司馬遼太郎のレビュー一覧
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著者の別作品[(空海の風景)を読んだ後だったので、さくさく読めた。それでも、一文の情報量が多いので、読み応えは十分。
歴史の大河の亜流を集めた、短編集。アヤしい話なので文献が豊富なわけでもないため、司馬史感で補強されている。しかし、記録が残っているということは、それだけ人々が信じ、言い伝えられてきたという証。今考えれば非科学的で嘘とわかることも、当時はそれが嘘だと立証するものがないし、それが事実と信じられていたし、そういう意味では真実だったのだろう。真実とは人が勝手に定義した出来事の一連の流れであり、つまりは時代によって変化する。何が真実なのか。そう思わざるを得ない。
最後の短編、牛黄加持は嘘かほんとかはわからないが、密教における生々しい性描写が軒を連ね、笑いを堪えられなかった。宗教はどこか崇高な印象を与えるが、所詮は欲を持った、われわれと同じ人間が考えたことに過ぎない。 -
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数ある著書の中でも、とくに司馬史感の強い作品。1000年の時を隔てた思想的巨人の生涯を辿る作風なため、幾分か作者の想像が入り込むのは当たり前のことだが、ただの想像にとどまらない。司馬遼太郎特有の縦横無尽の知識をふんだんに用い、かつ、なにより愛のこもったまなざしで頭中の空海を見つめ文を紡ぐので、読者の目の前に空海の見たであろう風景がありありと広がるのである。まったく「風景」と呼ぶにふさわしい作品だと感じた。
個人的におすすめの読み方は、Google mapsを片手に、文中に出てくる地名を逐次検索しながら読む方法。著者の特徴に、地名が詳細に記載されていることが挙げられる。空海は最初大陸のどの辺に漂流したのか、そこからどのような道筋で長安に向かったのか。この河を渡る際に、先に日本に帰る部隊と別れの儀を行ったのか、など、より鮮明にその風景を見ることが出来る。
下巻が楽しみ。 -
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前回読んだのが、幕末の長州を描いた「世に棲む日々」であったので、その対立軸でもある幕府側の物語を読んでみたいと思いました。
また、いま大河ドラマでやってる「晴天を衝け」とも重なるのも動機のひとつです。
大政奉還や王政復古の裏にはこんな人間ドラマがあったんだと思うと、もう一度、中学の日本史の授業を受けてみたくたくなりますね。
もし、日本史の先生がこんな話を授業中に放り込んでくれてたら、日本史が好きになってたかも、って思ってしまう。
「世に棲む日々」と「最後の将軍」で描かれる「攘夷」は当たり前かもしれないけど、真逆な感じで描かれてます。
前者では、攘夷カッケー
後者では、攘夷ヤベー
慶喜は「守ろう」としたのではなく「終わらせよう」としたのが出色の将軍だったのでしょう。
幕引きってよほどの覚悟がなければできないと思います。しかも、自身の名に傷が付かないように先見性をもって行動したのも、慶喜のストイックさが垣間見れます。 -
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ついに最終巻。『サンケイ新聞』で1014回に渡って連載された歴史小説である。
本巻は,嘉兵衛とロシアのリコルドとの,不思議で,純粋で,思慮深く,責任感のあるやり取りが余すところなく描かれていて大変面白かった。
しかも,両者とも実際に日記のような記録を残しているので,その記録を基にして,ある出来事(言動)に対して,嘉兵衛側から見た描写・感想と,リコルド側から見た描写・感想を並列して解説されていて,これがとても興味深いのである。その時の二人の機微に触れることができて,臨場感で溢れている。
江戸時代の後半に,ロシアとこういうやり取りをした一船頭がいたとは。
最終巻を読むためには,第5巻の長々としたロシアの説明は必要だったんだなと納得した。
題名にちなんだ部分を転載しておこう。
かれが,その晩年を送るために都志本村に建てた屋敷は,小さな野にかこまれていて,季節には菜の花が,青い沖を残して野をいっぱいに染めあげた。(p.347)
菜の花はむかしのように自給自足のために植えられているのではなく,…中略…肥料になって,この都志の畑に戻ってくる,わしはそういう廻り舞台の下の奈落にいたのだ,それだけだ,といった。(p.348)
みなさんも書いているように,ロシアの船が去って行くときの
「ウラァ、タイショウ」
「ウラァ、“ぢあな”(ディアナ)」
の場面では、目頭が熱くなっちゃったよ。
人間はわかり合えるんだよ。 -
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ネタバレ山内容堂、島津久光、前原嘉市、鍋島閑叟の4人にスポットを当てた、幕末短編集。それぞれ個性が強烈である。容堂は明君ゆえ朝幕二重政権は愚と認識しながらも、徳川への恩が忘れられずに公武合体論を唱えた。しかし革命は時として理不尽であり、血を欲するところがある。小御所会議で公卿岩倉に揚げ足を取られたのが致命傷となり、ついには薩長土連合政権が誕生するにいたるのであった。その他にも、自らのお家騒動の副産物として煙硝蔵と化した幕末の火種を作った久光、技術のみで提灯貼りから造船技師に化けた嘉市、勤王・倒幕など幕末の風雲に飲まれず超然と自藩の洋式化のみに注力した閑叟など、興味深いドラマが史実とともにドラマチックに蘇る。
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江藤新平といえば、新政府の国家デザインを担える人材でありながら、やがて大久保利通と対立。征韓論で敗れ、佐賀の乱を起こす、という程度の認識でした。
こういう教科書では単語やセンテンス程度の人物の物語を読むというのは、その時代の背景や流れを知ることに繋がるとともに、他の歴史的な人物との関係もうかがい知ることができるので、とっても刺激的。それなりに歴史小説を読んできて今更ですが、やっぱり歴史小説っておもしろいなと、再確認しました。
さて、本書の江藤新平は、なんというか正義感の塊のような人物で、とにかく苛烈。政治に関心(というかセンス)がなく、真面目一直線で行動するがゆえ、大久保の権謀術策にかかり自滅したように描かれています。どうも大久保に比べると一回り小物の印象を抱くのは司馬遼太郎氏の感性によるところでしょうか。
これまではどちらかというと清廉潔白の印象の強かった大久保ですが、江藤との関係を通じて利己的な一面を垣間見られたようで興味深かったです。
上下巻の構成ですが、特段の中だるみ感もなく、論点も整理され、とても読みやすかった作品でした。 -
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ネタバレ竜馬が海軍作りに動き出した四巻
その一方で土佐勤王党は容堂公によって弾圧されて行く。
四巻にもなると登場人物達に感情移入してくる。
この巻で特に感心したのが、勝海舟の先を見る力と視野の広さ。幕臣でありながらも、幕府の終焉を悟り、次の政権へ穏便に移行出来るよう奔走するというのは、藩・幕府が世界の全てだった江戸時代では、そうとう先進的な考え方の人だったんだろうなと。
だから、皆んなから命を狙われる訳だけど。
観念的に物事を考えるんじゃなく、視野の広さと現実をしっかり見据えて、丁寧かつ大胆に行動を起こすことの大切さを学んだ巻でした。 -
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ネタバレ宮本武蔵の話を含む、6話を収録した短編集。
・真説宮本武蔵
宮本武蔵の最大の武器は、相手の強弱を見抜く力。勝てると踏んだ相手としか勝負をしなかった。また、オーラとも言うべき気力が凄まじく、恵まれた膂力に支えられた2刀流も相まって、後世に受け継げる人が出なかった。
・京の剣客
武蔵の生きた時代に京で兵法家として名を馳せた吉岡家にまつわる話。通称憲法様。兄弟がおり、兄が「兵法はなんのためにあるのか」について考える一方、弟は技を磨くのみに集中していった。ある日、武蔵が勝負を吉岡家に申し込む。兄弟どちらが勝負をするかという話になり、弟は自分が受けたいと主張したが、気力の差を兄に見せつけられ、兄が勝負をすることになった。武蔵との勝敗は引き分けとなっているが、武蔵の額に傷がついたと言う説もある。
・千葉周作
北辰一刀流の創設者。合理的思考力を持つ男で、誰が習っても再現可能な刀術を作るという思想で考案しているため、非常に普及した。上州土着の念流から次々と門人を引き抜いて行ったため、伊香保での大きな騒動に発展した。晩年は江戸で道場を開き、学塾に隣接していたこともあり、幕末の志士を多く輩出した。
・上総の剣客
森要蔵、通称「おだやかさま」にまつわる話。普段は穏やかが口癖のような穏やかな人だが、剣について思うことがあると人が変わってしまう。修行のたびに離婚することが幾たびもあった。政治には全く興味がなかったが、晩年は会津にて息子寅雄とともに官軍と戦った。戦いざまは凄まじく、板垣退助も生捕を命じたほどであった。しかし手に負えず、最終的に射殺された。
・越後の刀
名刀初代兼光にまつわる話。この刀は大阪城落城のとき、豊臣秀頼の介錯刀であった。一両筒をも断ち切ったという逸話がある。兼光を持つものの周辺で兼光をめぐる死闘が起こるあたり、刀自らが斬らずとも切らるる者が発生してしまう恐ろしさがある。
・奇妙な剣客
ピレネー山脈周辺出生のバスク人ユイズにまつわる話。バスク人は東洋人、特に日本人と似るところがあり、さらに、バスク語も日本語と似るところがある。それに惹かれ、バスク人は日本に来る節があった。剣に自信のあるユイズは日本の肥前平戸にやってくるが、最終的には武士甚三郎に斬られてしまう。