谷崎潤一郎のレビュー一覧
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三島由紀夫は見上げて「大谷崎」と呼んだ。私にとっても神に等しい作家だからレビューを書くのも畏れ多い。かつて法然院の墓に参った時、思わず柏手を打った。すぐに仏と気づいて、恥ずかしかった。
谷崎の作品には、建前の裏に隠れた生々しい情欲と、幼い頃に失った母の美しすぎる記憶への憧憬とが、良く出てくるものだ。
その二つが盛り込まれているだけでなく、とにかく盛りだくさんだ。よくぞ、このページ数に収まるものだ。超絶技巧を持つ作家の推敲の賜だろう。
一人の女を、妻として執着する老人と、母として慕う滋幹は、いずれも谷崎の思いの反映であろう。
そして、ただただ美しいラスト。思わず涙が溢れた。 -
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僕の初めての谷崎が「鍵」だったンだけども、駅のホームで読み始めていきなりウワチャーとなった。冒頭から夫の日記で、「最近性生活が充実してない」「妻は類稀なる名器で絶倫なのに自分は満足させることができなくてくやしい」とかそういうのが頻出する。
「鍵」は夫と妻の日記が交互に提示され、地の文が存在しない日記体の作品。夫は自分の日記で自分の衰え始めた性能力がどうやったら盛り上がって妻を満足させることができるかを書いていて、その日記を妻に読ませようとあれこれ仕掛ける。でも妻もそんな夫の浅い作戦なんてとうに見破っていて、そんな日記読むもんか、ということを自分の日記に書く。お互いの日記の内容が呼応して、その -
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蘆刈・吉野葛の系譜の作品で大好きだった。中世の色好みな男と周辺の解説のような顔で始まって、北の方という一人の美しい女をめぐる男達それぞれに焦点が当たりずれていき、少将滋幹が登場するのは大分あと。御簾の影に暗闇色の霧のように立ちこめていた北の方を時平が劇的に引きずり出したあと再び彼女は姿が朧気になり物語から遠ざかった掻き消えたかのように見えるが・・・。最後まで北の方は月の暈のような女性だった。彼女の意志は見えずそれとは関係なく男達は彼女を扱い、興亡を繰り返す。彼女に自由意志はないけど、彼女を真に自由に扱えた男もいない。筆もこちらも一番盛り上がる北の方の奪取場面、鼻をつまみたくなるおかしいおまる事
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やや久々の谷崎。卍というタイトルの通り、男女の入り組んだ関係が題材で、主要人物の一人である園子による過去の出来事の告白体、ほぼ全編が絡みつくような大阪弁の会話主体で構成されている、という辺りが特徴。解説では「変態性欲」とざっくり評されているけれど、個別の関係に倫理や常識を踏み外すものがあるのは確かだけど、『痴人の愛』のような倒錯感はそれほど強く感じないし、よりフェティシズム的な側面が強い作品に比べると「変態」感はむしろ感じなくて、それぞれの人物がそれぞれの弱さや執着の中で絡み合っていくという意味ではそこまでドロドロはしていない印象を受ける。この構成や語り口で描きたいんだという谷崎の狙いやこだわ
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『吉野葛』
-芥川の呪縛を離れて
吉野葛は奈良県の銘菓だが、美食家谷崎による「食れぽ」ではない。
尤も、熟柿(ずくし)の魅力を語る場面では、涎が滴るが•••
本作は、吉野を訪ねた作者が語る、母恋物語。
この作品を谷崎潤一郎が書いたのは1931年。
谷崎 45歳。
谷崎を思うと、その6歳年下の芥川龍之介を思い出さざるを得ない。
芥川の『羅生門』発刊記念パーティに招かれた谷崎が芥川と共に写っている。
二人は友好関係を築くが、1927年、小説の筋を巡って激しく論争する。
その論争の直後、7月24日に芥川は自殺する。その日は、「河童忌」と呼ばれる。
だが、それは谷崎潤一郎の「誕生日」だった(!) -
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ネタバレ谷崎の愛欲系としてまずは手に取りやすそうな厚さで、かつ挿絵が入っている新装版が出ていた本作から!中公文庫は、棟方志功が「鍵」に挿絵入れてる版が出ていたり、目が離せない。本作も中村明日美子の絵がいい味を加えていて大満足。あとは、痴人の愛と春琴抄は読もうと思っていまする。。笑
卍自体は途中まではー光子と園子がどんどん仲良くしてるあたりーテンション上がってたんですけど、綿貫が出てきて姉弟の契りを結ぼうじゃないかみたいなところから、園子夫にバラされ、海岸の別荘でうんたらしようとして、結局夫も光子と関係持ってしまって、そこから光子に薬使ってコントロールされる、、みたいな後半戦は正直だる〜〜となってしまい -
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(Audibleにて、ナレーター:斉藤範子)
Audibleを初体験するのに何が良いかと思いつつ選んでみたが、なかなか良かった。ナレーターさんの関西弁は多少不自然だったが、耳当たりが良く楽しく鑑賞できた。
本で読むのとはだいぶ印象が変わるのかもしれないが、改めて読むつもりはないのでそれはわからない。
ハズに色々とバレたあたりからのドンデン返しのような展開は予想を超えていて呆気にとられた。え?そんなことになるん?すっかりモブキャラと思ってたハズさんの豹変にびっくり。それまでの長々とした筋書きは手の込んだ仕込みだったとは。
純粋なのか異常なのか、「先生」はどう思ったのでしょうね。 -
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まず装画が怪しげで綺麗!いわゆるジャケ買い
あとタイトル『疵の迷楼』別世界へと誘い込まれるような魅惑的な感じに加え、名だたる文豪たちの作品に興味を引かれてしまう。
まだ、このとき耽美という言葉の意味を理解していなかった。ただ「美しい」くらいにしかとらえていなかったので読んでみたら本当の意味を思い知らされ、常軌を逸した世界への入り口だった。
なかなか普通の感覚では理解、共感し難い作品ばかり。どの作品も何かに心を奪われていたり、病的にのめり込んでいたりと現実からかけ離れていて危うい空気が漂っている。
抗いがたい好奇心や欲望、まるで[パンドラの箱]を開けてしまったようなそんな感じだ。
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