川上弘美のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
児童文学、に位置付けられるのだと思うけれど、十分に楽しめた。
一番良かったのは解説で、上中下三冊を読んでいるうちにふわりふわりと感じていたことと、これまでの読書体験の中で、あるいは自分の物語の読み方として、一部言葉にしていたこととが、より高い位置から見渡した視点で紡がれていた。10ページにも満たないこの解説が付いているだけで、印象が、多分星一つ分くらい増している。
本編は、特別何かが起こるわけでもなくて、特別難しい課題に迫られているわけでもなくて、どちらかと言えばのんびりと、物語が語られていて、自分の読み方で本編だけを読んでいたら、可もなく不可もなく、という印象で終わっていたと思う。
すべてを -
Posted by ブクログ
神様2011
この本は、著者のデビュー作である「神様」を、福島原発事故を体験してしまった「神様2011」として書き換えた小説です。
先に当時の「神様」も収録されていて、そのあとに「神様2011」が続く構成です。
そもそもこの「神様」に出てくるクマは普通のクマだけど、だからこそ、大地の象徴というか、自然の代表というか、神の中でも八百万の神のようなイメージでいました。
その神とわたしの平凡な日常が、「あの日」を境に物々しいものに変わってしまうのです・・・防護服を着、被ばく線量を気にする日常です。
人間が手に負えない、手を出してはいけない領域に手を出し、結果としてのどかな日常は永久に戻ってこな -
Posted by ブクログ
古本屋で見つけて、図らずも初の川上弘美。
短編『神様』は1993年発表。そして2011年3月末に、『神様2011』を発表されたそうです。
その2作とあとがきを収めたこの本には、連作としての意図がはっきりあるわけですが、単体の『神様』も良かった。くまの律儀さとか、寂しさとか。(なんて言っちゃうと陳腐ですが)
そんな『神様』が、「2011」が付いてセットで読まれることによって全然違った意味を放ってしまうという、周到な本。もともとの『神様』読者だったらどう思うだろう、いやそれより、そもそもこれを書こうと思い付いた作者の「静かな怒り(あとがきより)」を思うと。