太宰治のレビュー一覧
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さすがは並みいる男性作家が選んだ作品集である。全部面白い。
「ちょっとちょっと…」と傍で話しかけられるような親しげな語り口と
抜群のリズム感が心地いい。特に気に入ったものを少し…。
「道化の華」
ラスト3行でいきなり視界がぱあっと広がり、ぞくっと怖くなる。
視点のトリックで読者を驚かせるのが上手い。
「彼は昔の彼ならず」
心の本質が似通った人間が近くにいると、お互いに感応してしまうのだろう。
口先三寸のペテン師のような男を非難している主人公の男もまた、
親の遺産で遊び暮らす怠け者。
才能ある芸術家のパトロンになりたいという、
彼の下心を見透かしたペテン師の作戦勝ち。 -
Posted by ブクログ
表題作の他、女生徒、ロマネスク、東京八景など10作の短編集。
太宰の短編はどれも好きだけど、特に印象的なものをメモ。
『富嶽百景』…最初は富士の一辺倒な姿を横目で見るような様子だった主人公は、茶屋の人々や彼を訪ねてきた人々との交流を通して少しづつ富士の様々な表情に触れ、心を許し始める。富士はそこにあるだけでいい。
『走れメロス』…学生の時に初めてこの作品を読んだ時はメロス身勝手、という身も蓋もない感想だったけれど、年を重ねてこの直球の友情ストーリーが沁みるようになった。
『女生徒』…思春期特有の揺れを表現する秀逸さ。この危なっかしい様がまた魅力。
井伏鱒二のあとがき…太宰とのエピソード。不思議 -
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「右大臣実朝」
源実朝は、鎌倉幕府三代目の将軍である
まつりごとに対しては常にあざやかな采配をふるい
風流人にして、その短い生涯のうちに「金槐和歌集」を編んだ才人でもある
鷹揚な性格で、多くの人に愛されたが
海外に旅立つ夢だけはかなえられず
最後は甥の公暁に暗殺された
実朝は、幕府と朝廷の結びつきを深めることで
権力の一極集中を進めようとしていたから
それに危機感を抱く人々が公暁をそそのかしたのだ、とも言われる
……「右大臣実朝」は昭和18年の作品
太平洋戦争に敗色の濃くなってきた時期であるが
それを踏まえるならば、これは近衛文麿への皮肉ともとれるだろう
進歩主義を唱えながら、結局は開戦に加担