あらすじ
自殺未遂、麻薬中毒、血みどろの苦闘のなかで『晩年』と並行して書かれた『もの思う葦』から、死を賭して文壇大家に捨て身の抗議を行うために『人間失格』と並行して書かれた『如是我聞』まで。太宰治の創作活動の全期間にわたって、天稟の文学的才能と人間的やさしさをきらめかせているアフォリズム、エッセイ『走ラヌ名馬』『かくめい』『酒ぎらい』『川端康成へ』など49編を収録。(解説・奥野健男)
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Posted by ブクログ
太宰の随想が単行本として死後まとめられたもの。
随想ともなると作品以上に、より太宰治の直接的な思考の断片が見えるようでおもしろい。切れ味の良い言葉が沢山あった。
太宰作品をいくつか見たあとに読むととても良い。
「もの思う葦」というタイトルがあまりにしっくりくる。
「太宰治ほど生きるのに真剣でド真面目ひとはいない」というのが読み終えた今の一番の印象だ。ド真面目というか、嘘をつきたくない思いというか。
彼は、考えたことは実行し、また小説と生活は一致しなければならないという思いがとても強い。その思いの強さがある一方、圧倒的な批評能力が自分自身に向き、弱い自分とひたすらに真正面からむきあってしまうからいつも苦しいのだと思う。しかし、苦しむことこそが作家として芸術家として必要なものだと、プライド高く信じている。自分の弱さにあそこまで向き合える人はそうそういないんじゃないか。弱いけど強いという不思議な人。
私が思っている以上に、彼はいつでも真剣すぎるくらい真剣に生きてて、自分の弱さに断固とした誇りがあるんだなと再発見できた。
(傍から見るともっとなまぬるく生きてもいいのにと思うが、それは嫌なんだろうな)
以下ざっくりと、それぞれ感想
■アフォリズム
アフォリズムというものにあまり馴染みがなかったが、太宰との相性抜群である。批評家気質が内に向いている(己を批評している)タイプの太宰が、世に向けて切り込むとなるとそれはそれは洞察力に優れたものであり、かつ、その表現がユニークで良い。
─生きていく力
いやになってしまった活動写真を、おしまいまで、見ている勇気
など、他にも色々。
■『春』『海』
どちらもわずか2ページで、こうも惹き込まれる作品をつくれるとは。また好きな作品が増えた。
■『井伏鱒二選集 後記』
井伏先生が大好きな弟子による、あまりに微笑ましい後記である。大変かわいげのある弟子の姿。井伏先生の作品を宝石に例えている。あの太宰が、宝石と......
べた褒めすぎる。井伏先生の『夜更けと梅の花』は今度読もう。
■『如是我聞』
これがあの有名な、如是我聞。前半の切れ味と真剣さたるや目をみはるほど堂々たる抗議であるが、後半どんどんとただの悪口と化してるのがすこし残念。
そしてこのブチギレ具合の中でも言葉のあやつりがたくみで、根っから作家だなぁと思った。
Posted by ブクログ
死ぬ事を考えている人には是非100ページを読んでもらいたい。ここまでの創造力があったにも関わらず、結局自ら入水自殺をしてしまったことは悔やまれる。
後半の歯に衣着せぬ志賀直哉への批判も痛快。
Posted by ブクログ
アフォリズム、エッセー集。
小説を書きたい、エッセーなんか書きたくない、適当に埋め合わせようって気持ちが漏れ出てる書き方のものが多かった気がする。
今まで何作か太宰を読んできて思ったのは、太宰の文章は本当にうまくて好きで、話の内容自体としては私小説色が強いものより太宰の影があまり出てこないような創作された話のほうがどちらかというと好きだったってこと。
太宰の弱さや繊細さ、自分が大好きなくせに嫌いにもなったりするような部分はうまく作品に昇華されていれば好きなのだけど、こうやってエッセーで愚痴感覚で読むと結構きつかった。
俺はこんなにがんばってるのに世間がせめる。生きづらい。
世間はこんなものを良いというけど俺はそれはどうかと思う。こういうほうがいい。
周りはみんな馬鹿ばかりで付き合いきれない。
それじゃあ自分が大好きでしょうがないのかと思えば自分が嫌になる時もある。
これはみんな多かれ少なかれ結構思ったことがあることなんじゃないかと思う。
その部分に共感できるから、辛さがわかるから好きって人もいるんだと思う。
私はしんどかった。こう思ってしまう彼が嫌いなんじゃなくて、わからないんじゃなくて、抑えこもうとしてる私自身の嫌いな部分を直球で客観的に見させられてる感じがするからしんどかった。
この中では『織田君の死』『如是我聞』が好きかな。
如是我聞は噂にはきいてたけどほんとにボロクソに言ってるというかもう気に入らんものに片っ端から噛み付いたれって感じでもはや清々しい。
それは怒ってもしょうがないよねそれはおかしい言いたくなるよねって頷けるとこもあるけど、いや…それはほっといたれよ…そこは簡単に反論されそうだな…みたいなとこもあった。
それだけいろんなことに我慢ならなくて怒っててどうしても言いたかったんだろうなぁというのは伝わってきた。
みんな書かないであろうこの直球の訴えで変わったものも確かにあったのかもしれない。