瀬戸内寂聴のレビュー一覧
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彼岸を感じさせながら、現身の人間の臨場感をもよびこむ世界。
苦しんで、苦しんで、解脱の境地に達したかのようにみえて、ふたたび苦しみ、それでも能役者および作者としての矜持を保ち続けようとする。
矜持を持ち続けるために必要な生のエネルギー。死に向かう心ではなく、あくまで生ききろうとするエネルギー。 -解説 川上弘美
わざわざ語らなくとも、内にあるもので十分に魅力は滲み出てくるということ。
むしろ語ることによってその魅力が些末なものになってしまうこと。
「秘」であるからこそ奥ゆかしく、思わず手が伸びてしまうようなものなのだと思う。
めまぐるしい人生のなかでも一際輝く世阿弥の生き様はまさにそれで、こ -
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映画「あちらにいる鬼」がとても面白かったので、面白かったのに、本書を紐解いた。映画は、中年を過ぎて男と確かに別れるために尼になるまでの、男と瀬戸内寂聴とその妻の不思議な三角関係を、淡々と描いたものだった。
本書も、著者と不倫男とその家庭との不思議な三角関係が出てくるが、映画の不倫男と本書の不倫男は現実でも別人である。むしろ、映画の前日譚だった。知っていて紐解いた。
1960年代。未だ不倫が不貞と言われていた時代だ。刊行年は昭和38年(1963年)。瀬戸内晴美(寂聴)が、新進の小説家として台頭していた頃。もしかして未だ井上光晴(「あちらにいる鬼」での不倫男)にも会っていないのかもしれない。晴 -
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ネタバレ瀬戸内晴美時代の六篇からなる短編集。
「いろ」
長唄などの師匠・るいと31歳下の弟子・銀二郎との話。
読み進めるうちに、るいは玉三郎に重なる。顔の右半面は火傷でただれているが、色白で顔立ちだけでなく所作も美しく、どんなに歳を取り弱っていっても凛とした振る舞いをし、ただただ銀二郎のことを愛していた。そして、亡き後も銀二郎に愛されていた。
「聖衣」
電車に乗り、死の際に立つ不倫相手とのこれまでのことを思い返し、もうすでに亡くなってるかもしれないと思いながら、病院へ向かうけい子。
目の前に立った外人の尼僧の黒白の聖衣に秘される緋色の帯は何を言わんとしているのか。
「花芯」
園子は申し分の無い雨宮とい -
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全体として古いのだけど、根幹について共感する。私が感じていることを、彼女も感じている。
私よりもずっと先にいる先輩から、やはりそうでしたかと、人生を学ぶ。
語っても誰も答えない、美しいこと面白いこと楽しいこと悲しいことを誰とも共有できない、それが人生。その事実を受け入れていくことが大人になることだと分かってきている。
○あらゆる錯覚をはぎ取った上で、夫を、恋人を、友人を愛しはじめる時から、人は本当の生きる苦しみを味わうだろう。幸福とは、その苦しみに裏打ちされた傷だらけの愛を、自分の孤独の中にしっかり握りしめることではないだろうか。
○独占欲のない男女の愛がどんな美名にかざられてていよ -
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ネタバレ全ての方におすすめできるわけではありませんが、個人的に響いた言葉がいくつかありました。
人間は生まれて死ぬまで孤独な動物
愛があっても孤独、群れていても孤独、若くても、老いても孤独
ひとりひとりが自分の孤独に対決し、それを凝視してその性質を掴み、それを飼い馴らす方法を発見していくしかありません。
"孤独に甘えるなかれ"
人は自分を孤独だと思うとすぐ感傷的になります。
自分の不幸に溺れ込んで、まわりの人々に訴え、慰めてもらうのが当然のようにふるまう人があります。それはたいへんな見当違いで、孤独というものは自分ひとりで背負わなければならないお荷物なのです。人に片棒をかついでもらえるものでは -
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瀬戸内寂聴自選集「あふれるもの」のレビューを書きたかったのだけど、どこを探しても出てこず登録できなかったので仕方なくこの本に。
「花芯」「あふれるもの」「夏の終り」「けものの匂い」「みみらく」「蘭を焼く」「吊り橋のある駅」収録。
少し前に「あちらにいる鬼」という小説を読んだのだけど、それが著者の井上荒野さんによる父(井上光晴氏)と瀬戸内寂聴の不倫を描いたもので、何気に瀬戸内寂聴の小説って読んだことなかったと思い、手始めに私でも知っている短篇を含んだこの短篇集を読んでみた。
あとがきによると、1篇を除き、ほぼ出家前の、瀬戸内晴美時代のものだそう。映画化もされているから代表作とも言える「夏の終り -
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お亡くなりになられたときに私の好きな多くの作家さんが本気で悼み、悲しみから抜け出せずにいるお姿を拝見し、著者の初期の代表作を読んでみたくなりました。
実は、著者の半生はTVで見ただけ、作品は源氏物語とエッセイしか読んだことがなく、小説を読むのは初めてです。
本書は私小説で、主人公が、妻子ある男と8年間不倫関係にあり(それを先方の妻も承知している)、そこに、かつて主人公が離婚する原因となった年下の男が登場し、再び関係を結んでしまうという四角関係が連作短編集の形で収録されていました。
この設定だけ聞くと、ドロドロな愛憎劇をイメージするかもしれませんがそうではありません。
著者の鮮やかな筆至が、