呉勝浩のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ・あらすじ
県警捜査一課の番場は「現場の番場」と呼ばれるベテラン刑事。
相棒であるルーキーの船越とともに事件解決に取り組んでいく短編連作。
・感想
呉先生らしい「自分の正義」を問う作品。
妻であるコヨリとの不穏な関係が読者的には大きな謎の一つなので、これが縦軸になりコヨリに関わる大きな事件とそれぞれの小さな事件が展開して最後に交差するのかな?と思ったけど、そこが…投げっぱなしになってしまってた。
惜しい…。
私はどのミステリーでも謎解き部分は考えずに読むので(そういう楽しみ方ができない)その辺りに引っ掛かることはないんだけど、このコヨリちゃんの存在を扱いきれてなかったのが残念ーー。
帯に -
Posted by ブクログ
凄く面白かった。
世界の行方が、主人公にしかプレイ出来ない格ゲーに掛かっていると言う設定が取っ付きやすかった。
格ゲーのバランス調整をディストピア社会のメタファーとして使っているのが面白かった。
物語が動き出す前の退屈なシーンなども、小難しい事が書いてあったが意外とスラスラ読めてしまった。作者の腕が素晴らしいのだと思う。読んだと言うより気がついたら読んでいたって感覚。
この小説の残念な所は、格ゲーに詳しくないと面白さが半減してしまう所。
リーサル圏内、猶予フレーム、ニュートラル状態、起き攻め、差し返し、2択、下段と中段、236236+パンチ、画面端、コマ投げ。
ここら辺の単語は、今一番流 -
-
Posted by ブクログ
「悪になる」ことと「悪ということになる」ことの違い……後者は辛い。
「説明しようとすればするほど、ちがってくる」
銃と日本刀を持った男二人が、休日のショッピングモールで無差別大量殺人。小説の題材としては申し分ない出来事だが、テロ自体はあくまで“背景”。
本題は“生き残ってしまった”人たちの罪の意識と葛藤、いつまでも続く恐怖。それも「ある人が不可解に死亡した状況を明らかにする」というミステリー仕立てで描かれていることで、単純だったことが徐々に変わり、謎めき、深まっていく。
「罪を抱え続ける苦しみは、罰を受けるより何倍もつらい」
華やかな白鳥と艶やかな黒鳥が舞う、どちらがどちらなのか……。 -
購入済み
ノンストップの緊張感を堪能
爆弾魔スズキタゴサクと警視庁特殊犯係の類家警部補の対峙は一室に凝縮され、まるで生の舞台さながら。
言葉の応酬が爆弾のカウントダウンと連動し、息を潜めてページをめくってしまうほど。
犯人・タゴサクは、まるで佐藤二朗に当て書きされたかのようなキャラ付け。冴えない風貌の裏に、毒舌と哲学的な悪意を湛えた男。
映画では、コミカルさと不気味さを併せ持つ演技が脳裏に浮かぶ。ネット拡散の現代社会を風刺し、善悪の境界を問う深みもある。ノンストップの緊張感を堪能した。
-
Posted by ブクログ
ネタバレパイセン本。
呉勝弘著『ライオン・ブルー』は、地方の片隅に潜む人間の矜持と業を、静謐かつ緊張感に満ちた筆致で炙り出した一作である。過疎化の進む獅子追町を舞台に、交番勤務の警官が小さな出来事をきっかけに町の奥深い闇へと足を踏み入れていく物語は、単なる警察小説の枠を超え、人と土地が抱える宿命を克明に描き出している。地方社会に息づく利権や沈黙、過去の罪が積み重なって生まれる濁流のような空気は、読む者の心を静かに圧し、正義と責任の意味を問い直させる。
とりわけ、主人公・澤登耀司の苦悩は、誰もが持つ過去への後悔や、守るべきものへの覚悟を映し出す鏡であり、決して派手ではない行動の一つひとつが深い余韻を残 -
Posted by ブクログ
警官が銃を持ったまま行方不明となり、その行方を捜すためあえて異動志願した同僚の男。その土地にある田舎独特の仲間意識や人間関係、そして怪しげな先輩や同僚などに振り回されつつも奮闘する話。前半はいかにもな感じの嫌な人間ばかりの中で手がかりを探すために奮闘している感じが普通のミステリー小説っぽい感じではあったものの、後半であることが判明してからは怒涛の展開に。全体的に「正義とはなにか」みたいな哲学がテーマっぽい感じで繰り広げられていたような印象。あと、本編が終わった後に、途中に出てきた刑事のスピンオフが載っていたけど、そこまで印象深い刑事とは思わなかったけど、作者が気に入ったキャラなのかな?
-
Posted by ブクログ
ネタバレパイセン本。
警察小説でありながらも、事件解決のスリルと人間模様の温かさが巧みに融合した一冊だった。五つの短編が独立して物語を紡ぎながら、終盤にかけて静かに糸を結び、最後に全体像が立ち現れる構成は見事で、読後に心地よい余韻を残す。特に、新人刑事・船越と先輩刑事・番場の掛け合いには、硬派な現場の空気の中にも柔らかなユーモアが漂い、人物像が生き生きと浮かび上がる。事件の緊張感と、登場人物たちの人情味あるやり取りとのバランスが絶妙で、物語の奥行きを感じさせた。警察小説としての新鮮さを保ちつつ、読者の心に小さな温もりを残す、滋味豊かな作品である。 -