川上弘美のレビュー一覧

  • 神様 2011

    Posted by ブクログ

    川上弘美さんの作品を知ったのはまだ数年前ですが、
    1993年に書かれた「神様」が…ほんわかして優しくて大好きです。
    その後、2011年に「神様2011」が「あのこと」をベースにした神様の物語が書かれています。
    あのこととは、2011年東日本大震災による福島原発事故。わたしは、震災のニュースを見、大きな衝撃を受けたが、原発事故のことは、あまり意識の中になかった(というか、わからなかった)。
    最後の川上弘美さん自身の「あとがき」は、まるで川上さんが話しておられるような語り調で、背筋が伸びる気がした。非常に訴えを感じた。怒りと受容にも似た。

    本の中の前述の「神様」の文は、原文そのまま。
    後の方の「神様2011」は、くまとの楽しい一日が、あのことがあって変ってしまった日常に加えて描いてある。例えばくまが防御服を着ているところとか。

    日本は大きく変わってしまったけれど、日常は続いてゆく。怒りは最終的に自分自身に向かってくるのだが、(中略)それでもわたしたちは、それぞれの日常を、たんたんと生きてゆくし、意地でも「もうやになった」と、この生を放り出すこともしたくない。だって、生きることは、それ自体が、大いなるよろこびであるはずなのですから。
    と締めくくってある、この文章は(よく思うのは、川上さんの書かれるものはラストは生きることの素晴らしさを訴えているように感じる)、原発のみならず、今起きているコロナ禍に向けてのエールにも感じる。

    0
    2020年08月22日
  • 水声

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    両親(兄妹、でも肉体関係なし)のもとに生まれた近親相姦姉弟(肉体関係あり)の生まれてから約50年間の話。戦後から昭和の終わり、バブル崩壊、松本サリン、阪神淡路大震災など当時の大きなニュースが挟まれるのが特徴的。登場人物が皆どこか不思議だけれど、純文学。
    やはり文章が美しい。

    0
    2020年08月12日
  • 夜の公園

    Posted by ブクログ

    こういう乾いた恋愛ものはとても好き。語弊があるかも知れないけれど、江國香織さんの世界観とも共通するものがあるように感じた。
    川上弘美さんの小説は私の場合、はまるものと世界が独特すぎてついていけないものに分かれる。この小説は完全に前者。

    主人公は35歳のリリ。主婦で、夫の幸夫がローンで買ったマンションに暮らし、申し分ない生活をしている。だけど毎日が、なんとなく退屈だ。
    幸夫は、リリの親友の春名と恋人関係にあり、リリもまた、マンション前の公園で知り合った9歳年下の暁と恋人関係にある。
    こんなにせまい人間関係のなかで、さらにあるひとつのつながりがある。

    リリはどことなく謎めいていて、感情をあまりおもてに出さない。幸夫のことを愛してはいないけれど、不満はないし、感謝はしている。春名との関係にも気づいているけれど、どちらにも何も言わない。
    暁と過ごすのはとても心地よい。でもどちらかというと、深みにはまっているのは暁のほう。
    春名はリリに対して申し訳なさを感じるものの、幸夫のことを愛してやまない。
    幸夫は春名との身体の相性を愛おしく感じているけれど、おそらく心底で愛しているのはリリだ。

    こんな世界観が、乾いた雰囲気で繰り広げられている。そんなにドラマティックではなく、淡々と日々は過ぎていくけれど、最初とは違う状況にそれぞれが変化して物語の終わりを迎える。そこからまた、変化の予感を感じさせつつ。

    欲求が薄い人間(この小説の場合は主人公のリリ)はある意味とても厄介な存在だと思った。何かを選択するとき、欲がないから、先のことも深く考えず選んで進んでしまう危うさがある。
    そういう風には生きられない人が大半だから、このリリという女性に嫉妬や羨望を感じてしまうのかもしれない。
    主人公が魅力的な小説はとても良い、と、常々感じている。

    0
    2020年08月02日
  • ざらざら(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    短編23編のいずれもがなかなかに優れものの1冊です。梅酒の如くサラリと読めますね♪
    2002~2006年にかけて掲載された作品を纏めたものです。 作者40代半ばの頃の作品。
    短編は作者の特色がけっこう出てくるので面白いし気軽に読めて良いですね。

    0
    2020年07月05日
  • パスタマシーンの幽霊(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    ずっと前、居たなそういう人、原田聖子のような理解できなかった存在の人。(ゴーヤの育て方)
    「ねえ、大学時代はさあ、会社に入って働くとか、考えてもなかったよね」「いろんな女や男やおっさんやおばさんがいるところで、自分も働いていることが、まだ信じれん」
    不特定多数の人と、誰もが良い人間関係を結ぶのは難しいと学んだ自分の「お勤め」のころを思い出した。
    輪ゴム、はよかった(全部よかったけど)。どのお話も哀愁が漂って、ふわふわしてるのにせつなくて、だけど穏やかになる。

    0
    2020年06月15日
  • ざらざら(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    通り過ぎるような、あるようなことを引き延ばしてふわりとお話になった、かんじ。月火水では、「やっぱりいいです」と言いそうになったが、やっぱりと言いはじめたあたりで、おじさんがくるりと振り向いて・・たのでいいやめることができた。この感じがよくわかる。私も迷い癖があるので、相手に委ねたい方だから(笑)
    好みでは、菊ちゃんのおむすび。菊ちゃんは尻ポケットから何やらたたんだものを取り出す。小さな青いビニールふろしきだった。青いビニール風呂敷か(笑)!?と、私はひとり突っ込みを入れる。
    椰子の実では、「それより、咲はおれのかわりに親孝行してくれ」ってところが泣けた。
    合間にちょっと読むも、次も次もとやめられず離れられなくなる。へこんだときも、なんかうれしくなる本。

    0
    2020年06月14日
  • 変愛小説集 日本作家編

    Posted by ブクログ

    タイトル通り変愛を集めた短編集。

    「お、おう、そんなところに」「そんなのと」「え、何この設定」とか本当にそれぞれ変な愛ばっかり笑

    吉田篤弘目当てだけど、電球交換士が出てきていたとは。

    0
    2020年04月16日
  • ハヅキさんのこと

    Posted by ブクログ

    なんでかよくわかんないけど、よく思い出す記憶ってある。なんでだろう? 「ハヅキさんのこと」をはじめとする話、ふと思い出す断片的な映像みたいだった。や〜良い。

    0
    2020年04月11日
  • ハヅキさんのこと

    Posted by ブクログ

    川上弘美さんの短編集。
    一話が本当に短い。2,3~4,5ページのものが多い。
    その短い中で、登場人物がうまく描写され、ストーリーがある。当たり前か。
    どのストーリーも、登場人物がどんな人か、こんな短いページ数でも把握できる。
    女性同士の付き合いの話が多く、共感できる。
    面白かった。

    0
    2020年04月01日
  • いとしい

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    川上弘美さん2冊目。
    修飾語が好き。
    「ミドリ子にとってチダさんとのセックスは、真夜中ひっそりと起きて読む哀しい小説にようなものだった。読んでひそかに涙を流すとあんまり気持ちがいいのでやめられない、やめられないことが情けなくてさみしくせつないのだけれど、やめられないことがうれしくもある。」

    「姉の吐き出していた空気がなくなり、姉の持ち物と姉自身も見えなくなってしまうと、しばらく家の中はまばらな感じになったが、やがてまばらなところは均された。知らぬ間に母と私は薄く家の中に広がり、姉の不在によってできた隙間は満たされた。」

    「疑ってるんじゃないよ ぜんぜん信じてないだけだよ」

    「誰かを好きになるということは、誰かを好きになると決めるだけのことなのかもしれない」

    0
    2020年02月21日
  • ざらざら(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    川上弘美には冬が似合う気がする。からりと乾いた感じが、何となく。
    川上ワールドの女性達は、没個性な印象を強く受けるのに、何故かみんな魅力的です。短編集だと、そんなチャーミングなヒロインに沢山会えるから、一冊で何粒も美味しい。

    ほんの10ページ前後で描かれるのは、彼女達の人生どころか、本当に些細な日常のワンシーンのそのまた一部。
    なのに、読んでいる瞬間、強烈に彼女達の人生の淵に立って体感してる感覚を得られるのも心地良いのです。

    0
    2020年02月10日
  • 掌篇歳時記 秋冬

    Posted by ブクログ

    短編小説。
    中には情景がぼんやりしたまま終幕になったものもあるが、大半は程よく心地良い作品。
    日本には暦のほかにこんなにも豊かな四季の表現があると温かさも得た。

    0
    2020年02月09日
  • 水声

    Posted by ブクログ

    ママが死んでしまったのでパパが出て行った。子供の頃からいてパパと呼んでいる人は実は叔父だった。
    家族の物語。55歳になった都の思い出話。

    心にはいつも死んだママがいる。
    ママが死んでから同居をしないといって出て行ったパパがいる。弟の陵がいる。

    パパと呼んでいるが実は叔父で子供の時からママと一緒にいるのでずっとパパと呼んでいた、家族だ。
    一緒に暮らしている陵は弟で生まれた時を知っている。

    ママの心はいつも満たされていて、家族の中心だったが若いのに癌で死んでしまった。

    最後のピクニックでママがいった。
    「もうすぐあたし、死ぬのね」
    「もうそれ,飽きたから、やめて」
    「せっかくその気になっているのに」
    「その気になってならなくていい」
    「こんなにこの家で権力をふるえるのって,初めてのことなんですもの」
    「あなたはいつだって、この家の一番だったでしょう」
    パパは笑った。ママも私も、陵も。
    「ねえ、後悔しちゃだめよ」
    「何かを、してもしなくても、後悔はするんじゃない?」
    陵がぽつりと言った。
    「してもしなくても、後悔しちゃだめなの」
    「それって、おなじようなものじゃないの」
    「違うの。後悔なんかしないで、ただ生きていればいいの」
    死んでいく人間の言うことはよく聞かなきゃ。ママはそう言って、おむすびを口に運んだ。


    (意味を考えては、いけない)
    (そこから何かがもれていってしまう、あるいは入り込んできてしまうから)
    おれたちって、生まれてこのかたずっと、だだっぴろくて白っぽい野に投げ出されているみたいだよね。いつか陵が言ったことがある。
    「たとえば荒野のように、雨風そのほかこっちにつきささってくる攻撃的なものから無防備な場所じゃなくて、なんだかぼんやりした抽象的な感じの場所」

    この白い野のことを時折思うようになった。
    その光景は次第に形を変えてきたが、やはり果てのない野だった。

    陵と都が住んでいた家は古くなって取り壊された、今はマンションで隣り合わせに済むようになった。
    お互いに訪ねあって暮らしている。

    恋人を愛することと、陵を愛することはまったく違うことだった、けれど、その違いをわたしはうまく言葉にできない。誰かに聞かれる機会もないから、言葉にする必要もない。


    パパとママの関係も陵と都の関係も世間から見るといびつな家族の形をしている。
    その家族はそれでも、好きだといいあったり、同じベッドでねむっている。

    しかし都はいつも白く広がっている野の風景を見ている。

    陵は会社に行き都はうちでイラストを描く、世間の秩序に沿って暮らしてはいるが、家族という絆とは違った結びつきの中で漂っている日々が、ママの思い出とともにたゆたうような言葉で読者を浮遊させる。

    一気に読ませる不思議な魅力は相変わらず川上さんのものだ。

    0
    2020年01月13日
  • 水声

    Posted by ブクログ

    テーマは、家族と愛。愛は近親相姦と世間で呼ぶ類のものかもしれないけれど、卑猥な感じではなく、読んでいると、愛の変形系の一種としてナチュラルにスムーズに受け入れられる。主人公の都の両親は、実の兄妹で、都も弟の陵に恋愛感情を持つ。都の母親「ママ」はさばさばしていて冷たいところがあるけれど、どこか人を惹きつける魅力を持った女性。世間から見れば、都の家族は歪んで、ねじれている。いとこの奈穂子はアメリカ帰りの帰国子女で、都から見ればいつも笑顔なように見えて、少しも笑っていない無表情にも見える女の子。(「奈穂子は笑っていた。あるいは、無表情でいた。」)都の育ての父親は、時計コレクターで、都の弟の部屋には掛け時計がたくさんあって、そして南京錠がかけられ開かずの部屋になっている。
    冷静にみたら、えーそんなんある?って思うくらい風変わりな家族で風変わりな暮らしだけど、読んでいるとまあそれもありかと思う。そして自分の外への寛容度が高まって、自分自身への寛容度も高まる感じがした。
    よく、話の細部まで理解できなかったように感じる。自分の心の中がさざ波が立っているからなのか、それとも人生の経験不足からなのか。またいつの日かゆっくりと読み返してみたい。

    0
    2020年01月09日
  • これでよろしくて?

    Posted by ブクログ

    今まさに読みたかったような本だった。
    するする1日で読めた。
    みんなそれぞれ意見はあるけど、これでよろしくて?同好会、みんななんか良い。暖かい。
    そして光は私的には理想の旦那さんだなぁ。でもどの夫婦にも家族にも人間関係にも中に入らなきゃ分からないモヤモヤや悩みはあるよね。
    終盤、「今」を生きることに意義を見出す主人公、とてもステキな締めだしほっこりスッキリ、とても良い本だった。
    また旅先とかで読みたいな。

    0
    2019年12月10日
  • 掌篇歳時記 秋冬

    Posted by ブクログ

    12名の著名な作家の短編が72候の解説と一緒に読める、ある意味で贅沢な本だ.重松清の鷹乃学習(たかすなわちがくしゅうす)は父親としての最後の旅行で息子の翔太を見つめる親心がうまく描写されている.筒井康隆の蒙霧升降(ふかききりまとう)は戦後の風物詩を散りばめた彼独特の文章でしっかり意見を述べているのが良い.堀江敏幸の熊蟄穴(くまあなにこもる)は菱山の取材活動のなかで村の古老たちとの奇妙な会話が面白かった.

    0
    2019年12月08日
  • 掌篇歳時記 秋冬

    Posted by ブクログ

    物語ではなく、読書そのものと、日本の繊細な四季の移ろいを味わう一冊。初めて読む作家さんもいて楽しかった。

    0
    2019年12月05日
  • いとしい

    Posted by ブクログ

    読み終わってからこんなにもタイトルがしっくりくる本は初めて。一人ひとりに相手への愛おしい気持ちがあって、それは偶然生まれたものであったり、または歪みからかもしれない。本物どころか、愛とも呼べないものかもしれない。しかし気持ち自体はどうしようもなく確実にそこにいて、ふとした時に少し姿をあらわすことで自分にも相手にも影響を及ぼす。王道な、合理的な、理性的な、普通な、永続的な、愛なんてないのだろう。

    0
    2019年10月28日
  • これでよろしくて?

    Posted by ブクログ

    川上弘美作品は「センセイの鞄」や「どこから行っても遠い町」など読んできたけれど、一番テンポ良く読めた。まさに、ガールズトークを聞いているような。

    夫と義母と自分で帰省した時のお風呂問題などなど、とりあげられるテーマがおもしろい。 
    そして新川亭で皆が注文するオムライスやビーフカツ、ポークソテーもおいしそう。

    人と人との難儀な関係性については納得。
    ちょっとした言動を気にしてしまったり、あれこれ憶測したり。夫婦間でもそうだし、会社の人間関係でも。
    そして自分の悩みを人に聞いてもらいたい時、いざ言葉にしようとすると大したことではなく思えたり、言葉にすればするほど本当に悩んでいることから遠ざかっているように感じたりするのことも、よくある。
    日々そんなことを感じていたから、あるあるが詰まった1冊でした。

    0
    2019年10月21日
  • 森へ行きましょう

    Posted by ブクログ

    パラレルワールド小説。
    生きる道を選択しているようで、流されているようで。
    いろんな人生が用意されているようでいて、実はどれもあんまり変わらないのかなとも思った。
    それでも、家族を理解したいと努力したり、自分を見つめ直したりしながら、それぞれ真剣に生きている。

    0
    2019年09月23日