盗難事件のなかで彼女が「自分のしわざではない」と否定したいくつかの品が謎を解くカギになるとポアロは捜査をはじめる。
移民というか留学生に対する世間のイメージがテーマになっていて、誇張されたキャラクターがたくさんでてくる。でもクリスティはセリフから性格を読み取らせるのが抜群にうまいので、自然と寮生たちのキャラをおぼえてしまうのがテクニシャンだ。学生同士の会話が昔の少女漫画のようだった。 -
Posted by ブクログ
最近チョコレートの出てくる話にはまっているので、「チョコレートの箱」という短編目当てでこの短編集を読むことにした(以前NHKの「グレーテルのかまど」でこの話が紹介されていた)。ポアロがベルギー人だということも思い出し、催事でベルギーのチョコを買ってしまった。
短編が14話入っていて、色々な話が楽しめる。
『ポアロ登場』というタイトルだが、初登場シーンがあるわけではなく、「ポアロ参上」というところか。どの順番で読んでも問題ない。ポアロ&ヘイスティングズはホームズ&ワトソンを彷彿とさせる。
しかし、展開が早いため、私が登場人物を把握する前にポアロが事件を解決してしまい、犯人の名前を聞いても、「だ、誰!?」となってしまった。長編では、いつも冒頭の人物紹介をチラチラ見ながら読み進めて徐々に人物名を覚えていくのだが、短編なので人物紹介がないというのは私にとっては逆に落とし穴だった。
とは言えスピーディで鮮やかな解決に驚いたり、自信過剰だが憎めないポアロや、ホットチョコレートを飲んで御満悦のポアロが堪能でき、楽しい読書だった。
「チョコレートの箱」「謎の遺言書」「ヴェールをかけた女」が好みだった。