砂原浩太朗のレビュー一覧
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架空である神山藩のシリーズもの。間違って3作目を飛ばして読んじゃった。まあ続きものではないからいいか。
田舎藩である神山藩を舞台とした短編集。しかし自分としてはこの方の作品は長編でじっくりと読めるもの方が好きだな。
特に最後の表題作の雫峠は長編として欲しかった。
ちょっと展開が駆け足過ぎたかな。
雫峠
この十年誰も幸せでなかった。
身分と金と恋心、どれも噛み合っていなかった。相手の事もよく分からずに連れ添うとこうなるか。
でもようやく求められる相手に気付いたのも束の間、友人にも裏切られた栄次郎、ゆうとの逃避行の見通しは良くないだろう。しかし二人の気持ちは晴れやかに感じた。
二人の間に通じる感情はなんなんだろう。恋情とは違うと思うが、確かなものなんだろう。
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僕も震災後1週間はたっていただろうか、いくらかの水や食料を背負って親戚が暮らす西宮北口まで阪急電車に乗ってでかけた。この小説には一切書かれていなかったけれど、尼崎を過ぎた頃から車窓から見える景色が次第に尋常ならざるものに変わっていった。同じ車両に乗り合わせた人たちと重い重いため息がシンクロしたのを覚えている。そして西宮北口のトイレの状態も小説に表されている通りだった。僕は駅から親戚の家まで歩いたが、駅の周辺でも潰れてしまった家屋があちらこちらにあり、案内してくれた叔母には、「この家の下にまだ居てはるねん」と言われたことを覚えている。当事者は当事者なり、そうではなかったものたちにもグラデーション的に心に傷を負わされた震災であったことは間違いない。
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砂原さんが好んで使う架空の神山藩を舞台にした時代短編集。同じ藩を舞台にしていますが、相互の関連は有りません。
◇半夏生:泥まみれの仕事を厭わぬ父と河川氾濫の根本対策を提案をした息子。神山藩の普請方の一家を描いた物語。
◇江戸紫:江戸家老vs国本の側用人の政争。そこに「あくび大尽」と称される筆頭家老の息子が絡んで。
◇華の面:養子として神山藩に入った少年藩主と同い年の藩のお抱え能楽者の交流。
◇白い檻:政変のとばっちりで僻村に追いやられた武士は深雪の中で刺客に襲われ。
◇しぐれ:商家に押入り腕に傷を負った泥棒が・・・二転三転する物語
◇雫峠:DVに耐えかねて高禄の夫を殺害した義理の妹との逃避行
ちょっと周五郎の滑稽物を思わせる「江戸紫」。藤沢周平の昏さを感じさせる「雫峠」。
爽やかな少年の覚悟が心地良い「華の面」など良いですね。一方「柳しぐれ」はちょっとひねり過ぎて無理がある気がします。
全般にやや「軽め」な雰囲気ですが、それが砂原さんの持ち味と言う気がします。
神山藩ものはこれで4作。お酒に関しては「天の河」「海山」と言う銘柄、「壮」と言う酒場や歓楽街の「柳町」などが様々な作品に共通して出てくるのだけど、地理的な記述は少なく、藤沢周平の海坂藩のように地図化して遊ぶのは難しそうです。 -
購入済み
途中から面白く一気に読み終えた
二人の息子の嫁との日々を重ね読みましたが、抑えがちな筆ずかいがまことに好ましく欲を言えば前半に山が一つあればなおよかった。
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ネタバレ【収録作品】半夏生/江戸紫/華の面/白い檻/柳しぐれ/雫峠
神山藩を舞台に、そこに生きる人々を描いた短編集。
静かな語り口が好もしい。
「半夏生」誠実に地味な役目を全うする人々の姿を描く。
「江戸紫」軽快な話。
「華の面」お飾りのように戴かれた藩主の覚悟を能役者の目から描く。
「白い檻」刺客にも三分の理くらいはあるのだろうが、勝手さばかりが見えて情けない。
「柳しぐれ」トリッキーな語り口が面白い。喜三次が憎めない。
「雫峠」うかうかといろいろなものを見過ごし、やり過ごしてきたことのツケがきた感じ。最初にボタンを掛け違えてしまったわけだが、そうなると止めようはないのだろうか。最後に大きな決断をせざるを得なくなったが、せめてこのあとは静かに過ごせたらいい。
どれも余韻が残るので、それぞれの連作なり長編なりを読みたくなった。 -
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阪神・淡路大震災を描いた砂原さんの現代小説です。
当時は東京住まいだった砂原さんが、震災の3日後に神戸の自宅に戻り、母と祖父母を遠隔地避難させた体験をもとに描かれた小説です。あとがきにもありますが、震災から15年後、砂原さんが時代小説作家としてデビューする前に書いたものに少し手を入れて、30年という節目に出版されたものだそうです。
大震災の物語と言えば、身近な人、愛する人を亡くした悲嘆や、そこからの復興を描くものと思いがちですが、これは「片隅の物語」です。本人は東京住まい。母と祖父母は神戸在住ですが、建物は大きな被害は受けたものの怪我はしていません(きわどい状況は有りましたが)。さらに言えば近親者・知人・友人にも身体的な被害もありません。3人を三重の大叔母のもとに避難させますが母とは反目が有り、祖母はほとんど描かれず、唯一著者が気にする祖父もどこか反応が鈍く、家族愛の物語と言った風情はありません。
読みながら西川美和さんが終戦を描いた『その日東京駅五時二十五分発』を思い出していました。大事件の周辺でどこか静かに進む物語。逆にリアリティーを感じます。駅のトイレの光景、友人の薬を入手するための薬局での騒動、重かった飲料水。あえて事件の中心に入らないリアリティ。
そしてこのようなこ「片隅の物語」は他にも幾万もあったのでしょうね。
大きな感動を呼ぶような話ではありませんが、片隅の痛みを感じられる物語です。