あらすじ
戦争は無条件降伏で終わった。戦前にあって既に戦後の作家であった太宰の文学が放つ、妖しくなまなましい光芒は、戦後の人々の目にいっそう鮮明に映らずにはいなかった。終戦の日、青森県金木の生家にいた太宰はただちに戦後の活動を開始した。本巻には津軽疎開中に書かれた全作品を収める。パンドラの匣 薄明 庭 親という二字 嘘 貨幣やんぬる哉 十五年間 未帰還の友に 苦悩の年鑑 チャンス 雀 たずねびと 男女同権 親友交歓 トカトントン 冬の花火 春の枯葉 メリイクリスマス ヴィヨンの妻
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Posted by ブクログ
比較的有名な作品としては「パンドラの匣」「ヴィヨンの妻」などを所収。なかでも白眉は「パンドラの匣」で、療養所という特殊な環境下で描かれる独特の人間模様がじつに「楽しい」。登場人物はみな病人であるはずなのに辛気臭さが微塵もなく、ともすれば病気と無縁の生活を送っているわたしもその空間に身を置いてみたいと思った。また、わたしは昭和期の風俗が書かれている作品(広瀬正『マイナス・ゼロ』京極夏彦「百鬼夜行シリーズ」など)が好きなので、津軽に疎開してからの生活を描いた一聯の私小説も、どこまでが実話に基づいているのかわからないが、たんなる内容以外の部分も含めて興味深く読んだ。戯曲も2篇収められているが、太宰治が戯曲も手掛けているとは知らなかったので、今回読むことができてよかった。
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戦争が終わって以降の太宰治の作品は、「いったい何なの?」って叫んでいるようなものが多い印象。
そんな彼が、今の日本を見たら、どう思うのかなんて、考えても仕方のないことだけれど、ちっとも変っていない風景が広がっていて、私なぞは太宰の見ていたであろう景色と重ねて呆然としている。
理論の遊戯は今でも続いている。
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『冬の花火』をきくドラで。あまりの端折りぶりに真実を知りたくなり原作を読んだ。都会に出て幸福を掴めなかった娘と、血の繋がらない娘に献身的に尽くす田舎の継母の心情と過去が、戦後の退廃感を背景に戯曲として語られる。数枝を慕う清蔵が数枝の亭主の書いた小説を読み、二人が隣部屋で寝起きしているかのような生々しさを感じるところが印象的。
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パンドラの匣、薄明、庭、親という二字、嘘、貨幣、やんぬる哉、十五年間、未帰還の友に、苦悩の年鑑、チャンス、雀、たずねびと、男女同権、親友交歓、トカトントン、メリイクリスマス、ヴィヨンの妻、冬の花火、春の枯葉
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終戦後の作品。
後期の作品をあまり読んだことがないので、
こんなに繰り返し戦争のことを書いていたのだと驚いた。
暗くて、悲しい作品が多い。やるせねぇ。
そしてこの巻だけでも様々な女性を描いているのが面白い。
女性は、嘘をつくし、男性をいじめるし、けなげに働くし、何なんだろう。
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パンドラの匣、薄明、庭、親という二字、嘘、貨幣、やんぬる哉、十五年間、未帰還の友に、苦悩の年鑑、チャンス、雀、たずねびと、男女同権、親友交歓、トカトントン、冬の花火、春の枯葉、メリイクリスマス、ヴィヨンの妻収録。
津軽疎開中の私小説が多かった。結構好きやだ。
戯曲がおもろかったなあ。冬の花火が好き。
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前から読みたかった「トカトントン」を読むべく借りました。
他の話も短編で読みやすく、久しぶり文学作品にしては読むのに時間がかかりませんでした。
やはり太宰はこのくらいの短編の方がいいですね。
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-「わかい頃には、」と兄は草をむしりながら、「庭に草のぼうぼうと生えているのも趣があると思ったものだが、としをとって来ると、一本の草でも気になっていけない。」-
太宰治のエッセイはほんとに脱力系でよい。引用は「庭」というエッセイ。疎開先の津軽の家で太宰が兄と草むしりをしながらの会話をかいていて「利休」のことが話題になってたりして、おもろい。兄が普通にインテリで、弟をアホだと思っている感がなんか、笑える。
Posted by ブクログ
歌広場のハイボールみたいな1冊。ただひたす粗悪一直線な飲み物を、あそこまで飲んでヒーフー騒ぶことができるのは一体どうしてなのだろう。
戦争が開けてすぐで作品ばかりだからなのかどうか知らないが、生粋のクズが8巻にはたくさん出てきた。その中には無論太宰も含まれており、以前の文集に見られたような、人と人が心を通わせてほっこりするような素敵な話はまるで皆無で、堕落した人間の性根腐りきったどうしようもなさ、そしてそれに振り回される心優しき人々の尊き苦悩が焼き付けらている。
なかでも「親友交歓」に出てくる男は誰でもぶん殴りたくなるような逸材ではないか、ノンフィクションっぽいのがさらに救いようがない。事実は小説よりも奇なり、か。