【感想・ネタバレ】なめらかで熱くて甘苦しくて(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

少女の想像の中の奇妙なセックス、女の自由をいまも奪う幻の手首の紐、母の乳房から情欲を吸いだす貪欲な嬰児と、はるか千年を越えて女を口説く男たち。やがて洪水は現実から非現実へとあふれだし、「それ」を宿す人々を呑み込んでいく……。水/土/空気/火の四つの元素、そして世界の名をもつ魅惑的な物語がときはなつ生命の迸りと、愛し、産み、老いていく女たちの愛おしい人生。

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Posted by ブクログ

生と性と死をめぐる、命についての神話。

命は水(aqua)の中で生まれ、水の中へ返り、水の中を巡って、再び生まれる。
肉体は土(terra)に埋められ、分解され、心はまだ生者のそばにいるけれど、やがて死を理解して、肉体のある土へ帰って行くだろう。
それなのに、命はまるで空気(aer)から生まれるように、突然体の中へやって来る。その異物感、自己愛。動物としてのニンゲン。
動物であるから、男と女が共にいる。その間には、火(ignis)がある。燃える炎、消えかけたりくすぶったり一息に燃えがったり。同じところを巡り巡る。
そして世界(mundus)が、立ち現れる。何千年も繰り返される、物語。

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2025年05月17日

Posted by ブクログ

書かれてからそんなに経ってないはずなのに、昔からある物語のような気がしました。
伊勢物語をモチーフにした短編もありましたが、それのせいだけではないような。
なめらかで熱くて甘苦しい、情念とか、人間の業をふつふつと感じます。でも描写は淡々としていて、そこがとても好きです。

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2018年09月05日

Posted by ブクログ

5篇の短編からなるこれは、どのタイトルもラテン語である。水、土、空気、火、世界。
全ての短編に性と生と死を感じた。それと、人称の使い方がおもろしろかった。アクアでは、水面と汀という2人の少女が登場する。地の文は水面主観で語られるが、その際水面は汀と呼び捨てで呼んでいる。しかし、会話文になると田中さん、と姓呼びになり距離を感じられる。この2人と同じ生まれの少女が行方不明になり、全裸で死体となり発見される。この少女はいつもどこか2人の少女の中をさまよう。

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2023年06月07日

Posted by ブクログ

現代では、古典に近いような言葉が溢れて、その世界観がいい。
普段は胸の奥にしまってあるけれど、時折噴き出してくる何か、それは善悪ではカバーしきれない何か根源的なもの。それ補思い出させてくれる。
ちょっと怖いけどね。

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2015年11月03日

Posted by ブクログ

淡々と現実を語るようで現実離れしていて、この足は地についているのか本当に不思議な気持ちになる。川上さんの物語には、優しいようなすこし怖いような形容できない複雑な気持ちが詰まっていて、わたしはそれを一生うまく言い表せないんだけどずっと読んでいたいなあ。terraが好きです。無理に悲しまずに淡々と過ぎて、切なさが残る。それを噛みしめて本を閉じ眠りたい。

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2015年10月26日

Posted by ブクログ

理解ができない。陰鬱な雰囲気だっけど、読むんじゃなかったとネガティブではない。レビューを拝見し、内容を完全に理解しない楽しみ方もあるのかも…。歌詞ではなくメロディがいい曲?そう考えると腑に落ちる。

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2024年12月29日

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女の人生の四季と、その折々の性についての短編集。序盤の3遍はわりと読みやすいけれど、最後の2篇はとっつきにくいかな。段々と神話じみてくるというか、古典文学や遠野物語に近い雰囲気があると思う。私の年齢からして、始めのaquaが少し理解できるかなという程度。人生の夏〜冬にかけてはこんなもんなのかなと想像することしかできないけど、いつか肌感覚としてわかる日が来るのだろうか。
3編目のairを読んで、女の人って子どもを産むと子どもが全てになりがちだなと思う。尊敬できる女性達が、子どものサッカー教室や中学受験についておもむろに話し合い始めると、途端にばかみたいと思ってしまうのはなぜだろう。所帯染みた感じがいやなのか、単なるモテない私のひがみなのか。こちらの小説を読んで、子どもを愛するのは母性愛ではなく、単に愛であると言い切った潔さというか痛快さというか。私は母性なんてクソ食らえと思っているので、自分にも動物になって恋愛し子どもを産み落とす日が来れば最高に面白いのにな〜、と期待しておくことにする。

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2024年03月07日

Posted by ブクログ

なまめかしいタイトルから、想像していたものと少し違った(それはそれでよいが)。重い、この時期重いのは辛く、星三つになった。
生(母性も)と性と死を描いてある。話を追うごとに難解になってゆく。
二つ目の「terra」。また私は川上さんの世界に引きずられてゆく。沢田と対話しているのは、女友達と思っていたら違った。最後に謎が明かされる。死の無念さをこんなにも淡々と語って、いや淡々だから余計にやるせない。
「死んじゃったな、麻美」
「つまらないなあ、死ぬと」
あなたが巻いてくれなくなったので、最後に自分で巻いてみた左手首の紐を確かめようとしたけれど、もう体がないので、できない。
土に還って二酸化炭素や窒素に分解されて記憶もすっかりなくなって、それからまた何かのかたちをとるかもしれない。でもずいぶんと先のことだ。
数日尾を引いた。心で号泣した。著者の好きな短編の中でもかなり上位だ。また川上さんにやられた。
希しくも、これを読んでいたとき、(私の)スマホの通知音が僅かに響いた。好きな俳優さんの訃報を知った。
二つが繋がり離れられないお話となってしまった。
最後の二つはまだまだ私には難解すぎて、何度も読み返すが今一つ付いてゆけなかった、もどかしい。
そう簡単に読み解ける一品じゃないですよね。
いつも思うが、言葉にならない思いが言語化されている。そういうところ、心奪われる。

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2020年07月23日

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川上弘美さんの小説は、2種類に分かれると勝手に思っている。
静かながら美しいストーリー展開がある「センセイの鞄」系と、奇妙でいい意味で気持ち悪い「蛇を踏む」系。
この小説は短編集なのだけど、前半は「センセイの鞄」系で後半になるにつれて「蛇を踏む」系になっていく印象。
一番最後の「mundus」はラテン語で「世界」という意味らしいけど、はっきり言って常人には訳がわからない。ストーリーの説明をしろと言われても難しい。けど、読んでいて奇妙に心地よい。
全体的に、とても哀しい。
そして、そこはかとない色香がある。
なんとも感想が難しい小説だった。
奇妙な世界に引きずり込まれたい人にはおすすめ。

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2020年01月29日

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 死んだとたんにぽっかりと隙間ができるのではなく、何年もしてからはじめて隙間や穴になる。その時が、いちばんいやだ。悲しいとか、くやしいとか、むなしいとか、そういうものではない、ただ何もないような、そんな隙間になるのがいやでこわい。
(P.155)

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2019年08月09日

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ネタバレ

ちょっとミステリアスでエロテッィクな短編集。
一作めの田中汀と田中水面の話し。
二作目の話しはラストまで読んで結末がわかるからくり!
戒名の時にちょっと気づいたけど、旅に一緒に(納骨しに秋田?うろ覚え)行ってたのは死んだ加賀美だったんだねぇ。

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2018年09月26日

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 5編からなる短編集。
 川上弘美は好きな作家なのだが、本書とはあまり相性が良くなかったようだ。
 母と子の愛憎をコミカルに描いた「aer」は面白かったのだが、それ以外は今一つ。
 まぁ、そんなこともあるよね。

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2018年01月04日

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川上弘美は面白い、という印象があったのだけれど、最初の数篇はあまり馴染まなかった。馴染まないというか、今の自分には理解出来ないものなのかもしれない。ignisとmundusは、そうそうこれこれ、って感じではあったのだけれど、やはりどこか物足りない感じがあった。
160503

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2016年05月08日

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私は川上さんの「うそばなし」のファンです。
最近、そう言った種類の作品が無く残念な思いをしてました。
この作品はある意味「うそばなし」の系列です。しかし初期の「クマにさそわれて散歩に出る」と言った、明るくて軽くて何か不思議な、いかにも平仮名の「うそばなし」ではありません。ドロドロと暗く、粘着質で重苦しい「嘘話」です。
なんか川上さん、昔の読者を置いて突き抜けて行っちゃったかな。

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2016年05月15日

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ネタバレ

川上ワールドにもほどがある?
不思議な感覚に陥る短編ばかり
「半端だったなと思った。
死ぬ時はいつも半端、誰でも半端。」
「死んだとたんにぽっかりと隙間ができるのではなく、
何年もしてからはじめて隙間や穴になる。
その時がいちばんいやだ……」
納得するような、共感できないような
反発するようね、切なくなるような
なんとも表現しきれない感情のうず

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2015年08月22日

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