北方謙三のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ『水滸伝』『楊令伝』から続く長い物語の終着点として、本作は単なる戦記ではなく、腐敗した宋を変えようと立ち上がった梁山泊が遺した「替天行道」という志が、どのように受け継がれていくかを描いた作品。西遼、日本、南方(東南アジア)との交易を含めた梁山泊と宋(南宋)、金国との戦いにひとつの区切りがつき、晁蓋・宋江・楊令が掲げた「替天行道」が、最終的には物流という形で結実していく結末は、実に清々しい読後感だった。
特に印象に残ったのは、湖塞のころから梁山泊を支えてきた史進という一人の武将。 史進率いる梁山泊・赤騎兵が金国総帥・兀朮を討つ場面。 「退がった呼延凌は、目の端になにかを捉えた。赤い色、赤い矢。いや、遠くだ、ずっと遠くだ。肌に、粟が立った。呻き声が出ていた。周囲の者は、まだ気づいていない。」(16巻p362)という一瞬の描写が、映写機のコマ送りのように刹那を描く北方謙三ならではの文体を存分に味わえた。本シリーズを通して何度も感じてきた「北方謙三節」が、最後まで健在だったことも嬉しかった。
初めは一つの志の元で集った梁山泊が数多の戦を経て、個人ごとに少しずつ形の違う志に変わり、そして本作では人ではなく仕組みに宿り未来へ受け継がれるさまを強く感じる作品だった。晁蓋、宋江、楊令という英雄たちは去っていくが、「替天行道」は物流という仕組みとなり、人や国が代わっても世界を動かし続ける。特定の個人に依存するのではなく、誰が担っても価値を提供し続けられる仕組みを目指す営みである。
『岳飛伝』は壮大な大水滸伝シリーズの終幕であると同時に、強く胸に残る何かを与えてくれる本だった。そして、この先には『チンギス記』という新たな世界や、水滸伝より前の『楊家将』『血涙楊家将』が待っている。まだまだ北方謙三の歴史世界は終わらない。 -
Posted by ブクログ
チンギス紀からスタートする、おそらく変わった北方ワールドのエントリーから、水滸伝、楊令伝を経て、ついに岳飛伝の長い旅路を終えた。
旅は延べ1年に及んだものの、水滸伝から岳飛伝まで生き抜く史進の人生一生分が凝縮された濃い一年だった。そして胡土児から玄王がつなぐチンギスハンの流れもしびれるものがあり、全てのつながりを理解したところで、何か自分より遥か壮大な世界に取り込まれ、茫然とする感覚に陥っている。それは登場人物達と過ごした一年がなくなることのロスでもあるし、この壮大な世界にいざなってくれた北方謙三への畏怖でもあるし、今執筆中の蒙古襲来の物語への期待でもあるし、日常の自分とそれぞれの物語に登場する熱いキャラクターたちとの対比による失望と叱咤激励のギャップかもしれない。何かすごいものを読み終えた喜びと疲労と達成感の中で思うことは、語り尽くせないが、あえて三つ挙げるなら、
まずは、なんてすごい世界観を完成させたんだろう、という圧巻された感覚。よくぞそれぞれの物語を構築、あるいは再構築してつなげたなぁと。
次に、wowowで放送されたが、まずはアニメかコミックなのかな?と思う。広く多くの若者にも北方ワールドに触れて欲しい。
そして最後に、これは多くの人と語り明かしたくなる作品だということ。実際の歴史との対比かもしれないし、戦略的なあーでもないこうでもないかもしれないし、キャラクター談義もとにかく話が尽きないだろう。史進か、呼延了か、楊令か、もう語り尽くせない、覚えきれないほどのキャラクター達に、ご飯もお酒も進むことだろう。
圧巻の世界とシリーズを世に生み出した北方謙三氏に敬意と感謝を述べつつ、さすがに生成AIには無理そうなこの熱さを備えた作品を次の世代にも読んで欲しい、できるなら水滸伝から読むことをお薦めするw -
Posted by ブクログ
ネタバレ英雄譚的な部分、それでも綺麗事だけで終わらないリアルさを感じました。
晁蓋が亡くなり、盧俊義が捕まってしまう、そんな絶体絶命の状況で変わっていく人を巧みに描いています。
また、善悪ではない、人の感情のグラデーションを緻密に描くところに感情移入してしまいます。
個人的には、敵方の聞煥章の次の言葉が印象に残っています。
こうあるべきって理想に逃げてしまう自分を振り替えさせられたようでハッとしました。
「国家がこうあるべきだというのは、逃げにすぎん。ありとあらゆる方法で、直面している現実を切り開くのが、われらのなすべきことだろう、李富?」 -
Posted by ブクログ
ネタバレ横浜にバーを何軒も構える実業家、類まれな才能を持つ画家、そして無頼な生き方。主人公はあまりにも多くのものを持ちすぎている。そういう人間は、最初から破滅へと向かって歩いているのだと、読み終えてから思う。
地場の組織とのこじれ、恋人の不治の病、刺青の技術への静かな魅了。どれひとつ取っても物語になりそうな素材が、ひとりの男の上に積み重なっていく。一見すると無茶苦茶に見える。だが読み進めると、この積み重なりがじつによく練り込まれていることに気づく。雑然としているのではなく、意図して乱されている。
北方謙三の文体には固有のリズムがある。短く切れる文、乾いた体言止め、感傷を拒む語り口。そのリズムが、主人公の生きざまと不思議なほど合っている。
講談社文庫 440ページ -
無料版購入済み
行くと決まった
張飛が劉備に対し「本気か?」と質問を続ける事に業を煮やしたか
劉備はついに「口に気をつけろ 私は行くと言っているのだ 二言はない」と睨め付ける(「ねめつける」と読む)
馬の群れを持ち主に返却せずに全て売り払ってしまおうと言い出した男たちが劉備のその発言を聞いて面白いなとまるで冗談を聞いたかのように嘲笑うが
張飛は「おまえらは去れ!」と叱り付けるように叫ぶ
張飛と劉備のやり取りの傍に居た関羽も加わり馬の群れを持ち主に送り届けに行くと意を決している
更に張飛の怒号が飛んで反対する者も押し黙ると
劉備は馬の鞍から降りて関羽と張飛に礼を言い「姓は劉 名は備 字は玄徳と言う」と自己紹介する
間髪入れず「関羽 字は雲長」「張飛 字は翼徳」と返礼と共に自己紹介する二人
「私も君たちを思うように使うことにする それでいいな」と静かな表情で告げる劉備に
「おう 使いこなしてみろ 馬六百頭扱うより難しいかもしれんぞ」と不敵に笑い返す関羽
実は劉備と関羽は23や22で初陣に近く張飛など若干17歳でこれらの発言や言動はハッタリで強がりだったのだとすぐに判明する
強がって言ったのだと後から判明する下りが北方謙三先生の小説ではたびたび有り、人間的で面白い描写だと感じる
つまりこの時点では誰の考えが正しいのか分からないのだ
赤名修先生の漫画版は省略も無く描写しているので
昨年から休みなく連載しているのに
やっと劉備関羽張飛の旅立ち(とその前に劉備が景気付けに馬を売ろうと提案した男どもの集団を切り刻んで鏖にする)章が終わって
曹操が黄巾軍と対峙している所だ
馬の描写もあんな作画が面倒な生き物なのに何十頭も所狭しと描き込まれているし馬具や武具の装飾も徹底的だ
今作がヒットするといいな、それが北方謙三先生のみならず春樹の本望だろう