阿津川辰海のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
全編オリジナル(小説推理 双葉社には掲載)の贅沢な短編集。ただ、ちょっと胸くそ悪い系のお話が多かったので、好みは分かれるかも。双葉社のThe どんでん返しシリーズはこれが6冊目(自薦3巻+新鮮、特選、斬新)みたいですが、どの本も豪華な執筆陣なので、他にも手にとって新しい作家さんとの出会いを楽しみたいです。解説で本作品の解説とともに、他の著作に触れられているのも良かったです。
芦沢央「踏み台」
アイドルグループで巻返し必要な位置にいるみのり。色を出すために麻雀を趣味にして、そこで出会った洸平のことが好きになってしまい…。
阿津川辰海「おれ以外のやつが」
おれはカメラマンで殺し屋。今度の仕事は双子のコンビ作家の片方を殺すことだ。
伊吹亜門「遣使船は西へ」
嵐ではぐれ、荷を捨てた四の船遣唐使船で、追い討ちをかけるように起こった密室殺人。命運は?犯人は?
斜線堂有紀「雌雄七色」
母の遺品を整理し始めた息子が疎遠な父に送った母の書いた虹色の封筒。色の順に読むと気持ちが通じるという恋愛や本願成就の想いが込められた神社で売られているもの。
白井智之「人生館の殺人」
遭難し辿り着いた山荘は放置され、回りは人食いクマがいるとんでもない馬車だった。そこで起きる、物証の少し残った密室殺人。犯人は? -
Posted by ブクログ
アンソロジー作品が新しい作家との出会いになり、更に決められたテーマでこの作家はどの様な作品を発表するのだろうという面白さに気がついてしまい、過去含め様々な作品集を読む事にした。今作はどんでん返しがテーマであり、短い作品、しかもどんでん返しがあると読者が分かっている状態でどれだけ読み手を感嘆させてくれるかが楽しみだ。
踏み台 芹沢央
アイドルを目指しアイドルになった女性。ストーカーの様になってしまった元彼。彼はプロ雀士の夢をもちながら、主人公はアイドルとしての武器を磨く為出会い、そして別れ、現在の様な関係になる訳ですが、設定はありきたりに見え、どの様にどんでん返しをするのかと興味津々だったが。主人公と同僚との争い、アイドルの厳しさからまさかこうなるとはと怒涛の展開。長さも読みやすく驚きも大きい面白い作品だ。人の人生は誰かの犠牲に成り立っていると痛感させられる作品で、ある意味完全犯罪型。
おれ以外のやつが 阿津川辰海
短編が面白くどんでん返しが上手いと評している阿津川辰海の作品だったが、やはり今回も好みにあった作品だった。
主人公が殺し屋綺羅(綺羅、星の如くの由来も好きだ)であり、表の顔はカメラマン、日本語に造詣の深い人物で、あらゆる糸を使い依頼をこなす。
人物像も魅力的でシリーズとしても、長編にしても面白そうな世界観で是非読んでみたいと思った。フーダニットの面白さ、真相の面白さが良く、下手に正義感の様なものがない事も好印象だ。
遣唐使船は西へ 伊吹亜門
設定は遣唐使時代の帆船の中。船団から取り残されてしまった一船。食料も底をつき、船員のモチベーションも落ちていく中、一人の僧侶が説法を説き、船員達は息を吹き返す。そんな折、僧侶の弟子が師の異変に気付き部屋を確認すると師が部屋で殺害されている事に気づく。部屋には小さい窓が一つ。入口は弟子が一日中監視の状況下、如何に、そして何故僧侶は殺されたのか。
設定の影響で読みにくいが、結末は納得してしまった。彼はこの後とどうなるのだろうか。
雌雄七色 斜線堂有紀
虹の色を模した7枚の手紙。亡くなった母親の遺品を整理し、離婚しており、有名な構成作家の父親へ息子が渡した手紙。虹の雌雄の話は知らなかったが、こういうタイプのミステリーだろうと想像はついてしまった。それぞれの色の手紙で語られる母親の真実。結末について、もっと恐ろしいものになるのではと期待していたが、そのまま真っ直ぐに着地してしまった。このくらいの話であれば面白いがどんでん返しには至らないと思った。
人喰館の殺人 白井智之
何だかめちゃくちゃにあれもこれも入れ込んだ作品。軸が整理されていない為、短編である事の必要性が感じられなかった。
地震で遭難し、近隣のホテルに避難した人々。脱出を試みるが外では巨大なヒグマがあらわれ人々を襲う。絶対絶滅の中、とある男女が性行為の最中に射殺され、更には救助隊と共に逃げようとしていた数人がヒグマに殺されてしまう。語り手もどんどん変わり、誰が死んでしまうかスリリングだが、長編でこその作品と感じてしまった。ヒグマの恐怖感がもっと強ければ少し印象が違ったが、あっさりヒグマが出てきて人間がぐちゃぐちゃになりましたでは面白さに欠けている。 -
Posted by ブクログ
ネタバレタイトルどおり
どんでん返しを集めたアンソロジー。
「踏み台」芦沢央
「おれ以外の奴が」阿津川辰海
「遣唐使船は西へ」伊吹亜門
「雌雄七色」斜線堂有紀
「人喰館の殺人」白井智之
最初からどんでん返しがあるもの、という
前提で読み進めながらも楽しく読めました。
芦沢さん目当てで読んだので安定の面白さ。
しかし、主人公の顛末は自業自得にしか思えないので、
何を感傷に浸っているのだ、と思ってしまった。
「おれ以外」はハードボイルドで良かった。
主人公がやられてしまうのか?と
ヒヤヒヤしていたけれど、セーフ。
でも、最後はちょっと哀愁。
「遣唐使」は、今までみたことのない時代背景で
描かれたミステリー。犯人もこの話ならではの、でした。
「雌雄七色」
なるほどーと、なんとなく読み終えましたが、
改めて正しい順番で読んだり、最初のメールを
読み返してみたら、ああ…と思う…良作でした。
「人喰館」
よくできているけれど、エログロがきつくて
読み進めるのがきつかったです。最後まで。
復讐方法でぎょっとした時点で止めておけばよかったかも。展開は意外で面白い。でもえぐくてきつい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ23/9/1〜9/7
『虚構推理』短編目当てだったけれど、面白い作品が読めてよかった
城平京さんと芦沢央さんが特に面白かった
23/9/1 ★★★
辻堂ゆめ『十四時間の空の旅』
初読み作家さん
思春期のこだわりやうるささがしんどい
そう言えば、『魔女の宅急便』の2巻以後も思春期描写が苦手だったな
理不尽にイライラして、周りに当たり散らすタイプの思春期描写が苦手
些細なことで色々悩むタイプなら大丈夫なんだけど、、
最後はお父さんの気持ちが通じてよかったな
23/9/1〜9/7 ★★
凪良ゆう『表面張力』
『流浪の月』しか読んだことがなかった
軽い感じで不倫が出てきてげんなり
ピリッと苦い結末
でも読ませるし面白い
下宿シーンで『猫とメガネ』のシェアハウスをちらっと思い出した
作家の書く作品はどう仕上がったのかな
23/9/7 ★★★★
城平京『これは運命ではない』
『虚構推理』シリーズの短編
これ目当てで手に取った本だけど大当たりだった
もともと九郎目線の方が好きなので嬉しいし、チラチラと世界観が見え隠れしてるのも嬉しい
ストーリーとしてもこれから甘くなりそうな感じが好み
幽霊さんどんな風に焦ってたのかな
シリーズ未読の方には読みづらいかも
23/9/7 ★★
木元哉多『どっち?』
初読み作家さん
不倫物はあまり好きじゃない
イヤミスってことかな
いいように操られていた、というオチは面白いけれど、美嘉が主人公に執着する理由が語られていないのでうーん
役に立たないものをすぐに切り捨てる決断力のある美嘉が、主人公のどこを評価しているのか
23/9/7 ★★★★
阿津川辰海『成人式とタイムカプセル』
面白かった
小学生の時って、小さなことを大きく捉えたり、それを後から後悔したりするよね
兄へのコンプレックス、は『紙魚の手帖9』の『バッククロージャー』にも通じる感じ。
23/9/7 ★★★★★
芦沢央『この世界には間違いが七つある』
初読み作家さん
面白かった!!
バトルロワイヤルもの?と恐々読んだけれど、とても好みだった
一人称語りなので、自分が何かわからなかったけれど、挿絵のところでびっくり
間違い探しとはねぇ
『人形の家』ルーマー・ゴッデンを思い出した -
Posted by ブクログ
ネタバレ● 感想
特殊設定モノのミステリ。未来の予知ができる水晶が存在し、水晶に殺害シーンが映っているという点が大きなポイントとなっている。
未笠木村からとれる水晶に、側で眠ることで未来を映すことができる人物がいる。その特殊な能力を持った人を星読師という。最初の星読師であった石神赤司を息子である石神真維那が殺害した。そのような「未来」が映っている水晶が存在することから、石神真維那は、星詠会という組織の中で殺人犯として監禁されている。
容疑者を逮捕する際に誤って射殺してしまったことから、謹慎として故郷の未笠木村に来ていた獅童刑事のもとに、「師匠を助けてほしい」といって、星詠師である香島という少年がやってくる。
この世界では、水晶に映った映像から、どの程度未来か、どのような未来が映っているのかを確認するため、読唇術や映像の解析の技術が進んでいる。そのような技術を駆使した結果、石神真維那が石神赤司を殺害する場面が映っているとしか思えない。しかし、獅童は、その映像に違和感を見つける。それは、映像に映っている男は、二か月も前から真維那を避けていたのに、拳銃を突き付けられて始めて、自分がこれから殺されたことを理解したということはあり得ないという点。この点を手掛かりとして、水晶に映っている被害者は、石神赤司ではないと考える。
ポイントなる人物は4人。1人目は、石神赤司。2人目は、その兄である青砥。青砥は、星詠師ではなかった。3人目は、紫香楽一成。星詠会のスポンサー的存在。そして赤司の妻、仁美。青砥と一成は、1989年頃に死亡していた。青砥は落盤事故。一成は自然死と思われていた。
しかし、真相は、青砥が一成を殺害しており、水晶に映っていた場面は、青砥が一成を殺害する場面だったというもの。この真相を見つけるポイントして、赤司、青砥と真維那が似ていたこと、仁美は赤司の妻でありながら、青砥、一成とも通じていたこと、青砥と一成は、星詠師ではなかったが、星詠師と同じような予知ができるコンタクトレンズの開発に成功していたことだった。
真維那、赤司、青砥がそっくりだったこと、仁美が赤司の妻でありながら、青砥と一成と通じていたことなどについては、細かい伏線が多数ある。
獅童は、まず、水晶の映像は、青砥が赤司に殺害された場面と考えた。しかし、水晶の日時決定の決めてとなった皆既月食から、水晶の映像の場面の時間が分かり、それより後まで青砥が生きていたことが分かる。
次に、偶然、一成が殺害されている場面が映った水晶や、星詠師になることができるコンタクトレンズが坑道で見つかったことから、事件が大きく進む。この点は、御都合主義感が否めない。
特殊設定を利用したこの作品の面白いポイントは、未来を見ることができるようになった青砥が、ある時点より先の未来を全く見なくなったことから自分の死期を悟ったことである。また、水晶の映像を見ることで、青砥は自分が一成を殺害することは分かっていた。しかし、なぜ殺すのか、その動機が分かっていなかった。その動機が分かったシーンは、水晶に映っており、何度も水晶で見ていたコルクボードを二度見したこと。この「二度見」から、映っていた手紙が仁美から一成への手紙と知り、その手紙を見たことで仁美と一成が通じていたことを知って殺害に至ったということ。殺害することを知っていて後で動機が見つかるという展開である。
そして、最大のポイントは、青砥が一成を殺害するシーンの水晶を作らせる。もうすぐ死ぬ人間に予知をさせれば高い確率で殺害場面が予知される。その予知を、赤司が将来の息子に殺害されている場面と誤解させるような仕掛けを散らばらせる。「売女(ばいた)」と同じ母音である「真維那(まいな)」という名前を息子に付けるのもその一環。それほど、青砥は、自分が手に入れることができなかった予知の力、学力、恋人等を手に入れた弟である赤司に嫉妬し、自分が早世するのに、その後も生きる赤司を憎んでいた。
特殊設定モノであり、予知の仕組みはシンプルなのだが、予知の仕組みを利用したトリックが非常に入り組んでいる。正直、御都合主義と思う部分が多い。また、青砥が赤司をそれほどまでに憎んでいたという点は、さほど伏線がなく、やや唐突感がある。
シンプルではなく、しっかり考えないと驚けない、「よくできているな」と感じる作品。面白くないわけではないが、そこまで高い評価ではない。ギリギリの★4としたい。
● メモ
● 主人公は被疑者を射殺したことで1週間の謹慎に入った刑事である獅童
● 獅童が訪れた故郷の村で事件に巻き込まれる。
● 水晶に映し出された光景は必ず起こり、例外はないという特殊設定
● 石神青砥と石神赤司
● 1989年の予知を2018年の余地と信じ込ませるというトリック
● 香島→獅童に対し、師匠である石神真維那が星詠会という組織で、殺人犯として処置されようとしているので、助けてほしいと獅童に依頼をする。
● 石神真維那→星詠会の幹部。香島の師匠
● 石神赤司
● 紫香楽一成→紫香楽電気の社長。赤司と青砥の育ての親の一人
● 紫香楽淳也→紫香楽一成の息子。星詠会のトップ
● 千葉
● 石神仁美→赤司の妻。
● 過去の赤司が未笠木村の水晶に未来を映すことがある能力を知る。
● 星詠会には、未笠木村の水晶を使って未来を予知できる星詠師が15人いる。
● 水晶には真維那が赤司を殺害したと思われる場面が映っていた。時制を判断する決め手となったのは皆既月蝕
● 鶫→読唇術の専門家
● 手島→星詠師の一人
● 高峰→主任研究員
● 未来予知は変えられない。未来は収束する。
● 赤司が殺害された部屋に立ち入っていた中野というアルバイトは解雇されている。
● 真維那は、仁美が赤司とは別の男と作った子どもだという。
● 仁美は未来を詠む赤司に抵抗する意図で青砥と不倫をする。
● 青砥を事故に見せかけて赤司が殺害した?
● 水晶の映像。「真維那」が「売女(ばいた)」であれば。真維那の顔は、29年前の青砥と赤司にそっくり。
● 可能性としてはあり得る。皆既月食の問題もクリア可能
● 青砥は、予知をするためにコンタクトレンズを作っていた可能性がある。しかし、月蝕があった時間より後まで青砥は生きていた。
● 「俺たちは、自分の摑んだ推理が犯人に摑まされた偽物じゃないことを、何をもって確かめればいい?」(317頁)
● 獅童を襲っていたのは、獅童が射殺した被疑者の兄だった。星読会が、獅童を脅していたわけではなかった。
● コンタクトを利用すれば、能力のない者でも予知ができる。高峰は実験により、そのことを証明した。
● 2014年。小火があり、部屋を変えた際に、家具は同じモノをそろえた。その領収書には真維那の名前があった。
● 青砥は、1989年2月22日以降の予知を見なくなったことを気にしており、自分が死ぬと考えていた。
● 香島は、坑道の中で青砥が使っていたコンタクトと水晶を見つける。そして、紫香楽一成が毒殺されていたことを知る。
● 獅童による捜査。赤司と青砥の母に別に子がいるか。いたが真維那には似ていない。
● アルバイトの中野は世界に1つの絨毯に紅茶をこぼしていた。
● 獅童による謎解き。この場面の一部を手島は予知で見ていた。
● この事件は、一本の幹から成り立っている。ある言葉、ある意図。そこから全てが派生している。この事件は、二度見と絨毯の設問と言ってもいい。
● 獅童はこれまでの非礼を謝罪。未笠村の水晶の力は本物。水晶の力を信頼するからこそ、真相に辿り着けた。
● 1989年の事件。大星詠師の間での事件を記録したものを水晶X、紫香楽一成に毒を盛る、犯人の目から見た光景を記録した水晶を水晶Yとする。この2つは同じ事件を映したものとすれば?
● これから死ぬことが確定している人間に予知をさせると、高確率で自分が殺される場面を映したものになる?
● 犯人は、犯人自身の予知で、毒を入れることを知っていた。
● 犯人は水晶Yで何度もコルクボードを見ていた。それでも実際の場面で二度見をした。それは手紙の意味を知ったから。仁美は一成からのフランス土産のレターセットを青砥に見せた。その手紙がコルクボードにあった。その手紙の意味を知った。
● 仁美は赤司の妻でありながら、青砥と、さらに紫香楽一成と通じていた。
● 青砥は予知を見た段階では、なぜ、一成を殺すか分からなかった。後から動機が追いついた。
● 青砥は、水晶Yを処分するために坑道に行き、事故死
● 青砥は、1989年2月22日以降の予知を見なくなっていた。青砥は、自分が一成を殺害した場面を映した水晶を、赤司が息子に殺害される場面だと誤解するように細工をした。
● 2018年の赤司殺しは、1989年の事件の見立て。青砥が考えた計画を実行したのは千葉。真維那という名前は青砥が考えていた。赤司はそのことを知った。
● 青砥は水晶に移っている場面を、息子が父に名を言われるのを拒絶している場面だと誤信させるように売女と読唇術で間違え得る真維那という名前を付けた。
● 石神青砥はこの見立て殺人のためだけに、自分の息子に「真維那」と名付けた。
● 4年前の小火騒ぎ。星詠会発足から1989年まで4年。4年前の小火騒ぎ。家具の経年劣化を一致させるために、小火騒ぎを起こした。これは千葉が行った。
● 千葉にライターを使わせるために、手を怪我したフリをしていた。千葉が使ったライターは一成から贈られたライターではなかった。物見櫓を燃やしたのも千葉。これも見立てのため。
● 千葉は青砥から、赤司が紫香楽一成を殺害したという手紙をもらっていた。
● 青砥は自分が早世し、赤司が全てを手に入れていることに嫉妬をし、禍の種をまいて死んだ。
● 千葉の自殺を獅童が止める。エピローグ。真維那が大星詠師になる。 -
Posted by ブクログ
若林さんがガンガン踏み込んで面白い話を引き出してくださるので楽しかった。「こうではないですか?」と斬り込んで「そうじゃないですね」と返される場面も多かったけど、それはまあご愛嬌。
印象に残っているのはこの辺▼
・円居さんの「推理漫画よりも早く展開する頭脳バトルやギャンブル漫画のテンポが求められていると感じている」という話や、FGO他ノベライズの裏話。
・SFミステリと特殊設定ミステリの違いと阿津川さん・逸木さん・方丈さんのスタンスの違い。
・澤村さんの「ジャンルの書き手でないからこそジャンルあるあるなシチュやキャラに頼りたくない」スタンスはそういう考えもあるんだと新鮮だった。
・呉さんの「理不尽な暴力そのものでなくそこに抵抗する人々の姿を描きたい」という話は直前に読んだ「爆弾」の答え合わせを見るような気がした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ● 感想
特殊設定ミステリ、ユーモア群像劇、ガチガチの本格、知的ゲームモノという4種類の短編からなる短編集。どれもクオリティが高く、阿津川辰海の本格ミステリ作家としての実力がうかがわれる作品。
どれも外連味はそれほどないが、しっかりと地に足のついたロジックで描かれている。設定には派手さがあるが、ロジックは堅実。どこか山口雅也を思わせる作風でもある。
白眉は「六人の熱狂する日本人」。映画『キサラギ』を彷彿とさせる群像劇であり、シチュエーション・コメディ風でもある。コンサートライトホルダーに付いていた血と、御子柴さきに会いたいという動機から事件の真相として真犯人が御子柴さきだと見抜くという展開は圧巻。ただ、法廷モノ、裁判モノはあまり好きではない。個人的な嗜好だが、この点は割り引き
ほかの作品も秀作ぞろい。それなりの派手さもあり、堅実なロジックも面白い。★4の上の方
● 透明人間は密室に潜む
特殊設定ミステリ。透明人間病という、細胞の変異により全身が透明になる病気が存在する世界。ある女性が、透明人間病の治療を可能とする薬を開発した川路昌正の殺害を計画する。その女は、透明人間化抑制薬を飲むのをやめ、完全に透明人間になって川路昌正を殺害しに行く。
内藤という男は、妻が不貞をしているのではないかと疑い、茶風義輝探偵事務所に調査を依頼する。その調査結果は、川路昌正の殺害を計画しているというもの。探偵と内藤は妻を尾行し、殺害直後に部屋に踏み込む。
殺害直後、完全に透明人間になっている女を捜査することになる。川路昌正は、顔を切り刻まれ、裸にされて包丁を突きつけられていた。
殺害現場から透明人間が出られないようにして、透明人間を探す。見つからない。どこにいるのか。探偵は、殴り殺された川路がさらに包丁を刺されていることから、透明人間の居場所を推理。透明人間は、死体の上に寝転がっていたのだ。
さらに明かされる真相。内藤とその妻・彩子が住むのは901号室。その向かいの902号室に2つの死体。1つは渡部次郎という男。女は…内藤彩子だった。内藤彩子だと思われていたのは渡部佳子。メイクアップアーティストだった。渡部佳子は夫からDVを受けていた。内藤彩子をうらやましく思い、殺害。入れ替わっていた。
特殊世界系のミステリ。透明人間の隠れ場所がミステリとなっており、さらに人物入れ替わりというトリック。特殊世界モノでありながら、本格ミステリとなっている。よくできたミステリ
● 六人の熱狂する日本人
映画『キサラギ』っぽい雰囲気がある、裁判員裁判モノのミステリ。裁判モノは正直、あまり好きではない。とはいえ、この作品はコメディタッチで、裁判員6人はいずれもアイドルオタク。被害者と被告人もアイドルオタク。アイドルグループ「Cutie Girls」のファンが入り乱れる。
まず、裁判員6番が自分が「Cutie Girls」ファンのアイドルオタクであることをカミングアウト。被告人は、アイドルオタクの風上にも置けないので死刑だと言い出す。2番も同様にカミングアウト。1番もまた、「Cutie Girls」ファンであり、御子柴さきというアイドルの話をする中で、コンサートライトに違和感を持つ。3番も御子柴さきのファン。5番も軽度のアイドルファン。4番は元アイドルだった。
4番は御子柴さきと親交があり、被害者は御子柴さきのストーカーに似ている。被告人は御子柴さきをかばっている? 被告人のアリバイも立証され、御子柴さきが真犯人かのような推理が進む。本当に御子柴さきが犯人と思われる事実がいくつも出てくるが、結局、法廷には御子柴さきは来ない。御子柴さきの裁判があったとしても別の裁判員が選ばれるということを思い出し、裁判員たちは一転、被告人の意思を尊重し、有罪にしようとする。最後、裁判長もアイドルファンで、被告人を有罪にしようとする裁判員に力を貸すというオチ。
映画『キサラギ』は好きな映画であり、「ウリャオイ」の掛け声も含め、『キサラギ』を思わせる展開は純粋に面白い。ミステリとしては、シンプルさに欠ける点と、裁判モノという点が個人的には割り引き
● 盗聴された殺人
耳、音を聞き分ける能力が高い山口美々香が手がかりを集め、探偵役である大野糺が推理をする探偵事務所のコンビが登場
冒頭で、足音の違いから歩き方の差異を聞き分けて犯人を特定する様子が描かれる。
メインとなるのは、1年前に起こった山口美々香の失敗談「テディベア」の話
浮気調査のために盗聴器を仕掛けたところ、殺害現場の音が録音されていた。盗聴器を仕掛けていたせいで、殺人犯の容疑をかけられた大野は、その屈辱を晴らすために、山口の能力を使って真犯人を暴こうとする。
手がかりとなるのは「不協和音」。被害者・国崎の家での捜査。不協和音の下地の音は加湿器であることに気づく。
決め手となったのは「一定の大きさの足音」。山口からの報告を聞いた大野は外出。そこに探偵事務所のもう一人の事務員・深沢が戻る。山口は深沢に、盗聴器から聞こえた「一定の大きさの足音」のことを告げる。
そこで深沢が本性を現す。犯人は深沢。不協和音の原因はファックス。ファックスの音が小さかったことがわかり、テディベアがファックスのあるリビングではなく、被害者の部屋にあったことが明らかに。殺害現場は被害者の部屋だった。
本来であれば、盗聴器に近づく音か、遠ざかる音しか鳴らないはずなのに、一定の大きさの足音が聞こえた。それは、犯人がテディベアを持って動いたから。盗聴器の存在を知っていた。つまり、犯人は盗聴器を仕掛けた深沢
探偵事務所は3人。深沢が辞めた後、新しいメンバーを雇っている。これはちょっとした叙述トリック。冒頭に「3人の事務所」とあることで、深沢が今も働いていると誤認させている。
ちょっとしたエピローグ的な話があって終わる。
いわゆるガチガチの本格ミステリ。外連味はそれほどないが、「音」を手がかりに真犯人が暴かれる。
盗聴器に一定の足音が聞こえる→盗聴器を持って運んでいる→盗聴器の存在を知っている→仕掛けた人が犯人、というロジック
もちろん、現実的には「たまたま」盗聴器があるテディベアを運んでしまうおそれもあるが、それに伴う偽装がなされていると考えると、犯人は盗聴器を仕掛けた調査員に限定される。分かりやすくシンプルなロジック
質実剛健な本格ミステリ。探偵事務所の調査員が犯人というのは意外性もありそうなのだが、ミスディレクションになり得る人物がほかにいないので、さほど意外性はない。そういう意味では叙述トリックはあまり生きていない。
読んで、「よくできているな」と感じる、古典落語のような短編。短編ミステリのお手本のような作品。こういう作品を書けるところから、阿津川辰海の実力が分かる。
ただ、個人的には、外連味がある、どんでん返しのある短編の方が好き。
● 第13号船室からの脱出
脱出ゲームのテストプレイ中に誘拐事件が発生。それは、マサルが親から金を得るための狂言誘拐だった。マサルと誤解され、カイトが実行犯に誘拐される。マサルは狂言誘拐を成功させるために、カイトのふりをしてゲームに参加する。
この作品は、脱出ゲームの仕掛けと、狂言誘拐における誘拐犯からの脱出という2つのトリックがある。
脱出ゲームの方には、それぞれ2つの解があり、ゲームに参加している人が櫻木桂馬という探偵を演じていると見せかけ、犯人を演じているという仕掛けとなっている。
脱出ゲームの仕掛けは鏡。鏡があったことにより、時計による犯行時間、脱出の目撃者、トレーシングペーパーと原稿を利用した犯人の名を示すダイイングメッセージの解が変わる。真犯人は、櫻木に変装しているプレイヤー
狂言誘拐からの脱出は、マサルに1位を取らせること。こうすることで実行犯が確認に来て、閉じ込めているドアを開ける。
最後に明かされる真相。カイトと一緒に誘拐されていたスグルがすべてを見抜いていた。マサルの名前で回答したのはスグル。スグルはマサルの企みを見抜いて阻止した。スグルは家を出て、マサルに跡取りを押し付ける。それを「益田」という人物に話しているという設定
面白い。「鏡」を利用した脱出ゲームの仕掛けと、プレイヤーは櫻木桂馬ではなく櫻木桂馬に扮した真犯人だという仕掛けは、それだけで十分面白い。その上で、カイトの狂言誘拐からの脱出の仕方、マサルに1位を取らせること、水浸しにして感電させること、そして、実はスグルがすべてを見抜いていたというオチ。一つひとつはそれほどでもないが、短編でここまで仕掛けると圧巻