窪美澄のレビュー一覧
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読み応えのある短篇集だった。
生きている限り切り離せない「生と性」がおそらくテーマで、そこに「死」のエッセンスが加わってくる。
自分自身歳を重ねて思うのは、まさに「すみなれたからだ」で何十年もこの身体と付き合ってきているのに、いまだに掴み切れない…というか、歳とともに変化してゆく部分を実感せずにはいられないということだ。
太りやすくなる、疲れやすくなる、など加齢とともに表れやすい一般的な変化もあるし、女性ならば生理や出産などでの変化は人それぞれで、同じ女性同士でさえ理解し合えないことも多々ある。
そこに男女の性愛が加わろうものなら、悩み、虚しさ、過去に対する思いなど、様々なものがないまぜになっていく。
16歳と48歳の義理の父娘のインモラルな関係を描いた「バイタルサイン」、家族からは認知症と思い込まれている93歳の寝たきり女性が、戦時中に情事を重ねた男のことを回想する「朧月夜のスーヴェニア」がとくに印象に残ったし、他のお話よりエロかった(←褒め言葉)。
おもてには明かさない種類の性愛だからこそ…の雰囲気。
16歳のひと夏の恋を描いた「銀紙色のアンタレス」は切なく瑞々しくて、何となくダラダラと続く1組の同棲カップルの元に猫がやってきた「猫と春」はさらっとした中に深いテーマが隠されていると感じた。
「性欲ってどうしようもないな」と感じる事件も世の中ではよく起こっていて、どうしようもないからこそコントロールが必要で、でもそれが難しい関係性もあるからこそひとつの邂逅のような交わりに執着することもあるのかもしれない。
読んですぐに噛み砕くにはなかなか難しいテーマ。切り離せないからこそ悩むことも、よくある。 -
Posted by ブクログ
1960年代に出版社の新雑誌の編集部で出会った3人の女性たちのお話。
まだ女性の大半が結婚・出産を機に退職するのが当たり前だった時代にイラストレーターやフリーライターとして世の中を渡っていこうとする妙子と登紀子に、事務職で入社し編集職に誘われたものの結婚を選んで専業主婦になった鈴子。
3人の生活、結婚とその後、仕事振りが、昭和から平成の出来事とともに描かれる。
妙子や登紀子にはモデルがあると知ってググってみたが、大橋歩という人も三宅菊子という人もまったく知らなかった。雑誌は「平凡パンチ」のようだが、私は「平凡パンチ」よりも「週刊プレイボーイ」のほうが好きだったもんなぁ。
生まれも育ちも性格も価値観も違う3人の、それぞれの生い立ちと出会いに加え、高度成長期の日本の姿や社会のうねり、当時の若者文化の中心にあった出版社での新しい雑誌が生まれる様子などが描かれる前半が面白い。社会の歩みと重ねていくと年表的になるのは否めないと思いつつ、当時の空気は良く出ていると思った。
時代の先端を駆けていた妙子や登紀子の夫婦生活や子育ての倦怠が描かれる後半は、成功を得た割には幸せや安寧とは程遠い、その人生の末路がいささか哀しく、バブルの頃のざらりとした社会の描写とも相俟って、やるせなさのほうが勝ってしまった。
ずっと鈴子の孫・奈帆が登紀子に聞き書きをするという設定が活かされてなかったように思ったが、終章、奈帆の取材に妙子の息子・謙が登場し、謙が語る妙子の思い出を読めば、妙子や登紀子の晩年もそれでもやるせないことばかりではなかったことが浮かび上がってきたのは良かった。
私は主人公の女性たちより少し遅いだけの生まれで、鈴子の男性版の人生(大学を出てサラリーマンになって結婚して家を買って子どもを育てる)をなんの疑いも持たずに歩いてきて、この主人公たちのようにそんなに切実に何かを得るために何かを捨てるということもなかったように思っていたが、振り返ってみれば私なりに捨てたものはあり、何の苦労もなく今の生活を手に入れたわけでもないのだなぁと知らされた。 -
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ネタバレ正直に言うと、後半は先が気になってどんどん読めた。でも前半は、重くて嫌な感じで、中々読めなかった。フィクションだとしたら、呆気なくて切ないけど面白いお話だと思う。
ただ確かに、本当にあったことと考えると、被害者家族は嫌だろうな。倫太郎も一緒に死ねてればいいのにって思ってしまったし、最後のなっちゃんの様子は、悲しみで気が狂っちゃったってことじゃないのかな?
職業柄は、晴信の成育史可哀想。親も人間で未熟だよなぁ、子どもができたらいきなりまともになれるわけじゃないし。血の繋がりって難しいな。
涅槃と因果。
私は、このタイトルは、輪廻からは良くも悪くも抜け出せないし、望んでしまった煩悩がやっぱり私たちの首を絞めるっていうこと?的な感じじゃないのかな。
莢もなっちゃんも倫太郎も。
ああ、読み応えあったけど、絶望的だった。 -
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鈴子、登紀子、妙子の一生を綴った壮大な物語だが、共通点は潮汐出版にいたことで、鈴子は事務員、登紀子はフリーライター、妙子は早川朔というペンネームのイラストレーター.鈴子の孫の奈帆が登紀子の話を聞き取る形で話が展開する.戦後の様々な事件が巧みに織り込まれており、その時代の空気を思い出しながら読めた.鈴子が最も一般的な女性の歩みを辿っていたが、妙子の幼年期からの苦労話が最も楽しめた.登紀子はライターの家系でそれなりの資産もあったので、お嬢様風の立ち回りを演じていたが、奈帆への振舞にもその生い立ちの名残が見えたのも、面白かった.妙子の息子 謙と奈帆の出会いがこの物語の発展性を示していると感じた.
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窪さんの小説を読んで、いつも思うのですが。
ほかの作家さんにない、奥行きというか心の動きというか、そういったものが怖いくらいに伝わってくるのです。
どうして踊るんだ?そこで触れたもの、見つけた物から感じたもの。そしてそれをどうして??とかね。
フィクションもあるけれど、ノンフィクションでもあるというようなことがあとがきにありました。
ひとはけして人には言わないけれど、いろいろなものを抱えて生きているんだ、誰にも言えないこともあるでしょう。きれいごとだけでは生きていけない。そうですね、孤独なのかもしれないなあ、と改めて。
うまく書けなくて申し訳ないのですが、すばらしい作家さんだと毎回思います。 -
Posted by ブクログ
奥行きのある描写がは流石です。
いろいろな人生・生き方を感じました…が、
さらに最後のあとがきがまたすばらしい。
「人生の幸福なイベントのさなかに存在として根源的な不安と恐怖が紛れ込み、・・・」(あとがきより)
そうそう。
全体に通じてあるのは、人生は表向き幸福にみえても、(ひとは言わないだけで)背景には不安や恐怖が見え隠れしている。
そして、それははたから見て修復不能かもしれない、修復するつもりがないかもしれない、等々思いつつ、私たちははらはらしながら読むわけだ。
そのどきどきがいいわけね。
凄い本かもしれない。
そんな何十年も幸せが続くわけがないよな~
そんなところはお金持ちも貧乏人も、お隣も一緒かもしれない。
お隣の芝生は青いのだろうか。