双子針(地震以来帝が目を覚まさない)/仰ぎ中納言(藤原忠輔が語ったことが実現してしまう)/山神の贄(死んだ夫に会いに来た女)/筏往生(阿弥陀の筏に誰が乗る?)/度南国往来(膳広国は死んで五日して生き返った)/むばら目中納言(柏木季正が不調になるたびに四徳法師が治してくれた)/花の下に立つ女(博雅が桜の下で葉二を吹くと女が立って聴き入っていた)/屏風道士(黙想堂という堂が描かれた絵に修理を頼んだ単先生が入ってしまった)/産養の磐(生贄にされた女を救った道満)。
■安倍晴明と源博雅についての簡単な単語集
【青物主/あおものぬし】猪の化け物、神? 紀声足(きのこわたり)を配下に加えた。
【青音】藤原長実の娘。ちょっと変わってる女性のようだ? 藤原為成と橘景清が恋の鞘当て。
【蘆屋道満/あしやどうまん】法師陰陽師。安倍晴明のライバル的存在ではある。敵対することはあるが当人たちは特に敵視してないと思われる。酒好き。
【安倍晴明】日本史上最高の魔法使い。実在したそうだ。残ってる絵などを見るとなんだか冴えないおっさんやけど、このお話のようにさっそうとしている美形と考えておく方が楽しいでしょう。天皇にも遠慮せず、孤高で博雅など一部の人間以外には打ち解けず、山野の一角をそのまま切り取ってきたようなぼうぼうとした庭を愛でながら暮らしている。《事象の中に、つい、原理を捜してしまう。》醍醐ノ巻p.122
【綾子】賀茂忠輔の娘。
【綾女】晴明が使う式神。晴明んちによく似た女の描かれた絵がある。
【一条の六角堂】観音菩薩を安置する予定だったが仏師が途中で死んでしまったので空のまま放置され寂れてしまっている小さなお堂。夜ともなるとかなりもの凄く寂しい。
【犬麻呂】赤髪の犬麻呂と呼ばれる五十くらいのもと僧侶だった盗賊で皆殺しにしてからゆっくり金品を物色する残虐なタイプ。
【恵増上人/えぞうしょうにん】醍醐寺の僧。秀才で経などすぐに覚えられるがなぜか法華経の二文字だけが覚えられなかった。
【猿叫の病/えんきょうのやまい】痛さのあまり猿のような声で叫ぶ病。
【応天門】どこも悪いところがないのになぜか雨漏りがする。
【陰陽師】魔法使いのようなもの。理を利用して理に外れたものを修繕するような役目かと。《晴明よ、我らに必要な才は、かなしいかな、信の才ではなく、疑の才じゃ。》醍醐ノ巻p.194。三態あり、晴明や賀茂保憲など宮廷に仕える陰陽師。民間で民のために働いた陰陽師。播磨を拠点とした僧侶としての法師陰陽師。上田早夕里さんの作品で法師陰陽師が主役の話を読んだことがあります。
【勘解由小路流/かげゆのこうじりゅう】賀茂家の流れを汲む陰陽道の流派。
【柏木季正/かしわぎのすえまさ】たびたび不調になるがその都度四徳法師という播磨の法師陰陽師が治してくれた。
【膳広国/かしわでのひろくに】死んだ後五日後に生き返った。
【梶原資之/かじわらのすけゆき】図書寮の役人だったが坊主になり般若経の写経を一日十回千日続けることにしたが色っぽいあやかしに悩まされている。僧名は寿水。
【ガネーシャ】シヴァ神(大黒天)とパールヴァティー(烏摩妃:うまひ)の間に生まれた。
【賀茂忠輔】腕のいい鵜匠で一度に二十羽の鵜を使うことができる。「千手の忠輔」と呼ばれることもあるとか。博雅の母方の遠縁。
【賀茂忠行/かものただゆき】陰陽師。安倍晴明の師。
【賀茂保憲】陰陽師。賀茂忠行の長男。晴明の兄弟弟子だったとか師匠だったとか言われる。岡野玲子さんの漫画では晴明の才能に嫉妬する兄弟弟子という感じ。こちらのお話では大らかでのんびりした大物の風情。
【漢多太】インド―中国―日本と渡った楽師。琵琶の名器である玄象の作者でもある。
【寛朝】遍照寺の僧。法力も強く剛力でもある。
【吉備真備】陰陽道の祖と言われているらしい。
【首塚】藤原純友の乱が鎮圧された後も暴れ回っていた残党の首領たちを捕らえその首をさらしものにした塚。
【黒川主】賀茂忠輔の娘、綾子のもとに通ってくる、尋常な風情ではない怪しい男。
【恵雲/けいうん】謎の僧。叡山の祥寿院にボロボロの僧衣で現れた。
【玄象/げんじょう】琵琶の名器。羅城門の鬼に盗まれたのを晴明と博雅が取り戻したことがある。事件が終わった後、ふしぎな琵琶になってしまった。
【金剛】白い犬。
【式神】晴明など陰陽師が使役する精霊のようなもの。
【実恵/じちえ】長楽寺の僧。物覚えが悪くとろいが、品性のようなものがあり皆から愛されている。
【四徳法師】播磨の法師陰陽師。孔雀明王を拝しているという。智徳法師の知人。
【沙門/しゃもん】賀茂保憲が使役している猫又。黒猫。
【呪(しゅ)】このお話ではなんでも呪ということになる。こだわり、ことば、名前、勘違い、脅迫観念…。人はただの木の棒に「箸」という呪をかけ箸として使っている。ことほどさように呪とな日常生活の中で誰もが普通に使っている。要するに言葉というものそのものが、それによる概念の定義が呪ということだろう。
【朱天童子】朱雀門にて博雅と笛を取りかえた鬼。白い水干を身にまとった少年の姿をしている。
【性空上人/しょうくうしょうにん】播磨国書写山円教寺の僧。播磨国なら蘆屋道満のご近所さんかもね。
【祥寿院/しょうじゅいん】叡山の施設のひとつでその昔最澄が読経三昧に過ごすために建てた。
【正祐法師/しょうゆう】僧侶。病気関係に強く帝の腹痛を一発で治した。
【白比丘尼/しらびくに】有名人。死ねない女で、30年ごとに陰陽師のところにやってくる。
【心覚上人/しんかくしょうにん】元の名を加茂保胤(かものやすたね)、賀茂忠行の息子。世間では賀茂保憲の弟ということになっているが実は兄。一念発起して僧になった。真面目すぎて融通がきかず極端なことをしでかして物議を醸す。
【蝉丸】盲目の老法師。琵琶の名手。百人一首でもおなじみ。博雅が三年間通ってようやく琵琶の秘曲である流泉、啄木を聴かせてもらつた。
【千手の忠輔】→賀茂忠輔
【善智内供/ぜんちないぐ】妙法寺の鼻の長い上人。前は神護寺(じんごじ)にいた。芥川龍之介の「鼻」の主人公と同一人物かな。
【善膩師童子/ぜんにしどうじ】東寺(教王護国寺)の毘沙門天の脇に控えている護法童子のひとり。
【平大成/たいらのおおなり】70歳過ぎた双子の薬師。右頬に瘤がある。紅瓜茸が大好き。
【平実盛/たいらのさねもり】行方不明になった。
【平中成/たいらのなかなり】70歳過ぎた双子の薬師。左頬に瘤がある。
【橘景清】青音をはさんで藤原為成と三角関係に。
【単/たん】絵師であり表装も得意とする超高齢の先生。
【智徳法師】晴明を試しに来た坊さんです。ほんのちょっとだけかわいそうな目にあった。
【智羅永寿/ちらようじゅ】中国の力の強い天狗。
【月駆道人】天帝から月とともに歩むことを命じられている。
【土御門流】晴明を始祖とする陰陽道の流派。
【露子姫】虫めづる姫君。橘実之(たちばなのさねゆき)の娘。いつも男のなりをしていて少年のように見える。式神の黒丸と、虫集めの子ども、けら男を連れている。他人がいるとき晴明は博雅に対し丁寧な口調になるが露子姫だけのときは普段通りのタメ口。
【天狗の羽団扇】ある事件の後晴明のものとなった。
【呑天/どんてん】寛朝僧正のとこの池にいた亀を晴明が譲り受け式として使っている。
【猫又】長生きした猫が妖怪となり、尾が二つに分かれたもの。賀茂保憲はチャーミングな黒い猫又を飼っている。
【葉双/はふたつ】博雅が鬼からもらった笛。
【秘曲】琵琶の秘曲に「流泉」「啄木」「楊真操」などがある。
【藤原兼家/ふじわらのかねいえ】摂政。何かとトラブルに巻き込まれるがけっこうそれを楽しんでいるフシもある。
【藤原貞敏/ふじわらのさだとし】遣唐使。琵琶の玄象、青山(せいざん)とともに幾つもの秘曲を持ち帰った。
【藤原実貞/ふじわらのさねさだ】目が覚めたら虫(むかで)になっていた。
【藤原忠輔/ふじわらのただすけ】空を見上げるのが好きで仰ぎ中納言と呼ばれる。六十間近。
【藤原為成】首に憑かれた男。青音をはさんで橘景清と三角関係に。
【藤原妙瑞/ふじわらのみょうずい】雅楽寮のトップ雅楽頭(うたのかみ)。楽器の名手。
【瓶子(へいし)】このお話ではよく出てくるアイテム。たいがいお酒が入っている。これをかたわらに片膝立てて杯を傾けながら庭を眺めているのが晴明のお気に入り。
【牧場/ぼくば】玄象と並ぶ琵琶の名器。牧場が描かれているのでこの名がついた。
【帝】この国のトップ。安倍晴明と賀茂忠行と蘆屋道満の三人は「あの男」呼ばわりして他者を慌てさせることがある。
【右姫/みぎひめ】蘆屋道満が連れていた女童。人間ではなさそうだ…平将門の右手で今は道満が式として使っているらしい。
【密虫/みつむし】晴明が藤につけた名前。のちに使役する女性の姿をした式にもこの名前がついているので藤の精かも。
【蜜夜/みつよ】晴明の式。
【蜜魚/みつを】晴明の式。
【源博雅/みなもとのひろまさ】もう一人の主人公。真の主人公というべきか。平安時代の貴族。地位は三位(さんみ)ということなのでかなり上流? 実在の人物らしく、ほんとうは晴明とは時代が少しずれているようやけどまあ気にすることもないでしょう。このお話では30代の後半の年齢で、晴明の友人。無骨だけど愛敬のあるタイプ。まじめで、純粋で、正直で、つねに驚きをもって人生を歩んでいるいい男。かなりのロマンチストでふしぎなものは不思議として味わいたいが晴明に分析されて興がさめがっかりさせられることがある。善人で懐の深い大人物だと思う。笛その他の楽器の名手でそのせきで時折この世ならざる存在とかかわるが霊能力は皆無。それでも晴明にすらできないこともしてしまうことがある。このお話の魅力は晴明よりも、むしろこの博雅が醸し出していると思われる。《酒をよばれに来たのではないが、出てくる酒を拒みはせぬ》陰陽師P.27。《よい漢だなあ、博雅》太極ノ巻p.66
【壬生忠見(みぶのただみ)】死んだ男。歌合わせで平兼盛に敗れて化けて出る。特に悪さもしないので、みんなほっておいている。
【明徳/みょうとく】遍照寺の僧。寛朝の弟子。
【無子訶/むしか】妖魔。鼠の姿。琵琶の牧場に憑いていた。ガネーシャ(象鼻天:ぞうびてん)の乗り物。
【狢】ある人物を利用して家族の仇を討とうとしたが晴明に止められ逃してもらえたのでなにかあれば呼んでくれと言い残して去っていった。
【明鏡/めいきょう】西光寺の僧。
【戻橋】晴明が式神を置いているというウワサがある。
【夜光杯】黒い肌に星が透けて見える杯。藤原成俊の持ち物。唐から持ち帰られた阿倍仲麻呂の遺品。
【楊玉環/ようぎょくかん】楊貴妃のこと。玄宗皇帝に寵愛された美姫。
【楊真操/ようしんそう】藤原貞敏が唐から持ち帰った琵琶の秘曲。今弾けるのは博雅か蝉丸法師くらい。
【余慶律師/よきょうりつし】叡山の僧侶。
【羅生門】朱雀門をさらに南へ進み京のはずれまで来ると荒れ果てた羅生門がある。いろいろ不思議なことが起こる観光スポットに。当時日本最大の門でもあったそうです。