アガサ・クリスティーのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
「カリブ海の秘密」の続編ともいうべき作品。
西インド諸島で共に事件を解決した大富豪の死を新聞で知ったミス・マープルは、しばし感慨にふけったいた。しかし、その大富豪から届いた手紙によって、詳細を知らされぬまま、とあるバス旅行へと誘われる。正義をなしてほしい、という願いを叶えるために。
登場人物表の半分近くをバスの乗客が占めているが、覚えなくても全然問題ないというところに苦笑い。バスツアーのくだりは、退屈なので正直脱落しそうになったが、三人姉妹と出会ってから「何をすべきなのか」がぼんやりと判明しだしてからは、ビックリするぐらい面白くなった。
実際使われたトリックそのものは、途中で気づいたけれど「誰が、なんのために」という部分で、ミスリードにまんまと引っかかってしまった。
最終章で卿や大臣といった名だたる男性陣に「今までに会った最高のこわい女」「たいへんやさしくて、たいへんに冷酷」と評されるミス・マープル。作者の価値観が見え隠れしてこれも面白い。 -
Posted by ブクログ
イギリスを離れ、西インド諸島で療養生活を送るミス・マープル。ある晩、とりとめのないおしゃべりを繰り返す老少佐が「殺人犯のスナップ写真」を彼女に示そうとするか、寸でのところで取りやめてしまう。そしてその晩少佐は亡くなってしまう。
序盤で死体が登場するわりに、事件そのものの進展は遅い。だが、一見「良い人」に見える宿泊客の仮面を一つ一つ剥がしていくことで、物語に深みを与えているように思う。いつもの頼りになる仲間が不在の中、ミス・マープルと相棒を組むのが、嫌味な大富豪というのも面白い。警察や医者と事件に関する話ができない一方、大富豪との会話は老人パワーフル回転で楽しくもあり、若者とは違う視点で物事を見ているのがわかる。(クリスティー自身が年を取り、老人に肩入れしているのかもしれない)
事件そのものは、最初から示されていたのに、目くらましをまんまと食らってしまった。悔しい。 -
購入済み
「検察側の証人」と同じ話
表題作「情婦」は、映画の邦題に合わせたもの。他社の版では「検察側の証人」という題になっていることが多い。この版は翻訳に少し癖がある。とくにポワロやヘイスティングズの台詞の言葉遣いが丁寧すぎて、他の訳者の訳で読み慣れている人は少し戸惑うかも。
-
Posted by ブクログ
凄まじいある愛の形。
鉄管工の父を持つ保守党候補者ゲイブリエル、由緒ある貴族の末裔のイザベル。男と女、どこでどう惹かれるのか。肉体、精神、顔、声、それらが相まって関係は始まる。クリスティがここまで凄い恋愛観を持っていたとは。
時は第二次世界大戦、ドイツが降伏した後、日本が降伏するまでの間に始まった。一組の愛の物語の背景に、戦争、貴族社会の変容、イギリス社会の階級意識、政治へのひとつの考え、などを配する。親父が鉄管工だという労働者階級出身だが保守党候補者ゲイブリエル。政治家になるのは金のためと割り切っておりしょせん政治はそれだけのもの、庶民に小さな希望を持たせればいいと言う。が、金で貴族の称号を買ったとしても、それは貴族に生まれたのと同じではない、と言う。クリスティは中産階級側だと思っていたが、案外醒めた社会観が窺える。
1947発表
2004.6.15発行 217.5.25第2刷 -
Posted by ブクログ
主人公シーリアの幼い時から結婚、離婚に至る経緯が書いてある。シーリアが自殺しそうな所に遭遇した若い肖像画家メアリーがその時シーリアから聞いたシーリアの話を活字にまとめた、という体裁をとっている。おだやかな性格の婚約者を振り、積極的で現実的なダーモットと結婚。夢見がちなシーリアと現実的なダーモット、読み終わるとそのずれが痛々しくこちらの心に沈着する。
離婚に至る夫婦とそうでない夫婦、どこでどう作用するのか、ひとつのケースを見せつけられる。前作「愛の旋律」の5人にもそれぞれクリスティの片鱗を見出したが、あちらは男女の大きなうねりが大河の流れのようにフィクションとして迫ってくる。が、こちらはクリスティの伝えられる事跡と同じなので、一人の女の心の無残な軌跡が露わになる。
この本で見る限り、ダーモットは自分本位な感じだが、その夫の性格を受け継いだ娘ともなかなか相容れない描写も見逃せない。クリスティの娘もそうだったのか。
シーリアの老母は最後まで父に愛された、とシーリアは思っていたが、若くして死んだ父も母に万全では無かった時期がある、と晩年の母に匂わせた描写がある
1934発表
2004.1.15発表 -
Posted by ブクログ
おもしろい。一気に読んでしまった。ミステリーではないが、5人の若い男女の織りなす愛の物語と、作曲に憑かれた男の創造意欲、そして第一次世界大戦をはさむ非常時に翻弄される運命が二転三転する様はまるでミステリーのようだ。
イギリスの何代も続くお屋敷に生まれたヴァーノン・ディア、従妹のジョー、隣に越してきたユダヤ人少年セバスチャン、そしてヴァーノンの幼友達ネル、オペラ歌手ジェーン。ヴァーノンとセバスチャンはケンブリッジ卒業後すぐに第一次世界大戦に召集なので、おそらくクリスティと同年代の設定。主人公ヴァーノンの音楽への創造意欲、友人セバスチャンの商売、奔放な愛に生きるジョー、男の経済力に頼るネル、声楽でも己の愛にも強い主張のある女性ジェーン、この5人すべてがクリスティの分身なのではないかと感じる。
冒頭の現代音楽とおぼしき音楽界の様子、「我々は戦争によって実に多くのものを失ったね」
一転、ヴァーノンが1歳の頃からのお屋敷での使用人との日々、折り合わぬ父と母、ひとり空想で遊ぶ日々が綴られる。けっこう長いのだが、これが主人公ヴァーノンという人物を理解する基礎となる。
長じてボーア戦争で戦死した父を残し実家近くに引っ越す母。息子が母を疎う気持がリアル。そして父のお屋敷の直系として屋敷を愛する気持ち。姻族とは所詮義理の関係なのだ、結局、人生の終盤には出自の血族に意識は戻るのか、といったあたり、還暦過ぎて読むとなかなかリアルだ。だがクリスティはこれを40歳の時に書いてるんだなあ。
1930発表
2004.2.15発行 2019.6.15第2刷 -
Posted by ブクログ
長編「死者のあやまち」の原型となった、中編一話が収録されている。
「阿房宮」だけで憶えていた私は初め、ミス・マープルの阿房宮と混同していた。
あちらは、「グリーンショウ氏」の阿房宮。ポアロは、「ポアロとグリーンショア氏」の阿房宮。編集と訳者さんの苦労が偲ばれる。
死者のあやまち版はかなりの長編だったが、こちらはコンパクトにまとまっている。しかし登場人物も、話の筋も同じ。読後の満足感は……時間が取れないけどアガサが読みたい!となったときにはこちらに軍配が上がるか。じっくり時間をかけて一冊の本にとりかかるなら、死者のあやまちをオススメする。
-
Posted by ブクログ
結論だけ書くと「やっぱりクリスティーは巧かった」これに尽きると思います。
解説によるとクリスティー晩年の作品ということで、確かに派手なトリックや展開もなく、ポアロがひたすらに関係者の証言を集めていく、という地味な展開が続きます。
ただ地味な証言集めが続く一方で、幻想的というか、ポアロが美しい庭園に足を踏み入れる場面があり、そこがなかなか面白かった。その庭で出会う女の子は、キャラが濃くてこの作品でしか見られないのが、もったいないくらいです。
さて、なぜ自分がこの作品で巧さを感じたかというと、遺言状をめぐる展開もそうなのですが、犯人の動機の描き方が、なによりも巧い!
動機としてはかなり特殊なのですが、しっかりと小説の筋を追いかけていると、その動機もなぜか納得出来るというか、そういう風に話を展開させていたんだ、と後になって気づかされるのです。
クリスティーの有名どころは結構読んできたつもりなのですが、まだまだ伏兵というか、
有名どころに埋もれている他の作品たちの可能性を、感じさせてくれた一冊でした。 -
Posted by ブクログ
すごくおもしろかった。
ポアロファンが好きなものが詰め込まれている1冊だと思いました。
ポアロシリーズのなかでも、読み応えのある作品だと思います。
まずポアロの登場シーンが多いのがいい。
ヘイスティングスがいないのが残念ですが、ポアロによる調査シーンが多くてうれしかったです。
ジャップ警部は出てくるので、二人の掛け合いも楽しめます。
ミステリとしては、最後まで読者に頭を使わせてくれる構成で、一度流れに乗るとページをめくる手が止められませんでした。
日本語のタイトルからは想像できませんが、実はマザーグースの暗記唄をモチーフとしたお話です。
章タイトルが、マザーグースの暗記唄の一節になっていて、全章のタイトルをならべると一つの暗記唄になっています。
マザーグースに興味がある方も楽しめるのではないでしょうか。
また、冒頭でポアロが歯医者さんに行くのですが、そうしたほのぼのとした生活感のある描写も、非常に魅力的です。
◇おすすめポイント
・ポアロがほぼ出ずっぱり
・生活感のある描写も豊富
・最後まで読者に頭を使わせるミステリ
◇こんな方におすすめ!
・とにかく頭を使いたい
・マザーグースに興味がある
・ポアロが好き -
Posted by ブクログ
名門女子校で起こった教師3人の殺人事件と生徒の誘拐事件。
中東の国王の自家用機墜落事故に伴って紛失した宝石の行方を動機に絡めて、面白い展開を見せ、ミステリーの物語としての膨らませ方はすばらしい。特に面白いと感じたのは、アラジンの「古いランプと新しいランプの交換」になぞらえたラケットの交換。ジュリアの母親が学期はじめに見かけた意外な人物「鳩のなかの猫」の正体を、母親がトルコにバス旅行に行っていることにして、不明のままストーリーを進めていくところも巧い。
一方、真相はやや拍子抜け。誘拐事件の真相にひねりがあるものの、殺人事件の真相には意外性に欠け、禁じ手ではないが、それに近いもの。現実的には起こりえることだし、それによって犯人が隠蔽されてはいるが、物足りなさを感じた。