佐藤優のレビュー一覧
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著者大橋武夫は陸軍参謀第二部所属ではなかったものの、優れたインテリジェンス能力を持っていた。戦後そのノウハウを企業経営に活かした。本書『謀略』では著者が明石元二郎、リヒャルト・ゾルゲ、戦国武将それぞれの工作を具体的に見ていくが、その中でも特に現代人が読むべき箇所は(七)謀略を考える、であろう。こちらの箇所は作家佐藤優が具体的な解説をしているが、地政学リスクが叫ばれる昨今だからこそ、諸外国とどのような関係で付き合うべきかを考えさせられる。
まず「謀略」と似た用語に「諜報」があるが、これら用語は明確に異なる。諜報とは、単に相手の状況を知るだけであるが、それに対して謀略とは、自身の実力をなるべく使わず相手を自分の思うようにすることだ。また謀略の工作には、文書によるものとスパイによるものがある。前者は今日でいうオシントに該当する。しかし謀略を実行する場合、最も重要なことがある。それは相手に誠意をもって接することだ。これは解説で言及されているが、これは陸軍中野学校においても同様の教育方針である。たとえ協力者が欲しい情報を収集できなかったあるいはその情報がガセネタであったとしても、その人をぞんざいに扱ってはいけない。 -
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東京に長いこと暮らしている実感として、周囲には資本主義に包摂されアメリカ的フィルターを通した物の見方に染まった人が大多数だ。対して、保守・復古的価値観に意義を持つ人も散見するし、やれ風の時代だ、直観が大事だ、大いなる力だ、闇の権力者だとスピリチュアルや陰謀論に染まる人もやたらと多い。こちらはいずれも反知性主義的傾向が強く、ナイーブすぎる。
認知バイアスがある以上、情報をバランスよく、現実的に受け取ることは難しい。それでも真摯に、丁寧に情報を集め、主体的・柔軟に思考を積み上げることで強くしなやかなビューを持つことができると私は信じている。
世の中には南:北、リベラル:保守、先進国:途上国、民主主義国:社会主義・独裁専制国といったような様々な二項対立軸があって、その枠組みで世の中の構造を我々は紐解いてきた。本書では今あげたような二項対立軸を再編して、グローバルノース:グローバルサウス(インターナショナルサウス)という視点で現代の世界的社会的課題を読み解いていく。
日本の強みは「和」だ。
対立するでもなく、孤立するでも、従属するでもない。主義主張の強い国々が周囲で争っているのならば、それぞれの主張を傾聴し、和ませ、濁らせながら現実路線で行けばいい。そして彼らのいいところを吸収して学び、貢献できる点で貢献し、じっくり着実に成長していけばいい。
一矢報いようだとか、華々しく返り咲こうだとか考えるのは発奮するには良いかもしれないが、正見を備えない張りぼての自信は空回りしてしまうだろうし、下手すれば玉砕の道に突き進むリスクもある。
かといってボヤっとしていたら大波に流される。
自由と民主主義は素晴らしい。それの恩恵を得て、私は今幸せに暮らせている。しかしそれが100%正しい概念というわけでも、100%我々に馴染んでいる概念であるわけでもない。綻びもあれば、馴染まない人もいる。
グローバルサウスの面々は我々日本人以上にそう思っているわけで、彼らの理解なくして共生はできない。
日本の歴史を顧みれば、和を尊ぶとはいえ、排外精神と争いの多さがよく目につく。
不安定を嫌い異分子を敵視する性があったとしても、徐々にでも他者を理解すれば壁は薄く出来る。
米大統領がトランプでもバイデンでも、遠からずアメリカの権力は弱くなる。そしてその空白はグローバルサウスの増大によって埋まる。
メガテック企業は依然として存在するし、画期的なアイデア、プロダクト、サービスは今後もその大きな競争社会から生み出されてくるだろう。ピークは過ぎるかもしれないが、経済的な強さは今後も続くに違いない。
ただしもはや一強ではないのだから、例え相いれない価値観であろうとも、日本は今後のグローバルサウス側の面々とも関係性をしっかり築いていかねばならない。そしてそれは決して不可能じゃない。
歴史はいつだって一筋縄な予想通りにはいかない。
甘い見通しをすると上回ってくるのに、最悪の場合を想定してもその通りにもならない。
カオスな世の中に起きる大きな事件はいつだってブラックスワンであるようだ。
それでも、準備なくして事変には対応できないため、常に未来を予測・分析することには重要な意味がある。 -
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家族形態から世界を読み解く本!ちょっとあっち寄り トッドは人類学者、歴史家、地政学者として名高い。特に家族システムをベースに様々な社会現象を読み解くのが得意だ。この本は「我々はどこからきて、今どこにいるのか。」の解説書と考えてもよいだろう。
核家族は古い家族形態で、日本の直系家族の方が新しい家族形態ということを初めて知った。女性の地位も時代が新しくなるにつれ低くなるのだそうだ。ユーラシア大陸の中央部で新しい家族形態が生まれたが、大陸周辺部は古い核家族が残っているのだそう。ただ、核家族の社会は「革新」を得意とする。だからイギリスから産業革命が生じたのだと。
家族形態を切り口としてウクライナ戦争、ロシアやアメリカ合衆国の状況を語っているのが興味深かった。
トッドは反米英、佐藤優は新ロシア、片山杜秀もロシアよりなので、仲良しが同じ方向で話をしているだけのような感じもした。トッドに対して、反論や質問をもっとしてくれても良かったのでは? -
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グローバルサウスとは西洋民主主義に対する対抗概念。冷戦後世界に広まった西洋的民主主義と自由主義の概念は急速に力を失いつつある。
今世界は大きく変化しており、今までの常識で測ると情勢を読み誤る。
・グローバルサウスの特徴として、国際的協調より自国第一主義、民主主義より権威主義でも強力なリーダーシップ。
・G7のGDP比率1986年68%が2022年には42%に低下。グローバルサウスの存在感が高まっている。
・ウクライナに対して明らかに侵略行為を行ったロシアへの非難決議に中国、インドを初めアジア、アフリカ、南米の多くの国が棄権した。
アメリカ、ヨーロッパ先進国に対して明らかに距離を取る動き。
・古代ギリシャでも国の統治について、初めは王様が国を治めるが堕落していく、すると次にモラルの高い貴族が政治を握る。やがて貴族も腐敗して寡頭政治になる。次は民衆の力がそれを倒して民主制が出来るが、いずれ衆愚政治となる。そして優れた王様が出てくる。
・人類は進歩しているという思い込みは浅はかだと思い知らされる。
・トランプが勝ってもバイデンが勝ってもこの流れは止められない。今後も世界で今まででは考えられなかった事は起こり続けると思った方が良い。
日本は、そして自分はどうすべきか真剣に考えたい。
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ネタバレ橋爪さんはアカデミックながら柔軟に思考を展開できる人。佐藤さんは時々ぎょっとすることを言うので、話は割り引くようにしているが、タブーのない思考実験をする人だと思う。そんな二人の対談集。橋爪さんがテーマをまとめ、佐藤さんが捕捉していく感じで、経済・科学技術・軍事・文明という4つの切り口から大きく変わろうとしている時代の局面をとらえている。
経済ではアメリカ一強時代が終わり、中国が激しく追い上げている。脱炭素・量子コンピュータ・核融合といったテクノロジーの世界では激しいつばぜり合いや合従連衡が起こっているが、それはこれらの新技術を押さえることが次世代の覇権を握るのに大きく利するからだ。米中対立はイデオロギーの違いで対立しているのではないから冷戦というよりは帝国主義的な覇権争い。
アメリカ人は物事を見通す力が弱いという指摘は言いえて妙。見通せなくとも自らに覇権があるうちは力で相手を従わせることはできるが、中国・ロシア・中東など違う価値観を持った国々の動きは、現在とどめることができないところに来ている。
橋爪さんや佐藤さんの凄いところは視点を相手の側に移したときに、その相手に世界はどう見えるかをヴィヴィットに想像できる点だ。これは広範な知識や経験や歴史に対する洞察がなければできないが、多極化の時代にはこの感性がとても重要になると思う。
ウクライナ侵攻の前に出た本だが、この本を前提にすると、その後の2年間に起こったことが整理されて見えてくる。 -
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ネタバレ・現代のトランプ現象やBrexitという言葉を知りそこから行き着いたファシズムの概念についてわかりやすく解説してある本。政治に明るくない自分でも十分読める内容にしてくれている。
・またヒトラーのナチズムや第二次世界大戦後の経済的回復の背景にもファシズムが関わっているとわかり大変勉強になった。
以下覚書
・新自由主義的なグローバリズムが進行すればするほど、ファシズムへと接近していく。
・グローバル資本主義とファシズムのいずれにも陥らないためのシステムを描くと、私たちはユートピア主義に陥ってしまう。すなわちユートピアを目指した社会主義、共産主義、アナーキズム(無政府主義)がうまく行った例はない。
・本来のファシズムは第一次世界大戦後のイタリアに登場した失業や貧困、格差などの社会問題を国家が社会に介入することによって解決することを目指すものだったが、現在の日本ではファシズム=ナチズムを等号で結んでしまっている。
・帝国主義とは、巨大企業が国家と結びついて海外進出や植民地の拡大を図る列強の経済的、軍事的な膨張政策を意味する。
・経済的なグローバル化により、格差が拡大すると社会的不安が強くなる。そこでトランプ大統領のアメリカ第一主義やイギリスのBrexitに繋がった。これらは国家機能の回復を目指したものであった。
・ピケティの資本論で指摘がある通り、自然にしておくと貧富の差は広がっていく。それを是正するためには再分配が必要である。再分配には国家の介入か富裕層の自発的分配があるが、後者は非現実的であるため、自然と国家の介入の必要性に収斂していく。これは本来の意味でのファシズムにあたる行為である。
・ナショナリズム
民族主義
・ファシズムは資本主義と社会主義を一挙に否定する第三の道。
・バチカンはムッソリーニ時代のラテラノ協定によって成立した。
・パレート最適の考え方に従うと、資本主義が暴走して格差や貧困が拡大した場合、国家が経済に介入して社会的公正さを取り戻すべきであるという発想につながる。
・聴衆を支配するためには文節を決して中途半端にしない、文法上、正確な話し方であること、よく記憶に残る印象的で鋭いアフォリズム、安堵感を与える断定的な発言の連続。
・歴史の趨勢が物流戦であることは明々白々。しかし日本の生産力が仮想敵国の諸列強になかなか追いつきそうにない。日本はどこまで行っても持たざる国なのだから持てる国と正面きっての大戦争をやはりしてはいけない。
・特攻隊の心理として、天皇は日本国民の本質的であり、日本国民はその他であるから自分が死んでも天皇が生き残れば自分の本質は生き残るという考えがあった。
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一般市民が犠牲になり、憎しみの連鎖が止まらない。なぜハマスはテロを起こしたのか、そしてイスラエルはなぜ一般市民を巻き込んででも徹底的に攻撃するのか。日本に住む我々には理解が難しいが、2人のインテリジェンスの専門家が平易に説明してくれる。
読めば読むほど解決が難しい問題。これが第三次世界大戦の引き金にならないことを切に願う。
以下、個人的メモ。
イスラエル、特にネタニヤフ首相の内在的論理。
・全世界から同情され死に絶えるよりも、全世界を敵に回しても生き残る。
・ハマスはユダヤ人という属性を持つものを抹殺するという姿勢を持っており、テロ攻撃ができなくなるまで決定的に掃討を徹底する。
ハマスの内在的論理
・ネタニヤフの政策で、ガザ地区が天井なき牢獄にされ、電力が慢性的に不足、劣悪な生活環境、失業率上昇などで住民の不満が沸点に達していた。住民たちはネタニヤフに憎むと同時に、期待したのに改善してくれないハマスにも怒りの矛先を向けつつあった。
・ハマスとしてはイスラエルと戦う姿勢を見せる捨身の奇襲作戦をせざるを得ないところまで追い込まれていた。
・今回の戦争のきっかけはイスラエルがパレスチナ、ハマスを追い込みすぎて招いたテロが発端になっているとも言える。
・そこにサウジとイランの国交回復、そして次にサウジとイスラエルの国交回復交渉が始まったこともハマスを焦らせた。このままではジリ貧になる。イスラエルから100倍返しがくるのは分かった上でもやるしかなかったのしれない。
もっと歴史を遡ると、WW2後の相次ぐ中東戦争、WW1時のイギリスの三枚舌外交、もっと言えば2000年前の出エジプト記まで遡る話で複雑に絡み合って何が正しいとか何が原因だとかを簡単に言えるものではない。
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12人との対談をまとめたものなのでそれぞれのボリュームは控えめ。
また2017年から2023年までの間の対談がまとめられているので、会話の前提にある時事ネタには時差がある。
対談されている相手の専門が大きく異なるため感想もそれぞれについて違ってくる。
全体を通しては、「専門性分野の深堀りと浅くも広いその周辺知識を兼ね備えることがとても重要」というのが私としての感想になる。
これはある意味大澤真幸氏が本書の中で言っている、「人生を豊かに満たすには、やはり自分の井戸を掘り進めて、現実の世界である地下水脈まで掘りつくす覚悟がいる思う」や、同章で佐藤優氏がいう「周辺知識が乏しいと局所的に専門知識に詳しくてもでたらめな分析や予測をしてしまう」とも共通している。
普段私は興味の対象が広いので様々な分野の本を読んだり調べたりしてしまっているのだが、その一方で掘り尽くした専門領域がない。
私は専門領域はインプットだけでは到達できないと考えている。先行研究を踏まえた先にあるアウトプットを通して英知の輪の外に針を刺すことできるようになるし、暗黙知やオリジナリティが生まれて競争力となる。そしてアウトプットが必要となれば、そこでは脳内の情報処理による加速化の恩恵を受けにくく、詰みあがる知見は、作業にかけた時間にレバレッジ少なく比例する。
広いカテゴリーについてアウトプットをするとなると膨大な時間を要するため、より絞り込んだ、自分の興味関心に合致する分野を決めて、そこをガンガン掘り進めてアウトプットする、その量を増やす必要がある。
本書の中では元々興味のあって本書を読むきっかけにもなった真鍋氏、村田氏、斎藤氏以外にも自分が事前に知らなかった専門家たちが多く登場し、そのそれぞれがとても興味深い。とりわけ濱野氏、大澤氏、美馬氏が自分には刺さった。ここでもやはりみんな面白いと感じてしまうので、絞り込めないな~と自答するわけだが、周辺知識として知るのには申し分ないだろう。
最後に、本書の対談の中で佐藤氏の人となりも垣間見えて面白かった。
猫を8匹のほかにウニなどの他の生き物も色々飼育しているだとか、数百万円も学生に金銭的な補助をしているだとか、漫画もあれこれ読んでいるだとか、陰謀論系の話も面白く読んでいる、だとか。具体ではあるが、そういった人間味もまた佐藤氏の魅力である。