太宰治のレビュー一覧
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何を待っているのだろう。どことなく破滅願望(死)を持っているような印象もある。何かと出会うというゴールよりも、待つという行為が語り手の生きがい(生)になっているようにも読める。そう考えると待つとは人生そのものである気もしてくる。
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主に小説や文学についての、鋭い意見、執念、真摯な姿勢を吐露した文章の集まり。
著者は、あくまでも小説家としてありたいと思い、随筆や時事問題、書簡を書きたくないという気持ちがひしひしと伝わってくる。
だからこそ、川端康成に自作を批判されると、「刺す。そうも思った。」という極端な考えに至るのだと思う。この一文は素直が過ぎていて、面白かった。
が、それもまだ甘い方で、「如是我聞」で縷々述べられる志賀直哉への恨みつらみはもっと容赦ない。
作家が、別の作家をちくりと刺す文章は目にすることがあっても、作品や人格、口振りや容貌、思想等、その作家を構成するあらゆることを取り上げて、全否定していく著述はこれが初 -
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吾妻鏡における鎌倉第三代将軍実朝の生涯を太宰なりに解釈し、近習に語らせる形で詳述した『右大臣実朝』は、尊敬語、謙譲語、丁寧語の文が格調高く。
武家ながら雅な性質を帯びた実朝の行状に、やがて公暁に暗殺されるといった、危うさ、滅びを仄めかせる文章が巧み。
魯迅の仙台留学時代を、その友人であった同窓生の回想で描く『惜別』は、太宰作品で一番好きかも。
支那の革命のためには洋学が必要で、それを厳選して受け入れている日本に留学し、医学を身に付け、病気を治せるようにし、人民に希望を持たせ、その後に精神の教化を、と目論んでいた魯迅が、日露戦争で日本が勝ったことで変わっていく。
明治維新の源流が国学にあり、洋学 -
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比較的有名な作品としては「パンドラの匣」「ヴィヨンの妻」などを所収。なかでも白眉は「パンドラの匣」で、療養所という特殊な環境下で描かれる独特の人間模様がじつに「楽しい」。登場人物はみな病人であるはずなのに辛気臭さが微塵もなく、ともすれば病気と無縁の生活を送っているわたしもその空間に身を置いてみたいと思った。また、わたしは昭和期の風俗が書かれている作品(広瀬正『マイナス・ゼロ』京極夏彦「百鬼夜行シリーズ」など)が好きなので、津軽に疎開してからの生活を描いた一聯の私小説も、どこまでが実話に基づいているのかわからないが、たんなる内容以外の部分も含めて興味深く読んだ。戯曲も2篇収められているが、太宰治
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ネタバレこの作品は、人間の営みや苦しみ、幸福などが理解できず、その恐怖から、自分の内心を押し殺して「道化」を演じる生き方を選んだ主人公「大庭葉蔵」が、恋愛や酒、自殺などを繰り返しながらも必死に生きる物語です。
その中で私が最も好きな場面は、一回目の自殺を決意する場面です。最初の愛人「ツネ子」の口から「死」という言葉が出ると、葉蔵も「自分も、世の中への恐怖、煩わしさ、金、女、学業、考えると、とてもこの上こらえて生きて行けそうにもない。」と返します。そうしてその夜、2人は暗い鎌倉の海に飛び込みます。世界の全てに希望が持てず、そんな世界から抜け出す為の唯一の手段が、死ぬことしかなかった。そんな葉蔵の複雑 -
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太宰にとって、報われぬ人生こそ表現者として最も大切で、美しいものであり、それを無理やり華々しくしてしまうことは全てを汚し破壊する行為なのだろう。
そんな太宰の価値観は己の生き様や人間性を自分で受け入れ肯定する為に生まれたのだろう。
太宰が狂人に成り得なかったのは妻子の存在があったからこそなのであろう。
狂人になり得ぬ表現者は時に世界一つまらぬ人間にもなってしまう。
太宰も、きりぎりすの画家も、報いるべき存在によって狂人に成り得なかった。
そんな自分の、表現者として必要のない、大切な人に報いる気持ちを自虐するかのように書かれているようだった。
失敗作の人生を与えられた人間にとって、陽の光を浴び -
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人間の演じる、本音と建て前、エロス(生)とタナトス(死)、悲劇と喜劇を真面目に笑いながら皮肉る太宰作品は好物で、年に一度は読み返してしまう。5人兄弟姉妹が小説の連作に興じる「ろまん燈籠」。「ただ、好きなのです。それでいいではありませんか。純粋な愛情とはそんなものです。」と好意の弁解を嫌悪するところ、最後一番できの良かったのは母親のみよに決めるところ、が面白い。 その他、「秋風記」「思い出に生きるか、いまのこの刹那に身をゆだねるか、それとも、将来の希望とやらに生きるか、案外、そんなところから人間の馬鹿と利巧のちがいが、できてくるかもしれない」、「女の決闘」「芸術家には、人でない部分が在る、芸術
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ネタバレお母さまが弱って死んでいく過程、場面の描写が秀逸でした。静謐な空気が流れていました。
かずこが上原さんに自意識過剰な、前につんのめった感じの、もうストーカーっぽい手紙を送った頃は、あー、もうお母さま死にそうなのに何やってるの…と大層心配しました。
上原さんにはそんな気は、かずこを愛人にする気はないのかと思いきや、ほれちまった、なんて言われて意外でしたが、多分あれはその時ちょっとそう言っただけで、ちょっとそんな気がしてみただけで、別に惚れていたわけでは無いのではないかな。
お母さまが死んで、直治が死んで、多分上原ももうすぐ死んで、かずこは赤ちゃんと生きていくというのは、赤ちゃんがいるのは、もしか -
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太宰の有名な作品を収めた贅沢な一冊。
こうして読んでみると、太宰の中にある自分への不信感や他人への恐怖心、それをどの作品も反映してるように思う。
文章が意外なほど美しく、リズミカル。
「走れメロス」の文体は、メロスが疲労困憊しながらも、体に鞭打って前に前に疾走する姿が感じられた。
簡単ではない文章なのに、するする読める。
とくに口語体の、話すような、語りかけてくるような言葉のリズムが心地よい。
聖書からの引用、女性の言葉遣いのたおやかさ、上品さなど、代表作を並べてみるとわかる太宰らしさを発見することができた。
大学生以来の「斜陽」が一番刺さった。
あの頃はこんなに感動しなかったのに。