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Posted by ブクログ 2022年09月28日
若い頃に読んだ司馬遼太郎氏の作品を読み返しております。
司馬遼太郎氏は現存の資料を徹底的に調べ、それを土台に書き上げるとともに、あくまで歴史小説であるので私観や想像を織り交ぜてもおられるので、どこからどこまでが史実か分からないほどの作品が多いと聞いております。
シンプル、時には出来事をあっさりと流...続きを読むす書き方は、こちらに先に慣れ親しんでしまった私は心情を長々と書いてたり、主人公の行動をひたすらハードボイルドで書き上げている歴史、時代小説を読んでると飽きてしまう性格となってしまいました。
本作品については、長宗我部元親の話で、知らない方も多い戦国大名の話です。
小さい地方領主から四国統一の一歩手前までいったのち、豊臣秀吉に屈服した生涯でしたが、日本の中央に位置しない大名の不利さ等も視点として描かれ、織田信長との対比も面白い書き方でした。
また長宗我部元親がとった一領具足の制度が、後に維新に関する土佐郷士の原動につながることも感じられる内容です。
司馬遼太郎氏の特色である最後はさらっと流してしまう書き方でしたが、私はこの安心感??かつ、無駄に長くなく、歴史情報の溢れた司馬遼太郎作品が大好きだと改めて感じた内容でした。
Posted by ブクログ 2022年04月03日
四国の長曽我部元親に対し、織田信長が討伐を命じるまでの上巻。まず、信長の腹心、明智光秀ゆかりの菜々が長曽我部家に嫁ぐ出だしも大いに興味をそそる。ほぼ作者の創作だろうが時に笑いを誘いつつ展開させ、長曽我部元親の人柄と考え方を織り交ぜ、読者を徹底的に元親主眼にさせる。内容もとても濃く、かと言って難しくも...続きを読むなくすらすら読めてしまう。結末は分かっていながらも下巻が楽しみです。
Posted by ブクログ 2018年06月07日
戦国時代を舞台とした小説で、土佐の一大名である長宗我部元親(ちょうそかべもとちか)が主人公で物語は進んでいきます。
天下統一という大きな目標をもっていた元親は、一介の大名でありながら土佐統一、他国への侵略を行っていきます。
元親の、目標に対して邁進する姿、揺るがない信念がかっこいいです。
チームを引...続きを読むっ張っていくリーダーはこうあるべきだ、という気づきもありとても良い作品だと思います。
Posted by ブクログ 2016年10月28日
土佐の長曾我部元親と、そこに嫁いだ菜々がメインの話(今のところは)。元親は戦上手の謀略家だけど実は臆病でくよくよ悩んだり冷徹なところもあったり。理屈っぽくて言い訳を考えては自分を納得させている。おもしろいです。菜々もなかなかぶっ飛んだ人。まさか元親が光秀を唆したの??と思いつつ、下巻へ。
Posted by ブクログ 2013年05月12日
上巻は美濃の武家生まれである奈々のむすめ時代から始まる。
奈々は、織田家に仕える明智光秀の家臣・斎藤内蔵助利三の妹です。この妹が、四国・土佐を治める長曾我部に嫁ぐはなし。
政略結婚が主流だったとはいえ、はるか遠く未開の地(と思われていた)へ嫁ごうなんて、勇気のある(…というか、ちょっとおきゃんで冒険...続きを読む好きな)女性だったのでしょうか。司馬先生の描く奈々はそんな感じ。なにせ上巻で一番印象に残ったシーンが、“うわなり討ち”(…という、家の台所を戦場にした女合戦)…だったもので。しかもそれが他人の家の台所なんだからたまりません。台所をめちゃめちゃにされた土居宗珊かわいそうwwてか国主の妻が武器までとて乱暴してまわるなんて面白すぎますね。読んでて楽しかったです。奈々かわいいw
それ以降は主人公を長曾我部元親に譲って国盗り物語が進行してゆきます。安芸国虎を滅ぼし遊蕩に耽っていた一条兼定を追放し、土佐一国をきりとり、ひたすら国土拡張をおしすすめる一方で、家中のものの教育に専念し、世継ぎである千扇丸(…これはのちの弥三郎信親ですが)をうむなど、内政もぬかりなく行っていった元親。
四国平定後は全国制覇も視野にいれ、織田信長との交流まで如才なく行っていましたが(息子・信親の「信」の時は、信長からもらったのです)その信長から「四国をよこせ」などと言われてしまいます・・・・
義憤にたえない元親...可哀そうですがこれが戦国の世の習いなのでしょう。
Posted by ブクログ 2014年04月06日
お里がたまらん。菜々の快活ぶりもたまらん。
追記
土佐が見たくなって高知に旅することにした。行きの船の中で再読す。
わくわく感が止まらない。
この本すごいなあ。
Posted by ブクログ 2011年12月19日
主人公は、土佐の長宗我部元親。
四国の覇者も、秀吉の軍師に手もなくころっと、やられてしまうのが、
地方と中央のレベルの差か(^^;;
センゴク天正記ではいい格好している仙石権兵衛こと仙石秀久が、
九州で敵前逃亡したために、嫡男の信親を戦死させてしまった戦犯として描かれています。
Posted by ブクログ 2011年10月11日
長宗我部元親を主人公にした珍しい歴史小説。
司馬さんの作品の中ではマイナーな部類ですが、個人的には司馬作品の中で5指に入るくらい好きな作品です。
土佐半国から苦心に苦心を重ねて四国を統一したのに、その時にはすでに信長、秀吉によって日本の大半は征服されていた・・・
晩年の元親の無念の思いに泣けます。
Posted by ブクログ 2024年03月26日
四国を切り取った長曾我部氏。その中でも元親は非常に有名である。
元親視点から進んでいくのかと思いきや、まさかの嫁視点からとは驚いた。そもそも元親の嫁が菜々という織田家の家臣明智光秀に縁のある人物であるというのも初めて知った、、、
元親の視点は意外と少なく菜々の視点から描かれていて、元親の主観ではな...続きを読むく菜々の客観的な視点から多く内容が進んでいるように感じられ当時の四国という状況をより分かりやすく理解できた。
Posted by ブクログ 2019年11月13日
土佐の国から四国制覇を目指した戦国武将、長宗我部元親が主人公。若き彼は武将としての自信に乏しく、誰よりも臆病だった。が、その短所が戦への慎重さをもたらし工夫を欠かさず、戦前の外交を重視した。戦の勝敗はその前の準備で決まることを彼は十分に知っていた。
しかも、元親が気にするのは目の前の対戦武将だけで...続きを読むはない。四国から遠く離れた織田信長に目をつけ、その配下の明智光秀のそのまた配下武将から嫁を取り、それをきっかけにして織田家の威を武器にする。
そんな元親の苦労が実り、長宗我部家は領土を拡大。元親は四国を統一し、その勢いで天下統一の候補者として台頭することを夢想する。が、織田信長もまた元親を利用していた。元親を応援し、四国を征服させた後にその元親を叩こうとする。
似た者同士の二人だが、決定的に違ったのが出身地から京都までの距離。信長が天下を取れて、元親が取れなかった理由はそれだけだった。
人生を左右するのは実力だけじゃない。世の中は不合理で不平等で納得できないことがよくあるのだ。というわけで、信長が長宗我部征伐に乗り出したところで下巻へ。
Posted by ブクログ 2018年12月24日
「では千翁丸殿を」
どうする気か。わずか五歳のあの子を戦場につれてゆこうというのは、ゆくゆく自分のような臆病者にさせぬための早期鍛錬のつもりなのか。
「そのおつもりでございましょうか」
(ならば反対したい)
とおもった。物のあやめもわかぬ五歳の幼童を戦場につれて行ったところでなんの鍛錬にもなるまい...続きを読む。
「ちがう」
と、元親はいった。鍛錬や教育のつもりではない、という。
「当然、物におびえ、敵の声におびえ、銃声におびえるだろう。どの程度におびえるか、それをみたいのだ」
「みて?」
「左様、見る。見たうえで、ゆくすえこの児にどれほどの期待をかけてよいか、それを見たいという興味がある」
「怯えすぎれば、千翁丸の将来を見はなすというのでございますか」
「いやいや」
かぶりを振り、元親は、奈々が思いもよらなかったことをいった。
――臆病者なら信頼しうる。
というのである。聞きちがえたか、と奈々はわが耳を疑った。が、元親は、臆病者こそ智者の証拠であり、臆病こそ知恵のもとである、といった。知恵があるものでなければ臆病にならない、とも元親はいう。
「そのことは、おれは自分自身が人一倍臆病者であるから知っている」
という。幼童のころ、夜陰、冬樹が天をつかむように枝を張っている影をみては妖怪かと思い、厠にも行けなかったが、これは想像力がゆたかすぎるからであろう。その他、物の影や音を、さまざまに想像しては怖れたが、想像する知恵が幼童になければ怖れまい。幼童の豪胆は鈍感の証拠であり、無智の証拠だ、という。
Posted by ブクログ 2018年02月04日
長曾我部元親について改めて知ろうと思い再読しました。最初に読んだのが文春文庫の旧版第9刷、1980年の学生時代でした。今更ながら司馬遼太郎は冒頭から面白い!岐阜城下で一番の美人とうわさの菜々が、土佐の元親に輿入れする話は笑ってしまいます。菜々は後に明智光秀の重臣となる斎藤利三の娘(史実は利三の兄、...続きを読む石谷頼辰の義理の妹らしいですが)として生まれ、信長がまだ天下布武に遠く、元親も土佐一国すら切り取り途中の時期に、遠交近攻策の政略結婚に嬉々として嫁ぎます。隣家の光秀が縁談を持ち込み、信長も菜々に立派な嫁入り仕度を指示し、秀吉も祝賀に訪問と役者が揃います。
司馬遼太郎はいつもの様に、長曾我部氏や本拠の岡豊城の名前の由来等の余談も交えて、当時は鬼国と思われた土佐の風土を語って行きます。そして元親は四国を制圧する為に謀略と共に、戦力不足を補うため、農民を兵に組み入れた「一領具足」を積極的に活用します。このことは土佐一国の団結を生み出し、元親もそれを利用します。やがて秀吉との決戦の可否を衆議するときに、一領具足の兵も参加する場面は印象的です。
一領具足は江戸時代には郷士となり、幕末の尊皇攘夷に多くが参加します。
元親は四国の制圧には成功しますが、信長や秀吉など中央の覇者には適いません。毛利との同盟、本能寺の変の後の光秀への加勢、秀吉と家康の対立時に家康への加勢など実現できればと思うと残念です。
夏草の賦、この小説の題名はやはり芭蕉の句より採ったのでしょうか?
魅力に溢れた小説です!
Posted by ブクログ 2014年12月21日
戦国時代の武将の話。俺も信長のように都の近くに生まれていればと何度も思いながら生きている。上巻はテンポよく楽しく読み進めていける。
下巻は(最後は)切なくて泣けます。
Posted by ブクログ 2014年04月27日
四国の戦国大名、長宗我部元親を描いた小説。才覚に恵まれ、調略・謀略を用いながら四国を統一していく様子を、司馬遼太郎の小説らしく、一歩引いたスタンスで描いています。
四国の歴史はなじみが薄いので、一方の主人公である元親の奥方が、織田家中の明智光秀の親族で、兄は本能寺の変後に秀吉に敗死、姪は家光の乳母・...続きを読む春日局として取り立てられた云々、元親が採用した屯田兵制度である「一領具足」が山内藩政では郷士となり、土佐の明治維新の中核を担う事になった等々、本著を通じて初めて知る事ばかり。
Posted by ブクログ 2012年10月18日
BASARAで元親兄貴にはまり、すぐに購入した本。司馬作品はよく大河になりますが、夏草はならない…。負けたからなのか?戦国無双の元親のとなりが奥さまの名前になっててちょい感動した。
上下巻。
Posted by ブクログ 2012年08月22日
初・司馬遼太郎。経営者に愛読者が多いと聞くけど、ナルホド~って感じ。登場人物をいちいち自分の周りの人に置き換えてみるとさらにおもしろい。読み応えあり。長宗我部元親って名前が派手なわりに、歴史上の働きは地味、というイメージだったので、なぜ、そこにクローズアップしたのか、そのキッカケを聞いてみたい。ただ...続きを読むすべてが史実に忠実ではないとのこと。フム。
Posted by ブクログ 2012年05月29日
戦国時代の土佐の武将、長曽我部元親を主人公とした歴史小説。
上巻は織田信長との衝突、間に入って苦闘する明智光秀を描えたところで終わる。早、下巻が楽しみ。
土佐藩の勤王志士が山内家(上士)から蔑まれていた長宗我部一派(郷士)から出ていることは有名であり、今一度、理解を深めてみたい。
以下引用~
・・...続きを読む・このとき元親がおもいついたのは、のちに長宗我部軍の戦力の中心になり、日本史にその特異な名をとどめた一領具足の制度である。一領具足とは、屯田兵のことである。
・・・
後世、この階層が郷士になり、幕末この階層から土佐藩の勤王奔走の志士のほとんどが出たことを思えば、元親のこのときの発想は日本史的な事件であったといっていい。
Posted by ブクログ 2011年12月08日
考えた。がんばった。しんどかった。成功した。
壁が来た。自分の持つものの足りなさを思い知った(どうしようもないものを含め)。
諦めた。しかも、大事なものをさらに失った。
という物語だったはず。
でも、人生これでいいんだと思うんよね。なんとなく。
Posted by ブクログ 2022年10月06日
司馬遼太郎さんの作品の中でで初めて購入した本。
長宗我部はゲームで結構有名になりましたが彼が出るの本は中々ない。
期待した通り上下で綺麗にまとめられており読みやすく面白かったです。
明智光秀の家臣、斎藤利三の妹が妻ということでここで明智と知り合うことになったのかと納得しました。晩年の元親、長宗我部家...続きを読むを知っているだけに最後の方は切なくなりました。
Posted by ブクログ 2022年01月17日
四国の戦国大名長宗我部一族の物語。
長宗我部という不思議な名前は、鎌倉初期に土佐の曽我部に地頭としてやってきた能俊が、曽我部姓を名乗ったが、すでに曽我部という家があったので、区別するために長岡郡の曽我部ということで、長宗我部と呼ばれることになったらしい。(p65)
この物語は美濃の斎藤利三の娘菜...続きを読む々が、長宗我部元親に嫁ぐところから始まる。
そこから、元親の土佐統一、四国制覇の歩みが始まる。
私は信長の野望というスーファミのゲームを初めてやった時に、長宗我部を選んだので、以来長宗我部を贔屓にしているが、彼らの物語を読めて良かった。
Posted by ブクログ 2021年02月27日
~全巻通してのレビューです~
長宗我部は必ず?下の名前に「親」が付いて、どの時代のどの長宗我部がどの「○親」なのかよく知りませんでしたが、四国を平定したのは元親だったんですね。
そしてその後、秀吉に屈服し土佐一国になるわけか。
四国平定後、どうなったかは読むまで知りませんでした。
元親はよく「僻...続きを読む地の土佐に生まれていなければ」と言ってましたが、まあそれはそうで不運なんですが、何度もその発言が出てきたので女々しく感じました。
随分内省的な人であったようですが。
秀吉の命令で九州征伐の先鋒になり、アホの仙石権兵衛のせいで、嫡子の信親を失って四男の盛親が世継ぎになるわけか。
続きは「戦雲の夢」で・・・
Posted by ブクログ 2015年09月16日
龍馬もだけど、この人、こういう人なのー!って驚きが面白い。
元親の小心なのか大物なのか微妙な描き方。
美濃から嫁いだ菜々の大らかというか豪胆というか。
「いくさに勝つということは、さほどむずかしいことではない。勝つ準備が敵よりもまさっていればもうそれで勝てるのだ。」とあっさりいう元親。それを理解し実...続きを読む行できるのはまさに天賦の才。
「武士の腹は真っ白でなければならぬが、しかし、大将はちがう。墨のような腹黒さこそ統一への最高の道徳だ」
臆病だからこそ誰よりも準備を重ねる。
土佐から阿波を切り取り、時には大きな犠牲を払い力で押し、いよいよ四国全てが目前となった時、信長が四国まで手を伸ばしてきた。
「天の意思に善悪はない。それを善にするのが人である。」
歴史ものは前途が見えていてそれが切ない。
Posted by ブクログ 2014年03月31日
四国の大名長曾我部元親の一代記。なのだが、極めて淡々と話が進んでいく。なんとも没入観に乏しいのは、人物描写にあまり魅力が感じられないためかもしれない。長曾我部氏の興亡記として考えるならば、そこそこよいか。
Posted by ブクログ 2012年10月04日
長宗我部元親の物語。上杉謙信、武田信玄、伊達政宗みたいに、あまり知られてないが、時代を代表する勇敢な武将。
坂本龍馬や明治の自由民権運動を産んだ土佐の風土を作り上げたひと。
上巻は、四国統一に向け、生き生きと輝きを見せている。読んでいくと、土佐の山々、自然が目に浮かんできます。
Posted by ブクログ 2013年07月13日
臆病者の英雄元親と冒険好きの妻菜々の話。
長曾我部元親は人間臭く描かれていて、
謀略を使っては悩んだりする。
一方妻の菜々は明るく悩むことも少なく、
好奇心旺盛で、対照的な夫婦である。
で、元親は菜々の故郷の美濃に居る
信長を意識して行動するのだけど、
中央に近い信長と土佐の自分とでは、
如何と...続きを読むもし難い差というものがあった。
元親の目を通して信長を見ると、
何だか物凄く嫌なヤツに思えてくる。
この小説の長曾(宗)我部元親は人間臭い。
同じ土佐人の竜馬がゆくとは雲泥の差である。
Posted by ブクログ 2012年07月02日
全2巻。
長宗我部元親のお話。
そういやちゃんと読んだことなかった。
長宗我部元親。
説明臭くて説教臭く、
個人的にあまり好きじゃない司馬遼だけど、
直前に吉村昭を読んでたからか、
今作はまったく気にならず、すいすい読めた。
が、
短いから、説明臭くないからサクサクなんだけど、
逆に少し物足りな...続きを読むさを感じた。
特に後半。
中央の歴史に登場してからの長宗我部を
も少し深く読みたかった。
今まで読んだ司馬遼の中では
大分好きな部類。
Posted by ブクログ 2020年07月15日
土佐の長宗我部元親を主人公にして、四国制覇から京への中央進出を狙って戦いに明け暮れた生涯を描いた小説。
ただ武力と知略のみを元手にして、天下への野望を持つというのは、戦国時代の大名らしい生き様だけれども、それがどのような形で表れるかというのは、その大名の性格によってだいぶ変わってくる。
長宗我部元...続きを読む親については、ただ、四国で名を馳せた戦国大名というぐらいのことしか知らなかったけれど、この人物も、だいぶ個性的な性格だったことがよくわかる。
勇猛よりも謀略を好んで、慎重すぎるぐらいに神経質で臆病。しかし、土佐の田舎からのし上がっていくという野望だけは、人一倍苛烈なものを持っている。
この小説のすごさは、若い日の、輝くような夢にあふれた時代の長宗我部元親と対比するように、秀吉に屈服してすべての夢が潰えた晩年の彼の姿をも詳細に描いていることだろう。
著者の司馬遼太郎は、物語の終わりのほうで、「長宗我部元親において、人間の情熱というものを考えようとした」と述べている。
たしかに、この元親の生涯を見ることで、情熱というものが、人にどういう魅力を与え、また、それが失われた時にどれほどのものを奪うのか、ということが痛々しいほどに伝わってくる。
内政に優れた能力を見せた元親が作った法律(長宗我部式目)や一領具足という制度が、数百年後の明治維新において、土佐の政治力の高さや、上士と郷士の対立につながってくるという関連も面白い。菜々という、一風変わった、美人で明るい妻の存在も、物語の世界を華やかにしている。
司馬作品の中では地味な小説だと思うけれども、戦国時代を、戦乱の中心から遠く離れた、地方の視点から眺めることが出来るという点で、新鮮で面白い作品だった。
「おれを、腹黒いと思うだろう」
と、美濃人の閑斎にいった。武士の腹は真っ白でなければならぬが、しかし、大将はちがう。墨のような腹黒さこそ統一への最高の道徳だ、という意味のことを元親はいうのである。(p.121)
「狭いのう、なあ菜々」
と、元親はまぶたをあげ、そのあたりを見まわした。
「わたくしの膝が、でございますか」
「天地がだ」
元親は青い空をみつけている。
「天地は広うございますのに」
「ちがう、おれの天地がだ。おれは鬱を晴らそうとして梅林で酒をのんでいる。この場所をみろ」
なるほど、狭い。それも城山のなかの崖っぷちであり、さざえが自分の殻の中で酒をのんでいるようで、日本国という規模からいえばこれは浅ましいほどせまい。
「おれは天下六十余州を庭にして酒をのんでみたい。武士もあきんども、国々を自由にゆききできる世をつくりたい」(p.189)