島本理生のレビュー一覧

  • 私の身体を生きる

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    こんなに赤裸々に描かれているのか、と思うのは、それもまた性を隠す大人の無意識に引っ張られているのだろうか。作家さんによって「身体」に対する感じ方がこんなにも違うのだなと興味深かった。

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    2026年06月08日
  • 私の身体を生きる

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    性というか性別(性自認や対象)というか、性欲というか性癖とか、性体験とか。

    「性」のことはご法度的で親子、恋人、親友でも避けたりするわけで、孤独な世界だと思ってきたけれど。それが女性作家が17人も語るわけで下品上等、生々しくて面白い。
    面白い、と言ってる事を下品と言う人もいると思いますが、多様性?とあえて言葉にすれば線引きしないでよ、と。

    面白いというのは具体的に変えれば興味深い、が適切か。いやらしい意味でなく、前述のようにご法度な他者の世界に興味があるわたしは、作家がこうもあけすけにエッセイとして実体験や思想を語ってくれてありがたく。
    本として残るので結構なカミングアウトもあったりするわけですが、それはどういう心境なのだろうか、とも思ったり。
    他にもこの手の本はあるのかな?と探したくなったほど。
    男性作家版も出して欲しい所存です。

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    2026年06月07日
  • 私の身体を生きる

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    いつも読んでる大好きな作家さんたちの身体にまつわるエッセイ。作家さんたちにも過去や苦しみや葛藤があると知ってしまった。

    「誰かから指弾される前に、違う、お前は違うと「私の中の世間」が言ってくる。」

    ☁️ 世の中には女性であることで苦しんでる人がいないわけないのに、言語化されてしまうと本当にいると見えてしまう、なんて、自分勝手さに嫌になりながら読み進めました。

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    2026年06月02日
  • ナラタージュ

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    喪失と再生と喪失の繰り返し

    島本理生先生の作品を数冊読んで、ずるい大人が出てくることが多いということが分かったが、今回の作品のずるい大人は、読み進めていくうちに結構な嫌悪感があった。一見、よい人のように振る舞って可愛がって自分を頼れる大人と刷り込ませて手懐けて、近寄ってきたら守りに入る、という手法によい印象は受けなかった。
    物語自体は、主人公だけでなく、それぞれの登場人物の思いが伝わり、これまでの作品以上に感情が揺さぶられた。

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    2026年05月30日
  • やるせない昼下がりのご褒美

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    ネタバレ

    【あらすじ】

    あの人と過ごす「おやつ」の時間が、
    今日を乗り切る力をくれる。
    おいしいものを愛する作家陣が、
    心とおなかの空腹をあたたかく満たす短編小説集。

    ●作品紹介
    妻子ある政治家と逢瀬を重ねる画家の朱莉。
    マスコミを避けるため延泊した伊豆の山奥のホテルで回想する、
    これまでのこと。
    ――島本理生「楽園の代わりのカッサータ」 

    なりゆきから、派手めギャルとして高校生活を送る陽子。
    クラス替えで再会した関優征は、かつて放課後をともにした相手だった。
    ――織守きょうや「ファースト・アンド・オンリー」

    両親の交通事故がきっかけで瀬戸内海の島に住む叔父に引き取られた碧。
    果樹が茂る庭の手入れをし、
    その恵みをいただく中で回復していく少女の物語。
    ――友井羊「春とマーマレード」

    アイドルグループの一員として活動している泉水。
    テレビ番組のお題で、まもなく卒業するメンバーの大地と一緒に、
    スイーツをプロデュースすることに。
    ――畑野智美「アンパッサン」

    息子の大学進学にあわせて上京した尋乃。
    そっけない息子の隣で思い返すのは、
    幼い彼とふたりで東京に滞在したときの記憶で……。
    ――名取佐和子「ドーナツ息子」

    休学中の高校を中退して、食の仕事に進もうかと悩む美也。
    東京で郷里の友達、瀬里が暮らすシェアハウスに滞在するなかで、
    食事とスイーツづくりを担当することになり――。
    ――伊吹有喜「ストロベリーの歌」

    【個人的な感想】
    どの話もほっこりするだけじゃない、深い悲しみや辛さが描かれていて読んでいて飽きなかった。

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    2026年05月28日
  • Red

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    ネタバレ

    私が最も強く感じたのは、「女という性を内包したまま、母親という役割を生きることがどれほど危ういか」ということだった。

    この作品は、単なる不倫の物語ではないと思う。
    家庭があり、子どもがいて、周囲から見れば安定した生活を送っているように見える塔子が、その内側でどれほど孤独を抱えていたのかが、とてもシビアに、そしてリアルに描かれていた。

    安心を与えてくれる恋と、刺激を与えてくれる恋。
    その二つのあいだで揺れ動いたことがある人にとって、この物語はとても共感する部分が多い内容だったのではないかと思う。


    レビューを読んでいると、塔子の気持ちが分からないという人もいれば、強く共感したという人もいる。
    私自身は、塔子に共感する部分が多かった。
    では、なぜここまで受け止め方が分かれるのだろうか。

    私はその理由の一つに、自分の中の辛さや苦しみを、自分だけで消化できるか、それとも誰かに頼ってしまった経験があるかどうかが関係しているように感じた。

    塔子側の人間は、自分の苦しみをそのまま相手や物事にぶつけることができない。
    ある意味で繊細で、弱い人間なのだと思う。自分が苦しいと声に出せず、周囲に助けを求めることもできず、けれど一人では抱えきれない。
    その危うさが、小鷹の「家族もいるのに一人で生きているように見える」という言葉に表れているように感じた。
    家族がいることと、孤独でないことは必ずしも同じではないのだと思った。


    人間は誰しも、上手に生きられるわけではない。正しい選択ばかりできるわけでもない。
    塔子のように、弱さや寂しさから誰かに寄りかかってしまうこともあるのだと思う。
    しかし、それでも人を傷つけてはいけない。特に最終章の翠の話は、読んでいてとても胸が痛くなった。
    大人たちの不倫や感情の問題に、子どもを巻き込んではいけない。
    どれだけ本人たちに理由や苦しさがあったとしても、子どもが背負わされる痛みは別の問題として考えなければならないと感じた。

    『Red』は、恋愛の美しさやときめきだけではなく、その裏にある孤独、弱さ、罪悪感、そして人を傷つけることの重さまで描いている作品だった。
    だからこそ、簡単に塔子を責めることも、完全に肯定することもできなかった。

    今の私は、この作品に強く共感した。
    しかし、数十年後にもう一度読み返したとき、この共感の感情がどう変わっているのかも気になる。
    そのときには、塔子の苦しみを今と同じように感じるのか、それとも過去の自分の感情として少し距離を置いて読めるのか。

    いつかまた読み返して、今の自分との違いを確かめたいと思う。

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    2026年05月27日
  • ファーストラヴ

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    感情の機微の言語化が静かに響いた。

    人の心ほど難しいものはないなぁ。
    傷は癒えないと無意識に連鎖してしまう。
    環境の大事さよ。

    解説も好き。


    *断片的な物語を、頭の中で一本に編み直す。考える。整理する。まとめる。残りの謎と問題はなんだろう。
    *さかのぼって原因を突き止めることは、今を変えるために必要な整理。見えないものに蓋をしたまま表面的には前を向いたようにふるまったって、背中に張り付いたものは支配し続ける。なぜなら、「今」は、今の中じゃなくて、過去の中にもあるものだから。
    ーーーーーーーーーー
    *想像することをサボれば、自分とは別の肉体が生きる景色を知ることはできない。目に見えない爆発の存在を知ることすらできない。
    *簡単に理解できないものに出会ったときこそ、断絶を感じ距離を取るのではなく、想像するスイッチを授けられた幸運を噛み締めたい。

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    2026年05月23日
  • クローバー

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     島本さん作品には珍しく、明るい登場人物が多く、楽しく読めました。

     学生時代特有の恋愛、進路の悩みなどが描かれており、同時期に、この本を読んでみたかったなぁと思いました。

     私的に熊野さんが良い味を出していて好きです。私もあの歌手のあの歌詞、当時聞いて、なんで??と思いました。

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    2026年05月20日
  • ご本、出しときますね?

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    作家の人たちってこんなに話上手いんだなと驚く。
    飲み会の場で話しているようなフランクさもありつつ芯を食った内容になっている。
    紹介されている本も面白そうなものばかりで、ウォッチリストにたくさん入れた。話し手さんの本も未読のものは代表作くらいは読んでおこうという気になった。

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    2026年05月19日
  • ナラタージュ

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    女子高生時代、周りと上手く関係を築けずにいた工藤泉、そんな彼女の支えになっていた既婚の葉山先生。精神的に深いところでしっかり結びついていった二人だが、その後のその時々の立場、置かれた環境、取り巻く人々との関係性など、様々な因果で阻まれたり、理性に従って自制しながらも、結果的には互いの想いは断ち切れるものではなく、お互い他の人との結婚生活を円満に過ごすという表面上の幸福の内側で、これからも燻り続けるしかないのであろうという、何とも切ない物語であった。
    全410頁のラスト4頁の展開にはやられた。ここまで泉の高校生、大学生、社会人時代の出来事が細かく描かれてきたのはこの為だったかと思われるくらい、ラスト4頁の展開は胸にグッと来るものがあった。特にラスト10数行は、感動的な映画のシーンを観る様に絵が浮かんだ。

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    2026年05月18日
  • ファーストラヴ

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    4.0/5
    タイトルのファーストラヴはいろんな捉え方ができるなあと思う。子どもの頃って親だけが世界の中心になる時期があるから、親の愛の方向は間違ってないか、なんて子どもに判断つかないよ。親に言われたひとことって何気にずっと残ってたりするし。受け取り方は天性のものだとしても、結構人格形成に大きく関わってるよなあ。大人にならないとわからないし、大人になってわかってんのかもわかんない。深すぎて!愛とは尊敬と尊重と信頼。朝井リョウの解説を読めばもっと深い!
    島本理生さんの描く年上の男性が大好物すぎて今日はよく眠れそう。

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    2026年05月14日
  • やるせない昼下がりのご褒美

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    全体的に読みやすかったです。
    個人的な事情で読書に集中できない時間が続いていましたが、短編で読みやすく、またお腹も空いていなかったのに読み終わると何か食べなきゃって思う不思議な一冊でした。

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    2026年05月13日
  • 憐憫

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    島本理生さんは直木賞受賞作を読んでから気になっていたけど、下北沢の某人気書店でこの文庫のサイン本に遭遇したから即買いました。期待を裏切らない。恋愛小説の名手ですね。
    あの直木賞受賞作も本作も、主人公の後ろ姿が表紙ですね。

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    2026年05月10日
  • ファーストラヴ

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    なぜ、娘は父を殺したのか。主人公である臨床心理士が被告人の内面に近づいていく過程が、なんだか皮膚をそっと撫でられているようで居心地が悪い。やがて何が起こり、何が起こらなかったのかが明らかになるにつれ、この違和感が確かな硬さをもって自分に迫ってきた。環境や性別の違いで自分の「ふつう」ができてしまうとすれば、人間とは多様すぎる。誰しもが誰かを傷つけうるし、自分の傷に気が付けない時も。

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    2026年05月07日
  • Red

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    ネタバレ

    周囲から羨ましがられるほどの夫、最愛の娘、理解のある姑、それなのに塔子の結婚生活は幸せなようでどこか満たされない。

    塔子は「誰よりも早くしがらみから抜け出したかった」から彼女の女友達の誰よりも早く結婚したが、彼女はまだ自らの欲望の形も分からず、その欲望を伝えることもできない、未熟な女性だったのかもしれない。

    そんなとき、かつての交際相手である鞍田と再会する。
    塔子を求める鞍田の情熱は、塔子の人生は再び動き始める。

    それは破滅の始まりか、大人の女性としての成長か。

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    2026年05月06日
  • 夜はおしまい

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    女性はなにに支配されているのか。
    まず女性の対となる存在である男性。彼ら(もちろん全員ではないが)は、女性の脆弱さ(ヴァルネラリビティ)につけこみ性の尊厳を搾取していく。
    ほかにも、親としての権力を振りかざし子の領域に踏み込んでくる両親。あるいは同じ女性からも抑圧されることだってあるのかもしれない。

    そんな支配から脱却し、独立を勝ち取るために、強さ(レジリエンス)を獲得しようと悩みもがく女性たちを見守っているのが、神父の金山。(彼も男性であるが、過去に支配されている)

    強靭に生きるというのは難しい。でも、そのためのヒントとなるかもしれないことを神話と照らし合わせて、本書は伝えてくれる。

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    2026年04月26日
  • イノセント

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    ネタバレ

    一気に読んでしまったが、
    内容が重く1ページ1ページをめくるのもしんどいのも確か。
    島本さんの今までの小説(私が読んだ)と同様、愛・生い立ち・キリスト教がテーマ。
    過去のことに対して、違う出来事ではあるものの、
    加害者・被害者の立場からその罪(イノセント)を背負い、背負わされ、その罪はキリスト教の信念によって救われるのか?

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    2026年04月26日
  • よだかの片想い

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    ネタバレ


    自分の全てを受け止めて欲しい
    なんて身勝手な感情なのだろう

    愛しい人のためならと尽くすこと
    なんて自分を蔑ろにしているのだろう

    恋愛をすると自分を見失ってしまう。
    多くの人が経験しているのではないだろうか。


    ときに、一般化されていることが偏見を水面下で産んでしまう怖さ。
    善意が知らずに他者を傷つけていることの怖さ。
    全く考えたことのない視点だった。

    本当の意味での思いやりってなんだろうと考えた。
    今の私が思うのは

    相手も自分も、双方が心地よい関係である事だとおもう。
    人は弱い生き物だから、受け止めて欲しい時もあるだろう。それを苦痛なく受け止められる関係。
    こうしてあげたいと思ったとき、それが自己犠牲でないこと。
    与えられられた事柄に負担がない事


    以下はメモ書き

    飛坂はアイコさんに心を寄りかかる場面
    ミュウ先輩が入院中、アイコに会いたくなったこと。
    それはアイコが真っ直ぐに人を受け止めることができるからであろう。


    その一方で、飛坂もアイコも相手を求めたくなるとき、それが一致していなかった。


    アイコがキーホルダーをプレゼントしたとき、周囲に笑われてしまい、アイコは申し訳なく思ったが喜んでもらえた場面が印象に残った

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    2026年04月25日
  • 星のように離れて雨のように散った

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    「青い夕方」とは、どんな空なのか、、、
    この小説には青い色が散りばめられている。青いノートや青い服などが出てくるが、「青い夕方」という表現もその一つだ。

    主人公の「春」についてだけでなく、「亜紀」についても語られていて、人間の弱さやどうしようもなさが描かれていた。登場人物達があまりにも、自身や周りと真摯に向き合おうとし過ぎる気もして、読んでいて苦しくなった。

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    2026年04月25日
  • ナラタージュ

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    ネタバレ

    かつて同じときを過ごした瞬間を鮮明に思い返すことができる相手と、しかも再開することが叶わない相手となれば、はたして長い人生の中で出会えるのだろうか。

    この作品の登場人物の多くは、泉も、葉山先生も、あるいはほかの人も、自分の中に傷ついた過去を抱えている。その傷を、放っておくこともせず、痛ぶることもなく、ただ痛くないようにでも心地良いようにやさしくやさしくいたわってくれる相手に出会うのであれば、人は救われるのだろう。救われた瞬間もまた、人生の中のしずかな幸せとして深く深く自分の中に残っていく。それが互いに救い救われるという共存関係を、教師と学生という禁断の関係と並列させて島本さんの細やかな心理描写できれいに描かれていく作品こそが本作「ナラタージュ」。

    この互いに救い救われる関係は恋愛とはまた異なるが、深い慈愛や愛情に密接に関連しているという意味では似ている関係なのかもしれない。でも恋愛ではないので、救いを施してくれた相手と人生が重なる可能性が限りなく少ないことだってある。
    道を分かっても、二人はお互いに相手を救い相手に救われている。

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    2026年04月26日