★州次郎がいるなら大丈夫と思ったんだろうさ(p.335)
(一)歌川国芳が出るのでもう少しで明治になろうかという江戸末期を舞台に「隠れ」という超能力っぽいものがあることを前提にした事件とその解決を描く。
(二)バンドワゴンらしくキーワードは「家族」ってことかもしれませんね。血がつながっているとかは関係なしの家族。縁とも言えるでしょう。家族を得ることができた者とできなかった者。後の堀田家の家族に惹かれ集まってくる新たな家族のような者になれるかどうか。
(三)いちおう『東京バンドワゴン』のシリーズとなっていますが雰囲気は異なります。同じ著者でも特殊能力の持ち主たちがコトに立ち向かう「マイ・ディア・ポリスマン」あたりに近いかもしれません。章ごとに語り手が変わりますし。
■この巻のキーワード■
【石黒朔之進/いしぐろ・さくのしん】牢医師。科人と市井の人間を区別しないし袖の下も取らない。元武士で腕も立つ。
【井筒屋】江戸で一、二を争う廻船問屋。主人は子羽左衛門。
【乾】牢屋同心。
【嘘】《ひとつの嘘には本当のことをたくさん混ぜるとその嘘が見えなくなって本当に思えるそうです。》p.49
【遠州屋】→佐吉
【音のしない柿渋色の大八車】怪談めいた噂話。新月の夜に死体を運んでいるらしいがまったく音がしない。
【朧の金蔵】牢名主をやっていた大物犯罪者。日下安左衛門とは心の交流があったが牢内で亡くなった。そのときダイイングメッセージと思われるものを遺した。
【神楽長屋】神楽屋の社員住宅。
【神楽屋/かぐらや】るうが属す。江戸一番の植木屋。使用人は二百人。家族も含めると三百人。もともと隠れを保護するために創設されたようだが今は隠れもいればそうでない者もいる。主人は鉄斎。三河島で三万石の大名のような屋敷を構える。もともと植木屋には広い土地が必要ではあるが。
【隠れ】超能力みたいなもんか?
【隠れあそび】未成熟の超能力者ってとこか? 本人も意識してないとか? そんな感じ?
【形】《この世にある木も花も草も、猫たちも犬たちも魚たちも、およそ生き物の形というものにはそういうふうになった意味があるんだと。そういう形になるべくしてなっているのだと。そういう形になっているから、その動き方をするんだと。》p.10
【兼/かね】神楽屋の従業員。
【吉五郎/きちごろう】牢名主だった朧の金蔵の下で一番役だった。元板前。金蔵の死で牢名主に昇格予定。
【吉次/きちじ】堀田家に住み込の岡っ引き(やいと)。いかつい四角い顔に優しい笑顔。岡っ引きとしてはほんどどただ一人裏表のない性格。
【きぬ】堀田惣一郎の妻。実子の作之進と夫を立て続けに喪い落ち込んだがいまはもう立ち直っている。るうのことを気に入ったようだ。
【行園】医師。日下が定廻りをしていた頃から奉行所呼びの医師として死体の検分を行っていた。
【食い気】佐吉《何かひとつしか残せないとなれば、あたしは食い気をこの身に残しますね。色気はどうでもいいですよ》p.140
【日下安左衛門/くさか・やすざえもん】小伝馬町牢屋敷の牢屋同心。第三章「闇隠れ」の語り手。牢屋の管理を任されている同心。立場上は定廻り同心のほうが上。安左衛門も元は定廻りだったが怪我で足が不自由になったので異動した。定廻り時代には堀田惣一郎と親しかった。死者や脱獄者が出ると失態となるので気をつかう。
【慶太郎】忠八とりくの息子。五歳。隠れの子。
【けむりののぺら坊】菅季屋に出る。
【幸/こう】神楽屋の従業員。
【甲信屋/こうしんや】建具商。大店。しょっちゅう盗賊に襲われて合計三千五百十二両奪われているがいまだ大店としてやっていけてるところがすごい。
【五平/ごへい】遠州屋の番頭。
【五郎】神楽屋の従業員。怪力の持ち主。隠れと思われる。
【佐吉】江戸一番の秣(まぐさ)商、遠州屋の主人。主人公のひとりというより、強力な助っ人という感じ。一見遊び人風だが仕事はきっちりやっている。ひとり隠れ。能力はるうにもはっきりとはわからなかったが先読み系とは思われた。選択肢があったとき最適解を選ぶことができるようだ。第二章「ざりば講」の語り手。
【左之字】日下が使っていた下っ引き。朧の金蔵の娘、ちかを守らせていた。
【ざりば講】堀田惣一郎が追っていた謎の講。商人たちが関わっているらしい組織。
【師匠】絵師。歌川国芳なのかな? 新吾とはトラブルがあったみたいで周囲の手前公には合うことができないがじつは仲はよい。
【品/しな】かつて神楽屋にいた女らしい。医学知識を得たサイキッカーだったようだ。
【州次郎/しゅうじろう】堀田州次郎。主人公のひとり。第四章「隠れの子」の語り手。北町奉行所定廻り同心。二十一歳と同心としては異例の若さ。まだ新人。「ひなたの隠れ」と思われる。美形。堀田姓なのでこの人が後の堀田家のご先祖かと。町の人から慕われていた惣一郎が急死し跡目を継いだ。養子だったようだ。内藤新宿の治嶋(はるしま)家の次男坊だったが堀田家の跡取り作之進が亡くなったとき養子に取り立てられた。幼い頃山寺に預けられたことがある。どうやら匂いに敏感らしくそれが隠れの力かもしれない。剣の腕も立ち新陰流の免許皆伝。時代的に州次郎の息子か孫が東亰バンドワゴンの創業者かもしれない?
【商売抜き】《商売人ならば商売抜きと言われる話にろくなものはないと知っていますけどね。/ お互いに。》p.138
【新吉】牢屋に入れられた犯罪者。元大工ということだが大工にしては指が細いこともあり州次郎は疑いを抱いた。
【新吾/しんご】読売。元は摺り師。頭の中には情報が詰まっている。
【新秋/しんしゅう】地造りの人。絵が上手い。出張が多い。
【末/すえ】神楽屋の従業員。
【菅季屋/すがきや】煙草売り。江戸でも五本の指に入るとか。新秋がひいきにしている。
【墨色の屋形船】両国橋で州次郎が探していた。どこからどこまでも墨色に仕立てられているらしい。
【然/ぜん】破戒僧。かつて隠れを守り神楽屋を創設した。
【忠八/ただはち】菅季屋の創業者。
【橘】神楽屋の従業員。石投げの名人。十間の距離までどんな小さな的にでも当てられる。隠れとは思われるが他の能力は一般人。
【種/たね】遠州屋のばあや。
【玉造屋】酒問屋。五、六年前に子どもを残して全員が消えた事件。血なまぐさいあとなどはなかった。
【民蔵/たみぞう】元は神楽屋の従業員。耳がよく葉ずれの音も聞き分ける。隠れ。
【中助/ちゅうすけ】牢屋の下男。
【貞治/ていじ】神楽屋の従業員。
【鉄斎/てっさい】神楽鉄斎。植木屋の神楽屋を営む。聖人君子ともうたわれる。五十八歳。るうにいろいろ教えてくれたり指示したりする。隠れの能力は超怪力。
【秀/ひで】神楽屋の従業員。鎖鎌を使う。もともとは鎖鎌の分銅を使って的当ての曲芸をしていた。隠れと思われる。
【ひとり隠れ】誰にも教わらず自分だけで隠れの理を理解してしまう者のこと。
【ひなたの隠れ】なんか、いい隠れってことみたいだ。同心であっても不思議でないような。どうやら隠れの中でも最も幸運な人たちがなるらしい。
【堀田州次郎/ほった・しゅうじろう】→州次郎
【堀田惣一郎/ほった・そういちろう】州次郎の父。「仏の堀田」とか「お地蔵同心」とか呼ばれ清廉潔白で慈愛に満ち町の人みんなから慕われていたが急病で亡くなり州次郎が跡目を継いだ。
【万吉/まんきち】州次郎と同じような能力を持つと思われる子ども。
【みち】神楽屋の従業員。
【やつ橋蕎麦】佐吉の行きつけの店。
【闇隠れ】超能力? を使って悪事をする連中のこと。
【りく】忠八の妻。たばこはすわないが、たばこ道具の工夫をし見映えのよいものに仕上げる才がある。また人材を集める才もある。
【良観/りょうかん】るうに人間の身体のことをいろいろ教えてくれる。名前からして医師と思われる。
【るう】主人公のひとり。隠れであり他者の隠れの力が形になって見え、その能力を消すことができる。ただし自我が自立し能力を手放したくない大人から消そうとすると相手に多大なダメージ(記憶を失うなど)を与えてしまうので、無意識のうちに能力が漏れてしまっている子どもの能力を消すのにとどめたい。タイプとしては精神ダイブに近い感じだろうか。隠れであることとはたぶん関係なく、澄んだ瞳と澄んだ声を持つ。第一章「隠れあそび」の語り手。第四章「隠れの子」では州次郎のコーチとして派遣された。
【牢名主】力のある犯罪者が偉そうにしてるだけなのかと思ってたがじつはシステム的に必要らしい。牢屋に入れられている犯罪者の数にたいして牢屋同心の数が少なすぎトラブル発生時には抑えきれないので実力者が代わりに目付役となり一切を取りしきる。