あらすじ
ウクライナに軍事侵攻したロシアは言語道断だが、「民主主義をめぐる正義の戦い」を掲げるウクライナと、米国をはじめとする西側諸国にも看過できない深謀遠慮がある。戦争で利益を得ているのは誰かと詰めれば、米露中北の「嘘」と野望と打算、その本音のすべてが見えてくる。世界は迫りくる核戦争の恐怖を回避できるのか。停戦への道はあるのか。ロシアと米国を知り尽くした両著者がウクライナ戦争をめぐる虚実に迫る。
・アメリカはウクライナ戦争の「管理人」
・ゼレンスキーは第三次世界大戦を待望している?
・英国秘密情報部が「情報」と「プロパガンダ」を一緒くたにする怖さ
・戦場で漁夫の利を貪る北朝鮮の不気味
・ロシアがウクライナ最大の軍産複合体を攻撃しないわけ
・米国とゼレンスキーは戦争を止められたはずだ
・戦争のルールが書き換えられてゆく恐怖
・恐るべきバイデンの老人力
・プーチンが核兵器に手をかけるとき
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
日本のマスコミの情報だけを鵜呑みにしたらいかんと思わせる1冊。これまでロシアが悪でウクライナが正義と漠然と信じていたし、プーチンの狂気がもたらした戦争だと思っていたが、それはどうやら異なるようだ。
ウクライナという国家もかなりの危うさを抱えているし、G7各国の劣化も間違いなくある。片方の情報に依存するのでなく中立的な観点で分析しなければならない。
Posted by ブクログ
ウクライナ戦争の分析をするのにこれほどの適任者はいないですよね、という2人の対談ならば読まない手はないと、書店で目にして即購入でした。
期待を裏切らない内容です。
ロシア語・ウクライナ語・ベラルーシ語に堪能な佐藤優氏は、ヴァルダイ会議でのプーチン発言を丸々翻訳したなかから貴重な知見を提示してくれますし、
英米の諜報活動に詳しい手島龍一氏は、侵攻を予告したバイデンの失策を手厳しく批判します。
ゼレンスキーの国内での立場や大統領になった経緯等にも詳しく触れられていますし、
ウクライナを利用してロシアの弱体化を目論むアメリカの戦略も生々しいです。
最後、歴史・宗教が異なるウクライナの3つの地区での分断による戦争決着の可能性等、日本から見える情報だけではなかなか思い至らない景色を見せてくれるのが、この本の素晴らしいところだと思いました。
Posted by ブクログ
本書内で佐藤さんと手嶋さんのどちらかが、世界は「今の日本にはなにも期待をしていないのかもしれませんが」という意味のことを話されていました。
ロシア情勢は大惨事になった3月22日の劇場テロが起こされてしまい、現在緊迫してさらに悪化していきそうな状況です。
まえがき
手嶋龍一
第1章
アメリカはウクライナ戦争の”管理人”
「在庫一掃セール」で潤うアメリカ軍産複合体
第2章
ロシアが侵攻に踏み切った真の理由
クリミア半島はなぜウクライナ領なのか
第3章
ウクライナという国 ゼレンスキーという人物
第4章
プーチン大統領はご乱心なのか
第5章
ロシアが核を使うとき
第6章
ウクライナ戦争と連動する台湾危機
第7章
戦争終結の処方箋 日本のなすべきこと
あとがき
佐藤優
Posted by ブクログ
ロシアによるウクライナ軍事侵攻の背景、米国や中国などの思惑などがとてもわかりやすく書かれていて勉強になった。
戦争というとどうしても感情論で語りがちになるけれど、和平実現のためにはリアリティに基づいた冷静な分析と判断が必要というのはもっともだと思う。
ウクライナについて書かれたものは多くあるが、この2人の著者の言うことはとても説得力がある。
Posted by ブクログ
ウクライナ戦争を侵略者ロシアから民主主義を守るウクライナという単純な時点で見る事への警鐘が具体的に書かれた対談本。
ウクライナとロシアとの歴史を遡って今を見れば、今の西側メディアの視野の狭さ、思慮の浅さが絶望的に見える。
この戦争はアメリカがウクライナを使ってロシアを弱体化させるというアメリカによって管理された戦争と言う。
この本の出版当時はその通りであったはずだが、イスラエルでも戦争が起こって、アメリカが今後の明確な戦略を持っているのか疑わしい。
19世紀くらいから続いた西洋普遍主義、戦後のアメリカ一極体制が今まさに変わろうとしていると感じる。
その意味でプーチンの見立ては正しい。
日本がすべき事は国際政治で基軸となる3つ、価値の体系は守りつつ、利益の体系と力の体系を見てしたたかに日本の立場を守る。台湾危機を発生させない事が一番大切。
Posted by ブクログ
結局は、核兵器か。
珍宝島事件/ダマンスキー島事件から世界は、動いた、と。
その流れでキッシンジャーが訪中し、今に至ると。
中東戦争でも、核使用一歩手前までいったっけ。
余談、彼の師匠が、ドラッカーのライバルだったよな。
ケネディ暗殺もレベル的には、一段下の国内の利権絡み。やはり、大国の本命は、核の使用及び、恫喝力による先進国の統治。それが、揺らいでいるか。
ブリックス及びグローバルサウスの台頭。北朝鮮もこれに絡むと。たぶん、汚染水騒動もスピンの一種になる。
木原っちって、使えるやつなのかね、やはり。
それにしても、核兵器、安くなったもんだ。
世界のどこかで核兵器が使用されたら、色々な意味で、本質的に我が国も変わるのだろうな。
それ以外は、まぁ、南海トラフ地震かな、いや、核の方がより上か。
そういや、戦前か、地元に日揮の工場があったよな。
ここからかなり若い娘さん達が、嫁いだとか聞いたな。アフリカも不穏だよね。
天災よりも、そのレベルのことでも起きなければ、ジャニーズ報道のマスコミの現状から変わらないかな。権力の腐敗で済むもんな。李朝末期よりもインカ滅亡に近い気がするな、鬱?、あははは。
ああ、教皇がモンゴルに行ったな。
今こそ「地球儀外交」の出番!
2023年8月読了。
この御二人は、予々様々なメディアで恐ろしく冷静且つ正確な「インテリジェンス」を教えてくれる、日本でも貴重な存在だと思っている。
今回の戦争にあたっても、新聞,テレビ,その他メディアからの情報について「本当にそうなのか…?」と云う疑問点が少なくなく、隔靴掻痒の感が有ったのだが、正にドンピシャリ!生々しい国際状勢の深淵を覗かせて頂いた。
このぐらいの「情報収集能力」「情報分析力」が、今の岸田政権内でグリップされているのか甚だ疑問であり、それだけ将来への不安感が増大している。
文中にもあったが、先入観やそれまでの「常識」に囚われず、虚心坦懐に情報を集め、分析する力が、今現在ほど喫緊の課題として求められている時代は無い。
NHKでも何処でも、のほほんとBBCやABCのニュースを転送するだけでなく、もっと深い洞察力をもって分析する能力を高めて欲しいと切に願う。
そして「自称ロシア研究家」や「自称国際事情通」の類が、山の頂上から見下ろす如きにノンビリと語っている「全面核戦争の可能性もある現状」を、本当に〝理解〟している様には見えない口振りで解説しているのを見るにつけ、「日本人のお花畑的平和主義」を助長させていることに腹立たしさすら感じる。
岸田総理、「安倍さんからの宿題」を一刻も早く進めてください!!!
Posted by ブクログ
日本でインテリジェンス情報を分析できる、超一流の論客お二方によるウクライナ戦争を巡る対談。佐藤氏の同様の著作もほぼ読んでいるので目新しいところは少ないが、流石手嶋氏のインテリジェンス情報が重なると、奥深さも一際。テレビ・新聞の戦争報道を正しいものと思っている方にこそ、読んでほしい。ロシア(プーチン)の内在論理と如何にアメリカの対応が酷いものかが理解できるはず。
Posted by ブクログ
お互いに尊重し合いながら対話が進むのだが、今さら、佐藤優と手嶋龍一の関係が気になった。手嶋は、元NHKの元ワシントン支局長であり、外交・安全保障分野における記者経験やインテリジェンス作家としての経験を持つが、情報機関の当事者ではなかったので、実際に国家情報機関で諜報・防諜活動を行った佐藤優とは立場も経験の厚みも異なる。佐藤優のような実務者から見れば、手嶋龍一は「インテリジェンスの世界に憧れる観察者」であり、「真のプレイヤー」ではない。しかし、日本社会において戦略的思考やインテリジェンスの重要性を啓蒙した功績は評価に値するというような所ではなかろうか。
面白かったのだが、過去に佐藤優は次のようなことを書いている。「最近は、インテリジェンスという言葉が氾濫している。元外交官である私から見ると、実務経験のない者がその言葉を使うことには違和感を覚える。」「情報というものは、戦場で弾が飛び交う中で、あるいは人の命を懸ける交渉の場で、本当の意味を持つ。そうした修羅場を知らずして、知ったふうに語る者の書いたインテリジェンスは、どこか軽く感じられる。」
手嶋龍一を皮肉っているようにも見える。だが、本音は分からないが、結局、今となっては佐藤優も実務からは退いており、同じ貉。こうした対談に対しては、どことなく哀愁のようなものも感じなくもない。
さて、特に本書のような佐藤優の職場であったはずのロシア、ウクライナ事情において、そのようなことを感じたのだ。
― ただし、プーチン大統領に責任があるからといって、その不正義を指弾するため、すべての領土を奪還すべく戦い続けることがいいのか。停戦の機を見出して、ロシアとウクライナを話し合いのテーブルに着かせる外交努力を国際社会はしなくていいのか。無期限にして無制限の戦争の果てに、核戦争が起こっていいのか。それでも、ウクライナに“正義の戦い”を続けさせるのか。いまこそ、危険極まりない戦争を止めなければ(手嶋)。
・・そこが我々の共通認識であり、この本を出す目的です(佐藤)。
極めて高度な、二人の〝観察者“の〝批評”が並ぶ。悲しきかな、一人は〝元“インテリジェンスである。
Posted by ブクログ
「わかりやすく解説」するニュースよりよほど分かりやすく歴史の襞に分け入っていると思う。
p. 60 ウクライナ東部のルハンスク州、ドネツク州の住民を擁護し、非軍事化するーープーチンは、こうした名分を掲げて侵攻に踏み切った。しかしこれは今回の侵攻での「戦争目的」に過ぎません。ここに至る経過は長くて複雑です。(中略)
ソビエト連邦は解体を余儀なくされ、それに伴ってNATOに対抗してソ連、東ドイツ、ポーランドなどが結成したワルシャワ条約機構も解体されました。このとき、西側陣営は「国際社会の脅威はこれで消え去った」と勝利に酔いしれ、ワルシャワ条約機構が消滅した地域にNATOを拡大していきます。(中略)
この時ロシアは、バルト三国には拡大するな、これが“レッドライン”だと抗いました。にもかかわらず、2004年には第五次拡大に乗り出し、問題のバルト三国に加え、スロバキア、スロベニア、ブルガリア、ルーマニアの計7ヵ国を取り込んでしまった。(中略)NATOは東へ東へと進んでいきました。冷戦の勝者はまことに鈍感だったと言わざるを得ませんでした。
加えてロシアがあれほど抗ったバルト三国へもNATOを拡大したことで、アメリカにはロシアが唱える“レッドライン”も強く押せばいくらでも変わると言う成功体験が刻み込まれてしまったわけです。
p. 68 何がプーチンに(2008年のジョージア)軍事侵攻を決断させたのか。“8月の砲声”があがる4ヵ月前、ルーマニアのブカレストでNATO首脳会議が開かれました。その首脳宣言は「NATOはウクライナとジョージアがNATOの一員になりたいと言う希望を歓迎する。我々今日両国が将来的にNATOの一員になることに同意する」と述べています。NATOの正式な決議では無いものの、ウクライナとジョージアをNATOに向かい入れると言う基本的な方向が示された。これはプーチンの虎の尾を踏むきわめて危うい振る舞いでした。(中略)
この宣言はいくつもの危うさを内蔵していました。まずウクライナとジョージアをNATOに迎え入れると宣言は述べていますが、単なる希望の表明に過ぎない。NATOに加盟するには、厳格な条件と手続きが必要で、両国はその条件を必ずしも満たしていません。国内に紛争や領土問題を抱えていれば加盟できない。アメリカもそんな事は百も承知だったのですが、対ロ外交で何か実績を残しておきたいと考え、加盟を実現する確かな見通しもなく、そのための外交努力もしないまま、宣言に盛り込んでしまった。実体なき“言の葉外交”の悪しき事例です。超大国の外交としては、これだけはしてはいけないと言う典型です。
はたして、プーチンの激烈な怒りを招くことになってしまった。NATOがウクライナを呑み込んでさらに東に迫ってくる。これはロシア存亡の危機であり、もはや我慢の限界だと。そして言葉通り、ジョージアが先制攻撃を仕掛けてきたのに乗じて、国境のトンネルを通って、武力侵攻に出たのでした。(中略)
アメリカ外交には、相手国の内在的な論理に鈍感な荒っぽい遺伝形質がありときにそれが噴出してしまう。ロシア側があれほど反対したバルト三国もNATOに組み入れられ、最後の緩衝地帯とみなすウクライナとジョージアにも手をつけようとしている。ロシアは柔らかい脇腹にドスを突きつけられたと受け取ったのでしょう。ドイツのメルケル首相とフランスのサルコジ大統領は、そうした機微に少しく通じていましたので、はっきりと異を唱えたのですが、アメリカ側の強いい姿勢に押し切られてしまいます。(中略)
あそこが、現代史の岐かれでした。ジョージアにあがった“8月の砲声”こそ、今のウクライナの戦争をまさしく先取りしていたと見るべきでしょう。
p. 104 ウクライナは、ソ連が崩壊した後の1991年12月28日に、独立国家となり、ロシアとも西側諸国ともバランスを取る中立政策を標榜して出発しました。しかし、実際にはその時々の政権は、ロシア寄りになったり、EUに軸足を置いたりと、揺れ動いてきた。
ウクライナのヤジロベーといわれる現象ですね。
p. 110 ウクライナ語しか認められなくなれば、ウクライナ語で書類を書けない人は公務員の資格を失います。(中略)公用語をどうするかという問題は、言語的た属性によるポスト争いの性格を帯びるんです。
p. 115 ロシアの命運を握る軍需拠点をウクライナに置いたのは、フルシチョフがクリミアを渡したのと同様、よもやウクライナが分離・独立し、ロシアに楯突く存在になるなど、想像すらしていなかったからです。(フルシチョフは1954年に融和政策の一環としてクリミアを贈与した)
p. 132 ウクライナ側がわざとポーランド国境近くにミサイルを撃ち、ロシアの仕業にしてNATO軍に出動させる。(中略)もちろん、現場ではエビデンスのある話ではありません。ただ、直後から「ロシア犯人節」を主張し、いまだにその姿勢を変えていない。その事実は、もしかするとそういうことをしかねないと言う状況証拠にはなる。ウクライナの現状を考えると、今後、そうした現代の盧溝橋事件みたいな事態が起きる可能性は想定しておくべきです。(中略)「盧溝橋型」で始まった戦争が、核を誘発する危険性を孕んでいる。その怖さと言うものを、リアルに認識する必要があると思います。
p. 144 [ヴァルダイ会議のプーチン大統領の発言]ソ連の崩壊は、地政学的な力のバランスも破壊しました。欧米は商社の気分になり、自分たちの意思、文化、利益のみが存在する1極的な世界秩序を宣言しました。(中略)私たちは、第二次世界大戦後、おそらく最も危険で予測不可能な、しかし、 重要な10年を前にして、歴史の分岐点に立っているのです。欧米は単独で人類を支配することはできないが、必死にそうしようとしており、世界のほとんどの国々はもはや我慢の限界に達しているのです。これが新時代の大きな矛盾です。このような状態は、世界的な紛争、あるいは紛争の連鎖をはらんでおり、西側諸国を含む人類にとって脅威となるものです。この矛盾を建設的に解消することが、今日の主要な歴史的課題です。
→戦争の当事者とは思えない、実に冷静な分析です。
p. 151 彼が口にする通り、「世界秩序全体の地殻変動」が起こりつつある。「民主主義を投げ捨て、無謀な戦争に走ったロシアは、孤立を深めている」といった見方で凝り固まっていると、戦争の霧が晴れたとき、地政学的に以前とは全く異なる景色が広がっているのに、西側世界は愕然とすることになるかもしれません。(国連の特別総会による決議で、「国境を越えて主権国家に踏み切ったこと、その領土を強制的に併合したことを非難する。決議案では賛成が圧倒的だったが、人権理事会からの排除、賠償金の支払いと言う議案に関しては、決議は成立したものの、賛成票は過半数に達することができなかった。(中略)「反西側」のエネルギーは、想像以上に底堅いことが読み取れます。プーチン大統領はウクライナ侵攻が初の記者会見で「ロシアは世界から孤立するつもりもないし、ロシアを孤立させることも不可能だ」と語った。決して強がりではなかった。)
p. 160 「我々は究極的に勝利して、世界は我々の価値観によって統治される」という理念で貫かれていたという点で、アメリカの自由民主主義も、ソ連の共産主義も非常によく似ていた。(中略)プーチンが立脚するのは、そうした普遍主義的な考えではなく、ロシアにはロシアの歴史発展がある、中国には中国の歴史発展があるのだと。
p. 162 クリミア半島の南端の要衝、セヴァストポリ軍港を西側陣営に奪還されて、黒海へ出られなくなったとしても、中国やインドとうまくやっていけば十分生きていける。21世紀の今日、不凍港としての戦力的な価値は大きく減じているーー実に表層的な見方です。プーチンはそんな選択を決してよしとしないはずです。セヴァストポリがウクライナの実行支配下に入れば、それは1991年の地点に戻るのではない。18世紀後半のロシア全盛期に皇帝エカチェリーナ2世の時代に領有した土地のすべてを喪うことを意味します。ロシアの兵士たちがで上がった領土を失うのであり、後から手に入れた土地を譲り渡すのとは意味合いが異なります。(中略)
ロシアの国土は切り刻まれ、さらに西側の侵食を許すことになるかもしれない。そうなると、究極の発想(核戦争)が頭をもたげてもおかしくはないでしょう。彼は、「ロシアがない世界は存在する意味がない」と公言していますから。(プーチンのマッドマン的要素。イランや北朝鮮、かつての大日本帝国に近い「個人の命は有限だけれども、悠久の大義で生きれば永遠に生きるのだ」「我々の発展が担保されず、アメリカ的な原理に叩き潰されるならば、白人支配に抗って存在した民族がいたという跡が歴史に刻まれればいい」)
p. 156 歴史に残るような大きなことをする人間には、結構独身の人間が多いんです。哲学者で言えば、デカルトライプニッツカントもそうです。政治家で言えばヒトラーも自殺する直前までは独り身でした。
ある意味で、自らの事業が私生活から切り離されている。顧みるべき私生活がないと言ったほうがいいかもしれません。プーチンは2013年に離婚し家族を切り捨ててしまいました。だから私生活で後ろ髪を引かれるものがない。こういう人は極端な思考に走りやすいという考察があります。プーチンの場合は、ロシア国家の運命と自分の運命を一体化し、その思想がどんどん煮詰まっているように見えます。特に離婚して独り身になってから、すごく煮詰まっている。言い方を変えると、独りロシアの理念を追求するあまり、思想がどんどん観念化し、哲学者のようになっていくわけです。(中略)そういう人の怖さはやっぱりあるんです。その意味で心温まる家族の存在というのはすごく大切です。皮膚感覚として守るべきものがあると考えている人と、そういう存在と全く切り離されている人は、大いに異なります。(中略)
プーチンは、クレムリンでも、ソチの公邸でも、いつも一人ぼっちです。
確かにそれじゃあ、どんどんに詰まってもおかしくはありませんね。
ウクライナ戦争の一方の最高指揮官は、私生活で支えてくれる家族を持たず、孤独な環境で決断を下さなければならない思索者なのです。“プーチンの戦争”を考える時、無視できないファクターだと思います。
p. 190 習近平は「互いの核心的利益に関わる問題では強く支え合っていきたい」と述べていました。プーチンはここが勝負どころと踏んだのでしょう。「我々は『一つの中国』と言う原則を厳守する」と応じ、習近平の心臓を鷲掴みにしてみせたのでした。
「一つの中国」の原則を支持するではなく、厳守すると言ったのですから、プーチンの政治感覚がどれほど研ぎ澄まされているか、分かろうというものです。
p. 233 プーチン大統領は「ロシアの核心的な利益を冒されたときには、核の使用もありうる」と述べている。(「核心的利益」とは、p. 175によるとモスクワやサンクトペテルブルク、ロシアの核戦略の基地のほか、クリミア半島の要衝セヴァストポリ。プーチンにとって、ここを失うのはロシアの魂を失うに等しい)
Posted by ブクログ
自画自賛と、お互いの誉めそやしがやや鼻につくが、ウクライナ戦争の深部のところを、肝の部分だけでなく大局的な視点、そして歴史的な背景から豊富な知識と経験から語られてるので、ウクライナ戦争について理解が深まった。
たた知れば知るほど、解決の道が霞んでくる。
10年戦争は現実になるような気がしてくる。
Posted by ブクログ
全面的には賛同できないが筋は通ってる。訳のわからなかったプーチンの思考が何となく判った。すると今後の展開も想定し易くなり、不安で落ち着かなかったのがマシになった。この本を読む前後の違いは大きい。
Posted by ブクログ
ロシア大使館勤務の経験がある佐藤優の話を聞きたかった。テレビとかでは誰も語ってくれない「あのニュースの違和感は何?」って疑問の答えを期待以上に答えてくれます。
Posted by ブクログ
ウクライナとロシアの戦争についてこれほど的確な見識を述べた書物は少ないと言える。メディアや一般の作家から出てくることはウクライナが善、ロシアか悪と描かれているが本当は異なることがこの作品を読むとよく理解できる。ウクライナ東部でのウクライナと親ロシア派の対立が、この戦争を引き起こしたことは明らかだが、それ以前の歴史を紐解けば結論を急ぐべきではなかったのである。犠牲になるのは平和に暮らしていた民衆達で、悪は権力を握るウクライナ政権の中枢の人々そしてアメリカである。プーチンが行っていることには賛成はできないが、これに関してはロシアに大義があると個人的に考える。
Posted by ブクログ
プーチンを正当化できないが一応国際法上の辻褄合わせはしていること、日本のニウエ承認との比較、ローマ教皇の失言とウクライナ戦争へのバチカンの関与、戦争の経過でプーチンの考えが変わったこと、バラバラなウクライナ軍、情報源としてのISWの評価、ウクライナを勝たせるつもりもなく戦争を管理するアメリカ、今の悲劇の原点であるグルジア戦争、セヴァストポリ軍港を失えないプーチン、バイデンの開戦情報リークは失敗、劣化したイギリスのメディアや情報機関、ウクライナが西部と東部で全然違うこと、ポーランドに落下したミサイルの意味、プーチンがマッドマン的な要素を持ちつつ正気であること、中露が同床異夢ではないこと、停戦についてなどなどを話し合っていて面白い。
Posted by ブクログ
日本のメディアで報じられるウクライナ戦争の進捗やロシア批判の論調だけでは足りない情報や視座を与えてくれる一冊。
ロシアのふるまいは国際法的にも許されるものとは言えないが、
ロシアが国際社会で孤立しているかというとそんなこともない。
そしてウクライナ戦争開始にはアメリカやNATOにも落ち度はあったわけだし、
アメリカとしては戦争が続くことによるメリットも享受している。
ウクライナ、ゼレンスキーにも黒い歴史があり、今にいたっている。
ウクライナの兵器、宇宙産業の存在は一つポイントになる。
プーチンが狂ったかのように日本では報じられるが、基本的にプーチンはプーチンなりの思想でしっかり動いていると思われる。
日本は口ではロシアを避難しつつも、サハリンの液化天然ガスなど、
ロシアにお金は回しており、利益は捨てない動きをしている。
ある意味ロシアとの関係が残っている日本。
なんとなく思っていても事実ベースで理解することが難しい各国の打算や裏を、インテリジェンスの専門家の対話から再確認できる本でした。
Posted by ブクログ
元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏と、外交ジャーナリストで作家の手嶋龍一氏の対談。
流石外交経験や情報リソースが豊富な二人の会話形式の本なので、ウクライナ戦争で、あまり表には出てこない内容が詰まっていると感じた。
第1章 アメリカはウクライナ戦争の"管理人"
第2章 ロシアが侵攻に踏み切った真の理由
第3章 ウクライナという国 ゼレンスキーという人
第4章 プーチン大統領はご乱心なのか
第5章 ロシアが核を使うとき
第6章 ウクライナ戦争と連動する台湾危機
第7章 戦争終結の処方箋 日本のなすべきこと
ロシアの核心は、かつて血を流して獲得したクリミア セバストポリ。ここに手を突っ込むと、ウクライナ各地に核ミサイルを飛ばされるかもしれない。するとNATO軍は報復のためウクライナに越境、戦略核による応酬と言う最悪のシナリオが起こる可能性も出てくる。
アメリカの戦争目的はロシアの弱体化。
日本は官僚的な「法の支配に基づく…」の発言(価値の体系)だけではなく、利益の体系にも軸足を移すべき。
終わりの見えない戦争となっているが、何年続くの?と思ってしまう。勿論ウクライナの心情も分かるが、ウクライナの南東部は、元々ロシア系の人が多く、歴史や文化でも、ウクライナ中西部とは随分違うらしい。
どこかで、お互い妥協するところが必要なのだろう。
Posted by ブクログ
国家の境界は重要と認識されているにもかかわらず、人工的であったり、曖昧であったりすることから、容易に争いの要因になる。
個人間では、国家が法的に秩序をコントロールに努めるが、国家間ではそのような機能が働いてきない。
このような点に、島国、海洋国家で育つとなかなか鋭敏にはなれないことが、お二人の話から理解できました。
Posted by ブクログ
ニュースや情報番組での報道には確かに偏りを感じる。インターネットが普及したからこそ、反対に見えなくなっているものもある。個人のレベルでは大切なものを失う悲しみもあり、そういう報道も人間として重要だと思う。特に戦争のような大きなものは、好き嫌いを置いておいて、いろんな角度から検討する必要がある。
Posted by ブクログ
2023年時点における紛争の分析や日本のしたたかさ、台湾の意味など重要なポイントが指摘されている。今年(2024年)は岸田も退陣する(9/24時点で後継は不明だが)バイデンもいなくなる(これもまだわからない)。これによりまた情勢も変わっていくことは予想される。さらなる報告をききたいものである。
Posted by ブクログ
この本を読むと、岸田政権の偏りが、気になります。戦争終結の落としどころはどこか、考えているとは、思えない。自民党の党是であるアメリカ追従でどこまで行けるのか、難しいところだ。
Posted by ブクログ
外交ジャーナリストで元NHKの手嶋龍一氏と元外交官のラスプーチンこと佐藤優氏がウクライナ戦争について語る。
西側の視点からしか見ない日本人からすると新鮮なとらえ方がいくつも出てくる。
「アメリカはウクライナを勝たせるつもりなはない」(管理した戦争)「在庫一掃セール」などなど。また、NATO拡大の超えてはならないラインだとか、英国のエリートの消滅、ウクライナの複雑な民族文化構成や歴史、「破綻国家」(腐敗と汚職と財政難)の側面などなど。
国際政治のバランスは思った以上に西側に不利になってきているらしい。そうした中、核大国・ロシアに対して「正義」を声高に主張してもしょうがない。現実的な平和への道を、世界が進まないといけない。そのためには、すごく遠回りではあるが、健全な世論の醸成、正確な情報から堅実な判断をする有権者が必要だ。