山崎豊子のレビュー一覧
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ネタバレドラマ化されたものを観て原作が気になり、読んでみました。人の半生を2時間にまとめたドラマは展開が速く、中には突拍子ないと感じた場面もありました。しかし小説では、同じように展開は速いものの、まったく違和感なく受け入れられました。おそらく、ほんのわずかな文章量で、登場人物や背景を充分に描ききれているからなのでしょう。
特にそれを感じたのが、吉三郎が女遊びを始めた第三章の、「何時も、何となく遊んでいないと気のすまぬ吉三郎は、芸人道楽の妙味を無くして来ると、そろそろ女遊びに興味をもつようになった。」という一文です。この一文だけ読めば、「そんな無茶苦茶な!」と思うのでしょうが、第二章まで読んできてこの一文に出会うと、「あぁ…(吉三郎なら、そりゃそうなるよね)」と、納得させられてしまいました。それほど作者の文章力は凄まじく、たった二つの章だけでリアリティある人物像を読者の中に存在させることができているのだと思います。
個人的に、直木賞受賞作を読んだのは、知らずに読んでいたものが無いとすれば、初めてです。これも受賞作だとは知らずに読んでいたのですが、やはり受賞するだけのことはあるのですね。受賞するにはワケがあるということを知れたのも、この本を読んでの一つの収穫でした。 -
Posted by ブクログ
戦争が終わり多くの兵士が祖国へ戻った。シベリアの収容所に囚われた者たちは帰国の望みを胸に極寒の地で耐え続けた。主人公・壹岐正もその一人だった。旧日本軍の中佐として戦い敗戦と抑留の苦しみを味わった彼は十三年の歳月を経てようやく帰国することとなった。
祖国は旧軍人への風当たりは強く戦争の記憶を背負う者たちの居場所はなかった。そんな壹岐正は大商社に身を投じることにする。そこでは戦闘機納入、弱小自動車会社への投資買収、石油開発をめぐり、企業間、同僚間で熾烈な駆け引き、戦いが繰り広げられる。親友の自殺、妻の事故死という悲劇にも耐え精一杯の任務、役割に信念を持ち務める。ワンマン経営のトップにも翻弄され人事の争いにも巻き込まれるも中途採用ながら軍人として培われた戦略知力のもと大出世を果たす。
軍人として経済人として何を守るべきか。壹岐はただただ前を向く。人は運命に翻弄される。社会というのはやはり不毛の地なのだろう。であってもなお信念を貫く者に新たな道は開けるのだろうか。
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Posted by ブクログ
医療従事者として里見医師のような精神をもって患者さんに接したいと思いました、と感想をいだければ良いのかもしれない。そうも思ったが、理不尽さを感じた。
「白い巨塔」では「最初の患者さえ診なければよかった」ということではないか?
他の医者のように学会前に数日休んでおれば、または忙しいからと断りさえすれば全て良かったのだ、という気がしてならない。もちろん、引き受けたことこそが「財前らしさ」であり物語の中核をなすのであり、術後の対応に過失のあることは二審判決のとおりと考える。
それはそれとして、現代の医療現場では「引き受けたほうが損をする」構造がある。救急要請にしても、受けた医療機関や医師の給料は1円も増えないどころか、過重労働になったり、万が一対応が不十分だった場合に責任を問われたりする。一方で、最初から断ってしまえば何のリスクも負わなくて済む。
「白い巨塔」の財前のケースと似ていて、「能力がある人」「責任感がある人」ほど負担が増え、しかも何かあれば責められるという理不尽な構造があると感じる。逆に、最初からリスクを避ける選択をした人は、批判されることもなく無傷でいられる。
結局「やる人が損をする社会」になってしまって、誰もリスクを取らなくなっており、医療は成り立たなくなりつつある。だからこそ、本来はそういう不公平を是正する仕組みが必要だが、現実にはなかなか難しい。
「リスクを取るものは死ぬ」ということが50年前に予言され、そういう者が死に絶えたのが今の日本の医療現場ということのような気がする。