【感想・ネタバレ】きりぎりす(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

「おわかれ致します。あなたは、嘘ばかりついていました。……」名声を得ることで破局を迎えた画家夫婦の内面を、妻の告白を通して印象深く描いた表題作など、著者の最も得意とする女性の告白体小説「燈籠」「千代女」。著者の文学観、時代への洞察がうかがわれる随想的作品「鴎」「善蔵を思う」「風の便り」。他に本格的ロマンの「水仙」「日の出前」など、中期の作品から秀作14編を収録。(解説・奥野健男)

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76冊目『きりぎりす』(太宰治 著、1974年9月 初版、2008年11月 改版、新潮社)
1937年から1942年までの間に発表された作品で編まれた短編集。著者の得意とした女性告白体小説と随筆的作品が中心となっている。
文才が大きく開花したとされる中期作品群が揃っているだけあり、どの短編も恐ろしいほどの完成度を誇る。
過剰なまでの自省心と鋭い観察眼が生み出す彼の作品は時に人の心を抉るが、その根底に深い優しさがある事をこの短編集は教えてくれる。

〈この薔薇の生きて在る限り、私は心の王者だと、一瞬思った〉

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2025年10月18日

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学生時代に心酔していた太宰治、ちょうど読む本が尽きたので、本棚からふと手に取ってみて、うわ!やっぱりいい!と思った。
今回特に好きだったのは以下三編。

『燈籠』 
口に出したくなる「言えば言うほど、人は私を信じて呉れません」というキラーフレーズ、
そして「それに違いはございませぬ。いいことをしたとは思いませぬ。けれども、ーーいいえ、はじめから申しあげます。私は、神様に向かって申しあげるのだ。私は、人を頼らない、私の話を信じられる人は、信じるがいい」という毅然としたスーパーキラーフレーズ、
極めつけのラスト、蔑まれていても別にわびしくない、逆に美しいと思うというカウンター。
世間的にどう思われていようが、明るい電灯の下で仲良くしているのだけで特に何もなしとげていなかろうが、幸せでいいし、誇りを持っていいのだと晴れやかな気持ちになる。

『皮膚と心』
女の、気分でころころ移り変わる感情の解像度が高すぎる。思ったことを思ったまま、その場で書いているようですごい名人芸。
吹き出物でどんどん大袈裟に落ち込んで、勝手に鬼や悪魔になった気分になり、もはや「私は、お化けでございます」「このまま死なせて下さい」とまで思うのは滑稽で、でも共感できる。

『佐渡』 
太宰のギャグセンスが爆発している作品だと思う。
自分をさむらいに例えるくだりがすごく好き。
美化せず、佐渡のつまらなさをそのまま書いている正直さがいい。

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2025年08月24日

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1939-41年に発表された短篇から14篇を抽出。どれも文句なくおもしろい。その掴みと語りの巧さ。そして言いようのない読後の余韻。とくにユーモアとペーソスを湛えた「畜犬談」、「きりぎりす」、「佐渡」がいい。
「佐渡」は、旧制新潟高校で学生相手に講演した翌日、単身佐渡に行く様子が描かれている。11月中旬、そぼ降る雨のなか、近づいてくる佐渡の島影の描写がみごと。(2時間45分の航程だったが、いまもカーフェリーだと同じだけの時間がかかる。雨などで天気が悪ければ、太宰の描写を追体験することができる。)

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2025年05月08日

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これ読んで自分は太宰治が好きなんだなと思った。自分の中のネガティブな波長が合うというか。
世間的に手紙小説といえば「こころ」なのだろうけど自分にとっての手紙小説はこの作品だなぁ。

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2024年03月19日

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電子書籍『きりぎりす』を読む。
短編ですぐに読めてしまう。

お金が入ってくると、別のものを失っていく寂しさ、悲しみ。もう戻ってこないのだなと思った妻はお別れする。
きりぎりすの声が聞こえてくるようだ。

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2023年09月19日

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ネタバレ

表題作、「きりぎりす」を聴き読書。最近暑すぎて散歩ではなく自転車なので自宅で。わたし(24歳の女性)は19歳の時にとある画家と結婚した。絵を見て身震いがするほど絵に共感する。しかし夫は口下手で展覧会など興味を持たず好き勝手な絵を描く画家だった。そんな夫との結婚生活が心地よく、貧乏でもハリを感じた。しかし、個展を開いてから、夫は人が変わる。お金に固執し、成功者と一緒にいるようになり、夫への魅力、関心が無くなる。このわたしの寂寥感が夫には伝わらず、別れることを決意する。妻が思う過去の夫への未練が伝わった。⑤

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2023年09月03日

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太宰にとって、報われぬ人生こそ表現者として最も大切で、美しいものであり、それを無理やり華々しくしてしまうことは全てを汚し破壊する行為なのだろう。
そんな太宰の価値観は己の生き様や人間性を自分で受け入れ肯定する為に生まれたのだろう。
太宰が狂人に成り得なかったのは妻子の存在があったからこそなのであろう
狂人になり得ぬ表現者は時に世界一つまらぬ人間にもなってしまう。
太宰も、きりぎりすの画家も、報いるべき存在によって狂人に成り得なかった。
そんな自分の、表現者として必要のない、大切な人に報いる気持ちを自虐するかのように書かれているようだった。

失敗作の人生を与えられた人間にとって、陽の光を浴びることは俗欲にまみれた行為でしかなく、脚光を穢れとして永遠に苦悩の中で生きなければならないのかしら。
諦めることを肯定も否定もせず世の理としてするっと飲み込ませる感覚は、太宰の亡霊に足首掴まれて彼の生きた世界へ引きずり込まれるよう。

きりぎりすは、「おわかれ致します。」の一言で始まった。その固い意思が宿る切れ味のある一言に引き込まれる。
あなたは、嘘ばかりついていました。私にも、いけない所が、あるのかも知れません。と。
そして、「この世では、きっと、あなたが正しくて、私こそ間違っているのだろうとも思いますが、私には、どこが、どんなに間違っているのか、どうしても、わかりません。」で終わる。
世間の価値観に一切鑑賞されることなく二人の間にあった幸せ。
ひとつの出世から濁流のように世間が二人の間へ入って来る。
表現する者は、干渉されてはならないのだ。
表現者としての成功は、大衆から喝采を浴びることかもしれないが、表現者としての幸せは、誰にも邪魔されず、大切な人のためだけに、贅沢もせず、醜い見栄も張らず、ただ純粋に表現することなのである。

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2021年06月04日

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年代の違いを埋めるほどの魅力を感じる。
もう一度改めて読みたくなる。
※記録「きりぎりす」、「風の便り」

「風の便り」が特に良かった
自分はバンドマンで、歌詞を書く。芸術家としての何たるかを知らしめられた。芸術なんてない、人生、事実、もっとリアリズムのこと。誰かの頭の中で実際に存在する。想像と現実のどちらがリアリティがあるのかなんて、なんとセンスのないこと。

とにかくやり続ける事、辞めないっていう才能。
努力の矛先が注ぎ込めるほどの大きな器を持っているのなら、幸せな事だと実感した。

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2025年05月29日

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青森県五所川原市 エルムの街 くまざわ書店にて購入。
太宰治の故郷、青森へ旅に出ると本が買いたくなる。今年は きりぎりすにした。

好きな物語がたくさん入っている。
「燈籠」のどんでん返しは痛快。
この女の子の目線から見ると、自分を正当化し凄まじく善人として描いているが、男の子側から見ると、迷惑な勘違い女にしか思えない。
このギャップがとても愉快だ!

姥捨は、太宰の自殺衝動へのプロセスかと思えてしまう。
「黄金風景」はもう圧巻。
嫌がらせをした相手から優しさで仕返しされる。
親切さで報復されるのが一番堪えるのだ!!
女中お慶がキラキラ輝く、その様はまさに黄金風景!!
まーぶしーいっ!

「皮膚と心」
もう大好きだー!
このご主人、キミは一体どれだけデキタ人なんだ!
女心分かりすぎ!大正のモテ男かよ!
全く!カッコよすぎるぜ!
コンプレックスを「俺は好きだよ」なんて言ってのける。優しさ。
見栄っ張りなら肝を冷やしちゃうな。

きりぎりすは、これも太宰の作家像の変遷を描いたのか!?と思ってしまう。
大衆のための書き手か。
それとも己のための物書きか。

島間違えをしてしまう 「佐渡」
東京から離れて離島に来たのに、都会かぶれている女中に出会ってガッカリする場面はニヤニヤ止まらん!

ダメな兄を家族ぐるみで殺害する 日の出前。
盲目的に兄を慕い、傀儡のように付き従う妹が最後、ものすごいひと言を放つところもこの話の醍醐味。
そうか、お主も悪よのぉ。

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2024年11月06日

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ネタバレ

些細な日常を皮肉やユーモアを感じさせる言葉選びで表現しており、クスっと笑ってしまう。
佐渡と畜犬談が好き。

どの話も割と好きに言いたい放題でコンプラ等存在せず自由で良い。

畜犬談の犬に対して、
「日に十里を楽々と走破し得る健脚を有し、獅子をも斃す白光鋭利の牙を持ちながら、懶惰無頼の腐り果てたいやしい根性をはばからず発揮し、一片の矜持無く、てもなく人間界に屈服し、隷属し、同族互いに敵視して、顔つき合わせると吠え合い、嚙み合い、もって人間のご機嫌を取り結ぼうと努めている。」
と表現しており、今まで犬に対して、憎らしい思いをストレートに緻密に書く人間はいただろうか。

愛犬の話の起承転結もわかりやすくてよい。憎しみだったものから次第に愛が芽生えていく様子は面白い。

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2024年10月26日

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『きりぎりす』の最後のところで床下で鳴くこおろぎが、彼女の心のなかでなぜタイトルのきりぎりすに変わるのか、その意味について考えている。

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2024年09月22日

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「女生徒」よりも様々な角度の物語が含まれている短編集。人々の不変的な心情をここまで描けるのはさすがとしか言いようがない。何度読んでも新しい発見がある。

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2024年09月22日

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同じ作者とは思えないほど、様々なバリエーションの話があって面白かった。
じっくり何度も味わいたい作品が多い。長編や純文学が苦手な人にも一度読んでもらいたい。

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2024年09月16日

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燈篭
スピードが速い。量ではなく思いの。女性目線のモノローグという太宰らしさ。

姥捨
心中物。絶望した描写がよい。どれほど愛し、どう裏切られたかが書かれてないので、そこに至る曲折は想像。結果生きてしまうことによって、いろいろな後始末が面倒

黄金風景
目をかけるというのは多義?感謝される振る舞いの記憶は抜け落ちたのか、奉公していた家への義理が強く、水に流していたところも「負けた」と言わしめたのか

畜犬談
ユーモア小説。Twitterで漫画化されてそう

おしゃれ童子
これもユーモア。意にそぐわなくてやけくそになるファッションも思春期

皮膚と心
待合室で妄想膨らむあたりで色が随分変わった。前半の、自虐と不満のないまぜのあたりが女性らしくて


退廃的で太宰っぼくて。まだそこまで荒れてないけど、自己を悲観するところが。まだ水たまりという美しいモチーフが残っているだけ

善蔵を思う
善蔵って誰やったん。読み飛ばしたかな。これも切ない太宰らしさ。でも乱れて迷惑かけた描写がないのが新鮮。弱いとこだけ出てる。やっぱり誰でも故郷に錦を飾りたいという思いはあるもの。故郷に錦は比喩的だとしても、それくらい立派で、世間から認められるような立ち位置でいたいと思うのが人の性。取り払えたらずいぶん楽なのに、と今の自分のメンタルに重なる刺さる疲れる。一旦積読に戻そうかな。
と思ったけど次作が表題作。

きりぎりす
多分自伝的なメタ作品なのか。そんな天狗になるような時代が太宰にあったのか。良人の根っこに惚れ、名声と共に夫をけいべつする。まさにカエル化現象!

佐渡
佐渡には何もない、けれども来てみないうちは気がかりなのだ。
この人生でさえも、そんなものだと言えるかも知れない。見てしまった空虚、見なかった焦燥不安、それだけの連続で30歳40歳50歳と、精一杯あくせく暮らして、死ぬるのではなかろうか。

千代女
読みやすい。わかりやすい。切なくて怖い。
せっかくその気になったのに、不十分なのは根気か、才能か、若さか、タイミングか。お見捨てなさるなと書く心情は確かに狂ってしまいそう。

風の便り
恥ずかしい、痩せた小説を、やっと三十篇ばかり発表しました
往復書簡形式。途中その必要あるかと思ったが、終盤意味をなしてきた。ある意味好き同士の二人、なぜこんなにも噛み合わないものか。偏屈で自尊心と謙遜のバランスが取れてない人間はめんどくさい。身近にもいる。言葉面だけ慇懃で行動その他が伴わないやつ。

水仙
女が狂う、という自分の中では珍しい太宰。とはいえ狂わせたのは周りの男と遠回しの貧しさなんだけど。芸術的に生きるというのはすなわちストイック、と言うのを、太宰は肯定したいのかそれとも鼻で笑っていたいのか。あまりに今回の短編集はそこへのフォーカスが強い。

日の出前
湊かなえみたいなやつ。オチまで冒頭に来たからあとは落ちていく様を追う。そういう楽しみ方をする作家ではないのだけど。これと水仙は解説によると本格小説というジャンルらしい

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2024年02月16日

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ネタバレ

「いいお仕事をなさって、そうして、だれにも知られず、貧乏で、つつましく暮らして行く事ほど、楽しいものはありません。私は、お金も何もほしくありません。心の中で、遠い大きいプライドを持って、こっそり生きていたいと思います。」
この文章にはとても勇気付けられる。

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2023年11月26日

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 太宰治の作品は、冒頭がいい。『人間失格』は「恥の多い生涯を送ってきました」で始まる。
この本では、「おわかれ致します。あなたは、嘘ばかりついていました」で始まる。なぜか、私が言われているような気にもなる言葉だ。
 私は、19歳で、家族の反対を押し切って、売れない画家のあなたと結婚して、はや5年。25歳になった。私は、「私でなければ、お嫁に行けないような人のところへ行きたいものだと、ぼんやり考えていた」。あなたの画は、「小さい庭と日当たりのいい縁側の画で、縁側に白い座布団が一つ置かれていた」。それを見て、どうしてもあなたのところへお嫁に行かなければ、と思った。
 私を必要とする男性のところに嫁ぐ。そして清貧な生活を続けたいと思っていたが、どういうわけか、あなたの画が売れて、お金が入りはじめて、窮屈な淀橋のアパートから、三鷹の家に住むようになって、変わってしまった。
 死ぬまで貧乏で、わがまま勝手な画ばかりを描いて、俗世間に汚されずに過ごしていくと思っていたが、今の俗世間に汚れたあなたは、はずかしくして仕方がない。だから、別れるのです。
 ふーむ。太宰治の世界の中には、恥ずかしいという言葉がよく出てくるが、お金儲けできる絵描きになって、言うことが他人を批判したり、面と向かえば、褒めたりで、全く一貫していない人格。それが恥ずかしいという。女性の視点から見る世界と世俗にまみれる画家の有り様があまりにもかけ離れた人になった。
 やっぱり、別れるべきだね。でも、夫婦って一体なんだろう。利他的でありながら自分中心なんだね。夫婦の価値観は共有できにくい。画を描いて何を表現するかであり、あくまで画は手段。そこを見ないとねぇ。何を妻は支えるべきだろうか。

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2023年11月26日

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28〜33歳、中期の作品集。
自虐と自意識の強さを、笑いながら差し出せる強さが太宰にはあったのだろう。

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2023年07月11日

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物語の世界に没頭したい質の私はあまり短編集は好んで読む方ではない。しかし、本書は素晴らしかった。
太宰治の執筆活動による中期に書かれた作品集なので、晩年のとことん破滅的、反逆者的な側面は少々なりを潜めており、所々普通に笑かしてくる。
特に「風の便り」ではお笑いコントのような軽快さで偏屈な貧乏作家と毒舌なベテラン老作家の手紙のやり取りがなされていく。突然の「馬鹿野郎」は声に出して笑った。
だからといって、やはり太宰治なので一貫して厭世的でありネガティブである。
太宰治は「人間失格」で完成されてしまっているので、作品順に読んでいくのもまた一興。

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2023年05月24日

Posted by ブクログ

言いたい事はなんとなく分かる。
綺麗事ばかりでは生きていけないよなとか思うけど、誰しも一度は考えたことがあるんじゃないかな。

キリギリスととコオロギの違いをネットの記事で調べたけど、コオロギというのは総称らしい。
「きりぎりす」には個々人が持つ特性や信念が埋没することを表現していると思った。
太宰はそんな事を感じてたのかな。

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2022年04月12日

Posted by ブクログ

昭和57年9月15日 18刷 再読
太宰治中期の14編

戦時下の作品なので、各作品とも社会生活の貧しさや不便さは表現されているのですが、どこかコミカルであったりピリッとアイロニーを感じたり粒揃い。
女性の一人称で語られる作品が、深層心理まで描けていて戸惑うほど。これは、モテたでしょうね。

「きりぎりす」は、売れない画家に嫁いだ女性が、著名になっていくにつれ俗物的になっていくご主人に別れを告げる物語。この女性の気持ちは共感できる。とは言っても、好きなのは「ヴィヨンの妻」の底知れぬ強さ。
「日の出前」は日大生殺し事件をモチーフにした作品。太宰本人をも投影させ悲哀さが増されている。イヤミスの原型のよう。

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2021年11月15日

Posted by ブクログ

日中戦時下に書かれたとは思えない、不思議な明るさというかユーモアを含んだ作品が多い。
 太宰治自身の経験にも重なるはずなのに、滑稽に心中失敗をえがいた姥捨、犬に嫌われる自信をもって実際犬がキライで生きているのになぜか子犬に好かれてしまいハッピーエンドな畜犬談、吹き出物に悩む肌自慢の妻の憂いと妻を思いやる夫のやりとりが素敵な皮膚と心、中国戦線から慰みで投稿される兵隊たちの小説を読みながら平穏な場所に住む自分の存在をおしの鳥になぞらえて自虐する鷗、百姓女に押し売りで買わされた薔薇が値段の割にはかなりの良い出来だと褒められ当惑する善蔵を思う、売れない画家の夫が不本意にも売れて俗物になりかえって没落を妻が望むようになったという少し歪んだでも皆目理解できないわけでもない価値観のきりぎりす、佐渡島を何も見る価値がないとバカにしてかかったが実はという佐渡、綴り方を絶賛されたことでかえって創作を怯えるようになった女性文体の千代女、お金持ちの女性にお追従でおべっかをならべて絵を書かせその女性の人生を台無しにしてしまったことの象徴であるよくできた水彩画を破った水仙、日本最初の保険金殺人と称されている日大生殺し事件をモチーフに親による子供の偽装殺害事件をそれほど暗くもなく描いた日の出前、こんな感じだが、どれも太宰治の短編群の中では水準以上の出来だと思う。

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2021年08月29日

Posted by ブクログ

現代の24歳と言えば遊び盛りであろうに。昔の人は大人だなあと感じる。今の若者は子供が背伸びしてるからませてるって言われるわけだ。どっちにしても、24歳で世の中を語るには早すぎるのではなかろうか。おわかれは別として。

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2021年01月19日

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「きりぎりす」
こういう芸術家気取り、居るよなぁという感じ。
妻が、芸術家の夫の欺瞞に満ちた本質を暴く。
そこには時代を超えたリアリティがある。
好きです。

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2021年01月10日

Posted by ブクログ

うーん、やっぱり太宰治はおもしろいなぁ。

著者中期の14の短篇を収録した本書では、どの登場人物も貧しくて自虐的な性格なため、正直読んでいてうんざりすることも少なくなかったのですが、それでも(むしろそれだからこそ?)全ての作品を楽しむことが出来ました。
とりわけ、クスッと思わず笑ってしまいつつ、最後はちょっとほっこりした「畜犬談」には著者のユーモラスな一面を感じ取れたり、「鷗」や「風の便り」といった作品からは著者の考えのようなものを学び取れたりしました。

しかし、強く印象に残ったのは最後の2編。「水仙」と「日の出前」です。どちらも後味の悪さが醍醐味かと。とりわけ後者のラストには人間の不気味さを感じられて、なんだか単純でないその言葉の意味を考えてしまいました。

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2019年12月14日

Posted by ブクログ

数十年ぶりに読み返す。NHKの朗読の時間で石田ひかりの読みっぷりがよくて、キリギリスの入ったこの本を再読してみた。確かに面白い。

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2019年12月07日

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太宰治の小説を読めば読むほど、不器用で、
実に愛すべき人だなと思えてくる。

そして、又吉直樹さんは太宰治に傾倒してるんだな
と改めて実感。文の書き方が非常によく似てる。

『佐渡』を読んでると船旅がしたくなった。

犬好きな私としては『畜犬談』が面白く読めた。
初めのうちは犬を邪険にしていたのに、何だかんだで、
最終的には犬を大事に扱ってる。

『風の便り』では、木戸一郎と井原退蔵が
書簡のやり取りをしていて、思わず私も
文通を始めたくなってしまった。

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2019年02月12日

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クスッと笑えるものからちょっと考えさせられるものまで様々な物語が入った短編集。
個人的には畜犬談、きりぎりす、風の便り、水仙、日の出前あたりが面白かった。
太宰の作品は人間失格から入ったのでああいう系統の作家なのかと思っていろいろ読んでみたが読むたびにその引き出しの多さに驚かされる。
それぞれが今の作家にはない面白さがあると思う。

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2019年08月31日

Posted by ブクログ

「おわかれ致します。あなたは、嘘ばかりついていました。……」名声を得ることで破局を迎えた画家夫婦の内面を、妻の告白を通して印象深く描いた表題作など、著者の最も得意とする女性の告白体小説「燈籠」「千代女」。著者の文学観、時代への洞察がうかがわれる随想的作品「鴎」「善蔵を思う」「風の便り」。他に本格的ロマンの「水仙」「日の出前」など、中期の作品から秀作14編を収録。

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2019年06月27日

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北村薫「太宰治の辞書」に、この短編集に収録中の「水仙」についての奥野健男の解説が「明白な勘違い」であると書いてあったのが気になって読んでみた。
「水仙」は収録作品中でも印象的な作品で、確かに奥野のいうように「善意や社会良識がある人間を根本的にだめにしてしまう」わけではないが(善意や社会良識は「水仙」にも「忠直卿行状記」にも出てこないような…)、北村が言うように必ずしも忠直卿の「裏返し」ではなく(そもそも「善意」と「悪意」の対立項が成立しないので)、おべっか(忠直卿及び水仙の取り巻きによる)にせよ恨みから来る無視(水仙の主人公による)にせよ、相手をいい加減にあしらう在り様は、無意識下に「天才」など存在しないことにしたい俗人の浅ましさがあるようで怖ろしかった。
太宰はメロスやお伽草子を読んだくらいで、『斜陽』も『人間失格』も読んでいなかったのだが、思ったより面白かった。しかし、女性1人称ものは苦手。特に「きりぎりす」は、語り口だけでなくその内容がウザかった。売れっ子画家になって俗物化した夫をひたすら非難する妻の一人語りで、実際俗物化しているのだが、それ以上に、勝手に枠決めて、それに合わないと許さない妻の身勝手さのほうが不快だった。

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2019年03月10日

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新潮文庫から出ている太宰中期の短編集『きりぎりす』を読みました。
まず最初の、女性の独白体小説「燈籠」、特に結び方が素晴らしいので、
ぐぐっと読む者の気持ちがつかまれます。

それで、だだーっと読んでいくと、
どうもこの時期の(?)太宰はまるで自分を卑下するように、物語の主人公を卑下して、
卑屈とさえ思わせられるくらい徹底的に、自らを人間の屑だと自認するんです。
それを読んでいても決して、僕なんかにしてみたら太宰は屑になんか思えないわけです。
自分を屑とする太宰以下なのが、それを読んでいる自分だなということに、
個人的に気付かされるので、しょんぼりして寝付くという事態に陥ります。

しかし、しかし、最後から三番目の短編、「風の便り」というのがそういう読者を救うような
手立てとしての作品になっています。このあたり、編集者のうでが素晴らしいっていう
ことなのかな、しっかり理解しつくしている人が本を編んでいることが身を持ってわかりました。
「風の便り」はこの作品群の中では、世代に関する論、創作に関する論、言葉自体に対する論などが、
作家同士の往復書簡という形で弁証法的に語られています。
すごく面白かったです。
特にですね、たとえば世代に関する話ですと、上の世代に大物がいるときの下の世代の息苦しさ、
それゆえに芽を摘まれるように、才能が伸びていかないことが明らかにされています。
これはたぶん、この時代(戦前の昭和の時代)の描写ですから、そのスケッチではあるにしても、
今の時代にも十分に言えることだったりしますね。
そういうところは、その大物たる人物のせいなのです。かれらとて、そういう部分でいえば、
失敗者であり、自らの成功しか…それはそれですごいのだけれど、し得なかった、
直後の世代からエネルギーを搾取してしまったかのような存在であると言えるんですよね。
考えてみると、そういう大たる人物たちは、その作品の力によって、
「どうだ!」と同時代のクビ差、アタマ差届かない
同業者を抑えつけてねじ伏せてしまうとところが、望まぬにしろ、あります。
そして、20歳と30歳では、経験も知恵も違うものです。
30歳と40歳でもそうです。
それなのに、ハンディキャップマッチではなく、同じ条件でレースをすることになるのですから、
下の世代は不利も良い所なんですよねぇ。
いやいや、あてこすってるわけではないですよ、あげつらってるきらいはありますけどね。

そこらへんの、世代間の条件の悪さ、有利不利を言語外のところで感じて、
世代間の亀裂っていうのが生まれるのかもしれないです。
みんな、言葉でなかなかうまく言えなくても、そういうことは肌で感じていて、
とやかく論じたてても理屈がついてこないから、とりあえずつらーっと「上の世代とはつきあわねー」
とかなるんじゃないですかね。
この場合、上の世代と付き合うことによるメリットよりもデメリットが大きいと計算されたことになりますし、
そう計算された上の世代は悲しいものです。
まぁ、身一つでやっていこうという人は、へんにメリットを考えないでしょうから、うまくデメリットも回避されて、
成功するっていうパターンもなきにしもあらずな気がしませんか。
ちょっとわかりにくいかもしれない話です。

さて。
この『きりぎりす』では、今述べた「風の便り」のほかにも太宰(?)が佐渡を訪れる旅行記「佐渡」も
面白いですし、女性一人称独白の「千代女」も、真を突いていて妙っていうような佳作です。
中期の太宰治はなかなか面白いです。僕は以前に読んだ「女生徒」がお気に入りですが、
この短編集にも先にあげた作品たちが実に心を揺さぶってくれます。
まぁ、「太宰治って面白くないね」っていう人もいますけれど、
「なんでもかんでも、してもらうのがエンタテイメント」と思っている人以外には、
まあまあ高確率で「面白い!」と言ってもらえるんじゃないかなぁ。

ほんと、太宰さんは、入水などせずに、老いてからも小説を書いてほしかったものです。
それは無茶なことだったのかもしれないけどね、彼の心の中はわかりません。

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2025年06月16日

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