司馬遼太郎のレビュー一覧
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町人の街大坂が明治維新の流れに巻き込まれる中、侠客の明石家万吉の波乱の人生。上下巻の下巻。
司馬遼太郎の作品、随分と読んだつもりであったが見逃していた作品。「手掘り日本史」で紹介されていたのを機に読んでみました。米相場師だった司馬の祖父の姿が万吉に投影されているらしい。
司馬の本当の魅力は本書のような司馬の出身、大阪の言葉、風俗、文化を活かしたものにあるのかもしれない。
明治維新の流れの中、私欲なく行動する万吉。見返りを求めぬ姿を天は見ているのだろう。決して粗略に扱われない。
本書で初めて知ったのが堺港攘夷事件。万吉の仁義も見事だが、本書とは違った視点で掘り下げてみたい。
テンポよく -
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国民的作家司馬遼太郎は大阪の出身。本書の主役明石家万吉には筆者の祖父の生涯が反映されているという。町人の街大阪から見た明治維新。
「手掘り日本史」に紹介されていたのを機に本書を手に取る。江戸とは異なり大阪は一部の町奉行のほかはほとんどの町人の街。司馬遼太郎が大阪の出身ということもあり、心地よい関西弁のリズムが楽しめる。大上段に構えた代表的作品に比べれば、どこか肩の力を抜いて筆者自身が楽しんで書いたように思われる。それだけテンポが良い。
”どつかれ屋”として名を上げた極道屋の明石家万吉の生涯。上下巻の上巻は西大阪の港一帯の警備を請け負った万吉が長州藩士たちの上京に出くわし維新の動乱に巻き込ま -
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◯よく考えてみれば、この下関で西郷がきて君と握手し、いきなり薩長連合をとげる、というのははじめからむりさ。その無理を承知でサイコロをふったわけだが、思うような目が出なかった。世のことは偶然を期待してはいかん。(116p)
◯生死などは取り立てて考えるほどのものではない。何をするかということだけだと思っている。(264p)
◯三吉君、逃げ路があるかないかということは天が考えることだ。おれたちはとにかく逃げることだけに専念すればいい。(284p)
★薩長連合成る。そして寺田屋事件を経ておりょうと一緒になる。ドラマチックな6巻であった。
★亀山社中で孤立したために無念の死を遂げた饅頭屋長次 -
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長編だけでない短編も面白い。国民的作家の司馬遼太郎が幕末の賢公たちを描いた短編集。
表題作は土佐の山内容堂。他に薩摩の島津久光、宇和島の伊達宗城(主役は嘉蔵だが)、肥前の鍋島閑叟の4名。
宇和島藩の話だけ異色。黒船来航を知った藩主の気まぐれから手先の器用な提灯貼り職人の嘉蔵が蒸気機関の制作を命じられる話。江戸時代の藩の身分差別がなんとも切なくなる。
いずれも少しだけ日本史に現れる人物ではあるものの、良く考えるとほとんど歴史の流れに影響を与えていないという壮大な皮肉。短編ならではのあっさりした結末。
司馬遼太郎というと「竜馬がゆく」「坂の上の雲」のような長編の方が有名であろうが短編集もま -
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ネタバレ斎藤道三の娘婿である織田信長と、道三の妻の甥である明智光秀が対峙する完結編。「織田信長後編」となっているが、信長と光秀の双方が物語の主役と言って良いだろう。
文庫版の「解説」にも記載がある通り、光秀の描写がうまい。本作における光秀は、知識人で真面目な性格であり、そのため信長の苛烈な行動(例えば比叡山の僧や女の殺戮など)を憎み、部下を「道具」として有効に活用とする合理的な性格に怯える人物として描かれている。秀吉の「陽」と対比しながら光秀の「陰」を強調して描くことで、「本能寺の変」に繋がる伏線としている。
また、信長の人物像も明快で解りやすい。無神論者で合理的精神の持ち主、かつ有能で行動的な人物と -
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7つの短編小説をまとめた本である。
各章は他の方の記載を拝借します。
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・幕末の長岡藩で非凡の才を発揮しつつも時勢を見極められずに散った河井継之助を描いた「英雄児」
・英国人殺害事件に関与した海援隊隊士菅野覚兵衛と佐々木栄を中心に幕末の日英関係を描いた「慶応長崎事件」
・江戸末期から明治初期を生きた、非凡の才を持った血気盛んな絵師、田崎草雲の生涯「喧嘩草雲」
・奥州の覇者正宗が歴史に残した足跡を、彼の持つ非凡な詩歌の才と共に描いた「馬上少年過ぐ」
・一介の町医者の身から伊予宇和島の命運を握るまでに栄達し、数奇な人生を送った山田重庵を -
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「勝は、渡米によって、幕府より日本国を第一に考えるようになった。」p.169
何を自分の拠り所にするのか。国なのか、違う集団なのか、はたまた今の香港人のように民主主義のような思想なのかそれとも宗教なのか。しかし、単純に日本国、幕府、家などを並列で考えることはできない。このへんはユヴァル・ノア・ハラリの「21Lessons」でも語られている。
今の我々から見ると尊王攘夷か佐幕開国かという2パターンしかいないという状況は信じられないが、逆にそのことが今から150年後の人類が今の時代の書籍を読んだ時に同じ感想を抱く可能性、つまり現代に生きる我々の視野の狭さを示しているのかもしれない。
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司馬遼太郎による鹿児島の陶工、沈寿官についてのエッセイ的な小説。
沈寿官と言えば、鹿児島では有名な陶工として知られています。彼の祖先は、秀吉の朝鮮出兵時に朝鮮から連れてこられた(つまり日本に拉致された)陶工でした。彼等は鹿児島に焼き物の文化を伝え、薩摩焼などの工業製品製造に貢献しました。
当時の日本は、先進国であった朝鮮から技術を導入しようと躍起になっていた時代だったようで、彼らは或る意味その犠牲者でした。その優秀な製陶技術は、時間の経過とともに日本の文化として取り込まれ、現在に至っています。日本文化成立の立役者であり、現在も子孫達がそれを受け継いでいますが、かつて拉致された朝鮮人としての本国