あらすじ
被疑者を射殺してしまったことで、一週間の自主謹慎に入った刑事の獅堂は、故郷の村を訪れている。突然、学ランの少年・香島が、彼の慕う人物が殺人事件の犯人として容疑をかけられている、と救いを求めてきた。殺人の一部始終が記録されている証拠の映像は、紫水晶の中にあり、自分たちはその水晶を研究している〈星詠会〉の研究員であると語るのだが――。
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Posted by ブクログ
阿津川辰海の長編小説。
通常、未来視がテーマのミステリーは、未来視という能力をいかにミステリーとして組み込むかという部分が先走ってしまい、何かうまいことロジックにはめ込み、未来視とミステリーを融合させるパターンが多い印象がある。勿論、テーマが非現実的なため、作品の整合性を取るために無理をするから、ストーリーの中に歪みがうまれてしまい、少し残念に思う事が多かった。
今作においては、水晶を媒体にした未来視について、未知のテクノロジーの様な扱いにする事で(録画機器の様に)、作中に違和感なく能力をひろめ、それに対するルールの整備も一級品で、殆ど違和感なく、まるでビデオカメラの様に馴染んでいる。
そして、この事実がある事により、今作の犯人やトリック、動機、全てが作り上げられており、数多のミステリー小説の中でも飛び抜けて新しい体験を得る事が出来る。
(阿津川辰海は特殊な環境や能力を活用したミステリーが本当に上手い!!)
登場人物については、ちょっと物足りなさを感じる分があり、作中にてそれぞれ活躍はしているが、どうしても生き生きとして躍動感のようなものは感じることができなかった。人物描写が得意な作家も多いが、どのように書けば、まるで生きているかのような人物になるのかはわからないが、この作品で、もし登場人物に生き生きとした生命力を感じることがあれば、大傑作だったかもしれない。
もちろん、刑事の獅童や香島少年、赤司、青砥の兄弟に至るまで、彼らの存在感は大きいが、残念ながら「物語の登場人物」でしか無い。
ミステリーの部分はとても面白い。水晶のルールが過去、未来を超えてトリックを構成している為、理解するのが中々難しいが、把握していくと衝撃を受ける。とても現実的に組み立てられている為、破綻が無く、純粋に楽しめる作品だ(このトリックを推理した獅童刑事は予知能力者か何かかと笑ってしまったが)ネタバレになるので控えるが、犯人の動機や取り巻く環境等の設定も良かった。
しかし一方で登場人物達、犯人や被害者の内面、慟哭の様なものは読み取れず、それぞれの苦悩や葛藤が恐ろしい程描写されていたならば阿津川辰海の中でも1、2を争う作品だったのではと思う。
久しぶりに魅力的な設定のミステリーだった。
Posted by ブクログ
未来が見える弟と見えない兄が作った星詠会そこで未来を見る事を研究していた2人が実はお互いに無いものを羨望しそれが殺人にまで行き着く。未来を使った見立て殺人の発想は新しく予想外でした
Posted by ブクログ
めちゃくちゃ面白かった!
途中まで全く結末の想像がつかなかっただけに、解決パートに入ってからは、次々明かされる事実に、驚きの連続。
緻密な設定すごい!
Posted by ブクログ
特殊設定かつ本格。なに食ったらこんなの考えつくんでしょうか、ただただ圧巻です。
未来視を完全に現実離れした存在にさせず、プライバシー問題や利権問題など「本当にそんな力があったらそうなるかも」と思えるようなところに着地させてるから、地に足をつけて読めました。
「そんなピンポイントでポンポン見られるものなのか?」とは正直思いましたが、未来視は小説でも漫画でも多少ご都合主義にしないと扱えないものだと思ってるのでそこまでノイズにはならずに済みました。いずれにせよトリックは正統派本格ミステリって感じだったので大大満足♪
それにしても、特殊設定と本格、どちらの味も殺さず両方を100%引き立たせてるのがすごいなぁ。これは特殊設定ミステリなのか本格ミステリなのか、どちらか選べと言われたら迷うねw
Posted by ブクログ
特殊設定ミステリと呼ぶのを初めて知りました。
未来の映像が、水晶に記録されるという設定は面白かったです。しかも、それを、自分だけのものとして物語を進行させていくのではなく、奇想天外な部分を現実に落として、仲間を作って、仕事にして、商売に繋げていき、そこにミステリ要素を盛り込むってところが凄いなと思いました。
ただ、謎解きが難解でした。後半は、時間も場所も把握できず、取り敢えず字ずらしか追えなかったです。それでも面白かったので、理解出来たら、もっともっと面白いんだろうなと悔しく思いました。
Posted by ブクログ
水晶とか占いの類にあまり興味がないので迷ったけど、読んで数ページで「何これ面白い!!」と引き込まれてしまった。さすが阿津川さん。
自分の目線で見た未来を水晶に映すことができる星詠師。このとんでも設定が阿津川さんの手にかかると面白い本格ミステリーになってしまうから不思議だ。
読んでいるうちにその設定をすんなりと受け入れてしまう。特殊能力があるおかげでミステリーが面白くなっていく、という初めての感覚だった。
登場人物の描き方も上手いので、続きが気になって一気読みだった。
ラストの謎解きは、緻密過ぎて頭が混乱する。疲れるのでもう少し単純な方が好き。
Posted by ブクログ
出だしから水晶の件でミステリアスな印象の本作。
中盤の推理場面では、ミステリ好きとして十分に楽しめた。
しかし、水晶の世界観がSF要素なこと、青砥が赤司に対して行った1989年当時の行動など、謎解きの最後で裏切られた感じがする。
よく言えばまさか!であるが、いささか拍子抜けした感は否めない。
SF要素を理解した上でなら素晴らしいアイデアであるが、個人的にはリアリティを求めてしまう派なので。
Posted by ブクログ
● 感想
特殊設定モノのミステリ。未来の予知ができる水晶が存在し、水晶に殺害シーンが映っているという点が大きなポイントとなっている。
未笠木村からとれる水晶に、側で眠ることで未来を映すことができる人物がいる。その特殊な能力を持った人を星読師という。最初の星読師であった石神赤司を息子である石神真維那が殺害した。そのような「未来」が映っている水晶が存在することから、石神真維那は、星詠会という組織の中で殺人犯として監禁されている。
容疑者を逮捕する際に誤って射殺してしまったことから、謹慎として故郷の未笠木村に来ていた獅童刑事のもとに、「師匠を助けてほしい」といって、星詠師である香島という少年がやってくる。
この世界では、水晶に映った映像から、どの程度未来か、どのような未来が映っているのかを確認するため、読唇術や映像の解析の技術が進んでいる。そのような技術を駆使した結果、石神真維那が石神赤司を殺害する場面が映っているとしか思えない。しかし、獅童は、その映像に違和感を見つける。それは、映像に映っている男は、二か月も前から真維那を避けていたのに、拳銃を突き付けられて始めて、自分がこれから殺されたことを理解したということはあり得ないという点。この点を手掛かりとして、水晶に映っている被害者は、石神赤司ではないと考える。
ポイントなる人物は4人。1人目は、石神赤司。2人目は、その兄である青砥。青砥は、星詠師ではなかった。3人目は、紫香楽一成。星詠会のスポンサー的存在。そして赤司の妻、仁美。青砥と一成は、1989年頃に死亡していた。青砥は落盤事故。一成は自然死と思われていた。
しかし、真相は、青砥が一成を殺害しており、水晶に映っていた場面は、青砥が一成を殺害する場面だったというもの。この真相を見つけるポイントして、赤司、青砥と真維那が似ていたこと、仁美は赤司の妻でありながら、青砥、一成とも通じていたこと、青砥と一成は、星詠師ではなかったが、星詠師と同じような予知ができるコンタクトレンズの開発に成功していたことだった。
真維那、赤司、青砥がそっくりだったこと、仁美が赤司の妻でありながら、青砥と一成と通じていたことなどについては、細かい伏線が多数ある。
獅童は、まず、水晶の映像は、青砥が赤司に殺害された場面と考えた。しかし、水晶の日時決定の決めてとなった皆既月食から、水晶の映像の場面の時間が分かり、それより後まで青砥が生きていたことが分かる。
次に、偶然、一成が殺害されている場面が映った水晶や、星詠師になることができるコンタクトレンズが坑道で見つかったことから、事件が大きく進む。この点は、御都合主義感が否めない。
特殊設定を利用したこの作品の面白いポイントは、未来を見ることができるようになった青砥が、ある時点より先の未来を全く見なくなったことから自分の死期を悟ったことである。また、水晶の映像を見ることで、青砥は自分が一成を殺害することは分かっていた。しかし、なぜ殺すのか、その動機が分かっていなかった。その動機が分かったシーンは、水晶に映っており、何度も水晶で見ていたコルクボードを二度見したこと。この「二度見」から、映っていた手紙が仁美から一成への手紙と知り、その手紙を見たことで仁美と一成が通じていたことを知って殺害に至ったということ。殺害することを知っていて後で動機が見つかるという展開である。
そして、最大のポイントは、青砥が一成を殺害するシーンの水晶を作らせる。もうすぐ死ぬ人間に予知をさせれば高い確率で殺害場面が予知される。その予知を、赤司が将来の息子に殺害されている場面と誤解させるような仕掛けを散らばらせる。「売女(ばいた)」と同じ母音である「真維那(まいな)」という名前を息子に付けるのもその一環。それほど、青砥は、自分が手に入れることができなかった予知の力、学力、恋人等を手に入れた弟である赤司に嫉妬し、自分が早世するのに、その後も生きる赤司を憎んでいた。
特殊設定モノであり、予知の仕組みはシンプルなのだが、予知の仕組みを利用したトリックが非常に入り組んでいる。正直、御都合主義と思う部分が多い。また、青砥が赤司をそれほどまでに憎んでいたという点は、さほど伏線がなく、やや唐突感がある。
シンプルではなく、しっかり考えないと驚けない、「よくできているな」と感じる作品。面白くないわけではないが、そこまで高い評価ではない。ギリギリの★4としたい。
● メモ
● 主人公は被疑者を射殺したことで1週間の謹慎に入った刑事である獅童
● 獅童が訪れた故郷の村で事件に巻き込まれる。
● 水晶に映し出された光景は必ず起こり、例外はないという特殊設定
● 石神青砥と石神赤司
● 1989年の予知を2018年の余地と信じ込ませるというトリック
● 香島→獅童に対し、師匠である石神真維那が星詠会という組織で、殺人犯として処置されようとしているので、助けてほしいと獅童に依頼をする。
● 石神真維那→星詠会の幹部。香島の師匠
● 石神赤司
● 紫香楽一成→紫香楽電気の社長。赤司と青砥の育ての親の一人
● 紫香楽淳也→紫香楽一成の息子。星詠会のトップ
● 千葉
● 石神仁美→赤司の妻。
● 過去の赤司が未笠木村の水晶に未来を映すことがある能力を知る。
● 星詠会には、未笠木村の水晶を使って未来を予知できる星詠師が15人いる。
● 水晶には真維那が赤司を殺害したと思われる場面が映っていた。時制を判断する決め手となったのは皆既月蝕
● 鶫→読唇術の専門家
● 手島→星詠師の一人
● 高峰→主任研究員
● 未来予知は変えられない。未来は収束する。
● 赤司が殺害された部屋に立ち入っていた中野というアルバイトは解雇されている。
● 真維那は、仁美が赤司とは別の男と作った子どもだという。
● 仁美は未来を詠む赤司に抵抗する意図で青砥と不倫をする。
● 青砥を事故に見せかけて赤司が殺害した?
● 水晶の映像。「真維那」が「売女(ばいた)」であれば。真維那の顔は、29年前の青砥と赤司にそっくり。
● 可能性としてはあり得る。皆既月食の問題もクリア可能
● 青砥は、予知をするためにコンタクトレンズを作っていた可能性がある。しかし、月蝕があった時間より後まで青砥は生きていた。
● 「俺たちは、自分の摑んだ推理が犯人に摑まされた偽物じゃないことを、何をもって確かめればいい?」(317頁)
● 獅童を襲っていたのは、獅童が射殺した被疑者の兄だった。星読会が、獅童を脅していたわけではなかった。
● コンタクトを利用すれば、能力のない者でも予知ができる。高峰は実験により、そのことを証明した。
● 2014年。小火があり、部屋を変えた際に、家具は同じモノをそろえた。その領収書には真維那の名前があった。
● 青砥は、1989年2月22日以降の予知を見なくなったことを気にしており、自分が死ぬと考えていた。
● 香島は、坑道の中で青砥が使っていたコンタクトと水晶を見つける。そして、紫香楽一成が毒殺されていたことを知る。
● 獅童による捜査。赤司と青砥の母に別に子がいるか。いたが真維那には似ていない。
● アルバイトの中野は世界に1つの絨毯に紅茶をこぼしていた。
● 獅童による謎解き。この場面の一部を手島は予知で見ていた。
● この事件は、一本の幹から成り立っている。ある言葉、ある意図。そこから全てが派生している。この事件は、二度見と絨毯の設問と言ってもいい。
● 獅童はこれまでの非礼を謝罪。未笠村の水晶の力は本物。水晶の力を信頼するからこそ、真相に辿り着けた。
● 1989年の事件。大星詠師の間での事件を記録したものを水晶X、紫香楽一成に毒を盛る、犯人の目から見た光景を記録した水晶を水晶Yとする。この2つは同じ事件を映したものとすれば?
● これから死ぬことが確定している人間に予知をさせると、高確率で自分が殺される場面を映したものになる?
● 犯人は、犯人自身の予知で、毒を入れることを知っていた。
● 犯人は水晶Yで何度もコルクボードを見ていた。それでも実際の場面で二度見をした。それは手紙の意味を知ったから。仁美は一成からのフランス土産のレターセットを青砥に見せた。その手紙がコルクボードにあった。その手紙の意味を知った。
● 仁美は赤司の妻でありながら、青砥と、さらに紫香楽一成と通じていた。
● 青砥は予知を見た段階では、なぜ、一成を殺すか分からなかった。後から動機が追いついた。
● 青砥は、水晶Yを処分するために坑道に行き、事故死
● 青砥は、1989年2月22日以降の予知を見なくなっていた。青砥は、自分が一成を殺害した場面を映した水晶を、赤司が息子に殺害される場面だと誤解するように細工をした。
● 2018年の赤司殺しは、1989年の事件の見立て。青砥が考えた計画を実行したのは千葉。真維那という名前は青砥が考えていた。赤司はそのことを知った。
● 青砥は水晶に移っている場面を、息子が父に名を言われるのを拒絶している場面だと誤信させるように売女と読唇術で間違え得る真維那という名前を付けた。
● 石神青砥はこの見立て殺人のためだけに、自分の息子に「真維那」と名付けた。
● 4年前の小火騒ぎ。星詠会発足から1989年まで4年。4年前の小火騒ぎ。家具の経年劣化を一致させるために、小火騒ぎを起こした。これは千葉が行った。
● 千葉にライターを使わせるために、手を怪我したフリをしていた。千葉が使ったライターは一成から贈られたライターではなかった。物見櫓を燃やしたのも千葉。これも見立てのため。
● 千葉は青砥から、赤司が紫香楽一成を殺害したという手紙をもらっていた。
● 青砥は自分が早世し、赤司が全てを手に入れていることに嫉妬をし、禍の種をまいて死んだ。
● 千葉の自殺を獅童が止める。エピローグ。真維那が大星詠師になる。
Posted by ブクログ
特殊設定ミステリって、「何でもあり」にならないために、「普通の」のミステリより、緻密に論理的に、世界の境界条件を定めなくてはならないので、非常に難しいんだなって、改めて。
最近何かと話題なジャンルだけど、一方で、ラノベ的とか、お花畑とかってバカにした評を聞いたことあるけど、まずは本書を読んでみてからにほしい。
Posted by ブクログ
最近の作家らしく、本格物と言っても超変化球。
未来を予測できる人々(星詠師)を中心とした組織内で起きる殺人事件。当然、証拠として未来を予測した動画が犯人を示している…、という凝った設定。
他の作品と同じく、錯綜した謎が整然と解決されるラストは圧巻だが、あまりにも精緻すぎてややこしいレベル。なんといっても過去と未来が複雑に絡んでいて、読んでいてもこちらがこんがらがってしまう。
それでも、星詠師という架空の設定をリアルに肉付けしてあり最後まで楽しめた。
ただし、キャラがどれも作り物めいていてあまり魅力がないのが残念だし、会話が不自然なのも残念。
Posted by ブクログ
水晶により予知された未来は必ず起こるという特殊設定は斬新であり、その設定をベースとしたパズラーになっているのは面白かったが、真相やその推理は複雑すぎて理解が及ばなかった。
阿津川辰海の作品はどれもそんな感じがある。
Posted by ブクログ
水晶に自分が見る未来の映像を記録することができる星詠師というSF要素と、殺人事件の犯人探しが融合した特殊設定ミステリ。
非現実と思われる証拠品から、事件の真相を論理的に推理していくところは圧巻でした。
『名探偵は嘘をつかない』もそうでしたが、阿津川先生の特殊設定ミステリはやはり面白いです!
Posted by ブクログ
ランダムに未来を予知できる水晶が存在することを前提にしたミステリ。ファンタジー寄りの設定だけれども、水晶を特異な発明品と考えれば、発明品の存在だけが現実世界と異なっているタイプのSFミステリと見なせる。で、この設定をトコトンまで使い尽くした作品という気がする。終盤に探偵役が見せる推理は、ガチガチにロジカルなものなのだけれど、水晶が存在しなければ産まれない論理なのだな。犯罪そのものも、その動機も水晶に深く結びついている。読み物としてみた場合、その点でも評価の高かった阿津川作品としてイマイチな感もあるのだけれど、ここまで圧倒的論理を繰り出されては感服するしかないなあ。