あらすじ
富士山を望む町で暮らす介護士の日奈と海斗
はかつての恋人同士。ある時から、ショッピ
ングモールだけが息抜きの日奈のもとに、東
京の男性デザイナーが定期的に通い始める。
町の外へ思いが募る日奈。一方、海斗は職場
の後輩と関係を深めながら、両親の生活を支
えるため町に縛りつけられる。自分の弱さ、
人生の苦さ、すべてが愛しくなる傑作小説。
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年齢も、性別も、職業も、生活している地域も、何もかもがちがう登場人物たちの気持ちが、なぜか痛いほどわかる。
共感、ともちがう。
彼らに年輩らしく言ってあげたいことはいくつもある。
筆者の文章力(まさに文章のもつ力)に、確実に心を強く揺さぶられる小説だ。
読んでいる途中で、タイトルの「じっと手を見る」は、まさしく石川啄木の人生を彷彿させるなと感じた。
朝井リョウによる文庫版解説も必読。
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窪美澄の文章を無性に欲するときがある。
主な登場人物の中から各章で視点が変わるので、何を考えているかわからないと感じた人も、のちに本人から語られる。
人間の、どうしようもない、変えようと意識して変えられるものではない、個々の性(サガ)をまざまざと見せつけられる。
これを読んで自分の物語だと感じる人たちが、きっかけを自ら作り出して前へ進めますように。
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生まれ育った故郷で仕事をして生きていくこと、故郷を出て暮らしていくこと、それぞれの生き方を肯定してもらえる作品だと思った。
自分が登場人物に近い仕事をしてるから感情移入しやすかったし、自分の生き方は間違えていないと言ってもらえているようだった。
人と深く関わることで生まれる辛さと、人と関わることで得られる幸せがどちらも丁寧に描かれていてラストはじーん、と胸にくるものがあった。
朝井リョウさんの解説も、大好きです
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けれど、介護の仕事に携わる時間が長くなるほど、生の終わりの決定権を誰一人持っていないことを思い知らされる。介護をされている三好さん自身にもその権利はない。(P、171)
人の体は永遠に繁茂する緑ではない。けれど、永遠じゃないから、私はそれがいとおしい。(P、306)
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久しぶりの窪さん。人は弱いものだ。
誰かに頼らなければ生きていけない。
日奈の人生も、海斗の人生も、宮澤さんの
人生も、どこか孤独を感じさせる。
窪さんの作品はいつも、人の不完全さを
つきつけられる。
それと同時に、みんな器用にたやすく
生きてるわけじゃないんだと安心もする。
日奈の「そばにいてほしい」という素直な
言葉に救われる。
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誰かに縋りたくて、寂しくて、どうしようもない時がある。本来はみんな孤独で死ぬ時も一人だ。それでも誰かと生きることを辞められない。すごくリアルだった。登場人物全員の気持ちが分かった。
朝井リョウの解説も含めてラストはぽろぽろと涙が溢れてきた。
手を握るところで終わるのも良かった。
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最後の浅井リョウの解説が内容をより深く心に刻む。明るい話ではないが、誰でも持ってる人の裏側に潜む複雑なヒストリーが描かれている。30代後半のパートナーと交際したり身内の死を経験した人の方がより過去の自身の経験と照らし合わせて感情を想像しやすいのではないだろうか。
意外とキレイな生い立ちだろうと思っててもダークな家庭環境や不幸な出来事を経て大人になってる人も結構あったりする。。
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『夜に星を放つ』で直木賞を受賞(2022)した窪美澄さん。本作(2018)も直木賞候補作だったのですね。本作を"恋愛小説"と狭義に解釈すると、評価は下がるかもしれませんが、個人的には肯定的に受け止めました。
語り手が、登場人物ごとに一人称視点でリレー式に変わる7話の連作短編集です。そもそも人は多面的で、同じ言動へも受け止め方が多様ですね。視点が変わり、読み進めるごとに曖昧な印象の輪郭が鮮明になったり、批判が共感になったりその逆も…。
ただ、どの登場人物にも共通点が感じられます。それぞれ生きづらさを抱え、居場所を探し、人の温もりを求めている点です。表面的には安易な方に流されて、自己管理ができないダメな人物だらけと見えますが、著者は人生の縮図のように俯瞰して描き、各人物への愛情を感じます。
また、美しい富士山と身近な「老い」や「死」の対比、地方の閉塞感や繊細な心理描写も見事で、余韻があり再生への希望を与えてくれるようです。
あがき、もがき、迷い、求めて得て失って…を繰り返す登場人物たちは、手のひらの生命線のように生きた痕跡を刻みます。人生の証にも思える彼ら彼女らの愚かさを、決して侮蔑の目では見られませんでした。読み手である私たちを投影した姿にも思えるので…。
朝井リョウさんの解説にある「他者と関わることにおける幸福と不幸の両方がたっぷり描写されている」との評も秀逸でした。
『一握の砂』の歌を想起させる本作タイトル。26歳で夭逝した石川啄木は、清貧イメージとは裏腹に、仕事を転々、家庭放置、借金踏み倒し、女遊び等々と、ひどい素行だったそうで…。それもまた人の一側面でしょうか?
啄木の人物像とは別に、生み出した作品の"労働の悲哀表現の見事さ"は薄れないでしょうね。
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「好きな季節は」と訊かれたら、僕なら晴れた冬の日と答えるだろう。
風の穏やかな理想的な冬晴れの午後、自宅から歩いて20分ほどの公園の、丘の上にある展望台からの眺めが目的で出かけてみる。この時間なら夕陽を受けた街並みの風景を望むことができるだろう。大いに期待して丘を登り、いざ眺望をと、その瞬間から、すでに西に傾きかけた日差しが雲に遮られてしまった。展望台から見渡すコントラストが失われた街並みの眺めは期待外れで、ため息が出た。西寄りの空に浮かんだ、比較的大きなひと塊りの雲は、日没までそのまま居座り、よりにもよってその日の午後の最後の光を隠し続けた。
「結局、僕はそうなんだ」すでにどこかの時点で諦めていた。諦めていたというか、納得していた。凡庸な僕の、凡庸な世界。期待しなければ傷付くこともない。
ひたすら現実と向き合い続けた彼女たちや彼らの、切実な物語だった。後半に向けて読み進めると、これでもかと息苦しさをおぼえた。年々老けてゆく一方で、いずれ僕らは寿命の尽きる少し前に、おそらく誰かの世話になる。人生の成り行きが、ほぼ確定した世の中であり、誰しも等しく訪れる人生の集大成。結局のところ諦めるしかないのかな。それはそれで構わないけれど、そこに至る過程の、いまある人生の、自分で把握できる範疇の何事か。わからないことばかりなのに、ふと“風”を感じる瞬間の、ひとつひとつについて、人生って捨てたものではない、と。そういうことも、きっとあるだろう。それらを見つけることができますように。気付くことができますように。願わずにはいられない。
思いがけず良い物語に出会いました。
誰かに薦めたくなる一冊です。
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梅雨のようなじっとりとした空気が物語全体に漂っていたが、繊細でリアルな描写のおかげでかなり読みやすい恋愛小説だった。性描写も多々あるが、私としては綺麗でいやらしさがなくて良いと感じた。
私はどちらかと言えば宮澤や仁美ではなく、日奈や海斗に近い生活をしているので、職は違えど共感できる部分が多くあり感情移入してしまった。休日はショッピングモールに行き、特別欲しくもないものを買ってストレスを発散する。恋愛も身近な人と。生活水準が同じくらいの人でないと関係を続けて行くのは難しいし、日奈たちもそういう感じなんだろう。
恋愛模様と生死がいつも隣り合わせで、恋愛の浮ついた様子があまり描かれていなかったのが、私には心地が良かった。
『永遠じゃないから、私はそれがいとおしい』
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介護職の現状が生々しく繊細に描かれている
長く続く若者ほど心が淡々と平坦になってゆく
福祉に従事する人々の「自己」そして「感情」
遠くからそっと大事に温めてあげたいと思った
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初めて窪美澄さんの作品を読んだけれど、全体を通しての印象はとてもきれいな文章だったということ。
終始じっとりとした空気感だったけれど、人間の心の機微が細やかに丁寧に美しく描かれていた。
他の作品も読んでみたいと思った。
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介護の仕事ってほんとうに大変だけどなくてはならない仕事だしなあ、、と思いながら読んだ。
窪美澄さんの作品いくつか読んだことあるけどこの作品はなかなか暗くて生きるって難しいと思わされる。
主人公2人のような恋愛経験はないけど描写が細かくて読みやすかった。
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今を切り取っている高齢者介護の現場に立っている主人公たちの生き行くさまが心を打つ一冊。この物語が綴られた2018年より一層深刻となっている介護現場の人不足。そんな中でも人を支える仕事に身を置く人々の惑い続けるこころを強く思い入れなく書いた世界に久しぶりに心が揺れた。この後の作品も読み進めていこうと思わせる初めての窪美澄さんだった。
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*富士山を望む町で暮らす介護士の日奈と海斗はかつての恋人同士。ある時から、ショッピングモールだけが息抜きの日奈のもとに、東京の男性デザイナーが定期的に通い始める。 町の外へ思いが募る日奈。一方、海斗は職場の後輩と関係を深めながら、両親の生活を支えるため町に縛りつけられる。自分の弱さ、人生の苦さ、すべてが愛しくなる傑作小説*
苦しくて、寂しくて、寄る辺なくて。わかっているのに、泣きながら執着してしまう、恋。
そんな自分を突き放して見ているもうひとりの自分。
登場人物毎の目線で語られるストーリーそれぞれに哀愁が漂い、切なさでいっぱいになります。
この方は、揺れ動く情景を文字に起こすのが本当に巧い。
秋の夜長に、じっくりしっとり物思いに耽りながら再読したい本。
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この本を選んだきっかけは、Twitterか何かで紹介されていたような気がする。性描写がすごく丁寧で官能的で生々しかった。
結局いっときの気の迷いで、よく見える人についていくと、破滅に向かうなということがわかった。
生まれてきた環境の違いで、人生の簡単さがこんなにも変わるのかとある主残酷性があった。
あんまり明るい話じゃないので、気持ちが落ち込んでいるときには読まないほうがいいと思った。
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田舎の閉塞感と人間の弱さ•脆さ•不確かさみたいなものが真綿のように詰め込まれた本。
地方は向上心を持たなくてもいいし、
限られ、閉ざされたコミニュティのなかで
やるせなさと共に傷を舐め合うんよな。
故郷を思い出した。
まあ流されるっていうのも一興なんですけどね。
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自分にはもっと違う生きかたがあるんじゃないか、こんなはずじゃなかったと感じた隙間に出会う人や出来事、、、。
登場人物は歪んだ一面を持ちながらも懸命に生きていて、愛しい気持ちで読み進めることができた。人間ってみんな戻るべき場所に戻っていくものかもしれない。
根無し草のようにいなくなった畑中真弓と裕紀が幸せであれと、この先が気になってしまった。
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「はたらけど はたらけど猶 わが生活(くらし) 楽にならざり ぢつと手を見る」
という石川啄木の短歌は教科書にも出てくるくらい有名な国民的短歌らしい。(知らなった。)
この小説は恋愛小説だが、主人公の日奈と海斗は介護士の仕事をしており、この石川啄木の歌は二人の生活をまさに言い表している。恋愛だけでない色んなことを伝えてくれる小説だと思う。
狡くて滑稽だけど、優しくて愛らしい、すごく矛盾した、一筋縄ではいかない人間の姿が書かれている。恋愛の胸キュンというよりも、日々の暮らしと労働をメインに、誰かに支えてもらわないと生きていけない矛盾だらけの男女の様子を描いている。
海斗の日奈への一途な想いが苦しかった。主人公の日奈の心情は最後まで全然共感できなかったけど、そこも含めてすごく人間らしくて良いと思った。
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TVの番組で朝井リョウさんが推していた作品。だけど、僕には刺さらなかった。最初から最後まで悶々としてしまった。富士山が見える土地で暮らす主人公たちの暮らしが描かれる。一人は一度他の土地に離れるけど、また戻って元の恋人と寄り添い始めるところで終わる。登場する人物が皆んながやるせない日々を送ってます。生活ってそんなものなんでしょうか…
Posted by ブクログ
いきなりSEXの場面から始まってびっくりしたw
登場人物みんな揃いも揃って性欲強めやな。
日奈が少し自分に似てる感じがして好きになれない。
海斗は畑中と生活したことで自分と向き合い、精神的に日奈との距離を取れた感じがする。
日奈も自立できるようになって、何だかんだでこの2人は上手くやっていけそう。
何もかも上手くこなせる人なんて、いないよな。
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富士山の見える町を舞台にした、四人の男女の人間模様を描いた作品。
この小説は恋愛小説だが終始じっとり陰鬱としている。そこがリアルでもあるが、その重さと絡まった人間関係に読んでいる途中で疲れてしまった。
この作品を読み始めてすぐに新鮮に思ったのは主人公が介護職に従事している人物であると言うこと。そして、日菜が無趣味で堅実に暮らしており、祖父の亡くなった家で暮らしていると言う地味な設定である。介護の仕事のシーンが何度も出てくるので、「老い」や「死」の匂いを終始感じながら物語が進む。閉塞感や諦念のようなものが物語全体に漂っている感じがした。
Posted by ブクログ
出てくる人出てくる人、みんな生きづらそう。
そこに介護という職業や富士山に閉ざされている(という印象の)地方都市という設定が絶妙な相乗効果を生み出している。
主人公たちは、幼少期に辛い経験をしたことも共通していて、おまけにすぐに体の関係になってしまうのも共通していて、そこがまた余計に悲しくなる。
全体的に決して明るい話ではなかったが、最後には明るい兆しも見えたので安心。
富士山や湖という絵になる場所での、介護や寂しさやなんだかわからない焦りやつまらなさ、の対比が泣けてくる。
良かったのだが、性描写が多すぎて私にはマイナス点。
Posted by ブクログ
掴んだり離したりしてたら、隙間から何かが溢れ落ちていくよう__生きることのもどかしさや苦しさが淡々としながらも深く描かれていました。登場人物に共感できない部分もあったけど、「背負わなくていいんだよ、楽な方選べよ」という台詞を見てなんか腑に落ちました。
Posted by ブクログ
よかった。
この作品をよかったと言うことは、なかなか外には出しにくい自分の内なる本質を自認することになりそうで、怖い部分もあるけど、よかったのだがらしょうがない。
永遠じゃないから、いとおしいというのはとてもよくわかる。
解説で朝井リョウさんが言っていた別作品も読もうと思った。