吉川英治のレビュー一覧
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・完結編。楠木正成の最後となる湊川の決戦は、ある意味で本作品のクライマックスでもある。正成の武士でありながら、生きながらえることの大切さを諭す人間性、美談の象徴となるべき史上人物であることが頷ける。無秩序な世の中にあって、揺るがない価値観、自己を貫く信が際立つ。
また、尊氏を描く上でも正成との人間関係が重要になっているのだろう。
・その後の展開は、「京都は、彼(尊氏)が幕府を置いてからでも、猫と猫の間の鞠のように、奪ったり奪い返したりをくり返してきた。」
・最後の「黒白問答」にて、この時代の歴史上の意義を総括している。
「源平、鎌倉、北条と長い世々を経てここまで来た国の政治、経済、宗教、地方の -
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・舞台は九州より勢力を盛り返す足利尊氏と、天皇、朝廷側に立つものの、独自のスタンスを保つ楠木正成が中心に描かれる。
・特に楠木正成の清廉な姿が見事に描かれており、足利尊氏も最後まで彼を見方につけようとしたことがよく理解できる。当時は、はやりトップに立つ武将の人物的な力量が大きかったのだろう。
・仮面作りの職人が、正成の顔を表現した箇所が巧妙。
「ゆたかな慈悲のおん相にはちがいない。けれど阿修羅もおよばぬすさまじい剣気を眸に持っておいてられる。したがその猛も貪婪な五欲には組み合わず、唇と歯には智恵をかみわけ、鼻、ひたいに女性のような柔和と小心と、迷いのふかい凡相をさえお持ちであらっしゃる。卑賤の -
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「聞説、曹丞相は、文を読んでは、孔孟の道も明らかにし得ず、武を以ては、孫呉の域にいたらず、要するに、文武のどちらも中途半端で、ただ取柄は、覇道強権を徹底的にやりきる信念だけであると」
自分の認識もこれに近い。
だから曹操はダメなのだ、ということではなく、だからこそ曹操は偉大なのだ、という意味で。
曹操の偉大さを讃えんがために文武の才を称揚するパターンが多いけど、ちがうと思うんだよね。
文武の才がとやかくじゃなく、何よりもその覇道を貫こうとする信念こそが何よりも彼の強みなんじゃないのかなあ。
いたずらに文武の才を褒めそやすのは大事なところを損なってる気がしてならない。 -
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三国志のいいとこはみんな負けるとこだね、やっぱ。
致命傷を負わなければ、場合によっては致命傷に思えるくらいの傷を負ったとしても、生きてさえいればなんとかできるっつーね。
失敗しない人間なんていない。いるとしたらそいつは何にもしてないだけ。だからこそ失敗しない英雄譚ではなく、失敗をする英雄譚が意味を持つ。英雄とて失敗する。しかし彼らは挫けない。失敗から学び、失敗を失敗のままにせず、逆に大きな成功の礎とする。
孔明無双というか、チートオリ主としての孔明に思えてくる。モノローグのない逆行物みたいなね。三国志の、演義の、更に小説だから二次創作的な誇張はまあしょうがないんだろうけど、曹操や周瑜がもは -
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「はじめは呂布と親しみ、のち曹操に拠って、近頃また、袁紹に拠って、みな裏切っています」
蔡瑁が玄徳のことをそのように評する下りがあるが、読んでいて、玄徳が呂布を評した場面を思い出す。
呂布を生かすか殺すか悩んでいる曹操に、こいつは本当裏切ってばっかいますから殺した方がいいっすよ、っつったら呂布に、お前にだけは言われたくないわお前が一番信用できん男やないかい、と言われたところ。
呂布が悪逆非道だったから負けたわけでも玄徳が聖人君子だったから勝ったわけでもなく、呂布は負けたから悪逆非道となり玄徳は勝ったから聖人君子になったんだろうなあとか思う。