呉勝浩のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ疾走感――それが本作を読み終えたとき、最も強く胸に残る感触だった。ページをめくる手が止まらない、という表現は使い古されているが、本作においてはそれが決して誇張ではない。物語は躊躇なく加速し、登場人物たちの選択と衝突が連鎖的に展開していく。そのテンポの良さは単なる読みやすさにとどまらず、作品全体の緊張感そのものを支える骨格となっている。
特筆すべきは、そのスピードが決して軽薄さに流れていない点だ。むしろ、余分な説明や逡巡を削ぎ落とすことで、登場人物たちの“今この瞬間”の切迫した感情がむき出しのまま読者に突きつけられる。彼らは立ち止まって内省する余裕などなく、流れに抗い、あるいは飲み込まれながら前へ進むしかない。その姿が、荒削りでありながらも生々しい現実感を伴って迫ってくる。
また、このテンポの良さは単なる展開の速さではなく、リズムとしても巧みに設計されている。緩急のつけ方、場面転換の切れ味、会話の応酬――それらが重なり合い、読書体験そのものにビートを刻む。タイトルが示唆するように、どこか歪で、しかし確かに鳴り続ける鼓動のようなリズムが、物語全体を貫いているのだ。
その結果として、本作は「考える前に感じさせる」力を獲得している。理屈よりも先に、焦燥や苛立ち、そしてかすかな希望が読者の内側に流れ込んでくる。読み終えたあとに振り返れば、決して穏やかな物語ではない。しかし、その荒々しさゆえに、確かな手触りと余韻が残る。
スピードとは、単なる速さではなく、物語に命を吹き込むための圧力である。本作はその圧力を最大限に活かし、読む者を否応なく巻き込みながら、最後まで駆け抜けてみせた。粗削りであることすら魅力へと転化する、その推進力こそが、本作の最も輝く個性だと言えるだろう。 -
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好奇心、わかりたい、という悪意。
それは自分が納得できる「わかりやすさ」を求めているだけ。
人間の感情は1か2か0か100かなどわかりやすい割り切れるものではない。
同じ状況になったとしても、同じ判断をするかもしれないし、違う判断をするかもしれない。
一瞬一瞬で変わり続ける。
さっきまでそう思っていたけど、今、この時には違うことを考えているかもしれない。
この「かもしれない」というものは非常に厄介だ。
「可能性」という言葉に置き換えてもいい。
「可能性」は自分や他者に期待すると共に、そのまま失望に替わる。
あの時ああしていれば、こうしていれば、できたかもしれない、できなかったかもしれない。
この「可能性」には「想像力」がつきまとう。
「想像力」には「物語」がつきまとう。
私たち人間は想像できてしまうがゆえに、物語を欲する。
わかりやすい物語を。
辻褄が合って、矛盾がなくて、ご都合主義ではなく、綺麗な無駄のない物語を。
なんでそんなことをしたのかわからない、理解できない。
それならそのままわからないままでいればいいのに、わかるように話せ、説明しろ、私たちがわかるように納得させろ、と追及してくる。
自分たちがスッキリするために、他者の苦しみを踏みつける。
主人公は、ラストシーンで、覚悟を決めた。
物語を用意することを。
白鳥の湖の白鳥のように、わけも分からず呪いをかけられたから。
なら、いっそ白鳥として生きてやると。
そして、唯一、同じ状況にいた人と共に生き残るため、生き続けるために。
悲劇の白鳥を2人で演じよう。
なんて弱くて力強い選択。
どっちかではなく、どっちも、というか2つではい、二元論では語れない。
わかりやすさは暴力だ。
説明も理屈も筋も道理もない。
選択肢はあるし、選択は一つしか選べないが、その選択一つがすべてではない。
選んだものと同じくらい、選んでないものも大切なのだ。
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人間の耳はこんなに簡単に取ったり付けたり出来るんだなぁと(笑)変な所で感心してしまった。
主人公の堤下与太郎は圧倒的に主人公らしからぬキャラクターで、長所もほとんどなく無難に、何事も無くAIが友達という人物である。見た目も一般的であり、友人や恋人も無く日々の暮らしを「生きている」男性。そんな人物像がどこかリアルであり、残念ながら彼にあっという間に感情移入出来てしまった。徐々に登場人物が増えていく訳だが、ジューシーさんのキャラクターが魅力的で、こうも見事なドSキャラは漫画チックではあるが、与太郎との対比でとても映えた人物像になっている。
一方、与太郎の唯一の友人とされる西丸については、与太郎とのやり取り描写がとても少なく、何故彼らがお互いにこれ程に関わり合っているのかが少し希薄に思ってしまった。彼ら2人の関係性の描写が、もう少し詳しく描かれていれば、終盤にかけての与太郎と西丸のやりとりにもっと深さが出ると思うし、この物語自体にも厚みが出るように思う。
その他、他の登場人物たちも生き生きしており、それぞれの生き様や考え方をしっかりとこの作品に持ち込んでいる。筆者の作品は、事件の大枠を写し、後日談などは読者に想像させる作品が多いが、もう少しエピローグとして、与太郎の日常の描写を匂わせて欲しかった。彼らがこのあとどうなるかも興味あるし、与太郎と言う事物がどういう風になっていくのかも知りたかった。
他の乾燥を読むと、格闘ゲームを主題とした設定に少し抵抗感があるようだが、個人的には格闘ゲームに多少の理解はあるし、他のゲームシステムみたいな使い方でも特に違和感は無いのだと思う。大事なのは世界を崩壊するプログラムが、与太郎だけが理解することができ、それを反映する形が格闘ゲームであったということである。発想はとても面白いし、凡人でやる与太郎を主人公にする上でとても良い要素になっていると思う。
今作もとても面白かった。筆者の作品は何種類か読んでいるが、冒頭から終盤にかけての畳みかけが熱量が、ものすごい。今作も例にもれず、終盤へのたたみかけは素晴らしく世界観も見事だった。 -
Posted by ブクログ
近未来SFな世界観で、大きな陰謀に巻き込まれた平凡なサラリーマン。なぜか格ゲーで世界を救うことに?!
一般人が陰謀に巻き込まれるのはわりとよくある展開ではあるのですが、魅力的な世界観もあいまって飽きさせないつくり。こういうのってともすれば世界観を理解するのに結構なボリュームさいてしまって読み疲れちゃうこともあるんですが自然とだんだんに理解できるのがよかった。
あと格ゲー好きなので言ってることだいたいわかるから楽しめましたが、そうじゃない人は読んでいて楽しめるのだろうか?と変に心配してしまった。まあ独特の用語を含めて「よくわからんSF的な用語」として認識されてるのかもしれませんね。 -
Posted by ブクログ
主人公は小中高一貫の天錠学園で
スクールカウンセラーをしている奥貫千早。
新年度が始まってすぐに飼育小屋で飼われている仔山羊の足の腱が鋭利な刃物で切られるという事件が起こった。
そんなある日、高等部一年の野津秋成が相談室を訪れる。
彼は「山羊は、ぼくがやりました」「ぼくは、人を殺してみたい」「できるなら、殺すべき人間を殺したい」
そう千早に打ち明けた──。
一方、かつて残虐な連続監禁暴行事件を起こし 十五年間服役していた入壱 要が同じ市内で暮らしているという噂が広まる。そして その事実に近隣住民の間に不穏な空気が高まっていく──。
異端の者を受け入れる社会の在り方を模索する千早だったが………。
読んでいて 自分はどうしようもなく感情で生きているなぁと気づかされる。
入壱には最後まで“嫌悪感”しかもてなかった。
一方で千早とその師である心理学者の寺兼の会話はとても興味深かった。
寺兼が見抜いた入壱の衝動の本質。
入壱は自分の衝動にふさわしい方法を誤ったということ。
そして我々と彼の差は、実はその程度だということ……。
この物語の冒頭は “A” の話からはじまる。私は途中までこの “A” は野津秋成のことだと思っていた。でもそれは間違いだった。 終盤からラストで “A” が誰だかがわかる。 そんな構成もよかった。
心理学がらみの難しいテーマだけれどミステリーとしてもとても面白かった。