「新史 太閤記」においては秀吉に学ぶ人生論書という色合いが濃かったが、秀吉が家康を懐柔する場面まででストーリーは終わっており、秀吉の晩年は描かれていない。本書はその続編や補足編としての位置付けであるが、秀吉が嫡子秀頼誕生により盲目的になったシーンが満載であり、良くは描かれていない。一話ごとに独立した主役を据えているが、それぞれごとに感想を書いていこう。
第一話 殺生関白
秀吉の姉の子:豊臣秀次を描いたもの。秀次は叔父秀吉の引きにより関白まで上り詰めるが、秀吉の嫡男:秀頼出生のため謀殺されるという悲運な運命を辿る。歴代の大河ドラマでも、どちらかと言えば幸の薄い役者が演じることが多かった。歴史ファンの中にはその悲運に同情する向きも少なくないが、彼を主人公とした本書を読めば、その同情心も消え失せる。司馬氏が描く秀次は矮小な変人であり、その悪行を読むにつけ、早く駆逐されないかと最期を心待ちにするだろう。特に、通り掛かりの盲人を斬りつけ惨殺したシーンには怒りを通り越して吐き気を催した。まぁ、叔父が異例の出世を遂げたばかりに、無能な人間に器以上の役職が回ってきたというある意味誰にとっても不幸な話である。
ちなみに、殺生関白とはもちろん、摂政関白をかけたもの。
第二話 金吾中納言
秀吉の正室である北政所の弟の子として生まれた、後の小早川秀秋を描いたもの。秀秋も司馬作品など歴史小説において良く描かれることはない。秀次同様、その人物像は芳しくない。やはり秀次と同じく、秀吉の血縁のみによって出世を遂げた無能力者である。
彼は関ヶ原の戦いにおいて西軍を裏切り、家康方に勝利をもたらした余りにも有名な武将であるが、戦いから二年後に病没という、家康に利用されるだけで終わってしまった。まぁ、歴史に名を残しただけでも大したものか…。
第三話 宇喜多秀家
前二者とは異なり、秀吉との血縁関係はない。秀吉が信長の武将として毛利攻めをする際の途中に寝返らせた宇喜多家の嫡男を猶子(準養子)としただけである。なので、厳密には豊臣家の人々ではないが、秀吉の庇護を受けたという意味では当てはまるのだろう。
彼も戦国の世を生き抜くための能力はあまりなく、結局は関ヶ原の戦いにおいて敗れ、死罪は免れたものの八丈島に流されて不遇な老後を送っている。やはり秀吉がいないと駄目な男である。
第四話 北政所
本書に、ようやく豊臣家の賢者が登場した。いや、賢女と言うべきか。北政所は秀吉の出世を後押ししてきた功労者だが、同時に家康が躍進して天下に覇を唱える働きもしている。秀吉没後、いやその前から、淀殿、石田三成、長束正家という近江勢を牽制し、加藤清正、福島正則らの尾張勢とサロンを築いて家康の天下取りを後押しした。歴史に名を残した女性といっても過言ではないだろう。
第五話 大和大納言
秀吉の実弟、秀長を描いたもの。彼は秀吉血縁男子の中では珍しく、無能ではない。と言っても、秀吉のような人たらしが出来る訳でも柔軟な思考力を持つ訳でもなく、単に決められたことを忠実に実行する能吏のような者であるが。さきの大河ドラマでは、袴田吉彦が中々良い弟ぶりを好演していた。
第六話 駿河御前
秀吉の妹、旭姫。せっかく結婚していたのに、秀吉の家康対策のために離縁させられて家康に嫁がされたという悲運の姫。秀吉の天下統一にはこうした身内の犠牲無しには成し遂げられないのだ。
第七話 結城秀康
家康の実子であり、秀吉の養子。彼は秀吉よりも家康に利用されただけの人。終始、その運命から逃れられなかった。家康は徳川家存続のため、実子を利用し尽くしている。長男信康(信長の信)、次男秀康(秀吉の秀)、三男秀忠(秀吉の秀)の名前を見れば一目瞭然。
第八話 八条宮
秀吉が皇族と血縁関係を築くために一時的に養子とした八条宮智仁親王の話。今までと異なる視点から秀吉を見ることが出来た。
第九話 淀殿・その子
さきの大河ドラマの舞台である。もっとも、「関ヶ原」「城塞」など同じ司馬作品で既知の内容であるため、真新しさはなかった。