あらすじ
自殺未遂、麻薬中毒、血みどろの苦闘のなかで『晩年』と並行して書かれた『もの思う葦』から、死を賭して文壇大家に捨て身の抗議を行うために『人間失格』と並行して書かれた『如是我聞』まで。太宰治の創作活動の全期間にわたって、天稟の文学的才能と人間的やさしさをきらめかせているアフォリズム、エッセイ『走ラヌ名馬』『かくめい』『酒ぎらい』『川端康成へ』など49編を収録。(解説・奥野健男)
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Posted by ブクログ
自分の過去の作品の書評とか、日々の想い事とか、ほかの作家に対する公開評論などをまとめて綴ったもの。総じて根暗でつまらない部分も多いのだが、公開であるにも関わらず、ほかの作家からの中傷にやたら過敏に反応する所の本性とかがいかにも太宰治らしく味わえる。孤高の人という使い古された言葉があるが、実際会ってみるとただ嫌味な人間でお付き合いを勘弁したくなるから、孤独いやむしろ孤低のヒトというべきで自分もそれに属するとかね。ほかに、芭蕉よりも去来の「湖の水まさりけり五月雨」という句を傑作と褒めたり。そして、芥川賞を落選させた川端康成へのコメントへの絡み、結婚を媒介した井伏鱒二の文才への激賞と釣りや旅の名人という私生活への言及、それに何といっても志賀直哉への罵詈雑言が抜群に面白い。全体では4分の1も占めないけれども、これらほかの作家への公開評論だけでも手にとる価値は高いですね。
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太宰の随想が単行本として死後まとめられたもの。
随想ともなると作品以上に、より太宰治の直接的な思考の断片が見えるようでおもしろい。切れ味の良い言葉が沢山あった。
太宰作品をいくつか見たあとに読むととても良い。
「もの思う葦」というタイトルがあまりにしっくりくる。
「太宰治ほど生きるのに真剣でド真面目ひとはいない」というのが読み終えた今の一番の印象だ。ド真面目というか、嘘をつきたくない思いというか。
彼は、考えたことは実行し、また小説と生活は一致しなければならないという思いがとても強い。その思いの強さがある一方、圧倒的な批評能力が自分自身に向き、弱い自分とひたすらに真正面からむきあってしまうからいつも苦しいのだと思う。しかし、苦しむことこそが作家として芸術家として必要なものだと、プライド高く信じている。自分の弱さにあそこまで向き合える人はそうそういないんじゃないか。弱いけど強いという不思議な人。
私が思っている以上に、彼はいつでも真剣すぎるくらい真剣に生きてて、自分の弱さに断固とした誇りがあるんだなと再発見できた。
(傍から見るともっとなまぬるく生きてもいいのにと思うが、それは嫌なんだろうな)
以下ざっくりと、それぞれ感想
■アフォリズム
アフォリズムというものにあまり馴染みがなかったが、太宰との相性抜群である。批評家気質が内に向いている(己を批評している)タイプの太宰が、世に向けて切り込むとなるとそれはそれは洞察力に優れたものであり、かつ、その表現がユニークで良い。
─生きていく力
いやになってしまった活動写真を、おしまいまで、見ている勇気
など、他にも色々。
■『春』『海』
どちらもわずか2ページで、こうも惹き込まれる作品をつくれるとは。また好きな作品が増えた。
■『井伏鱒二選集 後記』
井伏先生が大好きな弟子による、あまりに微笑ましい後記である。大変かわいげのある弟子の姿。井伏先生の作品を宝石に例えている。あの太宰が、宝石と......
べた褒めすぎる。井伏先生の『夜更けと梅の花』は今度読もう。
■『如是我聞』
これがあの有名な、如是我聞。前半の切れ味と真剣さたるや目をみはるほど堂々たる抗議であるが、後半どんどんとただの悪口と化してるのがすこし残念。
そしてこのブチギレ具合の中でも言葉のあやつりがたくみで、根っから作家だなぁと思った。
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太宰治の随想集。
「如是我聞」はひたすら志賀直哉への悪口なのに文章のセンスが良くて面白い。
良い意味でも悪い意味でもなんとなく太宰の人柄が分かる。
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主に小説や文学についての、鋭い意見、執念、真摯な姿勢を吐露した文章の集まり。
著者は、あくまでも小説家としてありたいと思い、随筆や時事問題、書簡を書きたくないという気持ちがひしひしと伝わってくる。
だからこそ、川端康成に自作を批判されると、「刺す。そうも思った。」という極端な考えに至るのだと思う。この一文は素直が過ぎていて、面白かった。
が、それもまだ甘い方で、「如是我聞」で縷々述べられる志賀直哉への恨みつらみはもっと容赦ない。
作家が、別の作家をちくりと刺す文章は目にすることがあっても、作品や人格、口振りや容貌、思想等、その作家を構成するあらゆることを取り上げて、全否定していく著述はこれが初めて。
「刺す」どころではなく、滅多刺し。
「『暗夜行路』大袈裟な題をつけたものだ。~ほとんどがハッタリである~何処がうまいのだろう~風邪をひいたり、中耳炎を起こしたり、それが暗夜か」と、いちゃもんになっているし。
ただ、著者が必死に先輩作家に抗しようとしているのが伝わってきて、いつの間にか「もっと言っちゃえ」と応援してしまっていた。
一方で、師である井伏鱒二についての文章は、敬愛に溢れており、志賀直哉への作家論とは対極を成している。
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太宰を読まずに死ななくて良かった。
惚れっぽい自覚もあるので、知る人には「またか」と言われてしまいそうだが、
これまでひらいたことのある小説や評論、随筆の中でも、こんなに痛快で、心が軽くなったり、苦しくなったりした文章はない。
本当に、これを知らずに死ぬなんて勿体無い。
別に、太宰を読め、と言いたい訳ではない。
人によっちゃあきっと、「何だこの卑屈屋」と吐き捨てる人もいるだろうから。
だが、少なくとも私にとっては、知らずに死ぬことはできなかった人だ。
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生きようとする意思に満ち充ちた文章。太宰に暗いイメージしか持たない人に是非読んでほしい。書くことと生きることに懸命に向き合った、殊勝で不器用な姿に心打たれる。
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新潮文庫の太宰さん随筆厳選集です。
かなり面白かったよ!
破綻した生活をしていた部分もあるけれど、やっぱりこの人は頭が良いんだな~って思いました。
上から目線じゃないし、変に気取ってないし、人生(カピ生)の為になりそうな言葉がたくさんあって、とてもお勉強になりました。
最後に収録されていた志賀直哉さんに対する反論は、事情がわからないからちょっとビビったけどね(苦笑)
らじはやっぱり太宰さんの文章って好きだなぁ…♪
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久しぶりに読みました。太宰のエッセイや書簡のようなものを集めた作品集。49編も入ってるとあって、1~2ページの短いモノが多いです。
太宰の小説の言葉と文体が好きな私は、大変満足して読むことができました。なんでこう、琴線に触れるんだろう。心地よく、愛しいです。
大学時代に読んだ太宰の全集に印象に残る話が載っていましたた。
海で難破した男が助けを呼ぼうと崖にすがりついた刹那、団らんする家族の様子が目に入り、あの団らんを壊してはならないのではないかと思って、助けを呼ぶことができず、そのまま波にさらわれてしまったという話。
この本に載っていたので、数年ぶりに読めて、よかったです。
だいたい、この時代の作家さんが、谷崎潤一郎やら井伏鱒二やら芥川龍之介やら志賀直哉やら、読んだこと無くても名前は知っているだろうと言えるレベルの著名作家が、相手を名指しして批判したり作家論をかざしたりしてしまうのだから、本当に面白い。
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太宰治の文学論、と言うと何となくピッタリ来ないけど、自分の気持ちと外の世界との乖離を嘆く気持ちがストレートに表現されてて面白い。
「如是我聞」の最後の方で、「文学に於いて最も大事なものは『心づくし』である。宿酔いを求めるのは不健康である。」と言っているのが特に印象的。
Posted by ブクログ
アフォリズム・随筆・作家論等が収められている。
「思案の敗北」
"ルソオの懺悔録のいやらしさは、その懺悔録の相手の、神ではなくて、隣人である、というところにある。世間が相手である。・・・ここに言葉の運命がある。"
言葉に・発話行為に、原理的に孕まれざるを得ない、虚偽。
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「織田君の死」
"生を棄てて逃げ去るのは罪悪だと人は言う。しかし、僕に死を禁ずるその詭弁家が時には僕を死の前にさらしたり、死に赴かせたりするのだ。彼らの考え出すいろいろな革新は僕の周囲に死の機会を増し、彼等の説くところは僕を死に導き、または彼等の定める法律は僕に死を与えるのだ。"
全く同感である。
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「如是我聞」
"はりきって、ものをいうということは無神経の証拠であって、かつまた、人の神経をも全く問題にしていない状態をさしていうのである。"
"おまえたちには、苦悩の能力が無いのと同じ程度に、愛する能力に於いても、全く欠如している。・・・おまえたちの持っている道徳は、すべておまえたち自身の、或いはおまえたちの家族の保全、以外に一歩も出ない。"
"世の中から、追い出されてもよし、いのちがけで事を行うは罪なりや。"
"弱さ、苦悩は罪なりや。"
同時期の『人間失格』と通底する、無限の苦悩、徹底的な自己反省・自己否定。
Posted by ブクログ
『私の小説を、読んだところで、あなたの生活が、ちっとも楽になりません。ちっとも偉くなりません。だから、私は、あまり、おすすめできません。
こんど、ひとつ、ただ、わけもなく面白い長編小説を書いてあげましょうね。いまの小説、みな、面白くないでしょう。
みんな、面白くないからねえ。面白がらせようと努めて、いっこう面白くもなんともない小説は、あれは、あなた、なんだか死にたくなりますね。』
短編小説かと思って買ったらエッセイだった。
面白い方ですねえ。現代を生きてたらひねくれたブログとかやたら書いてそう。
太宰治は女生徒が特に好きで、「なんで男なのに女の子の細かな心情がわかるのかしら」と思っていたら「女性を描くのに秘法を思いついた」と書いてあった。
Posted by ブクログ
著者の随想集ということで興味を持った一冊。エッセイは小説とは違って作者が出るから面白い。好みが分かれるところだと思うけど著者の退廃的で斜に構えたような態度は意外と共感できる。川端康成、志賀直哉へのメッセージは時折感じられる自虐的な態度とは打って変わって、強烈で言葉の強さや文章を書くことに対するこだわり、自信みたいなものを感じた。また一層太宰のフアンになった。
Posted by ブクログ
2019.6.2
p27の「兵法」がとても参考になった。買い物でも迷ったら買うなと言うけど、文章でも同じなんだなと妙に腑に落ちた。
全体的に、とても人間味を感じる本だった。
意外だった。
Posted by ブクログ
前期に書かれた表題作「もの思う葦」から晩年の「如是我聞」まで、太宰の言葉が集められた1冊。
太宰はどこまでも一生懸命で、全力で文を書いている。(そのことは、何かの短編で語っていた。)不器用な懸命さというかなんというか、自己犠牲的なもの。命懸け。でも命懸けで書きたかったのは、小説であって、創作だった。だから随筆とか自分のことについては、おざなりでやっつけ感満載。お金のための、お酒のための仕事といった感じ。
「如是我聞」は、今まで溜め込んで来たものを一気に書き散らした、自己破壊的な印象を持った。世間に対する恨みのようなものもあったかもしれない。そしてうわあああっと喚いて、あっけなく死んでしまったのだから、織田作之助のような最後の足掻きに近いものがある。
太宰、よくやった!
Posted by ブクログ
日本が負けて戦争が終わったってえのに
文壇じゃ相変わらず戦争前の伝統やらを重んじて
戦争協力してきた連中をありがたがっていやがるのは
いったいどういう了見だ
これあるを期してさっさと死んだ芥川を
ちったあ見習ってみてはどうなんだい
といった具合の剣幕で怒り狂う太宰の「如是我聞」は
戦後日本に対する、たったひとりの宣戦布告である
これによって太宰は、ほとんどの文芸誌にあっさり干されてしまう
そもそも芥川にしたって
志賀直哉や久米正雄のようなずぶとい神経にあこがれて
「エゴイストになりたいのだ」などと書いてたはずなんだけどね
Posted by ブクログ
死ぬ事を考えている人には是非100ページを読んでもらいたい。ここまでの創造力があったにも関わらず、結局自ら入水自殺をしてしまったことは悔やまれる。
後半の歯に衣着せぬ志賀直哉への批判も痛快。
Posted by ブクログ
人間失格を読んで、(というか、太宰治は人間失格と走れメロスしか読んだことがない)
かなり太宰治が嫌いになったんですけど、
この本を読んで、ちょっと好きになった。
おもしろかった!
「小説」ってものに対して、
はっきりとした思想を持ってるのを強く感じた。
自分の審美眼を信じてるところも
苦労や不幸に敏感なところも
「小説家」として「小説」を書き続けるところも
とにかく真剣に、全力で作品を作るところも
素敵だなと思った。
なんか、何事にも本気ですよね。素直だし。
「芸術ぎらい」なんかは、すごく共感した。
あと、最後の「如是我聞」は、かなりウケた。(笑)
志賀直哉に喧嘩売ってた!
先に喧嘩売ってきたのは志賀直哉か。
私、(今のところ)志賀直哉嫌いなんで、なんかすかっとしました。(笑)
ヒステリックだとは思わなかった。
感情的だなとは思ったけど。
>風邪をひいたり、中耳炎を起こしたり、それが暗夜か
この一文はほんとおもしろかった。
暗夜行路読んでみたくなりました。
>何が神様だ
まるで新興成金そっくりではないか
おもしろいw
小僧の神様も読んでみたい。
共感もたくさんあったし、
へーなるほど的なのもたくさんありました。
私の頭じゃ理解できません…ってのもいっぱいあったけど
もう忘れちゃった。
「晩年」を読んでみたいなと思いました。
Posted by ブクログ
太宰治の随想集。
交友関係のあった作家達の話とか面白い。
途中まで読んで紛失。→オトナアニメの下から発見!
最後の「如是我聞」では志賀直哉なんかの悪口をすごい言ってて驚いたがますます太宰治が好きになった。
Posted by ブクログ
星3と4の間といったところ。
太宰治の随筆集。最後の志賀直哉批判は面白かったし、所謂文豪というだけで崇める体制への批判はなるほど感じるところがあった。
その他、酒のくだりなど共感できるところもあり。
小説の中で見える太宰の思想、私生活を補完するようなまとめ。
Posted by ブクログ
最初に手に取った太宰治さんの本。
中学2年生だっただろうか。
今から40年以上も前のこと。
選ばれてあることの
恍惚と不安二つ我にあり
この作品に使われた言葉ではないが、そういうことを、割と端的に書いていて、そういうところに惹かれたんだと思う。
この作品を皮切りに、手に取れる作品は凡そ読み、ものによっては覚えるまで読んだ。
今となっては、なにより懐かしさを覚える。
Posted by ブクログ
私は太宰治という人が書いた文を理解できていないと思っています。
この本は小説ではありません。
太宰作品は小説もそうですが、なぜか面白いと思う自分がいます。
どんなものも理屈ではないのですが。
そして太宰治は今を生きてる感じがします。
Posted by ブクログ
太宰の随想集。「川端康成へ」や「如是我聞」の志賀直哉への悪罵雑言には、自分に批判的な人に対しては喧嘩を売って見境なく怒るという片腹痛いものがある。子どものような面があり、なお言ってることはまともであり、まっすぐなところが愛される由縁でもあろう。2021.11.19
Posted by ブクログ
アフォリズム、エッセー集。
小説を書きたい、エッセーなんか書きたくない、適当に埋め合わせようって気持ちが漏れ出てる書き方のものが多かった気がする。
今まで何作か太宰を読んできて思ったのは、太宰の文章は本当にうまくて好きで、話の内容自体としては私小説色が強いものより太宰の影があまり出てこないような創作された話のほうがどちらかというと好きだったってこと。
太宰の弱さや繊細さ、自分が大好きなくせに嫌いにもなったりするような部分はうまく作品に昇華されていれば好きなのだけど、こうやってエッセーで愚痴感覚で読むと結構きつかった。
俺はこんなにがんばってるのに世間がせめる。生きづらい。
世間はこんなものを良いというけど俺はそれはどうかと思う。こういうほうがいい。
周りはみんな馬鹿ばかりで付き合いきれない。
それじゃあ自分が大好きでしょうがないのかと思えば自分が嫌になる時もある。
これはみんな多かれ少なかれ結構思ったことがあることなんじゃないかと思う。
その部分に共感できるから、辛さがわかるから好きって人もいるんだと思う。
私はしんどかった。こう思ってしまう彼が嫌いなんじゃなくて、わからないんじゃなくて、抑えこもうとしてる私自身の嫌いな部分を直球で客観的に見させられてる感じがするからしんどかった。
この中では『織田君の死』『如是我聞』が好きかな。
如是我聞は噂にはきいてたけどほんとにボロクソに言ってるというかもう気に入らんものに片っ端から噛み付いたれって感じでもはや清々しい。
それは怒ってもしょうがないよねそれはおかしい言いたくなるよねって頷けるとこもあるけど、いや…それはほっといたれよ…そこは簡単に反論されそうだな…みたいなとこもあった。
それだけいろんなことに我慢ならなくて怒っててどうしても言いたかったんだろうなぁというのは伝わってきた。
みんな書かないであろうこの直球の訴えで変わったものも確かにあったのかもしれない。