谷崎潤一郎のレビュー一覧
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大正13年(1924)春の連載が原作なので100年経っています。しかし現代でも通用する愛憎劇と思いました。愛欲に溺れまくる姿は失楽園を彷彿とさせました。西洋化、風俗や思想の転換期という時代背景も題材として取り込んでいるようで面白い。赤裸々な性の描写と告白は衝撃的なのに、理性的に淡々と語る文章は、潔くも清々しく読めました。
ナオミのモデルは谷崎潤一郎の妻千代の妹で、谷崎の体験に基づいているとされます。谷崎自身も3度結婚し、細君譲渡事件など社会をお騒がせして、最後の妻には『隷属する幸せ』をやっとつかんだ、と言われる御仁だったそうであります。
大正期の話題作って、当時の身分社会のなかの富裕層・知識層の男が描く男女のドロドロが多くて退屈な印象がありますけど(漱石とか)、本作品はスラスラと面白く読みました。
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ネタバレ自分のことが書いてあるかと思った。
自分が育て上げたと思ったナオミが、誰とでも寝るしひどいあだ名がつけられているとわかったところは自分自身似たような経験があり非常に胸が苦しくなった。
痴女になった彼女を許せない気持ちと、それでも女性美しさの前に抗えない気持ち、そして痴女がゆえのつかめなさ、自分のコントロールを完全に離れている様子にどうしようもなく惹かれることに完全に共感できる。男で共感できない人はいないんじゃないか。
最も隠したい部分の感情がこれでもかというほど書いてある。自分に文才があってこの感情を言語化することができてもここまで赤裸々にこの部分を曝け出すはできないと思った。 -
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ネタバレ『白昼鬼語』がすごくお気に入り。
園村のキャラクター性にすごく引きつけられた。
読む前は長い話だと思ったが、特に最後は読む手が止まらずスルスル読めた。園村の狂気と知性の絡みあいがいい。展開はほしい物を余すところなく、それでいて無駄なく見せてもらえた感じ。園村が殺められるのが山場だと思うが、ここが案外あっさりしているのは逆にリアル。話者の「私」の戸惑いを考えるとこれくらいで書くのがやっとだろう。
短い中に園村の嘆きや苦しみや解放が詰まり、苦いのに甘やかな味わい。『少年』の山場の艶めかしく美しい蝋燭のぼうっとした光を思いだす。
ストーリーの枠を越えて彼の日々や苦悩や悦びが想像できる。
別の世界観にいたらデスゲームに出資する金持ちになってそう。しかもジグソウみたいな、主催者側なのにそこにいるんかいタイプ。
スピンオフが思いうかぶ=キャラ立ってるって感じあるよね。
キャラが立つとは、その人の生活が見えるとか、こだわりが見えるとかってことなのかもしれない。
犯罪を覗くのは夜なのに、タイトルが「白昼」(真昼の意味)なのは何故だと思いながら進めていた。前半は特に暗さが強調されてるし。だがラストでその理由が分かる。園村にとって夜は夢と幻想と魅惑の時間、昼は退屈で冗長な現実の時間なのかもしれない。
昼間の世界と向かいあおうとする園村の姿勢を感じるラストはすごくよかった。すごく好きな話。
谷崎潤一郎が好きだなと改めて思った……!
『柳湯の時間』もヌラヌラ派という呼称が面白かった。こちらもキャラ立ってるなーと思った! -
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ネタバレいやあ――――こういう本を読みたくて私は近代文学を読んでるんですよ! と言いたくなる1冊。文豪は文章力が巧み。描きだす力が強い。
『富美子の足』すげーー好きでした。谷崎潤一郎作品で一番好き。特に足に対する怒涛の描写が圧巻。元々「脚」は好きだったけど足フェチになった。富美子に甘いときめきを覚えた。
『憎念』も好き。業の深い心理を細かく描写してくれる話好き。
解題も読めてよかった。
表紙イラストもいい。虚無僧の女の子の片方の靴下が投げだされているところも色っぽい。彼女の生々しい足の傍に力なく横たわる靴下が味を出している。履いているほうの靴下も、タコ足が……。いい意味でぞわぞわする。剥きだしの足は描きこみが素晴らしい。必要以上に形を追わないが、足首や爪先に拘りが見える。なんて素敵なんだ。
私はこの小説、特に『富美子の足』にときめいて、「マゾヒズム小説集」や「犯罪小説集」も購入しました。 -
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ネタバレ『少年』がめっちゃ好き。仙吉に会わせてあげるって、そういうふうになるんかーいッ。燭台仙吉くんの艶かしさよ。大人しくしてるのがいいですね。ひたいの蝋燭の灯りに照らされながら、薄っすらと目を開く場面は大変魅力的。
熱さで顔が赤らんでいたらいいなぁ。
主人公も燭台になってからの描写もまたよい。薄い瞼を透かして見える火の色。香水の香り。美しい旋律。魅惑的な話でした。
『二人の稚児』で千手が幻想に悩まされるシーンにもドキドキしました。菩薩に似た柔らかな容貌なのに、大蛇よりも恐ろしい。「体から毒気を噴き出す爬虫類」「われわれが女人に殺されなかったのは、よほど、運が好かった」……。妖しい魅力を感じました。 -
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ネタバレ後半になるにつれ、ナオミのファム・ファタール具合が加速していってよかったです。
美人の容姿の描写がどれもドキドキする。「白い下にうすい紫の血管が/ほんのり透いて見える凄艶さ」「同じ貝殻を集めたように、どれも鮮かに小爪が揃って」とか、「「夜」と「暗黒」は附き物ですけれど、私は常に「夜」を思うと、ナオミの肌の「白さ」を連想」とか。
シュレムスカヤ夫人とのダンスシーンも印象深い。読んでいてドキドキしました。
握手するのもおこがましいと思う相手に抱きかかえられるなんてドキドキですね。特別な香りも魅力的。
あと印象深いのは、ナオミ恋しさに四つん這いになって部屋を歩き回るシーン。ほんとうに渇望しいるんだなと思った。 -
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ネタバレ『若きウェルテルの悩み』『知と愛』『夜明けの街で』といった、女性との関係の中で君子のような男がどんどん陥落していく物語を、なぜか好んで読んでしまう傾向にあります。その中でも、『痴人の愛』は「男性陥落系」の小説として最たるものでした。
ただ、これまで挙げた作品と最も異なるのは、相手となる女性の描かれ方です。
どの作品でも、男を惑わせる女性はどこか魅力的で、素敵な女性像として描かれていますが、『痴人の愛』ヒロイン・ナオミは、どこまでも悪女でした。
もっと言えば、登場人物がみんなおバカでした。
「痴人」という言葉を、てっきり「痴女」のような意味だと思っていたのだけれど、調べてみると「痴人」とは阿呆、愚かな人という意味なんだそうで。
そう考えると、『痴人の愛』というタイトルは秀逸でした。
谷崎潤一郎は作中で、
「これを読んで馬鹿々々しいと思う人は笑って下さい」
と書いているのですけれど、しっかり読後に、ほッんと! 馬鹿だなあ!と声に出して笑ってしまいました。読書でここまで声を出して笑ったことははじめてかも知れません。はッはッ。
物語については、個人的には「教育」というものを一つのテーマとして感じました。
もともと主人公の譲治は、カフエエで働いていた十五歳のナオミを、自分好みの女に教育しようとしていて、ところが、ナオミは譲治の思惑を遥かに超えて、立派な悪女へと成長していきます。
それだけならまだしも、最終的には、ナオミを教育する側だったはずの譲治自身が、彼女に隷属するしもべへと教育されていく。
教育する男が、教育される男になる。
支配しようとした男が、支配される男になる。
その皮肉さが、しっかりと描かれておりました。
『痴人の愛』という小説に出会えたことはもちろんですけれど、それ以上に、谷崎潤一郎という作家に出会えたことが一番良かったです。
谷崎潤一郎をひとことで言えば、
うっさくて、すけべなのです。
そして、このうっささがたまらないのです。
『世界でいちばん透きとおった物語』の中で、谷崎潤一郎は、ページを文字で埋め、空白をなくすような作家として描かれていた記憶があります。
実際に読んでみると、本当に一つの描写を、これでもかというほど書き記します。
しかも、そのスケベ具合にも拍車がかかっておりまして。
三島由紀夫に、戦争の敗戦について、
「日本の男が白人の男に敗れたと認識してがっかりしているときに、唯一、日本の男が、巨大な乳房と巨大な尻を持った白人の女に敗れた、という喜ばしい官能的構図」
として受け止めた、と評されるほどの谷崎潤一郎のスケベさが存分に楽しめました。
だから『痴人の愛』でも、ナオミから漏れ出た吐息の匂いについてだけで、ほとんど改行もせず九行にわたって書き連ねますし、
男二人とナオミを含む四人で蚊帳の中に寝ているだけの、ほとんど物語が進まない場面に十四ページも使います。
本当にすごいです。
馬になってナオミを乗せる場面や、ナオミの足を愛でる場面も、定期的に現れますしね。
一般に「言語化」というと、できるだけ短く、シンプルに、わかりやすく、という印象がありませんか。
けれども、谷崎潤一郎は真逆をいきます。
例えば、ただ「ブスな女だった」と書けば済みそうなところを、
『ピンク色の洋服は、せいの高い、肉感的な長い両腕をムキ出しに太った女で、豊かなと云うよりは鬱陶しいほど沢山ある、真っ黒な髪を肩の辺りでザクリと切って、そいつをぼやぼやと縮らせた上に、リボンの鉢巻をしているのですが、顔はと云うと、頬っぺたが赤く、眼が大きく、唇が厚く、そして何処までも純日本式の、浮世絵にでもありそうな細長い鼻つきをした瓜実顔の輪郭でした。私も随分女の顔には気をつけている方ですけれど、こんな不思議な、不調和な顔はまだ見たことがありません。思うにこの女は、自分の顔があまり日本人過ぎるのをこの上もなく不幸に感じて、成るたけ西洋臭くしようと苦心惨憺しているらしく、よくよく見ると、凡そ外部へ露出している肌と云う肌には粉が吹いたようにお白粉が塗ってあり、眼の周りにはペンキのようにぎらぎら光る緑青色の絵の具がぼかしてあるのです。あの頬ッぺたの真っ赤なのも、疑いもなく頬紅をつけているので、おまけにそんなリボンの鉢巻をした格好は、気の毒ながらどう考えても化け物としか思われません』
と書きます。
「化け物だった」とか、「猿みたいだった」とかで終わらせない。つらつら、つらつらと書くのです。
他にも、好きな女を間男に取られたことを、
「俺が丹精を凝らし、労力をかけて育てた果実を、他の男に皮を毟られ、歯を立てられた」
というような比喩で表現し、そこからさらに数行にわたって書き続ける。
沼にハマっていくような恋愛についても、
「非常に強い酒であって、飲み過ぎると身体に毒だと知りながら、芳醇な香気をかがされ、なみなみと盛った盃を見れば、結局飲んで、節々へ酒毒がおよぼされて、ひだるくて、後頭部が鉛のように重くて……」
という具合に、これまた数行にわたって書きます。
思考ダダ漏れ。
だからこそ、最高の言語化。
谷崎潤一郎は、短くまとめることによって言葉を研ぎ澄ますのではなく、考えたこと、感じたこと、嗅いだもの、触れたもの、欲情したものを、執拗なほど言葉にし続けます。
その果てに、
「それそれ! それを言いたかった!」
と思わせる表現へたどり着く。
本当にうるさくて、すけべな男の、最高の小説でした。 -
Posted by ブクログ
上中下巻やっと読めました。すごく良かった。
没落気味ではあるが、まあまあ裕福な関西の華やかな四姉妹。ほぼほぼ三女の見合いと四女の恋愛ゴタゴタの話です。下の二人の姉妹と同居している次女と旦那の貞之助夫婦が一番常識人であるゆえに苦労している。
世間体をめちゃめちゃ気にするし、見合い相手の親族は徹底的に調べる。今の時代からするとやり過ぎでは?と思う箇所が沢山あります。
昔の話なので注釈か多いですが、注を無視しても意味は割と理解できます。一文が長めなので、一気に読めた感じがします。方言多めで、口に出すとやっぱりたおやかで映像化作品も見たい。
最後の終わり方は、ここで終わるの?と思いました。大人しい性格の三女が感情を出さないのが不気味に感じます。
なんだかんだあっても切るに切れない身内の情が、不運でもあり光でもあります。 -
Posted by ブクログ
谷崎は文章が上手い。
どんなに一文が長くなっても大丈夫。
男性なのに、女性の心理の動きをこと細かに描き出せることと、源氏物語の訳に何度も携わった経験は関係していると思う。
後半になるに連れてどんどん引き込まれる話だった。
最後は少し物足りない、もう少し続きを読みたい気もしたが、これぐらいの方がいいのかもしれない。
貞之助、最初は影が薄かったけど、後半頑張ってて、存在感増した。幸子の人となり、家族の関係性を明確にし、ストーリーの展開を進めてくれた。
旧家のしきたりの中で生きる上の三姉妹、鶴子、幸子、雪子と、近代的自我を追い求める妙子の対比。
消えゆく旧来の感覚、古き良き日本の風物を描き切って後世に残してくれた。
谷崎の失われゆく美への執着、サイコー♫
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