あらすじ
美濃を征服した斎藤道三は義理の子義竜の反乱に倒れたが、自らの天下統一の夢を女婿織田信長に託していた。今川義元を奇襲して鋭鋒を示した信長は、義父道三の仇を打つべく、賢臣木下藤吉郎、竹中半兵衛の智略を得て美濃を攻略した。上洛を志す信長はさらに畿内制覇の準備工作を進めてゆく……。信長の革命的戦術と人間操縦、その強烈な野性を、智将明智光秀を配して描く怒濤編。
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斎藤道三と義竜(義理の子)の戦いまでにいたる人間模様、壮絶でした。
勝負師としての道三は、確かにスゴイ。しかし、自分の野望のために踏み台にした人々、特に妾の深芳野が不憫でなりません。
道三VS義竜では、怨念がこもった深芳野の魂も、参戦していたのではないかと思います。血の涙を流し耐えていた女性たち、悲しすぎます。
道三の死後は、主要登場人物が明智光秀と織田信長にバトンタッチ。両人とも道三、お墨付きの人物。智力に長けている光秀、破天荒ではあるけれど、地盤のある信長。二人の人物像を比較できたので、理解が深まりました。続く4巻で、どのように2人が絡んでいくか楽しみです。
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3巻と4巻は信長の物語。しかし、半分以上は明智光秀の視点が描かれています。斎藤道三の弟子ともいえる二人の天才が主従関係となり、天下統一に向けて才能を発揮するのですが、同じ天才同士ながら、古い秩序や慣習を徹底して破壊する合理主義者の信長と、文化や伝統を重んじる光秀とは、水と油。信長は光秀を重用しながらも、一方で、キザで面倒な奴と感じています。光秀もまた、信長の凄さを頭では理解しつつも、肌が合わないことを実感し、やがてその鬱屈した思いが本能寺へとつながります。
4巻に渡る大長編。道三、信長、光秀を中心として、細川藤孝、秀吉、家康、信玄、謙信と、戦国時代のそうそうたるスターが活躍する一大絵巻。司馬遼太郎の作品の中でも、やはり傑作中の傑作だと思います。
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晩年の道三の「天下を獲るには自分には時間がない」という寂寥。どれだけの才覚と体力と実行力があっても、壮気というか欲望というものを人間はやがては失っていくのだな、と、10代で読んだ時には感じなかった心情に共感した。読書は読んだ時によってまるで受け取るものが違うと改めて実感した。将軍家再興に奔走する光秀を、幕末志士のようなタイプで戦国時代には類を見ないという指摘にはなるほどと思った。
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いよいよ織田信長登場。戦国時代を代表する武将。話は一気に進んでいく。
一、二巻の斎藤道三からストーリーは織田信長が主体となる。とはいえ実際は濃姫と明智十兵衛光秀視点が多い。NHK「麒麟が来る」視聴者としては嬉しい限り。
斎藤道三が息子の高政に裏切られ殺される。将軍になると自負していた道三が、人生を諦観するところが中年読者として見につまされる。
道三は信長と正室小見の方の甥明智十兵衛蜜を後継と認めていた。道三の死と共に十兵衛は長い流浪の旅に。
信長と光秀の両者の話が交互に行われる展開。二人は第三巻でも出会うことはないのが面白い。
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主人公は尾張の織田信秀の息子、信長へと移る。
美濃の庄九郎(斎藤道三)は隣りに位置する尾張との関係を考え娘である濃姫を信長へと嫁がせる。
噂のうつけ殿とは違い、何かを感じた庄九郎は、彼に天下統一の夢を託して果てる。
唯一の理解者であった父親と道三を失った信長はその才覚を序々に開花させる。
時同じくして、明智十兵衛光秀は道三の才能を余すことなく受け継いでいた。それは若きころの庄九郎と似ているとおまあに言わせるほどであった。
彼は斎藤道三が亡くなったために一城の主から浪人へと転落するも将軍家の再興を果たすために各地を回る。また、濃姫とは従兄弟の関係にもあり、一時は将来が約束されたかのようにも見えたこともあった。
信長と光秀が京へと上る日くるのか…
道三の愛弟子たちが合い間見えるのか…
また天下の行方は…
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織田信長編と書いてあるが明智光秀編の方がしっくりくる。今となっては隔世の感があるが恐らくは発表当時の人気の戦国時代の人と言えば豊臣秀吉で織田信長は天下統一に失敗した人で本書の様に誰かとセットでないと主役を張れなかったのだろう。そんな事もあるためか本書では斎藤道三の弟子として織田信長と明智光秀が扱われており親の看板を引き継いだ信長よりも光秀に重点が置かれている。
いかなる都合か不明だが本書で前巻までの主役が散る訳だが、ここまで描写するなら道三の死を持って完結とした方が女の愛憎と義龍との確執を持って息子(本書では実の息子ではない扱い)に国盗りされるというオチで綺麗だってのではあるまいか。まあ義理の息子に取られてはいるけど。
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そうかぁ、義竜は出生の事実を知らなかったんだもんなぁ...深芳野が不憫で仕方ないし、やり返されて当然ではある...。それでもここまで追い続けてきた主人公。切なさが増す。
そういえば道三がここまで信長に目をかけてたとは知らなかった。道三の最期の戦いに際し信長が駆けていくシーンは泣けた。そして信長は自分を理解してくれる人が立て続けにいなくなったショックでより卑劣な性格になったのかなとも思う。意外と情に厚い信長の姿を見れたのはかなり新鮮。
道三亡き後はほぼ明智光秀がメインで、織田信長・明智光秀編と書いてあげて欲しかったなという気持ち。光秀は光秀でなかなか悲惨な人生を歩んでて...司馬遼太郎の気持ちが入るのも分かる。
木下藤吉郎秀吉・柴田勝家・竹中半兵衛など私でも名前を聞いたことがある人が続々と。次は本能的・信長と理性的・光秀の物語。なんかドキドキする、結果知ってるのに。
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お万阿と光秀の対面のシーンが今巻のハイライトだった。グッときた。
その後は光秀と信長が世に名を轟かせる助走、溜めの物語といった印象。
あと1巻、どうまとめてくれるのか楽しみ。
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斎藤道三が亡くなり、織田信長編と言いつつも、多くは明智光秀に関して書かれている。斎藤道三の意思を別々の仕方で受け継ぐ2人の絶妙な関係性。明智光秀が将軍家再興を強く望んでいたということを初めて知った。
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さすが明智光秀と言いたくなるような、智略に長けた処世術がキラリと光り、諦めずに美濃を落とすために苦戦する織田信長。
斎藤道三は死んだけど、その息子もなかなかの、やり手やのう。
信長への光秀の思いは日に日に増していくが、いつどんなタイミングで2人は侍従関係に結びついていくのか、第4巻が楽しみでしょうがない。
Posted by ブクログ
戦国時代は、実力本位の時代というイメージがあるが、実際には、家柄、官位が重んじられ、だから信長は異端だったという事なのだろう。斎藤道三が、美濃を手中に収める過程で当地の名家を継ぐ形で改名を繰り返す様は、現代の感覚では理解し難いが、歌舞伎役者や落語家が名跡を継ぐようなものか?
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本作は道三の愛弟子である信長と光秀を対照的に描き、乱世を気迫ある文章で書き出している。織田信長編になり道三から次世代へと語り手が変わっていくが、全体的には光秀目線で進んでいく事が多かった。光秀というと本能寺の変のイメージが強く裏切り者という印象を受けていたが、情に厚く将軍家の再興の為に奔走する姿は精悍さが感じられる。なぜ謀反を起こすに至ったのか釈然としない思いがあるが、善と悪の線引きが難しい時代だからこそ、行動に至るまでの気持ちの変化を丁寧に見据え考察していきたい。
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本巻から主人公が織田信長に変わるが、実質的には信長と明智光秀の両者が主人公であるように読める。
本巻では、光秀はまだ信長の家臣になっておらず、また直接対面もしていない。にも関わらず、信長に対してコンプレックスと言えるほどの強烈なライバル心を抱いている。おそらく本能寺の変の布石なのだろう。
斎藤道三の最期についても描かれているが、既に主人公が交代しているため、信長目線で書かれている。
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信長・光秀編のはじまり
道三のおわり
史実はどうあれ司馬遼太郎の道三の成り上がりの格好良さに痺れる
そして信長をそこまで英雄豪傑に書いていない、光秀に偏重しているところが面白い
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この「国盗り物語(三)」は織田信長編ということで、今までの二巻は斎藤道三が中心に描かれながら物語が進んでいたが、この三巻は織田信長中心。…と言っても、明智光秀を配して描かれている。
お勝騒動、そして道三が義竜の反乱に敗れるところ、本当にドキドキしながら…なんとか道三生き残ってくれないか、なんて、破れることはわかってるのに、そんなことを祈りながら読み進めました。
光秀がお万阿と会い、道三の死を知らせるところ…ぐっときました。
私の頭の中に出来上がった(勝手に作り上げた)斎藤道三にとても惹かれていたせいか、道三が亡き後の物語は……なかなか先に進めることができず……でした。笑
織田信長、明智光秀、そして更には後の豊臣秀吉や徳川家康、黒田官兵衛までがどんどん活躍しながら物語が進んでいく中、ワクワクして、先をもっともっと知りたくて読みたくて……このままじゃ「国盗り物語」だけでは満足できないかも……
「新史 太閤記」も買いに行ってきます。。。
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斎藤道三が第3巻で最期を遂げた後は、信長と明智光秀がバトンを引き継ぐ。光秀の生涯は不明な時代もあり、大河ドラマ「麒麟がくる」とは異なっている部分が多いのも仕方がないところ。司馬遼太郎の本は面白く、多くの日本人の歴史認識に影響を与えていることを実感する。第4巻での、信長と光秀のやりとりが楽しみ。
「麒麟がくる」では、信長に重大な影響を与える人物として濃姫の存在が大きくなっており、川口春奈が好演している。これまで大河ドラマの中で様々な女優が濃姫を演じてきたが、「徳川家康」の藤真利子以来の存在感を示している。彼女の活躍にも期待しているが、コロナで収録ができず、しばらく放映が休止されるのがもどかしい。
Posted by ブクログ
文庫本での最初の二巻は斎藤道三が主人公だったが、この第三巻の前半では主人公は織田信長に移る。斎藤道三はむしろのし上がってきた悲劇の老体となる。斎藤道三と比べて、織田信長は最初からお城の若様として生まれたので、一からの立身出世ではなないので、道三編とはまた違った物語の進み方になる。そして後半の主人公は明智光秀に移り、この実力を持った武将が何を考えて戦国の世で活躍してゆこうとしているのかが描かれる。今まで明智光秀は、最後の織田信長を裏切るところばかりしか知らなかったから、こうして織田信長に使える前の様子を知ることで、本能寺の変も違ったように見ることができそうに思う。
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斎藤道三さんが亡くなり、娘婿の織田信長さん編の前編。
とは言え、後半は明智光秀編という感じでした。
光秀さんは道三さんの娘で信長さんの正室である帰蝶さんのイトコってことなので、いろいろ絡んでくるのでしょう。
明智光秀さんは、冷静できっちりした理性的・理論的な思考の涼しげな男性って設定でした。
このキャラで年を取って金柑頭になって細かくうるさかったら、単細胞的猪突猛進思考の信長さんとは合わないだろうなぁ…って思いました。
Posted by ブクログ
齋藤道三の『国盗り』に対して、織田信長は『国造り』と名付けたいような物語。p208「義戦じゃと」(道三は目を剥いた)「いくさは利害でやるものだ、必ず勝つという見込みがなければ起こしてはならぬ」この卷の結末=クライマックスでは、道三の居城であった稲葉山城を信長がついに木下藤吉郎などを使って攻略する。十八歳で父・信秀の葬儀の喪主で奇矯な振る舞いをしたのは山岡荘八『織田信長』にも同様だから唯一の資料に依っているのだろう。絵画的、映画的描写が快いが、司馬遼先生の教養に追いつかない当方は別物を思い浮かべてないか心配
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道三……!
やはり道三の最期は感じ入るものがある…。
しかし信長の主人公感はすごいな。生まれ持っての、という感じだ。どうしても信長が出てきてしまうと、道三がいい脇役のようになってしまうのは何故なのだろうなあ。
Posted by ブクログ
【感想】
1~2巻から続く斉藤道三編の終結、3巻からは道三の種である織田信長と明智光秀を中心に物語は進んでいく。
天才とは言え、予め地盤がある信長と、それと比べて徒手空拳で苦汁を舐めながら流浪の身でのし上がって行く光秀。
こんなところから、本能寺の変の序曲は流れていたのだなーと読んでいて思った。
斉藤道三をはじめ魅力的なキャラクターがあふれるこの時代だが、終盤から頭角を現してきた木下藤吉郎にやはり目がいく。
目立ちすぎず、能力をひけらかすこともせず、悪く言えばゴマをすってのし上がって行くその処世術は、現代でも非常に有効活用できるものだなぁ。
勿論、秀吉の工夫や細心あっての話だけども、「能ある鷹は爪を隠す」というか、そのあたりの生き方は参考になった。
「太閤記」も早く読みたいな。
【あらすじ】
美濃を征服した斉藤道三は義理の子義竜の反乱に倒れたが、自らの天下統一の夢を女婿織田信長に託していた。
今川義元を奇襲して鋭鋒を示した信長は、義父道三の仇を打つべく、賢臣木下藤吉郎、竹中半兵衛の智略を得て美濃を攻略した。
上洛を志す信長はさらに畿内制覇の準備工作を進めてゆく…。
信長の革命的戦術と人間操縦、その強烈な野性を、智将明智光秀を配して描く怒涛編。
【内容まとめ】
1.道三は実は怒りっぽい。しかし思慮のほうがはるかに深い。
その怒りを腹中深く沈め、思慮をかさねた挙句、それを他のものに転換してしまう。
蝮といわれる所以だろう。
2.俺の生涯で、こんなばかげた瞬間をもとうとは思わなかった。
義竜は躍起になって兵を募るだろう。それはたれの兵か、みなおれの兵ではないか。
義竜は城にこもるだろう、その稲葉山城というのもおれが智能をしぼり財力をかたむけて築いたおれの城ではないか。
しかも敵の義竜自身、もっともばかげたことに、あれはおれの子だ。
胤(たね)はちがうとはいえ、おれが子として育て、おれが国主の位置をゆずってやった男だ。
なにもかもおれはおれの所有物といくさをしようとしている。
おれほど利口な男が、これほどばかな目にあわされることがあってよいものだろうか。
3.人智のかぎりをつくした美濃経営という策謀と芸術が、なんの智恵も要らぬ男女の交接、受胎、出産という生物的結果のために崩れ去った。
4.(来る年も来る年もこのように歩き続けて、ついにおれはどうなるのだろうか。)
ふと空しさを覚えぬこともない。人の一生というのは、ときに襲ってくるそういう虚無との戦いといってもいい。
5.(信長は、うらやましい男だ。)
人間、志をたてる場合に、光秀のように徒手空拳の分際の者と、信長のように最初から地盤のある者とでは、たいそうな違いだ。
光秀は、自分の能力が信長よりもはるかにすぐれていることを、うぬぼれでなく信じきっている。
しかし、徒手空拳の身では如何ともしがたい。
道三ほどの男ですら、あれだけの才幹・努力・悪謀をふるってさえ、美濃一国をとるのに生涯かかった。
6.秀吉の処世術
秀吉は慣れている。抜け目がなく、稲葉城を攻略する工夫はついている。
ついているどころか、この男はすでに手を打っていた。
秀吉の細心はそれだけではない。
あまり独断を用いると、信長の嫉妬を買うことも知っている。
信長が天才であることを知り抜いているため、才能というものは才能をときに嫉み、警戒するということも心得ている。
信長に「これこれの思案がございますが、その実施にはどうすればよろしゅうございましょう?」
と、むしろ信長から智恵を拝借するという形で言及する。
秀吉は才気をほめられるより、その精励ぶりをほめられるのが狙いなのである。
【引用】
おかしな若君だった。
幼名は吉法師、名乗りは信長という立派な呼称がありながら、どちらも気に入らず、自分で「三助」という名前を勝手につけていた。
p137
道三は、60を過ぎてめっきりと老いこんだ。
痩せた。
皮膚の衰えが尋常でなく、からだの深い場所に病気を持ち始めているのではないかと思われる色つやの悪さであった。
そのくせ、大きな眼だけが、やや黄味をおびてぎょろぎょろと動くのである。
p146
「稲葉山の仇討」
この怒りをどう表現すべきか、道三は思案をしていた。
庄九郎といっていた若い頃から道三は、ほとんど怒りというものを他人にみせたことがなかった。
かといって、その性情が温和である、というわけではない。
この男は実は怒りっぽい。しかし思慮のほうがはるかに深い。
その怒りを腹中深く沈め、思慮をかさねた挙句、それを他のものに転換してしまう。
蝮といわれる所以だろう。
p164
(あの馬鹿めを、みくびりすぎた。この俺ともあろう者が…)
呆然と道三は馬をうたせてゆく。その顔はハマグリのように無表情だった。
無理もなかった。義竜ごときを相手に、という馬鹿馬鹿しさが、考えよりもまず先立ってしまうのである。
俺の生涯で、こんなばかげた瞬間をもとうとは思わなかった。
義竜は躍起になって兵を募るだろう。
それはたれの兵か、みなおれの兵ではないか。
義竜は城にこもるだろう、その稲葉山城というのもおれが智能をしぼり財力をかたむけて築いたおれの城ではないか。
しかも敵の義竜自身、もっともばかげたことに、あれはおれの子だ。
胤(たね)はちがうとはいえ、おれが子として育て、おれが国主の位置をゆずってやった男だ。
なにもかもおれはおれの所有物といくさをしようとしている。
おれほど利口な男が、これほどばかな目にあわされることがあってよいものだろうか。
(すべては、おれの心に頼芸への憐憫があったからだろう。その憐憫というやつが、おれの計算と奇術をあやまらせた。)
ばかげている、と思った。
人智のかぎりをつくした美濃経営という策謀と芸術が、なんの智恵も要らぬ男女の交接、受胎、出産という生物的結果のために崩れ去ろうとは。
p274
後世、今川氏と織田氏の決戦の場を「桶狭間」と言いならわしているが、地理を正確に言えば「田楽狭間」である。
桶狭間は1キロ半南方にある部落で、この戦いとは直接関係ない。
p292
光秀
(今川義元は田楽狭間で落命した。東海の政情はがらりと変わった。おれの構想も修正を加えねばならぬのだろう)
(来る年も来る年もこのように歩き続けて、ついにおれはどうなるのだろうか。)
ふと空しさを覚えぬこともない。人の一生というのは、ときに襲ってくるそういう虚無との戦いといってもいい。
p367
・永禄八年の事件
将軍義輝が、松永久秀の手で殺された。
「禅正殿」と通称されている、斎藤道三にならぶ悪人の代表。
強大な軍隊を持つ上に、智謀すぐれ、海千山千といった外交能力をもち、近畿のどの大名よりも戦がうまい。
文書にあかるく、風雅の道も心得ているため、京の公家や堺の富商とも格別の付き合いを持つ。
p377
義輝は、もはや1匹の殺人鬼と化した。
腕はある。死は覚悟している。
征夷大将軍の身でみずから剣闘をした男は、鎌倉から明治維新にいたるまで、この義輝のほかはなかったであろう。
足を払われ転んだところ、最期は上から杉戸をかぶされて自由を奪われ、その隙間から槍を突き入れられて殺された。
光秀は自分の運の悪さに暗澹とした。
朝倉家で占めている特異な位置といえば、義輝将軍の知遇を得ている事だけであったからだ。
p417
ついに美濃を陥した信長を想って。
(信長は恵まれている。父親の死とともに尾張半国の領土と織田軍団を引き継いだ。それさえあれば、あとは能力次第でどんな野望も遂げられぬということはない)
うらやましい男だ。
人間、志をたてる場合に、光秀のように徒手空拳の分際の者と、信長のように最初から地盤のある者とでは、たいそうな違いだ。
光秀は、自分の能力が信長よりもはるかにすぐれていることを、うぬぼれでなく信じきっている。
しかし、徒手空拳の身では如何ともしがたい。
道三ほどの男ですら、あれだけの才幹・努力・悪謀をふるってさえ、美濃一国をとるのに生涯かかった。
p448
信長はほとんど前置きを言わない。
よほど機敏な頭脳とかんをもった男でなければ、この男の家来にはなれない。
秀吉は慣れている。
秀吉は抜け目がなく、稲葉城を攻略する工夫はついている。
ついているどころか、この男はすでに手を打っていた。
秀吉の細心はそれだけではない。
あまり独断を用いると、信長の嫉妬を買うことも知っている。
信長が天才であることを知り抜いているため、才能というものは才能をときに嫉み、警戒するということも心得ている。
「工夫」についても、信長に「これこれの思案がございますが、その実施にはどうすればよろしゅうございましょう?」と、むしろ信長から智恵を拝借するという形で言及する。
信長は勿論喜んで指示をした。
秀吉は才気をほめられるより、その精励ぶりをほめられるのが狙いなのである。
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貧乏寺の小僧からのし上がり、ついに美濃を奪取した斎藤道三。隣国の尾張でうつけと評判であった織田信長が、その評判とは裏腹に非凡な才能をもつことを見抜く。自らの娘である、濃姫を信長に嫁がせ、同盟関係を結ぶことで美濃の安全保障上の懸念を取り除く。しかし、血の繋がらない長男の義竜の反乱によって、最期を迎え、また道三の家臣であった明智光秀も牢人となって各地を放浪することとなる。一方、道三の天下を制するという野望は、信長によって引き継がれる事となり、当時最もそれに近かった今川義元を桶狭間にて奇襲を持って討ち取るのである。
光秀は放浪の上、自らも天下に関わる大仕事に関わる野望を抱く。それを実現する手段として、当時既に力を失っていた足利将軍を再興する事に、その身を捧げる事となる。
また、美濃では斎藤義竜が、30代後半で急死し、その後を継いだのは凡庸で荒淫な龍興であった。国の将来を憂いた家臣達の中に、竹中半兵衛がいた。信長は、その才能と狭義を大いに買い、後の秀吉となる木下藤吉郎を通じて、家臣になるように説得を始める。秀吉は、7度目の説得で、条件付きでの家臣入りの承諾を得る。その条件とは、信長の直臣ではなく、秀吉の家臣となる事だった。
秀吉と半兵衛の調略より、信長は容易にして美濃を攻め落としものにする。
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美濃の蝮・斎藤道三が義理の息子・義龍のクーデターの前に倒れ物語の主役は信長・光秀へ。
かつて野望のために利用した土岐家の血そして自らが築き上げた軍勢と対峙し散っていった道三の姿に乱世の梟雄としての意地と風雅を愛したこの男ならではの美学を感じずにはいられない。
その革新性とリアリズムは後継者と見定めた娘婿・織田信長へと、教養と知性の深さは幼少期より薫陶した明智光秀へと受け継がれていく。
桶狭間の戦い、美濃の攻略と覇道を進む信長、放浪の身から室町幕府の再興を志す光秀。
道三の相反する個性を体現した二人がどのように交わり、ぶつかり、「本能寺の変」に繋がっていくのか。
私事だが以前住んでいた場所の近くに道三と信長が会見した富田・聖徳寺跡の石碑があった。三巻の中でもこの会見シーンが大好きなので創作と分かっていながらワクワクして読み進めた。
Posted by ブクログ
信長には、稀有な性格がある。人間を機能としてしか見ないことだ。織田軍団を強化し、他国を掠め、ついには天下を取る、という利ぎすました剣の尖のようにするどいこの「目的」のためにかれは親類縁者、家来のすべてを凝集しようとしていた。かれら――といっても、彼等の肉体を信長は凝集しようとしているのではない。かれらの門地でもない。かれらの血統でもない。かれらの父の名声でもない。信長にとってはそういう「属性」はなんの意味もなかった。
機能である。
その男は何が出来るか、どれほど出来るか、という能力だけで部下を使い、抜擢し、ときには除外し、ひどいばあいは追放したり殺したりした。すさまじい人事である。
Posted by ブクログ
3〜4巻は「織田信長編」というタイトルなのだけれど、実質的には、織田信長と明智光秀の二人が主人公であると言っていい。この構成が見事だと思うのは、1〜2巻の「斉藤道三編」からきれいに物語の流れがつながっていることだ。
織田信長は、道三の娘婿であり、その一方で、明智光秀は、道三の妻の甥であって、共に道三とは深い縁がある。しかも、二人共に、道三が唯一といっていいほどにその才能を認めて、また道三から大いに思想的影響を受けた人物であって、精神的な面での後継者であると言っていい。
この「国盗り物語」という小説は、要するに、斉藤道三という希代の英雄がついに一代では成し得なかった天下統一の野望が、その後継者である信長と光秀に引き継がれていくところまでを含めて、一つの壮大な物語になっている。
一人の人生の限られた時間ではたどり着けなかった場所に、志を継ぐことで世代を超えて到達するというダイナミズムがたまらなく面白い。
この織田信長編では、信長と光秀という、まったく正反対の気質を持った二人の人物の対照が際立っていて、どちらかというと、天涯孤独の身から自らの才智のみで戦国の世に挑んで行く光秀のほうをだいぶ贔屓にして書いている。
それでもなお、信長という人物はやはり、相当に常識破りな天才として描かれていて、こちらもかなり魅力的なキャラクターだ。
ところどころに少しずつ出てくる、木下藤吉郎や、徳川家康、竹中半兵衛、今川、上杉、武田、朝倉、浅井、などの挿話がどれも面白く、この戦国時代オールスターともいえる面々の性格がよく伝わってくる小説でもある。
特に最高だった場面は、
・斉藤道三と、織田信長が、聖徳寺で初会見をする場面(3巻p.111)
・明智光秀が、のちの十五代将軍の覚慶を逃がすために、一人で何十人もの追手と戦う場面(3巻p.475)
・信長が武田信玄に漆塗りの箱で梱包された贈り物をする場面(4巻p.94)
・秀吉が、初めて足利義昭に謁見を申し出る場面(4巻p.262)
・北陸の攻略戦で、浅井氏が裏切ったとわかった瞬間に、信長が京まで単騎で逃げる場面(4巻p.328)
(あっ)
と、道三は格子に顔をこすりつけ、眼を見はり、声をのんだ。
(なんだ、あれは)
馬上の信長は、うわさどおり、髪を茶筅髷にむすび、はでな萌黄のひもでまげを巻きたて、衣服はなんと浴衣を着、その片袖をはずし、大小は横ざまにぶちこみ、鞘はのし付きでそこはみごとだが、そのツカは縄で巻いている。
腰まわりにも縄をぐるぐると巻き、そこに瓢箪やら袋やらを七つ八つぶらさげ、袴はこれも思いきったもので虎皮、豹皮を縫いまぜた半袴である。すそから、ながい足がにゅっとむき出ている。
狂人のいでたちだった。
それよりも道三のどぎもをぬいたのは、信長の浴衣の背だった。背に、極彩色の大きな男根がえがかれているのである。
「うっ」
と、道空が笑いをこらえた。他の供の連中も、土間に顔をすりつけるようにして笑いをこらえている。
(なんという馬鹿だ)
と道三はおもったが、気になるのはその馬鹿がひきいている軍隊だった。信秀のころとは、装備が一変していた。第一、足軽槍がぐんと長くなり、ことごとく三間柄で、ことごとく朱に塗られている。それが五百本。弓、鉄砲が五百丁。弓はいい。鉄砲である。この新兵器の数を、これほど多く装備しているのは、天下ひろしといえどもこの馬鹿だけではないか。
(いつ、あれほどそろえた)
しらずしらず、道三の眼が燃えはじめた。鉄砲の生産量が、それほどでもないころである。その実用性を疑問に思っている武将も多い。そのとき、この馬鹿は、平然とこれだけの鉄砲をそろえているのである。(p.111)
自分の人生は暮れようとしている。青雲のころから抱いてきた野望のなかばも遂げられそうにない。それを次代にゆずりたい、というのが、この老雄の感傷といっていい。
老工匠に似ている。この男は、半生、権謀術数にとり憑かれてきた。権力欲というよりも、芸術的な表現欲といったほうが、この男のばあい、あてはまっている。その「芸」だけが完成し作品が未完成なまま、肉体が老いてしまった。それを信長に継がせたい、とこの男は、なんと、筆さきをふるわせながら書いている。(p.119)
美濃攻略に関するかぎり信長の性格は、まずその貪婪さ、その執拗さ、この二つが世間に濃厚に印象づけられはじめている。いずれも英雄の資質といっていい。さらに二敗三敗してもくじけぬ神経というのも、常人ではないであろう。さらに大きなことには、三敗四敗をかさねるにつれて信長の戦法が巧妙になってくることであった。
(あの男は、失敗するごとに成長している)
いや、光秀の越前からの観察では、信長は、成長するためにわざと失敗している、としか思えぬほどのすさまじさがある。(p.432)
Posted by ブクログ
織田信長はこの時代の主役である。
信長公記、太平記、徳川家康などなど、
どの物語に登場し、活躍する。
いろいろなエピソードも惹きつけられる。
そのため誇張されているのではという
気がしないでもない。
この書では全面に出ていない。
1、2巻の続きでもあるので、
前半は斎藤道三は絡んで話は進む。
中盤から織田信長が出てくるが
同時に明智光秀も登場する。
今まで読んだ時代小説では
あまりパッとしない光秀だが
今作では、重要人物として描かれている。
信長と光秀、そして道三。
この三人を主要人物として話は進む。
信長編と言いながら
光秀にスポットが当たっているのが
面白い。
Posted by ブクログ
本当は「国盗り物語」は全4巻だけど、歴史に疎い私は斉藤道三という人をよく知らないので、知っている織田信長の方だけを読んだ。
そうかそうか、斉藤道三は信長の舅だったのか。
私は歴史上の人物の中では、今まで織田信長が一番好きだった。
なんかこう、潔いというか、パキッとしてるというか、決断力も早そうで、戦に出るときはいつも一人で馬に乗って飛び出して、途中途中で馬を止めて部下が到着するのを待っていたとか、今までの武士とは違う考え方だったとか、そういうエピソードがすごく「かっこいい!」と思っていたから。
この本を読んでもやっぱり「信長はすごい」という考えは変わらなかったけど、でももし信長のような人が社長の会社があったら、私は働きたくないなぁ。
私には出世欲とか野心もないし、ただただ穏やかにのんびりと、平和に日々を過ごせればいいなぁというのほほん性格なもんで、もし信長が上司だったら速攻リストラにあっているだろう。
つーか斬られてたか。
信長の口癖の「デアルカ」というのが、なんだか私にはとてもかわいく思えてしまった。
なんでだろう、カタカナで書いてあるからかな?
この言葉が出てくると、いつもクスリと笑ってしまった。
信長が好きだったので、明智光秀のことは「嫌な奴!!!!」とずっと思っていたけど、この本を読んでその考えが変わってしまった。
すごく苦労した、かわいそうな人だったんだなぁ、光秀は。
ごめんよ光秀。
そんな辛い目に遭わされりゃあ、確かにその当時なら「殺してやる!」くらい思ったかもしれないよね。