呉勝浩のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
「どうせ役に立たないくせに」
「うん。でもぼくだって、たまには心の命令に従うよ」
「主題が新しいわけじゃない。新しいのはそれを表すやり方だ。いいか、ヒー坊。けっきょくのとこ小説や映画が描くのは人間なんだ。そして人間なんてのは、そう簡単に新しくはならんのさ」
意識が二十年前の夏へ飛びかけた。唇を結び、言葉を殺す。語れない物語がある。語れないがゆえに、忘れられない物語が。
鳴りつづけるPHSを乱暴につかんだ。ディスプレイに、090からはじまる十一桁の数字が映っていた。ケータイ電話というやつか。「はい」と応じながら、疑問がかすめた。この番号を知っている人間は、すべて登録しているはずだ。
〈二十二年と六ヵ月ぶりだね、ヒーちゃん〉
「声くらい聞かせてやったらどうだ」
<声を聞かせてどんな得があるの?〉欣太が可笑しそうにいう。〈損をするパターンならすぐに七つは挙げられる。不倫快、気づまり、脅される可能性。あと、怒鳴られたら耳が痛い〉
「もういい、わかった」
〈失望っていうのもあるね〉
「それは、お互いさまだ」
佐登志も画面を見つめていた。茶化す様子はなく、かといって楽しんでいるふうでもなかった。たぶん自分も、似たような顔をしているんだろう。同窓会。もしも河辺の人生が映画で、ここがラストシーンなら、それなりのハッピーエンドに見えるのだろうか。
その心境は、わかりすぎるほどわかった。退屈だったのだ。人生が、どうしようもないほどつまらなくて、酒とギャンブルくらいしか熱くなれるものがなくなって、少しずつ、何もかもがどうでもよくなっていったのだ。
なんだこれは、と自問する。骨身に染みていたはずだ。人生はこんなものだと。上手くいかないのがふつうだと。だからシンプルな生活を守ってきた。期待は疲れるからだ。やり直せる歳でもないからだ。なのにいまさら、何を落胆してるんだ?何を望んでいたんだ。
〈過去は無意味で未来はわずかだ。ならぼくは、この瞬間に従うよ。心が命じるままにね〉
「油断せず想像しろ。起こりそうなことと、起こってほしくないことのすべてを。そして世の中はたいてい ー 」
「起こってほしくないことが起こるんだろ?」
おれたちが生きた時代や文脈、積み重ねた感情のほつれやわだかまり、プイド。さまざまなめぐり合わせをすべてなかったことにして、美しいパズルのピースにまで削ぎ落とすなら、あるいはそれが正解なのだ。
だがそんなものを、おれたちは人生と呼ばないだろう。
怖かったのだ。時間が経ち、この怒りや感情が冷めてしまうこと。純粋さを失ってしまうこと。一歩を踏みださない理由を見つけることは簡単で、どれほど楽か。そうやって得た平穏が、ゆっくりと鈍色に染まっていく年月が、いかに重く、息苦しいか。立ち止まり、やり過ごす。その代償をおれたちは、何十年も、身をもって学んできたんだ。
あと一度くらい、いいだろ。心の命令に従ったって。
「佐登志さん、いってた。金塊とは関係なしに、なんかあったらあんたを呼べって。困ってたら、助けてくれる。頼りになる奴だって。あいつはおれの、栄光レッドなんだって」 -
Posted by ブクログ
個人的に『爆弾』より面白かった。
理不尽な無差別殺人事件の生存者が集められ、それぞれの当日の行動を尋ねられるが、その会の本当の目的は不明。参加者の互いの素性も確かでなく、なぜ自分たちが集められたかも不明。ショッピングモールの防犯カメラに映っていることと映っていないこと、司会の徳下がどこまで知っているかわからないことなど、不謹慎ながら人狼のような推理ゲームのようで緊張感があり面白かった。
何か事件があったとき、我々は誰が悪だったのかを知りたくなる。でも作中にある通り、人は白と黒ではっきり分けることはできない。客観的な事実はひとつでも当事者にしか説明できないストーリーがある。そういった部分がうまく描かれていたと思う。
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Posted by ブクログ
ネタバレショッピングモール「スワン」で起きた無差別殺人事件。その生き残りの5人が、「お茶会」に集まった。
・いずみ:高校生。スカイラウンジの生き残り
・波多野(双海):亡くなった幸雄の父親
・生田:認知症の義父を亡くした
・小田嶋:スワンの警備員
・保坂:人を救いたかった老人
いずみのライバル・梢が、スカイラウンジで幸雄くんの遺体を盾として使ってしまい、銃で自死しようとしたところをいずみが救った。この真実をいずみは心にしまっていた。
お茶会参加者が何かを隠しているのが気になり、読み進めるのがおもしろかった!
生き残ったいずみが世間から叩かれているのが理不尽すぎて、スカイラウンジの真実はもうすこし何かあるのかと思った(実際にいずみが犯人に指示出していたとか)けど、人間らしいことだった。 -
Posted by ブクログ
小説の中の話だからかもしれないが、物語の中のお金持ちというのは大概意味わからんことをしてくるし、しかもそれを強要するという印象を持った、
誰かの言っていた「もう犯人が悪いじゃだめなんですか?」という部分にすごい共感した。
むしろそれ以外悪くないで欲しい。
最初はショッピングモールの「スワン」で起こった事件の細やかな描写、そしてそれが終わると、その中で亡くなられた方に何が起きていたかの究明。
最後は何が起きたか大まかにはわかったが、だからといって得られるものはなく、失ったものの方がみんな多い。
私は心が狭いから、主人公だけが悪役になるというのではなく、すごい嫌なことだってされてたんだよという部分はわかってもらってもいいんじゃないかと思ってしまった。
主人公だって失ったものばかりなのに、悪くだけ言われるのはモヤモヤした。 -
購入済み
またやってしまいました
こちら初版の1冊Ver.完読済
またやってしまいました
上巻の出だし何か既読感あり確信に変わり‥
加筆部分探しでもしようかとも思いましたが‥
末巻の作品解説だけ拝読して終了
ホントにシステムで何とかして欲しい
追伸
商品説明で最後に注意書で既刊であることが記載されていました
ご対応ありがとうございます、この度からは隠れ部分も全て確認して
購入致します。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「たまたま運よく、すべてを投げ捨てたくなる憎しみに出会ってこなかっただけなのだ。その幸運にあぐらをかいて、偉そうに犯罪者を捕まえてきた。まるで正義の顔をして。」
正義感を失いながらも大切な家族の安全のために刑事で居続ける男の話
何作目かの呉勝弘作品
この人の作品は世間の人の悪意が蔓延るものであるものであるという前提で描かれることが多く、そんな中で主人公がどう生きるかという葛藤が見える。
その中で明確な正しさに進むことはあまりないけれど、自分の中の決意や哲学のようなものに準じて生きていくことを決めるシーンに力強さを感じる。
この刑事も一貫して妻や身籠る子供に悪意ある事件が降りかからない確率を少しでも下げるために優秀な捜査を続けることを決めており、それが明確にわかる最後の章がとても好きだった。