あらすじ
日本文学を代表する天才作家の名作11篇!
没落貴族の家庭を背景に、滅びゆく高貴な美を描く「斜陽」。太宰文学の総決算ともいうべき、小説化された自画像「人間失格」。ふたりの若者の信頼と友情を力強く表現した「走れメロス」。家族の幸福を願いながら自らの手で崩壊させる苦悩を描き、命日の呼び名となった「桜桃」など、11篇を収める。
奥野健男氏のくわしい年譜、臼井吉見氏のこまやかな作品案内と作家評伝付き。
<収録作品>
斜陽
人間失格
ダス・ゲマイネ
満願
富嶽百景
葉桜と魔笛
駈込み訴え
走れメロス
トカトントン
ヴィヨンの妻
桜桃
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
まず、ラインナップがよかった。
太宰には名作、傑作と呼ばれる作品がたくさんあるが、本書に収められたのはその中でも選りすぐりばかりで、太宰を今まで触れてこなかったような人でも、太宰文学のエッセンスを感じ取ることができるし、太宰特有の暗さ、ニヒルを与えすぎない。
私は太宰のニヒリズム全開の小説は好きではない(むしろ嫌い)なのだが、そうしたものはこの本には入っていない。ラインナップがいい。
この中だったら、特に「斜陽」「人間失格」は本当に良いと思う。どちらも中高生の頃に読んだが、当時は全く違う読み方をしていたと言わざるを得ない。大学生になってから読んで良かった。
前に書いた太宰の新潮文庫の方にも感想を書いたので、そっちで触れなかった作品の感想をちょっとだけ書く。
「斜陽」
戦後の没落貴族の話。衰退していく、没落していく儚さの中にも美しさがあった。しかも主人公は単なる没落で終わらず、既存の道徳感、価値観を乗り越え、まさに「革命」を起こしたのも印象深い。基本的にその二軸で展開されたが、個人的には主人公の恋の革命家要素よりも、母や弟の没落貴族としての美しさが心に残った。
「葉桜と魔笛」
これもいい話だった。恋を知らずに死にゆく妹を気遣う姉の話、かと思ったら、妹は姉よりも色々と知っていて、姉のとった行動が切ないしおもろい。えーーってなった。アホみたいな感想を書いたけどすごく味わい深い作品。
「トカトントン」
ある男が何かに熱中しそうになると、どこからともなく「トカトントン」と聞こえてくる。そして、さっきまで熱中していたものに、スンと冷めてしまう。男はこの「トカトントン」から逃げられない。
寓話っぽい話なのかな?と最初思ったら、最後、その男に対する筆者のコメントがエグかった。
「気取った苦悩ですね。僕は、あまり同情してはいないんですよ。(中略)いかなる弁明も成立しない醜態を、君はまだ避けているようですね。」
さすが、苦悩に向き合う小説家だと思った。
しかもここまでドストレートに抉りにくるのも、凄まじかった。
「ヴィヨンの妻」「桜桃」
「ヴィヨンの妻」が、家庭を放棄し、人生の苦悩から逃れられない、それでいて本当にどうしようもない男、大谷(多分ほぼ太宰みたいなやつ)と、大谷と同じ価値観であるわけでもなく、どちらかというと鈍いような、純粋であるような、逆に鋭いのだけれどどこかひたむきな、女性の話。「人間失格」もだが、この話を読んで太宰って妻寝取られたことあるのかなと思った。
「桜桃」はさくらんぼのことらしい。基本的に本音をあまり言い合えない、雰囲気的な夫婦喧嘩っぽい話で、桜桃は最後にちょっとだけ出てくる。「子供よりも親が大事。」というのはいかにも自分のことで精一杯な太宰らしい。
Posted by ブクログ
これを読んで初めて『駆け込み訴え』を読んだ。
江戸っ子版ユダの裏切りってな感じで最高に面白い。
太宰はキリスト教のワードをよく使うところから教養深い人だったのだなぁと感じた。(彼自信は信徒ではない)
それこそ、斜陽を読んだ時には、この蛇って原罪とかの話の蛇なのかなぁとか想像を膨らませた。
Posted by ブクログ
高校生のとき刺さらなかったから人間失格は避けてたけれど気になる短編や坂口安吾の不良少年とキリストなどを大体読んだので人間失格も読んだ。そしたらすごく面白い。
人間失格は太宰治の自伝的な小説てのは有名だけど、それを踏まえると斜陽、葉桜と魔笛、ヴィヨンの妻など…キャラクターの味が変わってくる。お道化をしなきゃ生きられない臆病さ。坂口安吾が言及してた彼のm.cってそういうことかい、と。嫌いになる人居るみたいだけど、太宰治がむしろ好きになった。
最後の一文が本当に美しいね。神様みたいに優しい子。
Posted by ブクログ
太宰治は学生時代にかじった程度だ。
文字からインプットする話は、ネガティブ結末を好む傾向があるものの三島由紀夫はハマったのに太宰はハマらなかった。今回は井伏鱒二が描いた「太宰治」を読み、どのような時を生きた人が描いたのか。を想像しながら読むことができた。
人間失格の葉蔵然り、斜陽の直治然り、ダス・ゲマイネの馬場然り。何とも言えぬ、瞳の奥にひどく暗く深い闇を持った瞳が常に読者を見据えているような感覚に陥る。
太宰の描いた作品に登場するこれらの人物は少なからず太宰本人の過去を投影し、あるいは膨らませた上での人物なのだと感じる。
作品に作者そのものがここまで投影されているように感じるのは、太宰に魅せられているからなのか。果たして太宰の思う壺なのか。まだ時間をおいて読みたいと思う。
Posted by ブクログ
大人になってから読み返した「斜陽」と「人間失格」は、思ったより軽いタッチだった。書かれている事実に気を取られず、人物の心情を客観的に見れるようになったからかもしれない。
同じページに注釈が載っており、大変読みやすい。
また、「駆け込み訴え」を読んでから「斜陽」を読むと大変わかりやすい。
個人的には「富嶽百景」や「葉桜と魔笛」が好きで、太宰中期の作品にもっと触れたいと思うきっかけになった。このあと「女生徒」を買うに至る。
Posted by ブクログ
やっぱり「人間失格」は凄まじい。
太宰作品をそんなに読んだわけではないけど、これだけは別格だ。葉蔵の心理描写が恐ろしいほど真に迫っており、自分の心理とシンクロし、ドキドキする。
自分と葉蔵は似ているわけではない。だが「お前も同じ穴のムジナじゃないのか?」と問われれば…葉蔵が竹一に見透かされた時のように血の気が引いて顔面蒼白になるだろう。
僕は外面は常識的な好人物を演じている。職場では仕事がデキるやつ、部下に慕われる面倒見の良い上司ヅラするのも自然と板についているし、大方の評価も良い。
しかし、本当は問題は避けたい、サボりたい、休みたい、楽したい、逃げ出したい。生活と対面維持のためだけに仕事をしていると言っても過言ではない。働いても働かなくても同じ給料が貰えるなら迷わず明日から出勤しないだろう。出勤するとしたら世間体が大事だからだ。
家庭だって子どものためとか自分に言い聞かせながら、本当は世間体が大事なのと現状を変えるのが怖くて何もできないのだ。
〇〇死ねばいいのにとか本気で考えるし、それを呟くこともやめることができない。完全に病気だ。葉蔵と何が違う?
違うのは取り繕うのが上手いかどうか、辛抱できるかどうか、というところだけではないのか。いや、辛抱すらも本当の辛抱ではない。辛抱、我慢、忍耐と言えば聞こえが良いが、ただただ臆病なだけなのだ。現状が嫌で嫌でたまらないのに、体面に執着するし、そこから飛び出す勇気は全く持ち合わせていないのだ。
僕も人間失格はないのか?
でもそれを認めたくはないし、そんな勇気はない。
Posted by ブクログ
今日は「桜桃忌」ですか。
太宰治の作品の中で記憶に残る一節は「人間失格」の中の友人の言葉
「ワザ、ワザ」なんです。
確か主人公が周囲に迎合しようとして何かの失敗(転んだか?)を意図的にしたところ、常日頃あまり鋭くない友人が「ワザ、ワザ」と言う。
主人公の意図的な行動を見破られたのだ。
何故この事が記憶に残っているのだろう。
桜桃忌、合掌。
Posted by ブクログ
太宰の有名な作品を収めた贅沢な一冊。
こうして読んでみると、太宰の中にある自分への不信感や他人への恐怖心、それをどの作品も反映してるように思う。
文章が意外なほど美しく、リズミカル。
「走れメロス」の文体は、メロスが疲労困憊しながらも、体に鞭打って前に前に疾走する姿が感じられた。
簡単ではない文章なのに、するする読める。
とくに口語体の、話すような、語りかけてくるような言葉のリズムが心地よい。
聖書からの引用、女性の言葉遣いのたおやかさ、上品さなど、代表作を並べてみるとわかる太宰らしさを発見することができた。
大学生以来の「斜陽」が一番刺さった。
あの頃はこんなに感動しなかったのに。
没落していく貴族の姿が美しく静かに伝わってくる。
華族や宮様の品格のよさと、そこには相入れない俗人の世界の違い。
言葉遣いも違い、生活態度も違い、生きることに対する必死さは感じられない。
市井の人々から見ておママごとに見える生き方。
時代に取り残されようとしている人々、忘れ去られようとしている人々がこの時日本にもいたのだなと、その生き方が強く印象に残っている。
それだけではなく、おママごとみたいな生活、生き方をしているかず子は、ある人に恋をする。
その恋愛の姿も、やはりどこか浮世離れしている。
現実感がなくて、ふわふわしているようにも思う。
でも、情熱的で、時代がどうとかよりも、世間がどうとかよりも、自分の心だけを大切にする生き方を選ぼうとするところが、とてもしなやかにたくましく感じ、不思議な感動が呼び起こされた作品。
Posted by ブクログ
初めて、教科書に掲載されていた以外の作品に触れました。作品群に滲み出る著者の心情のようなもの、作品になった瞬間にそれは虚構にかわるのに、なまなましさすら感じました。思っていた以上に読みやすく、ほかの作品も読んでみたいと思いました。
Posted by ブクログ
太宰治って、暗い人というイメージがあったけど、文章はとても読みやすく、普通浮かんでは、すぐ消えていく考えを、そのまま文章に出来るって、すごい人です。
Posted by ブクログ
斜陽、人間失格など11作品が収録されている。斜陽の上原や直治、人間失格の葉蔵、ヴィヨンの妻の大谷など、社会的に真っ当な生き方から外れて酒に溺れる人物が繰り返し登場する。弱さ、強さとは何か?を考えさせられた。酒に溺れても金がなくなっても、周囲から絶縁されても、生に固執すること、生き延びることが強さだと思う。
Posted by ブクログ
とてもとても面白かった。
笑いあり、涙あり。
母の「おしっこよ」と一番最後のMC「マイコメディアン」のオチにチェーホフじゃないんかよ!!wと爆笑してしまった。
なんだかシュールで、、
母が弱っていく描写はとても泣けた。
自分の母を看病するカズコ、とても強く優しい女性だ。
私と同じ歳なので、特に共感した。
そして何よりも最後の弟の手紙に感動した。
彼は根っからの貴族なんだ。
どんなに一般人に合わせようと不良になったとしても、貴族として育てられた貴族なんだ。
凄く感動した。
最後の分の「僕は貴族です。」凄い泣けた。
弟、どうしようもない奴だとばかり思っていたが、素直でお母さん思いのいい子じゃないか。
太宰治初めて読んだが、こんなに面白いとは…。
特に華族に対して興味を持っていたが、あまり華族がテーマの小説って私の知る中では少ない。
凄い良いテーマだと思ったし興味深かった。
一気読みだった。
そしてボリュームもたっぷりでどれも面白かった。
用語の解説がそのページに書いてあるのがとてもよかった。
どの小説も面白く、可笑しく、人間臭さがあり素直な文体が気に入った。
特に気に入ったのは「富嶽百景」
知的可笑しさが満載。
富嶽百景は太宰が精神的にも一番安定しているときに書かれたものらしく、落ち着いた文体とストーリー、美しく静かな小説だ。
彼はきっとユーモアたっぷりの面白おじさんなんだと思った。
私はこういう男性、チャーミングで可愛いと思う。
Posted by ブクログ
太宰を最初に読んだのは中学生か高校生だったが。今『人間失格』なんて読むと、キザなインテリさと女に倦む様子がいかにも鼻につく。
しかし、この本ならば『斜陽』『ダス・ゲマイネ』『ヴィヨンの妻』なんて読んでいくと、太宰がそんな鼻につく「道化」を演じながらも、何に苦しみもがいていたかが感じ取れてくる。
そういう意味で、この選集はなかなか良いものだな。
巻末の太宰治伝もよろしい。
Posted by ブクログ
斜陽、人間失格、どちらも10代の頃には衝撃的で、自分の価値観に大きな影響があったように思う。特に斜陽で、お母様がナイフとフォークを使う時、型にとらわれず、優雅に美味しそうに食べる様には憧れちゃって、今だに真似しようとしてる(笑)。今、もう一度読み返すと、そこまでのめり込めなくて、やはりあの頃は感受性が豊だったんだと感じた。
Posted by ブクログ
多分、この人は人間を、と言うより男全般を、このような存在としてしか捉えることが出来なかったのだろうか、と何となく感じた。斜陽、ヴィヨンの妻の女性像、世の中の苦難や、時には道理を軽々と飛び越えて生きていく存在に、実は憧れて居たのだろうか。だとすれば、女性と言う存在を分かっているようでそうでなかったのか、分かっているつもりで(無意識に憧れて)書いていたのか。
メロスにしても、実際にはこのような人間など居ないと信じた上で書いていたのかも(それでも、中盤、弱気に捕らえられたメロスの独白は、何となく人間失格等の男性の自己弁護を思わせる)。だとすれば、自己をより投影していたのは王のキャラクターかも。でも、このような弱い、繊細すぎる感覚を否定しきる事も出来ない自分が居て、空恐ろしい。
個人的には、葉桜と魔笛が好き。ただただ、美しい。
Posted by ブクログ
『駆込み訴え』が衝撃的すぎて、読み終わってすぐに友人に読んでくれ!とLINEしました。太宰治ってすごい。高校の教科書で読んだ『富嶽百景』も好きです。精神が安定?していた頃の作品に惹かれるみたい。
Posted by ブクログ
ダス・ゲマイネ
馬場と私の話。海賊という雑誌を出そうと持ちかけられる。「太宰治とかいう若い作家」という人物が出てくる。馬場と言い争いになり、雑誌はやめる。
主人公は電車に轢かれて死ぬ。
あいつ、うまく災難にかかりやがった。僕なんか、首でもつらなければおさまりがつきそうにないのに。
君、太宰ってのは、おそろしくいやな奴だぞ。
君は自分の手塩にかけた作品を市場に晒した後の突き刺されるような悲しみを知らないようだ。
富嶽百景
けれども、苦悩だけは、その青年たちに、先生、と言われて、黙ってそれを受けていいくらいの、苦悩は、へてきた。
苦しむものは苦しめ。落ちるものは落ちよ。私に関係したことではない。それが世の中だ。そう無理に冷たく装い、彼らを見下ろしているのだが、私は、かなり苦しかった。
葉桜と魔笛
妹が病気。男からの手紙を読んでしまう。体の関係を知り姉は燃やす。そして代わりに手紙を書くが妹は姉が書いたとすぐ分かり、男の手紙も自分で書いたと言う。その時手紙にあった口笛が聞こえた。
姉さん、あたしたちまちがっていた。お利口すぎた。ああ、死ぬなんて嫌だ。あたしの手が、指先が、髪が可哀そう。
駆け込み訴え
イエスを殺してくれと訴えるユダ。
あの人を愛しています。あの人と私は共に死ぬのです 一緒に死ぬのだ!感情の揺れ動きがすごい
走れメロス
トカトントン
郵便局で働く男が太宰治に手紙を書く。トカトントンと釘の音がすれば、全てのやる気を無くす
キリストの釘の音。キリストは釘を打たれても魂は死ななかった。
ヴィヨンの妻
本作は、太宰が亡くなる約1年半前に書かれた作品です。
『ヴィヨンの妻』は「死」に言及するというよりも「生きてさえいればいい」ということが描かれています。
新潮文庫版の解説で、亀井勝一郎氏はこう書いています。
彼はつねに彼を描いた。作品はすべて告白の断片にすぎない。
そして、大谷はまさに太宰のような男です。太宰は亡くなる約1年半前、大谷とさっちゃんを通じて、「どんな人間でもいい。生きてさえいればいい」というメッセージを、どんな想いで書いていたのでしょうか。考えると胸が痛くなります。
ちなみに太宰の妻・津島美智子さんは、太宰をフランソワ・ヴィヨンにたとえた詩を太宰に送ったことがあるそうです。
太宰はもしかしたらさっちゃんにも、妻・美智子さんを投影していたのかもしれませんね。
この「ヴィヨンの妻」こと、さっちゃんは、とても素敵な女性です。この物語の魅力は、まさにさっちゃんにあります。
桜桃
子供よりも親が大事。
生きるということは、たいへんなことだ。あちこちから鎖が絡まっていて、少しでも動くと、血が吹き出す。
Posted by ブクログ
全体的に暗く感じた。ただ、独特な世界観があり気付けば、読み終わっていた。
斜陽とは西に傾いた太陽を意味しており、かつての貴族が没落する姿を斜陽として表していた。それを知った時は、ハッとした気持ちになった。
また、数年後に読み返したい。
Posted by ブクログ
娯楽小説のような面白さは当然なく、ときに読み進めるのが辛くなるのだけど、心のうちを痛烈に表現するようなこういう堅苦しい本をときたま読みたくなる。
Posted by ブクログ
斜陽(2020/10/20)
文豪・太宰治の作品。小説を読むのは数年振りかもしれない。
終始暗いストーリーで、読んでて寂しくなった。難しい言葉が多く、海外の作家や作品も多く登場していて、作者自身の知性をすごく感じた。昔から読み継がれて今でも残っている作品だけあって凄かった(小並感)。
Posted by ブクログ
タイトルの他に、ダス・ゲマイネ、満願、富嶽百景、葉桜と魔笛、駆込み訴え、トカトントンを収録。豪華。
正直、太宰治は何で人気なのかわからない勢だったんだけど、これだけ一気に太宰ワールドを堪能するとさすがという感想。
Posted by ブクログ
さすが太宰治。
引き込まれる。
生きることが下手な男が、恐怖と不安に負けながらも
やっとの思いで生きた話。
心が弱くて、様々なものに依存してしまう。
酒、女、睡眠薬、モルヒネ…。
「恥の多い人生を送ってきました。」
「世間とは一体なんだ?誰を気にしているのだ。
それは個人ではないか。」
このフレーズが印象的です。
女にとって罪な男。でも憎めない。
面白い。
共感できる。
Posted by ブクログ
「斜陽」、眠れない夜に一気に読んでしまった。やっぱりすごいよね。
前読んだのがいつか覚えていないくらいだけど、下手したら20年くらい前だけど、それでもなんとなく覚えている表現はあって。
読ませる力があるなあと思う。
Posted by ブクログ
【斜陽】
この世には、美しいものと醜いものとが混在していて、もちろんそれは明確に線引きされてこっちは美でこっちは醜だという風にはなっていません。むしろ、美醜は同一のモノやコトに同居していて、見るとき、見る者によってどちらの面も発現しうるものであるのだ、ということを徹底的に謳った物語のように感じました。
話の大筋だけを捉えると、旧貴族の凋落を描いたどうしようもなく暗い話です。暴力はありませんが、全体が死の気配で満ちています。
嫌悪、疾病、泥酔、困惑、貧乏、没落。そういうネガティブなものが充満する中にあって、可愛らしさや純粋さがところどころで突然に顔を出します。小さく容易に壊れてしまいそうなものであっても、暗く汚れた中にただ一つそこにあって輝いている。それだからこそ一層美しく見える。そういうものを描きとった作品だと思いました。
ただ、それだけでは終わらないぞ、という最後の章です。ドロッとした舌触りが飲み込んだあとも残るような読後感です。
【人間失格】
著者が紙の向こう側から、こう訴えかけているような気がしてなりませんでした。
「これは、あなたの手記ですよ」
脅かしでもなく、呪いでもなく、単に事実を伝達されているような感覚でした。
かつて、人間失格を読むと自ら死に近づく者がある、というようなことを聞いたことがあり、ずっと敬遠してきました。あるいはそういうこともあるかもしれませんが、それはちょっと感度が高過ぎるかな? という気がします。
あなたの「一部」はこの男の痛みを共有しているのではありませんか? というように感じました。
作中の人物に著者の生い立ちと当時の心境を重ねる向きもあるようですが、そうしたところで資料的な価値はともかく、鑑賞する側にはあまり意味がないかも知れません。自分にも思いあたる節があるなというところと、ストーリーが率直におもしろいと思いました。
【ダス・ゲマイネ】
同人誌を刊行しようと企てる青年らの、なんだかグズグズしたやりとりの話です。前2篇のような暗さはあまりなくて、どちらかというと滑稽な感じです。ただ、なんだかパッとしない人たちのうんちくや理屈っぽい議論が連続するので、もしかするとそういう人々一般に向けられた皮肉なのかも知れないな、という印象でした。
登場する誰に焦点を当ててみても楽しめる作だと思います。それぞれが個性的でありながら没個性的、特徴はあるけれどそれでも凡庸、という、ある面であらゆる人に共通したの空しさみたいなものを描いています。
そんな話がダラダラと続き、色々なことが突然にサッと片付いてしまいます。そんなところは大変に潔い作品です。これでいいのだ、という一種の主張かも知れません。
【満願】
ショートショートと呼べるくらいの短編です。読みやすいですが、意味を理解しかねる箇所があって、思わずインターネットで調べてしまいました(が、そんなことしなければよかったのかも知れません)。なるほどそういう意味か、と思ったのですが、これは自然に察することができる類のものなのでしょうか? それともやっぱり小説的余白みたいなもので、読み手側で書き込み自由な部分なのでしょうか?
肺の患者を旦那にもつ奥さんが、医者になにかを「固く禁じ」られていて、それを「辛抱」しているという話で、ある日「おゆるしが出た」ことによって「うれしそう」に彼女が「さっさっと飛ぶように歩いて」いるというシーンで締めくくられます。
こうやって要約してみると種々の解説も、なるほどそうかもな、と思えるし、もうそうとしか考えられないのですが、一体なにが禁じられていたのか? 最後の一文の意味は? こんなことを考えるのは、いかにも想像する楽しさそのもののようです。
【富嶽百景】
小説の体ですが、エッセイのようでもあります。富士を中心に据えて、その見栄えに対する主観的な評価を、自身の居所と心境に重ねながら展開していくお話です。つまり、その時みえた富士のことを主人公が云々いうわけですが、読みてからすれば、それはいまアンタがそういう心持ちなんだよ、と言いたくなるような感じです。きっとそれを見越して書かれたのでしょう。
下敷きとなっているのは、当人の縁談です。
靄のかかったような心境が続く点ではその他の作と同じです。相変わらず悩みを抱えて続けていますが、全体的に陰鬱とした感じはありません。
最後も、愉快に明快に締めくくられます。爽やかな、希望の光の差し込むような眩しさで終わるので、気持ちのいい作品です。
【葉桜と魔笛】
苦しい。この話は苦しい。こんなに短い文章にこれだけの悲哀を凝縮するのはブラックホールを創出するようなものです。
【駈込み訴え】
なるほど。言葉遣いから明治から昭和の話かと思って読んでおりますと、ああなるほど。中盤辺りから、ユダの話か、と感づきます。
【走れメロス】
教科書で読んだ時にはそんな風には思いませんでしたが、すごく短い作品なんだな、と。それなのにあれだけのストーリーとメッセージが凝縮されているなんて。脱帽です。
【トカトントン】
「なにをやってもモノにならない、途中で投げ出してしまう、なんでしょうこれは。困ってるんです」という読者からのダラダラした手紙に太宰が数行で回答する、というか一蹴するという体裁をとっています。
現代人にも響く、かもしれません。
否、現代人の悩みの性質は本作のそれよりもはるかに低質でしょう。この時代に居合わせた太宰なら、私たちに向けてどんな回答をするのでしょう。或いは、取り上げることすらしてくれないかも知れません。
【ヴィヨンの妻】
女性の強さと男性の弱さを最大限に増幅した、というような作品でした。それも、恐ろしいくらいに。後味のあまりよくない感じがしました。
【桜桃】
感想が思いつけないです。なんでしょうか、このお話は。
Posted by ブクログ
斜陽の上原みたいなのを好きになっちゃうタイプだと思う
太宰って聖書の引用多いんだ
人間失格久しぶりに読み直したらこんな話だったんだって全然覚えてなかった
Posted by ブクログ
ここに収録された作品は、自身をモデル化し、体験を再構成させたものが多い。フィクションとノンフィクションの境界があやふやで、太宰もそれを狙っているかのようにメタ的な視点で眺めている。
後世、太宰治の作品を読む時に、彼とオーバーラップさせて読まれることが多く、小説と実体の誤解が生じているのではないか、と思う。
Posted by ブクログ
蜷川実花監督の人間失格を観てから読みました。
太宰治は初めてで普段小説を読まない私には解説が多く読み慣れず少し大変でしたが、それでも淡々と読むことができました。個人的には走れメロスが1番好きです。つづいてヴィヨンの妻かな〜。どんよりした物が好きではないので太宰は私には向いていないのかも‥笑
死にたい死にたいが多くて天才って繊細で生き辛そうだなと思いました。
世間とは個人じゃないか
「世間というのは、君じゃないか」
ー人間失格ー
ここ共感しました。