みすず書房作品一覧

  • オシムの伝言
    3.6
    日本代表通訳として常に傍らにいた著者が、イビツァ・オシム氏の日本での足跡を克明に記した迫真のドキュメント。日本代表監督としての軌跡、闘病の日々、日本サッカー協会アドバイザー就任から離日まで、その全期間923日の活動と発言が時系列で描かれている。オシム氏の思想とフットボール哲学、サッカー界への提言を伝える。また、はじめて明かされる闘病の記録には、胸を揺さぶられる。構成は、時間軸に沿いつつ、「人生」「スタイル」「リスク」「個の力」「誇り」「自由」「エスプリ」「勇気」「希望」「魔法」など、章ごとに主題が設定された29項から成る。セルビア・クロアチア語に通暁する著者が、オシム氏のユーモアや思想の真髄を伝える。コミュニケーションの精度の高さゆえ、類書とは一線を画するものとなった。すべてのオシム・ファンとサッカー愛好者に贈る書。
  • 谷中、花と墓地
    3.0
    「どの国においても、墓地は美しい。東京の墓地も例に漏れない。しかし、私の見た限りでは、ほかの国では見られない特色がいくつかある。第一は、花の季節になると町中でもっとも賑やかな場所となることである。まるで盛り場。死者と生者が交流して花を楽しんでいるといった感じである。日本人ではないから、これは神道の影響であるといった差し出がましいことは言えないのであるが、なにかそういう関連があるような気がする。アメリカの開拓時代にも、亡くなった者を裏庭に埋葬する習慣があった。幾分似ているような気がする。とにかく桜の花の満開の時は、賑やかな谷中墓地は独り歩きに理想的な場所であった。…………町を散歩するとき、昔から金のたっぷりある界隈よりあまり裕福でない所の方が好きである。谷中の墓地の中でもっとも惨めな墓は、高橋お伝のものであろう。墓地の端っこの公衆便所のそばで今にも滑ってなくなりそうな感じである。私はここが大好きで、側に立ってお伝の顔を想像して、ご苦労さまと言いたくなる」東京は湯島に住みなして、三社祭の見世物化を憂い、四季の桜・藤・朝顔を愛でながら、浮世を眺め暮らす。古今の日本文化を味得したアメリカ生まれの文人による極上の随筆34篇。

    試し読み

    フォロー
  • ブルームズベリーふたたび
    -
    1巻2,090円 (税込)
    「人生のやりなおしがあり得ないぶん、自分のなかに出来上がっている枠組みは不動で、内なるレンズはすでに透明度を失っている。どれほど対象が新しかろうと、自分に備わった尺度で風景を切り取り、意味を与えがちである。…日常のなかにいるかぎり、それが繰り返される。日常の外に出るとき、わずかではあっても、自分の認識が揺さぶりをかけられる瞬間がある。立ち止まってレンズの曇りを払い、歪みの理由を探ろうとする。空間の旅が時間の旅へと転化し、外側の風景が内なる風景を照らすに至るのは、そのようなときである。カンヴァスを前に非日常の風景が必要なのは、自分の内側をより効果的に映し出すためではないだろうか」(夕映えの旅景)休暇を待ち切れぬようにしてトルコとクレタ島へ出かけ、ネパール旅行に加わり、ふた夏をイギリスのケンブリッジで過ごす。旅行の影の同行者はブルームズベリー・グループの人々、わけてもE・M・フォースター、ケインズ夫妻、ヴァネッサ・ベル…しかし旅とはついに自分自身との対話である。カトマンズであれクノッソスであれチャールストンであれ、旅先での出会いや出来事はおのずと自身の過去につながり、ときに思いがけない記憶が蘇る。この過去と重なる現在のなかで、著者は他ではあり得なかった自分を再確認する。まずは軽快に、そしてときに辛辣ときにユーモアを交えて、三つの旅はその意味を深めつつ転調してゆく。旅に重ね合わせて、軽妙にしかし力強く語られた個人史…本書はまぎれもなく第一級の文学的紀行=エッセーである。

    試し読み

    フォロー
  • 読書教育――フランスの活気ある現場から
    4.0
    本書で紹介される「読書教育」より。■パリ読書センターが小学校からの要請を受けて練り上げる「読書アクション」プログラム。学年を超えてグループでテーマ読書をする。先生とセンター職員で指導。■日本でも話題になってきた「高校生ゴンクール賞」。フランスの芥川賞に当たるゴンクール賞候補作から、高校生が独自に受賞作をえらぶ。多量の新刊本とイベント費用は、フナック書店チェーンが提供。■老いをテーマにした「クロノス賞」。国立老年学財団が創設した1996年当時は230人だった審査員が10年後には4万人を越えた。幼稚園児から高齢者までのあらゆる世代が参加して6つのセクションで選考。■町の書店が協力して立ち上げた「アンコリュプティブル賞」。パートナーとなる24の出版社が提案する児童書・少年少女ものから、先生・司書・司書教諭・読書アニメーター・書店の児童書担当者などが選考した本から全国の子どもたちが選んで決める。■司書教諭が参加希望して毎年おこなわれる「プレス週間」。多数の新聞が図書室に持ち込まれ、キオスク状態になる。それを教材に国語・歴史・地理・市民教育の先生たちが、それをテーマに授業を繰り広げる。

    試し読み

    フォロー
  • 通り過ぎた人々
    3.0
    花田清輝に見いだされ、学生のころより新日本文学会に加わり、2005年3月の解散時まで半世紀にわたって在籍した著者が、そこで出会った人々の思い出を書き残しておきたいと綴った。井上光晴、小野二郎、菅原克己、藤田省三ほか、とりあげられた18名はすべて物故者。「自主独立的に誇り高い人々であったなぁ。団体なのに独往邁進、ではなくて、独往邁進する連中の団体が、あるときあり得たり、あり損ねたり。そんなおかしな空間と時間が、とにかくあった証拠の18例です。あぁ、おもしろかったなぁ。しょせん時勢はくそいまいましいまでにせよ、こんな人と時代があったことを、いささかお汲みとりいただければ、もって瞑すべし」新日本文学会とはなんだったのか。軽妙なタッチでペーソス豊かに描かれた追悼録から、戦後日本を代表する文学運動体の盛衰が浮かび上がる。

    試し読み

    フォロー
  • 東アジア人文書100
    -
    20世紀後半の東アジアではどのような本が読まれ、評価を得てきたか。東アジアの出版の共有財産として、相互で翻訳出版すべき人文書100冊を、国を超えた編集者たちが協議して選び今後の世代におくる、人文書ガイドブックの初の試みである。本書は、2005年に発足した民間の団体・東アジア出版人会議から生まれた。日本の経験豊かな3名の出版人の呼びかけで始まったこの会議は、中国・台湾・香港・韓国・日本の編集者が自主的に参加し、総会は現在まで11回におよぶ。そこでは、東アジア各地域の人文書をめぐる過去・現在・未来を基調に、各国の情報交換や共通問題のディスカッション、若手編集者の研修、共同出版構想などが実践されている。本書はそのかたちにあらわれた初めての成果である。20世紀初頭までは、東アジア地域の本と文化と学術の交流は盛んであった。しかし、その後長くつづいた険しい歴史、さらに商業主義とグローバリズムのなか、とくに日本では中国語・韓国語の人文書はほとんど知られていない。本書で紹介されている各冊は、日本の読者にとっては新鮮な驚きであろう。「私たちは、読書を推進する上で最も重要な責任は、作者ではなく編集者にあると考えた」(董秀玉)。本書は、過去と現在を見据えつつ、新たな「東アジア読書共同体」を構築するための、小さな一歩である。[発行・東アジア出版人会議/発売・みすず書房]

    試し読み

    フォロー
  • ふるほん行脚
    -
    「近年、新刊書店にはご無沙汰しがちなのに、古本屋歩きはやむことがない。日々どこか一軒は覗いてみないと、一日の納まりがつかない気がする。本というものは古本屋に置かれてこそ、その真価があらわになると思うのは、勝手な思い込みだろうか。私の古本屋歩きは定まった目的を設けない。当面、何が必要でもないのだから、ジャンルも問わない。世間の注目や専門的評価とも無関係。偶然そこにあって好奇心を刺戟する本に出会う。むろん、安いに越したことはない。つまり、ありていに申せば、古本屋歩きは雑本の楽しみに尽きるのである」じっとスクリーンに見入っていたかと思いきや、ただひたすら古書との一期一会の出会いを求めて、あの町この町神出鬼没。東京一帯の老舗はもちろん、ニューウェイヴ書店から旅先で立ち寄った店まで、その数、いっさい重複なしのおよそ180軒。さて映画史研究家、いったいどんな本を、どこでいくらで買って読んだのか。雑本哀楽、5年間の記録です。

    試し読み

    フォロー
  • 小さな町で
    4.0
    フィリップは早すぎる死の一年あまり前から、パリの大新聞ル・マタン紙に短い物語を書いた。依頼したのはのちに劇作家になるジロドゥーである。「わずかな枚数のうちに人生の断面が、いやときには一つの人生がみごとに描き出されている。…貧困、不幸な恋、病気、老年、死――こうした暗い題材を扱いながらも、フィリップはどこかにとぼけたようなおかしみ、人生そのものの諧謔をしのびこませるのを忘れない。そのエスプリというか奇妙なやさしさ、人生を低い視点から、狭く限って、鋭く眺める、そこが日本人の感受性、美意識に合ったのではないか。」(訳者)小さな町セリイを舞台にした短編集28篇の全訳に『朝のコント』からの5篇を付した改訳決定版。

    試し読み

    フォロー
  • リニア中央新幹線をめぐって――原発事故とコロナ・パンデミックから見直す
    3.8
    1巻1,980円 (税込)
    コロナ・パンデミックを機に見直すべきものの象徴として著者が取り上げるのは、リニア中央新幹線計画である。本書は、安倍政権下で事実上国策化した超伝導リニア計画がはらむ問題を、できるかぎり明確に指摘するという、小さな、具体的な狙いをもつ。それは同時に、なぜこの国では合理性のない超巨大プロジェクトが次々に暴走してしまうのかを浮彫にしている。リニア計画は深刻なエネルギー問題を抱えている。そして進行中の大規模環境破壊でもある。にもかかわらず、虚妄に満ちた「6000万人メガロポリス」構想、原発稼働の利害との結合、大深度法の横暴など、計画は目的と手段の両面で横車を押すようにして推進されてきた。中枢レベルの政治権力の私物化や、ナショナリズムと科学技術の結びつきがそれを可能にしてきたことも、本書は明らかにする。最終節は、この暴挙の根を掘り下げる。日本の戦後の産業経済は、旧体制から引き継いだ諸条件を足場に経済成長を成し遂げた。そこで強化された既得権益と前世紀的な成長への醒めない夢が、時代錯誤の巨大プロジェクトの温床となっている。3.11以後/コロナ禍以後の、持続可能性を追求すべき世界で、なお私たちはそれらを延命させるのか? 決然と、それを問う書である。
  • 「日本国憲法」まっとうに議論するために 改訂新版
    -
    1巻1,980円 (税込)
    日本を代表する憲法学者による明晰な憲法解説。いま、憲法を論ずるための本格的入門書として重要な1冊である。明快な講義形式で、高校生をはじめ若い人たちにも読みやすい、丁寧な叙述となっている。昨今の状況の大きなうねりのなか、数々の疑問への回答の手がかりが、ここにあるだろう。情勢を見すえ、大幅な改訂が施された。新たに書き下ろされたのは、《政権交代》《「決める政治」と「決めさせない」政治》《2012年自民党改憲案の日本社会像》《「天賦人権説に基づく規定振り」の排除》の4節。最新状況をふまえ、「改訂新版へのあとがき」を付す。「国家」「国民」「個人」「人権」「主権」を、どう考えればよいか。法について、民主主義について語るための重要なことがらが論じられ、今こそ憲法を語る言葉を吟味せよ、というメッセージが伝わってくる。付録として、読みやすいレイアウトで日本国憲法の全文を収録。「もとより、自分の手足を制約されずに思いどおりの支配をしたいという誘惑は、たえず、権力を持つ者たちをひきつけるでしょう。だからこそ、権力を持たないひとりひとりの国民が、権力を持つ者たちに「この憲法を尊重し擁護」(第99条)させるための監視を怠ってはならないのです」(本書《憲法を「尊重し擁護する」義務》より)
  • 最終講義――分裂病私見
    4.0
    1巻1,870円 (税込)
    「分裂病は、研究者から転じて後、私の医師としての生涯を賭けた対象である。私は医師としての出発点において、実に多くの分裂病患者が病棟に呻吟していることを知った。…当時は、分裂病でも目鼻のない混沌とした病気で、デルフォイの神託のような謎だと言われていた。分裂病に取り組んだら学位論文ができないぞと公然と言われていた。幸か不幸か、私はすでにウイルス学で学位は持っていたが、持っていようといまいと、もう少し何とかならないかと私は思った。私は、それまでの多少の科学者としての訓練や、生活体験や、文学などの文化的体験を投入して、何とかこれに取り組もうとした。」1966年にウイルス学から転向して精神科医になった著者は、それまで研究者の数も少なく、治療よりも「不運な人の傍らにいよう」という時代のなかで、本格的に分裂病の治療に取り組みはじめた。以後30年、分裂病の回復過程の問題を中心に、一方は「風景構成法」を編みだし、データやグラフや絵画療法を駆使し、他方では病棟などの治療環境も含め、患者との関係のあり方に配慮を尽くして対処してきた著者の活動は、日本の分裂病研究に「革命」をもたらしたといってよい。1997年3月5日、聴衆で立錐の余地のない神戸大学医学部第五講堂で、文字通りの第一人者がこの30年間を語り下ろした最終講義は「専門」をこえた感動を読者に伝えるであろう。
  • 無口な友人
    3.5
    1巻1,870円 (税込)
    「“どうだ、どうだ”胸元や腹をくすぐりまわした。男同士だと、ちとややこしい事態になりかねないが、男とオスだと何でもない。それでも多少はここちいいらしく、相手は目を細めたりしている。あるとき、うとうとしていたら、やにわに胸の上にのられ、熱い息を吐きかけられた」。無口な友とは誰か? どんな交流があったのか? さいわい人間ではなかった――「吾輩は犬である。名前はチャンプ」――「庭の隅に大きな穴を掘って葬った。いっしょのしるしに、冷たい鼻先にわが使い古しの万年筆をくっつけた。チャンプを失って、私はこの人生、もうそろそろいいかなと考えるときがある」。『遊園地の木馬』『なじみの店』につづく三冊目のエッセー集。先生の本棚にあったカフカ初版本の行方から田中康夫県知事の魅力、死と死者をめぐる省察まで。時の流れに沿って、いよいよ深みを増した名人芸の醍醐味。

    試し読み

    フォロー
  • なじみの店
    5.0
    1巻1,870円 (税込)
    「毎朝、体操している。ラジオ体操をもとにして自分で工夫した。女子高の体育の先生と飲み屋で知り合って、教えてもらったのもつけ加えた。わが名の頭文字をとってIO式と称している。ちょっぴりITシステムと似ていなくもない……体操しているとすぐにわかるが、頭だけ仲間外れである。単に上にのっているだけ、へんに重いぶんジャマになるくらいのものだ。だからこそ、つねづね気にかけてきた。頭のほうも毎日、のばしたり、ひっぱったり、もみほぐしたりしなくてはなるまい……このエッセイ集は、そんな思いから自分に課した体操の成果である」(あとがき)。人生とは何か? こう正面切って尋ねられたら、たぶん誰でも答えに窮するし、だいいち照れくさい。では、どうするか? 論より証拠、実物を示すに如かず。さいわい、ここに〈生きた〉見本が歩いている。居酒屋や旅館・医者とのつきあい方から野宿・金銭・悟り方まで、あちこちをゆったり歩き回り、ふと小さな事件や風景にこだわる。人生百般、IO式の大人の生き方、〈頭の体操〉入門。

    試し読み

    フォロー
  • 随時見学可
    -
    1巻1,870円 (税込)
    「まもなくしてY字路に出た。いま来た道と分かれて住宅街に入っていく道が先に延びていて、二股のあいだには切り分けたケーキのような形のマンションが建っていた。オリーブグリーンというちょっと変わった色で、〈入居者募集 随時見学可〉という看板が掛かっている。築30年はたっていそうなほど古いのに、外しそこなったのだろうか、それとも下ろす間もないくらい出入りが激しいのだろうか」表題作のほか、「本棚の奥の放浪者」「ハウスシッター」「水のゆくえ」「タイ式マッサージ」「狐塚公園」「ミステリー・ファン」「キリ番ゲット」「木造モルタル」「ごみ入れや浴室マット」を収録。『図鑑少年』刊行から10年、待望の著者2作目の小説集である。街やインテリアのたしかなディテールに支えられつつ、一人称単数を削ぎ落とした文体から、変容する都市風景と人間関係、溶けていく「わたし」の身体感覚、日常のなかの「エピファニー」があざやかに描き出された全10篇。

    試し読み

    フォロー
  • 治りませんように――べてるの家のいま
    4.2
    精神障害やアルコール依存などを抱える人びとが、北海道浦河の地に共同住居と作業所〈べてるの家〉を営んで30年。べてるの家のベースにあるのは「苦労を取りもどす」こと――保護され代弁される存在としてしか生きることを許されなかった患者としての生を抜けだして、一人ひとりの悩みを、自らの抱える生きづらさを、苦労を語ることばを取りもどしていくこと。べてるの家を世に知らしめるきっかけとなった『悩む力』から8年。 浦河の仲間のなかに身をおき、数かぎりなく重ねられてきた問いかけと答えの中から生まれたドキュメント。
  • 悩む力――べてるの家の人びと
    4.5
    北海道、浦河――襟裳岬に近い海辺の町に共同住居「べてるの家」がある。病気や生きづらさを抱え呻吟の日々を送っていた人びとがここで出会い、集いはじめて二十年余り。メンバーはみずから会社をつくって、日高昆布の加工販売をはじめとする多彩でユニークな活動を展開している。そのモットーは「安心してさぼれる」会社だ。べてるのいのちは話し合いである。ぶつかりあい、みんなで悩み、苦労を重ねながら「ことば」を取りもどした人びとは、「そのままでいい」という彼らのメッセージを届けに、きょうも町へ出かけている。そんなべてるの力にふれるとき、人は自分自身への問いかけに揺さぶられ、やがて深く納得するのである。それぞれの人生を生きていくための、回復のキーワード。
  • ちいさなカフカ
    4.5
    1巻1,760円 (税込)
    歴史の不条理や官僚制を告発する、きわめて深刻・まじめなカフカ――この定番のカフカ像を手放すと、どんな新しいカフカが立ち現れるか? そのみごとな見本がこの「ちいさなカフカ」である。これは数多あるこちたき作家論の類ではない。著者は、散歩のようにゆったりとカフカの周辺を巡りながら、しかし肝心のところは看過せず、その等身大の姿を紹介してゆく。道すがらふと摘みとった作品や伝記の断片から、カフカの〈生のスタイル〉が透けて見えてくる仕組みである。「ほんのちょっとしたこと、ちいさな手がかりからカフカに入ってみた。そのつど考えたり、気づいたり、連想したことを書きとめた。動いていると風景が変わり、目の位置が変化すると別の景色があらわれるように、いろいろなカフカが見えてきた」女性たちに送った夥しい手紙の数奇な運命、大の映画好きであったカフカと『審判』の関係をはじめ、賢治のクラムボンとオドラデク、『ライ麦畑でつかまえて』と『アメリカ』、さらに多羅尾伴内・長谷川四郎・クンデラに通底するカフカなど。われらの隣人カフカを知るための格好の道案内。

    試し読み

    フォロー
  • 傍観者からの手紙――FROM LONDON 2003-2005
    4.5
    「他人の言葉に対する寛容は時に、自分が言葉に重きを置かない人の怠慢の証です。怒りを忘れない人は、言葉で戦っている人は、日本に住むあなたの周りにいるでしょうか」「ロンドンの事件の前後にも切れ目なく、イスラエルやイラクからは自爆テロや戦闘による死傷の報道が流れています。昨日もまた、イラクでタンクローリーを使った自爆テロが起き、70人以上が亡くなりました。9・11事件後、世界中を覆い始めた社会の砂漠化が、とうとうロンドンにまで来てしまった。残念ですが、それが実感です」2003年3月、イラク戦争前夜。朝日新聞ヨーロッパ総局長としてロンドンにデスクを構えていた著者から、一通の手紙の形式で原稿が送られてきた。「この手紙が届くのは一カ月後です。瞬時に地球の裏側に電子メールが届くいま、なぜそんな悠長なことを、と思われるかもしれません。ただ私は、そんな時代にこそ一月遅れの手紙が新しい意味をもつような気がします。」以来、2005年7月のロンドン同時多発テロ事件まで55通。歴史や文学作品というフィルターを通しながら、現場の取材と困難な時局の分析を記した本書は、ひとつの時代のかたちを定着させようとする試みでもある。

    試し読み

    フォロー
  • 夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録
    4.5
    本書は、みずからユダヤ人としてアウシュヴィッツに囚われ、奇蹟的に生還した著者の「強制収容所における一心理学者の体験」(原題)である。 「この本は冷静な心理学者の眼でみられた、限界状況における人間の姿の記録である。そしてそこには、人間の精神の高さと人間の善意への限りない信仰があふれている。だがまたそれは、まだ生々しい現代史の断面であり、政治や戦争の病誌である。そしてこの病誌はまた別な形で繰り返されないと誰がいえよう。」 (「訳者あとがき」より) 初版刊行と同時にベストセラーになり、約40年を経たいまもなお、つねに多くの新しい読者をえている、ホロコーストの記録として必読の書である。「この手記は独自の性格を持っています。読むだけでも寒気のするような悲惨な事実を綴りながら、不思議な明るさを持ち、読後感はむしろさわやかなのです」(中村光夫氏評)。なお、写真資料は、電子書籍版では割愛いたしております。

    試し読み

    フォロー
  • 生きがいについて――神谷美恵子コレクション
    4.3
    「いったい私たちの毎日の生活を生きるかいあるように感じさせているものは何であろうか。ひとたび生きがいをうしなったら、どんなふうにしてまた新しい生きがいを見いだすのだろうか」神谷美恵子はつねに苦しむひと、悲しむひとのそばにあろうとした。本書は、ひとが生きていくことへの深いいとおしみと、たゆみない思索に支えられた、まさに生きた思想の結晶である。1966年の初版以来、多くのひとを慰め力づけてきた永遠の名著に執筆当時の日記を付して贈る。
  • いのちをもてなす――環境と医療の現場から
    -
    1巻1,540円 (税込)
    内科医として、保健衛生学徒として、国立環境研究所所長として、長年「いのち」をみつめつづけてきた著者が、人間と環境の生命をトータルにはぐくみ、もてなすための道程を綴る、滋味あふれるエッセイ集。西洋医学のすき間を埋める今日的な統合医療のあり方、認知症(痴呆)老人の不安とケア、人生の終末期に向かう人びとにとっての生きがい、そして地球温暖化問題に現れている、地球という閉鎖系の環境世界――。私たち一人一人の「いのち」から、私たちを生かしている環境の「いのち」まで、自己と生命とのつながりを受けとめ、こころすこやかに生きるヒントがぎっしり詰まった一冊。

    試し読み

    フォロー
  • あたまの目――人生の見かた
    3.0
    遠いひとより身近なひとのほうがよくわかると、われわれは思っているが、はたしてそうか? 召使いが天才を、親が子を、赤の他人よりも理解しているだろうか? また昭和は江戸時代よりも鮮明だろうか? ひとの日常はまことにパラドックスにみちていて、一筋縄ではいかない。人生にはよく見えない死角があるのだ。本書は、ちょっと知的な心の目で、人間生活の核心をとらえた、役に立つ人生へのヒントである。

    試し読み

    フォロー
  • 臨床瑣談
    3.0
    1~2巻1,540~1,650円 (税込)
    「〈臨床瑣談〉とは、臨床経験で味わったちょっとした物語というほどの意味である。今のところ、主に精神科以外のことを書こうとしている」本書は、精神科医としての長年の経験をとおして、専門非専門にかかわりなく、日本の医学や病院やその周辺について「これだけは伝えておきたい」という姿勢で書かれている。多方向からの視線ではあるが、病名を告知された患者側ができる有効なことは何かに主眼がある。「現代は容赦なく病名を告知する時代である。告知の時代には、告知しただけの医師の覚悟も必要であり、また、告知された患者も茫然たる傍観者ではなく、積極的に何かを行ないたいだろう。患者もその家族、知己も、いつまでも手をつくねてドアの外で待つだけの存在では済むまい」院内感染を防ぐには患者側はどうすればよいか。脳梗塞の昏睡患者を前にして家族にできることとは。さらにガンを持つ人の日々の過ごし方について、「丸山ワクチン」について――。その実用的な助言は、現代医療批判でもあり、自然回復力の大切さと有限性も視野に入れながら、医学の可能性と限界をくっきりと映しだしている。

    試し読み

    フォロー
  • 夜と霧 新版
    4.6
    〈わたしたちは、おそらくこれまでのどの時代の人間も知らなかった「人間」を知った。では、この人間とはなにものか。人間とは、人間とはなにかをつねに決定する存在だ。人間とは、ガス室を発明した存在だ。しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りのことばを口にする存在でもあるのだ〉 「言語を絶する感動」と評され、人間の偉大と悲惨をあますところなく描いた本書は、日本をはじめ世界的なロングセラーとして600万を超える読者に読みつがれ、現在にいたっている。原著の初版は1947年、日本語版の初版は1956年。その後著者は、1977年に新たに手を加えた改訂版を出版した。 世代を超えて読みつがれたいとの願いから生まれたこの新版は、原著1977年版にもとづき、新しく翻訳したものである。 私とは、私たちの住む社会とは、歴史とは、そして人間とは何か。20世紀を代表する作品を、ここに新たにお贈りする。

    試し読み

    フォロー
  • 編む――旅のおわりに
    -
    「私の人生が円環のかたちを描くことがあるとすれば、それは雪ひらのように、繭の糸のように、自分の繰り出すことばが私を閉じこめ、円の芯が存在するかのような幻影を私に与えるときではないか……」(「円環のブータン」)17世紀英国の形而上詩人が人間、地球、宇宙に抱いた円環のイメージがブータンの風景と人に重なる。ローマ、ナポリからアマルフィ海岸を巡る旅のうちに、南イタリアがギッシングのギリシア熱に熟成を与えたものを見出し、新羅時代の寺院遺跡にワトキンスが唱えた古代遺跡群が描く直線の道を思う。そして旧友を訪ねてシアトルへ飛び、滞在中の買物レシートに彼女との特別で濃密な1週間の記憶を刻む旅……生前に書き溜めた紀行エッセイ6篇。
  • 夜間飛行
    4.4
    「わたしは作者にたいして、わたしにとってかなりの心理学的重要性を有するつぎの逆説的真理を明らかにしてくれたことをとくに感謝している。それは、人間の幸福は自由のなかにではなく、義務の受諾のなかにあるということだ。この書物の登場人物のひとりひとりは、おのれがなすべきこと、その危険な任務に、情熱的かつ全面的に身を捧げ、それを遂行したあとにはじめて、幸福の安らぎを見出す……」(アンドレ・ジッド 序文より)冷厳な態度で郵便飛行事業の完成をめざす支配人リヴィエールと、パタゴニアのサイクロンと格闘する飛行士ファビアン、それぞれの一夜を追いながら、緊迫した雰囲気のなかで夜間の郵便飛行開拓時代の叙事詩的神話を描いた本書は『星の王子さま』とならんで、サン=テグジュペリの名を世界中に知らしめた代表作である。南米ブエノス・アイレスの地に、主人公と同様、郵便飛行の支配人として赴任していた時期に執筆され、1931年度のフェミナ賞に輝いた。特別付録 ディディエ・ドーラ「『夜間飛行』に着想を与えた人物から見た」

    試し読み

    フォロー
  • 復興の道なかばで――阪神淡路大震災一年の記録
    4.0
    〈あの震災から150日が経った。今神戸はふしぎなほど静かである。神戸を埋めつくしていた救援の人たちはおおむね去った。活動を続けているボランティアは地元の人たちか、敢えて残留した少数である…会う人の多くは疲労をにじませている。震災以来働きつづけた人たちである。警察や消防や教員。一般行政の人もある。被災企業の人たちの再建の努力。渋滞の中で何度も夜を明かした運輸の人。求めに応じて無理を重ねた物資輸送に携わる人、報道の人もそうだ。自宅の修理に、店の、工場の再開のために夜間や休日を費やした人たちももちろんだ。休暇をとって欲も得もなく眠りたいという内心のささやきを感じている人が少なくなかろう。神戸全体がいっせいに休む休暇週間を提唱したいくらいだ。実際、われわれはよく働いたではないか。そういう自分をそっとほめてやりたいと思っても自然だろう〉(「震災後150日」)誰もが被災地に眼をそそいでいた大震災から一年。避難所で生活していた人たちは、ボランティアはどうなったのだろう。被災中心部のように光が当てられなかった辺縁地域は、重荷を背負っていないだろうか。被災民への補償は、今後の地震対策は、町の復興は? こころに傷を負った人たちへのアプローチは、進んでいるのだろうか。阪神淡路大震災から一年の記録を収めた『昨日のごとく』(1996年刊)より、中井久夫の文章9篇を中心に編集。歴史に学ぶ・「神戸」から考える――こころのケアを中心に、精神科医が関与観察した震災後一年間の記録。

    試し読み

    フォロー
  • ランボー『地獄の季節』詩人になりたいあなたへ
    3.0
    1巻1,320円 (税込)
    「言葉の意味は一瞬である。だが言葉の実在の輝きは永遠である」――天才詩人ランボーの『地獄の季節』は、いまなお最高の「現代詩入門」です。詩人になりたい人へ向けて、この「詩と格闘する詩人の物語」を鮮やかに再現します。詩人の心構え、詩的言語の独自性がまっすぐに伝わる本書で、あなたも実作への扉を開けてください。

    試し読み

    フォロー
  • エジソン 理系の想像力
    3.0
    1巻1,320円 (税込)
    なぜ今、エジソンか? 現在、どの技術分野でも「モノ離れ」が進み、コンピュータ内実験が全盛です。この流れのなかで、あえて「モノづくり」の魅力を考えてみる、これが今回の講義の狙いです。抜群の知名度に反して、実はよく伝えられていない側面も多いエジソン。その革新性と保守性について、工学の専門家が、まったく新しい切り口で解説します。19世紀のビル・ゲイツとも言えるエジソン、その矛盾をはらんだ仕事と人物像を、当時の資料を駆使して浮彫に。発明誕生の臨場感をリアルに描いた本格的な入門書です。発明はどのように行われるのか。理学・工学系のディープな世界と、技術者独自の仕事の魅力を伝える快著。

    試し読み

    フォロー
  • バッハ『ゴルトベルク変奏曲』世界・音楽・メディア
    3.0
    1巻1,320円 (税込)
    200年以上も前のドイツで書かれたこの曲を、21世紀の日本にいる「わたしたち」はなぜ好きなんだろう? 楽譜というメディアを通して、弾いたり、聴いたり、分析したりしながら、「わたしたち」は何をわかるのだろう? そもそも、わかるって、なに? 男女複数の声による「対話」が、音楽の中へ外へと誘ってくれます。

    試し読み

    フォロー
  • カフカ『断食芸人』〈わたし〉のこと
    3.0
    1巻1,100円 (税込)
    芸人にとって断食はしかたなかった。なぜなら「口にあう食べものを見つけることができなかったから」。『変身』のカフカによるこの短編をよく読んでみれば、そこにはラストメッセージとしての奇譚がくっきり浮かび上がる。不幸であることを書いて寓話になりきれない〈わたし〉の文学に、いまこそ私たちの世界が追いついた。

    試し読み

    フォロー
  • 『白鯨』アメリカン・スタディーズ
    3.0
    1巻1,100円 (税込)
    「世界名作十大小説」に必ず入る『白鯨』。この物語は、魔獣モビイ・ディックへの単なる復讐譚ではない。時空を越えて現れる巨大生物が象徴するものとは何か? ここに19世紀から21世紀へ至るアメリカ文明史を、そしてグローバルな現代史をスリリングに読み解く。新訳相次ぐ現在、アメリカ研究の第一人者が満を持して贈る。

    試し読み

    フォロー
  • 『パンセ』数学的思考
    4.0
    パスカルの言葉は知っているだろう。「人間は考える葦である」とか「この無限の空間の永遠の沈黙がわたしをおびえさせる」とか。ふだんは、モラリストやキリスト者としての面ばかり語られるパスカル。だがその思想は、徹頭徹尾、数学的思考をベースにしている。『パンセ』から最新の宇宙論やフラクタルへ。理科系の哲学入門。

    試し読み

    フォロー
  • 『悪霊』神になりたかった男
    3.7
    1巻1,100円 (税込)
    ドストエフスキーの全作品でもっとも危険とされる「スタヴローギンの告白」(小説『悪霊』より)。作家の全人格が凝集されているこのテクストには、人間の〈堕落〉をめぐる根源的ともいえるイメージが息づいています。文学のリアリティとは、人間の可能性とは? 一人の男がさまよいこんだ精神の闇をともに探究してみましょう。

    試し読み

    フォロー
  • 災害がほんとうに襲った時――阪神淡路大震災50日間の記録
    4.2
    災害は突然のごとく襲ってくる。生きることと死ぬことの偶然の分かれ目、今まで自分たちを抱え、守ってくれていた家の消滅。救援がはじまる。被災者は避難所に移り、あるいは病院に搬送される。家族や友人を喪ったなかでの長びく避難所生活、救援にあたる者、救急医療の現場に携わる人の積み重なる疲弊… そこから、こころの病いをはじめさまざまな二次災害も広まる。東日本大震災からひと月余、誰もがはじめて経験する日々がつづくなか、16年前の阪神淡路大震災の経験から学ぶことは少なくないのではないか。小社で刊行した『1995年1月・神戸』より、中井久夫の文章を再編集、併せて新稿も収めて、ここにおくる次第である。歴史に学ぶ・「神戸」から考える――こころのケアを中心に、精神科医が関与観察した震災後50日間の記録。

    試し読み

    フォロー
  • 読書アンケート 2024――識者が選んだ、この一年の本
    3.0
    1巻880円 (税込)
    152名の方々に、新刊・既刊を問わず、2024年にお読みになった本のなかから、印象深かったものを挙げていただきました。
  • 読書アンケート 2023――識者が選んだ、この一年の本
    4.8
    1巻880円 (税込)
    雑誌『みすず』休刊にともない、新年号の恒例の特集として掲載していた読者アンケートを書籍として刊行。139名の有識者が、新刊・既刊を問わず、2023年中に読んだ本の中から印象深かったものを取り上げて解説する。
  • 福島の原発事故をめぐって――いくつか学び考えたこと
    4.1
    1巻880円 (税込)
    〈税金をもちいた多額の交付金によって地方議会を切り崩し、地方自治体を財政的に原発に反対できない状態に追いやり、優遇されている電力会社は、他の企業では考えられないような潤沢な宣伝費用を投入することで大マスコミを抱き込み、頻繁に生じている小規模な事故や不具合の発覚を隠蔽して安全宣言を繰りかえし、寄付講座という形でのボス教授の支配の続く大学研究室をまるごと買収し、こうして、地元やマスコミや学界から批判者を排除し翼賛体制を作りあげていったやり方は、原発ファシズムともいうべき様相を呈している〉

    試し読み

    フォロー

最近チェックした作品からのおすすめ