彩瀬まるのレビュー一覧
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スカイツリーが見える、東京の下町。
古くからのお店と新しいお店が混じり合う、明日町こんぺいとう商店街の、七軒のお店の物語を7人の作家が描くアンソロジー。
既読の作家さんは、大島真寿美さん、彩瀬まるさん、千早茜さん、中島京子さん。
それぞれの持ち味が出ていて、どれも面白かった。
大山淳子さんの『あずかりやさん』が、盲目の店主が一日百円で大切なものをあずかるというお店を舞台にしていて、にぎやかな商店街の中、しんとしずかな店という感じが良かった。
アンソロジーを手に取ると、こうして新しく好みに合いそうな作家さんが見つかるのが楽しみ。
こんぺいとう商店街シリーズとして続刊もあるらしいので、続きものんびり読みたい。
また違う作家さん、違うお店が登場するのか、それともまた同じお店も登場するのかな?
『カフェ スルス』がどんなお店になっていくのか、続きが読みたい。 -
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宇都宮で一人暮らしをする祖母の家を訪ねるために、東京駅から新幹線に乗り込む智也。
三ヶ月前に膝を痛めた祖母の、通院や買い物の運転手をするためである。
温泉郷にある足湯や、大きな吊橋が架けられた美しい渓谷が映像のように浮かび上がってきて、しばらく帰っていない自分の実家をふと思い出し、私も田舎に帰りたくなってしまった。
母として、女として生きた祖母のたくましさを知る「モッコウバラのワンピース」
婚約者の実家のある郡山へ向かう律子。「からたち香る」
母の七回忌法要のため実家を訪れた武文。「菜の花の家」
母方の親戚の結婚式に向かう小学4年生の知里。「ハクモクレンが砕けるとき」
宇都宮、郡山、仙台、花巻と桜前線が北上するように、北へ向かう人たちのふるさとをテーマにした短編集で、それぞれの名所もおさえてくれているので、東北を旅した気分になれます。
帰る場所、誰かが待つ場所をいつまでも大切にしたいと思う。 -
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離婚してから、まったく関わりのなかった父が亡くなった。
父の遺言書に書かれた、かつて住んでいた洋館を遺産として引き受け、お金になる調度品を探しながら片付けを始めた明日香。
彼女は、自身の体験をモチーフにした漫画が売れ、そのお金で自分よりも若い俳優、冬馬を養うことに安らぎを感じている。
幸せを描くことで、幸せを叶えたい思い。
洋館を片付けていく中で明日香が保っていたバランスは、過去と理想を行き来しながら、徐々に崩れていく。
「あなたの漫画にはこんがらがったものを根気よくほぐして、別のものに変えようとする力が働いているね」
「たまに、思うんだ。私がおじいちゃんおばあちゃんが望むくらい、立派になれたらよかったのに。勉強ができて、ピアノも弾けて、病院も継いで、あの人たちの自慢の孫になりたかった。そうしたら今でもあの屋敷で、家族みんなで暮らしてたんじゃないかって思うの」
「自分を信じ、ただ愚直に、ぎりぎりまで思想を研ぎ続ける奴だけが生き残る。なんの責任もない他人の声にいちいち心を揺らすのは、その孤独を引き受ける覚悟が足りないってことだよ。そんなつまらない言葉に惑わず、自分の作品を追求しなさい」
明日香の、愛してくれという怒りは切実で。
これだけ尽くしているのだから、地位も名誉も手に入れたのだから、自分はそれを受け取るのに相応しい筈だと、自分では出来ない答え合わせに走ってしまう。
小さな頃に得られなかった、選ばれなかった愛情を、大人になってもズルズルと求めるのは、醜いことだろうか。
もういい大人なんだから、そんなの自分で処理しなさいよ、と言われても、そこで取れる選択肢は自分への諦めであって、完結することとは違う。
人の分まで背負ってきた足りなさを、自分一人で埋めるには、きっと膨大なエネルギーが必要なのだと思う。 -
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彩瀬まるさんの本、ここ数年とっても好き。
なんといっても、(個人的に)ハズレがない。
温かいなかにも、尖っていたり痛々しかったり、ちょっと怖いお話も結構あるけれど、この小説はタイトルや表紙からして優しげな感じがして、受けた雰囲気は間違っていなかった。
故郷、家族、旅にまつわる5つの短編集。
舞台は主に東北地方。青森が残念ながらなかったのは恐らく、東日本大震災の影響を強く受けた土地を選んだからだと思う。
彩瀬まるさんは関東の方だけど、震災当日に東北を旅行していて被災したらしく、その関連の本も出されている。震災をモチーフに描かれた「やがて海へと届く」という小説は私も以前に読んだ。
福島にある彼氏の実家へ、彼女である主人公が一緒に帰る「からたち香る」は、放射能のことを気にしながらもそれを口にしていいのか迷う様子がリアルだった。
その土地に住む人にとってそこは愛する場所だけれども、よその土地の人にとっては少しの脅威を感じる場所になる。震災の影響で、いろんなかたちで傷ついた人がたくさんいるのだという事実を感じた。
他の短編にもタイトルや話中に必ず花や植物が登場する。
「ハクモクレンが砕けるとき」はほんの少しのホラー要素も混ざっているような幻想的なお話で(基本は温かいのだけど)、表題作は一番最後に据えられているのだけど、最後に配されたことに大きな意味がある。
故郷は楽しいばかりの場所ではないし、家族というものは面倒くさい面もある。「菜の花の家」はとくにそういう側面が表れている。
だけど、故郷や家族はなくならない。亡くなっても、なくなるものではない。
帰る場所とは思えなくても、それは確かに存在している。
その少しの鬱陶しさや、心強さを、感じられる物語群だった。 -
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「ふるさと」をテーマに5つの話がある。ふるさとの言葉の裏には私が思うにその物理的な「場所、景色」とそこに関わってくる「家族」の存在があると思う。私にとってふるさとは東北であるとすり込まれてきたが、どうにもその繋がりを感じることができない。きっと大人になって思い浮かべる故郷とは間違いなくここ神奈川の実家である。そして家族という存在が私は幼少の頃からかなり苦手だ。1番近くて1番気を使う相手。切っても切り離せないからなんとも面倒である。そんな私は4つ目の話を読んでいる間、この作者と私は合わないのかもしれないと考えていた。しかし最後の「桜の下で待っている」を読んで、先に読んだすべてのお話の当たり前ではないその「ふるさと」の存在とか、考え方とか私の思いとかすべてが巡ってああ読んでよかったなあって思いになった。読んでよかったなあ