本作、『うつろ屋軍師』はその丹羽長秀、その後継者の丹羽長重に仕えたという江口正吉(えぐちまさよし)という人物を主人公に据えた物語である。
江口正吉?「三郎右衛門」という通称で、作中では「三右(さんえ)」という呼び方も頻出している。正直、然程知名度が高いとも思えない。が、「織田信長の麾下で知られている
...続きを読む武将」として名が挙がる明智光秀、豊臣秀吉、柴田勝家、滝川一益、丹羽長秀という5名の中、江戸時代を通じて末裔の大名家が続き、関係者が戊辰戦争にも関わったというのは丹羽長秀のみということになる。江口正吉は、その江戸時代を通じて続いた大名の丹羽家の礎を築く活躍をしたということになる訳だ。
「うつろ屋」?“うつろ”とは「空論」のことである。他の人が思い付かないような、口にすれば「空論??」ということにでもなりそうな、奇抜な構想を練り出すというのが「うつろ屋」ということである。江口正吉はその“うつろ”を弄する人物として知られるということになっている。
丹羽家は「ポスト信長」とでも呼ぶべき情勢下、丹羽長秀自身が病没して丹羽長重が後継する中で様々な浮き沈みを経験することとなる。そうした中、丹羽長重に筆頭家老として重用されて行くこととなる江口正吉の“うつろ”が羽ばたくことになる。所謂「戦巧者」ということに留まらない「政略家」としての大きな器を持つ江口正吉の活躍は面白い。
<関ヶ原合戦>を経て丹羽家が改易の憂き目を見た時、丹羽家が育もうとしていたモノの真価が問われて行くことになる。そういう展開が面白い。そして本作は、江口正吉が戦闘に参加する場面も多く、そういう場面も一寸夢中になってしまう。
こういうような、なかなかに面白い人物を主人公として発掘して来るという方法…興味深い!