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小田原の小さな飲み屋で、あいしてる、と言うあたしを尻目に生蛸をむつむつと噛むタマヨさん。「このたびは、あんまり愛してて、困っちゃったわよ」とこちらが困るような率直さで言うショウコさん。百五十年生きることにした、そのくらい生きてればさ、あなたといつも一緒にいられる機会もくるだろうし、と突然言うトキタさん……ぽっかり明るく深々しみる、よるべない恋の十二景。
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Posted by ブクログ
お気に入りの一冊になりそう。 短編だと一行ごとの印象が強いし物語ごとの悲哀が濃くてとても好き。飲み仲間の友人にプレゼントしたい。
再読でも、とても寂しくて好きです。 記憶をなくし続ける物語の次に、忘れないでいようというこの物語を読んだのでなんだかそれが印象的でした。 なんと表現していいかわからないくらい、ふわふわととりとめない空気ですが、それでもこれは恋愛なのかもしれません。レンアイ、と片仮名にしてしまう方がぴったりかも。 ど...続きを読むのお話も寂しくて好きなのですが、ラストの「おめでとう」が一番好きです。再読して初めて、「西暦三千年一月一日のわたしたちへ」と書いてあることに気付きました。滅びを感じさせる世界観が素敵です。 昔、好きだった人に差し入れとして渡したことがあります。読んでくださったかはわかりませんが。 わかりやすいのは「センセイの鞄」だと思いますが、川上さんの恋愛小説はこんな空気のものが好きです。
☆5つは付け過ぎなんですけどね、色々と考えるネタを貰った作品なので、ちょっとサービスです。 川上さんは多彩な作品を書く人のようですが、この短編集でも幾つかのパターンが出て来ます。 「センセイの鞄」を思わせるちょっと不思議な主人公の恋愛を描く「天上大風」、「蛇を踏む」のようにファンタジックで寓意的...続きを読むな「運命の恋人」、そして男女の一場面を見事に描く「川」など。それぞれが見事だと思います。 しかしいずれにしても、緩やかにうねり、決して白波の立つことの無い瀬戸内の海のような、どこかゆったりした流れがこの人の持ち味という気がします。
またまた再読 ここ半年ほど手を伸ばさないでも届く距離にずっと置いている本。二度と帰らない旅に出ようとしと時もこの1冊だけを鞄に詰めた。そんな本。 独特の風が吹いてます。 しっとりっとしたソフトタッチな感じ。 まぶたにその情景が浮かべながら読ませていただきました。 「川」 ...続きを読む勝手に京都鴨川でいちゃつくカップルに見えました。標準語なんだけど。 ほんわか。幸せ。
「冷たいのがすき」がすき。言葉の細かいところにこだわる人が多く出てきたと思う。私もそういう性分だという自覚があるので親しみがもてた。
二人ともたくさんの嘘をついたに違いなかった。いつもの逢瀬に必要な何倍もの嘘を。しかし二人して、なんでもない顔をしていた。
裏表紙を見ると『よるべない恋の十二景』らしく、それらに、たよりとするところが無いのかどうか、私には分からないが、川上さんの数々のこと細かい描写に、胸を突かれるような愛おしさが湧いてくる事は確かである。 それは、最初の「いまだ覚めず」だけでも枚挙に暇がなく、タマヨさんが、十二年前の写真を捨てずに取っ...続きを読むてある事や(しかも、壁一面に貼ってある中のどこにあるか、瞬時に分かった)、「仕事ばっかりしてる」「わたしも」の『わたしも』や、『あなたと手つなぐの、すきだった』や、「なにしてあそぶ」と、少しお化粧をして少しよそいきになったりと、言葉だけだと何ということも無いように思われるが、物語に於ける、これらの言葉の端々には、人を好きだという特別感のある思いが密かに、しかし、確かに息づいているのが、私には感じられるような気がして、読んでいて切なくなる。 また、「冬一日(ふゆひとひ)」に於いて、『百五十年生きることにした』は、それほど心には響かず、寧ろ、『私の声が、少しだけ、真剣にすぎた』から、『「そんなこと、ない」。こんどはできるだけ真剣にならないように気をつけながら、私は答えた』への私の想いや、『玄関の狭い土間に並んで靴をはき』にグッとくるものがあり、台詞もそうなのだが、それに続く、なんてことのない描写に感情移入させられるのは、きっと、そこでも言葉にならない台詞が読み手それぞれに感じられるからだと思い、こうした、その人の見えない大切なものを思い起こさせてくれる、川上さんの文章には、一言では説明できないような感情が、じんわりと込み上げてくる。 そして、「春の虫」と「冷たいのがすき」、それぞれに共通していたのは、好意的な部分だけではないところも受け入れているところで、前者は、『羨ましさのなかには、羨ましさだけではない余分ないくつかの気分も混じっていて、それは少々居心地の悪いものだった』に、後者は、『いじらしく、また、うとましく、感じるかぎり、僕は章子から離れられないのだと思う。いじらしい、だけならば、こんなに続かなかっただろう』にある、その複雑な気持ちは、自分だけに開いてくれている様々な一面に人間らしさがあることに、自分自身と似通った安心感を感じられたからではないかと思う。 それと、本書に度々登場する言葉として、『十年』があり、それは、十年ぶりに会いに行くであったり、十歳年上の男と別れたであったり、十年来の付き合いであったりと様々なシチュエーションではあるが、そこに見えるのは、人は単純ではないけれども、それとは別にある素直な単純さも魅力なのではないかということなのかもしれず、それは恋愛を経て、変わったところと変わらないところ、人間として成長できたなと感じたり、相変わらずだなと感じたり、新たな考え方を身に付けたと思ったら、それでも譲れないところはあると思ったり、十年経ってもどうしたらいいのか分からないと感じたり、おそらく、それらの思いのひとつひとつは、何年経とうが、その人の芯の部分として、もしかしたらブレずにあり続けるものなのかもしれないし、実は、そう見えるだけで、本当は物凄く大きな変化を遂げているのかもしれない、そんな変わるものと変わらないものを持ち続けて生きていく人間への愛しさと、それらを一人で抱えきれず共感を求めたいがばかりに、恋があるのではなんて思ってしまったが、あまりロマンチックではありませんね。 それでも、人を想うことの素晴らしさと、そのかけがえのなさを私に教えてくれた、「ばか」の言葉には、ロマンチックだけではない、個人的にそっと大切に包み込んでおきたいような真摯な想いに、私は心打たれたのである。 『男とのことがらは、藍生にとってあまりにうつくしいことがらなので、誰にも話すことはできない』 『女ともだちと愉しんだのと同じだけ、男のことを深く感じたのである』
川上弘美さんの本は不思議。 短編で、明らかな小説なはずなのに、途中エッセイなのかと思ってしまう瞬間が何度もある。 もう一度読み返すと、やはり小説。ファンタジーでもないのに世界観が少しふわふわしていて面白い。
幸せなのにさみしい。 主人公の多くの「私」には名前が出てこない。それがよけいに自分に語られ、問いかけられているようだった。 心のままの感情を持ってしまうことへの辛さ、心細さとか、人との絡まる感情は、どうにも消化できない。 多くは「ままならぬ関係」だったりするが、それでもふふっと笑えたり、不確かなもの...続きを読むだって存在するんだと、人の心の儚さが、ずしっと刺さった。 無機質でお人形さんみたいに感じる登場人物…そういう、ゆめうつつのところが、それはそれで好きなんだと思う。笹蒲鉾を持ってタマヨさんに会いに行った「私」は、私でもあった。空想の中で会いたい人に会いに行く、つい移入してしまう。 「夜の子供」「冷たいのがすき」が特に印象に残った。 表題作「おめでとう」西暦三千年一月一日のわたしたちへ、世紀末で孤独に生きる女性。時々会う「あなた」。 永遠に漠然と憧れを抱いていたかもしれなかった。しかし、仮に永遠が存在するなら、とてもこわい、しんどいものだと思わされた。とても好きな短編だと思いました。
キメの細かい砂のようなサラサラとした文章と、空気感。 やわらかさとサバサバした感じの両方があるよう。 そしてちょっとひょうきん。 やっぱり好きだな、川上さん。 人との距離感の描かれ方や、言葉のすき間にチラッと見え隠れするさみしさも。 幽霊にたたられて復讐する「どうにもこうにも」、ちょっと異界の「運...続きを読む命の恋人」、未来の話「おめでとう」を含め 私の読んできた川上さんらしさの感じられる短編集だった。 心地よかった。
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おめでとう(新潮文庫)
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川上弘美
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