あらすじ
英国の伝説の登山家・マロリーは、本当にエヴェレストの頂上を征服していたのか? 登山史上最大の謎が今解き明かされる…という山岳ミステリーと、日本人冒険登山家・羽生丈二の冬季無酸素単独登頂は成功するのか…という二つのテーマがみごとに絡み合い、一気に盛り上がる下巻。柴田錬三郎賞に輝く山岳冒険小説の真髄。
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Posted by ブクログ
すごい小説だ。
読んでいる間も読み終わった後も、頭がくらくらしている。
一気読みした影響も大いにあるだろうけど、それも含めて話の熱気に充てられたように思う。
Posted by ブクログ
いつか読もうと思っていたが、忘れていた本。最近山熱も上がってきており、手に取る。漫画版はちょろっと読んだけどな。
登山史のミステリーとされる「エベレスト初登頂の謎・マロリー伝説」に迫ろうとするところから始まる、登山写真家の小説。
常人の域を超えた山男の信念、パワー、山の怖さ、ヒマラヤ、ネパールの国事情にまで触れられ、小説としてだけでなく、幅広く知識欲を刺激してくれる。
私もルクラまで行ったことがあるが、その前にこの小説に出会えていれば、持っていければもっと楽しかったのに、私はこの場所の意味を理解していなかったのだなあと思い知らされる。
本著者のイメージは、何か奇抜なものを書く作家(名前も名前だし)と思っていたが、こんなにも熱い本が書けるとは、上下2冊の厚い本を一気読みしてしまった。また別の作品も読んでみたい。
Posted by ブクログ
最上の読後感!
北極、南極と並ぶ三大極地エベレスト山頂。高度8,000m。ジェット機が飛ぶ高さ。地表という枠を外せば宇宙や深海に並んで人間を寄せ付けない場所。自然vs人。そんな俯瞰の知ったかなどはねのけるように、泥臭いほど人間の一人称視点によって切り取られている。
──神聖な場所だから人はそこを目指すのか。あるいは人が目指すからその場所が神聖になるのか─
なぜ山を目指す人間を描くのか。
風景がくどいほど説明されているわけではない。主人公を除けば、人物の背景も大して語られない。それなのに凄まじい没入感が襲ってくる。まさに極地にいて、歯をガチガチと鳴らし、足を震わせ、生死の境目がびったりと背中に張り付いているような恐怖すらせり上がってくる。これはすごい。
極限の世界を描きながら、徹底的に自分vs自分を掘り下げていく。ほかの「誰か」ではなく、まるで自分のストーリーのように感じられる。なぜ山を目指すのか。
── そこに山があるからじゃない。ここに俺がいるからだ。それしかやり方を知らないから登るんだ─
自分はいま、どんな山を登っているんだっけ?!
と思わず振り返りたい衝動に駆られた一文。
このセリフの余韻にしばらく泣きそうになった。今も。
またここでも、軽はずみなTVコメンテーターの批判や世間の反応に苦言が添えられている。「山の危険性を軽視するから事故に遭う」「糞の放置なんてモラルがなってない」「周りに迷惑」
作者はザイルを打ち込む。誰一人として山を軽視している者などいないと。
あとがきで知ったことだけど、夢枕獏さんご自身が登山家でヒマラヤの経験をお持ちらしい!この作品で「出し切った」と5回くらい連呼するほどの思いがぶち込まれている。それを軽めなテンションで語るのは人柄か。おかげで感動と納得感がさらに増した。
最近こういった本ばかり読んで自分にも変化が起きた。ニュースを見ても、すぐ馬鹿にする気にならなくなった。裏では何が起きていたのか、どんな心理だったのかを想像するようになってきた。どこまでいっても自分vs自分。今さら何をと言えばそれまでなんだけど。
本が血肉になるってことのひとつなのかなー。
山岳小説。
これはぜひもっと手を広げてみよう。
Posted by ブクログ
とにかく没頭してしまいました。
羽生という男の素性が明らかになっていく上巻を助走に、一気に物語が動き出す下巻は圧巻でした。
山に生きる男が山に登る、ただそれだけを直球に描いた作品を通して、男にとっての山と読者である自分にとっての人生がリンクして、相当のめり込めました。
登山の知識や経験は全く必要なく、まっすぐに楽しめます。最高でした。
Posted by ブクログ
なぜ命を賭してまで山に登るのか?
それはなぜ生きるのかと同じ問いだという。
そこに山があるから登るのではない。
オレがいるから山に登るのだと羽生は言った。
生きることに意味がないのと同じように、山に登ることに意味はない。
生きた時間の長さではなく、生きた時間の濃さなのか?
私にはわからない。
そこまで危険と隣り合わせな濃い時間を過ごしたことがないから。
私はできるだけ安全で安心に生きたいと思う。
けど、そこまで、命を賭けれるものがあって、闘っている熱い男たちに惹かれるし、羨ましいと思う。
Posted by ブクログ
【神々の山嶺】
夢枕獏の最高傑作!!
どうだ!!と叩きつけられるような本でした。
昨年のアニメ映画じゃ全然伝わってなかった…。漫画もあるけど、これは絶対に小説で読むべき。この熱量はそんな簡単にトレースできない。
山岳小説ど真ん中!ストレート一筋。超どセンターを一切躊躇なくこれでも足りないか!というほどに叩き込む。磨きこまれてるが、ゴツいダイヤモンドのような物語。
もうこれ以上熱くて面白くて夢中になれる山岳小説はないんじゃないか。今後出てこないんじゃないか。と、思ってしまうくらい圧倒的な作品。こんな本があったのか…夢枕獏、恐るべし。
あとがきの「書き終わって体内に残っているものは、もう、ない。全部、書いた。全部、吐き出した。力及ばずといったところも、ない。全てに力が及んでいる」という文に嘘偽りない名作である。
史上最大の山に挑む羽生。
それに食らいつく深町。
下巻、エベレスト南西壁トライの描写は、とにかく凄まじかった。言葉から呼吸を、魂の息吹を感じた。頭がおかしくなるんじゃないか、というような表現が何度もあり(実際頭がおかしくなりつつあるシーンなのだが)高所の極限状態が見開きの紙の世界に広がっていた。
山とはなんなのか。
なぜ人は山に登るのか。
マロリーは「そこに山があるから」と答えたが、
羽生は「ここに俺がいるからだ」と答える。
山に登る理由なんてない。
別に頂上に欲しいものがあるわけじゃない。
’’無理にいうなら、山に登るというのは、自分の内部に眠っている鉱脈を探しに行く行為なのかもしれない。あれは自分の内部への旅なのだ。’’(引用)
この言葉は、多くの登山者に響くのではないでしょうか。山やってれば何度も聞かれる「なぜ山に登るのか?」という質問。毎度用意していた理由を答えてしまう、この問い。こんな難しいことを聞くものじゃないよな。と改めて思う。
''岩壁で死と向き合わせになった瞬間にしか出会えない、自分の内部に存在する感情。世界との一体感。''(引用)
あの背中に張り付くような、緊張と集中と魂の鼓動のような押さえようのない感情。それこそがクライミングの醍醐味であり、逃れられない魂が欲するもの。だからやめられない中毒性があるんだ。
そんなことを書いたけど、まだまだ私にはその一部分の楽しい部分しかわかりません。が、深町という主人公の目を通して、その一部を追体験できました。
悪天ビバークの後、風が止んでテントから顔を出した時の、
''無数の無名峰。
その中で1人だけ生きている
1人だけ、自分だけが呼吸をしている
あー、かなわない。
この巨大な空間。
圧倒的な距離感。
人間が、この自分が、この中でどのようにあがいてもかないっこない。深町はそう思った。
絶望感ではない。
もっと根源的な、肉体の深い部分での認識であるような気がした。人の力がこの中で、いかほどのことができようか。
人が何をしようが、何をやろうが、これは何ほどもゆるぎはしないだろう。
深町は小さく身震いした。
冷気とともに自分の内部に宇宙が染み込んでくるようであった。''(引用)
このシーンがすごく好きです。
山って広大で、登るたびに自分の小ささを思い知らされるんですが、それって別に絶望じゃないんですよね。
全は一、一は全。自分が世界の一部になったような感覚。元々世界の一部なんだけど、普段はそんなこと考えてないし。
その感動と同時に、それはそれ、として、結局大事なのは自分が何をしたいか、何をするのか、自分が今なにの途上であるのか。ということにも気づける。それが大事だし、それを大切にしたいから、私はこの先も山に登り続けるのかなって思います。
これ、マジですごい本です。
エベレスト、見に行きたい。
ベースキャンプまで行ってみたい。
著者は何度もカトマンズやベースキャンプまで足を運んで、20年以上かけてこの作品を仕上げていて、知れば知るほど抜かりなく、魂を込めて書き上げた作品なのだと知らされます。これが、ただの文字の集合体って思うと、文字という文明はすごい。と、、もうわけわかんないとこから感動してきました。
これが新品で文庫上下巻合わせて2000円以下って、コスパ良すぎじゃないか…しばらく何読んでも見ても損した気分になりそう…。いや、待てよ…そう考えると、本当はコスパ、悪いのか…??
Posted by ブクログ
圧倒的スケールまるで自分が体験してるかのごとく伝わってくる。山のことは何にもわからないのに、寒さや怖さ幻聴や幻覚全てが自分のごとくやってくる。
素晴らしい本だった。
Posted by ブクログ
山登りも人生も同じなんだなとつくづく思う。
なんのために登ってるのか?ってなんのために生きてるのかって明確な答えは持ち合わせていないけど、山登りなら登頂を目指すし、何かしららの目標とかに向かって突き進んで行くだけで、それを達成してもまた次の目標を追いかけるだけで、それは与えられるものではなく自らが掴みにいくものなんだなと。そしてそれで死んでしまってもそのときに何の途上にいるのかがすごく重要であり、自分の人生を悔いなく生きたと言えるんだなと。
Posted by ブクログ
山岳小説の中でも群を抜く作品。上下巻に分かれる作品なのに数日で読んでしまった。山に挑む緊張感が伝わってきて、自分まで登頂した気になります。オススメ!
Posted by ブクログ
河野啓の「デス・ゾーン」を読んでいる中で、夢枕獏の「神々の山領」を知った。山岳小説でこんなに面白い本があるのかと驚いた。八千メートル級の山を登る困難さを、映像ではなく文章で表す技量が見事。ストーリーも秀逸で最後の展開に舌を巻いた。20年以上も前に書かれた本だが、出合えて良かった。
Posted by ブクログ
エベレスト登頂に至るまでの道のりがどれだけ過酷なものなのか知る。デスゾーンの意味も重みも、小説の形でそこに置かれた人の状況や思考で語られることでようやく少し理解できたように思う。
極限で己を奮い立たせる羽生や深町の姿に、「生きるとは」と考えさせられる。
Posted by ブクログ
山の魅力、山の怖さを
存分に堪能出来る骨太の作品。
羽生が山に挑む姿には狂気さえ感じる。
ネタバレしたくないから、書きたい事が書けない(笑)
とってもボリューミーな本だけど
山の事だけでなく、複雑に色んな話を描いているので知らなかった事が沢山!!でした。
とにかく、迫力満点!! 力強く、また悲しいぐらいに山を愛する伝説的クライマーの生涯。
オススメしたいですm(*_ _)m
Posted by ブクログ
面白かった
山岳小説+ミステリー
二人の漢の熱い物語
いよいよ下巻です。
下巻では羽生が人生をかけて目指していたものが明らかになります。
「エベレスト南西壁冬季無酸素単独登頂」
その羽生に対して、深町が同伴できるところまで上って写真をとろうとします。
そして、いよいよ出発。
二人の運命は?
といった展開。
下巻では冬山の厳しさが伝えられてきます。
二人の登山の描写がメインの展開です。
登山を知らないので登山道具の名称や使用技術が理解できませんが、その過酷さがひしひしと臨場感もって伝わってきます。
さらに、その描写に圧倒されます。
彼らの人生そのものが、山に登ること、自問自答していくことにより明らかになっていきます。
そして、クライマックス。
熱いものがこみ上げてきます。
これは、すごい
とってもお勧め
Posted by ブクログ
すごすぎた。筆者のあとがきも含め感動。「書き残したものはない、全部吐いた」という筆者、こういう筆者からあのような登場人物が生まれてくるのも納得できる。引用したくなるような言葉はいくらでもある。出会えてよかったと思える本。
Posted by ブクログ
壮絶だった。のめり込むように読んだ。というか、実際に山を登ったこともないのに、あたかも体験したといってもいいくらいリアルに想像できた。それくらい、筆力がすさまじく、この一冊を書くのにに長い時間をかけたという著者の執念を感じた。
その後、壁のぼりに興味をもったので、いくつか動画をあさって見てみたのだけど、リアルの世界の山登りたちは、本当に命を懸けて、でもだからこそ、楽しそうにしていた。
すごい世界を見せてもらった。
Posted by ブクログ
いよいよ下巻では本格的な登山描写が増えて、とても読み応えがあった。極限の状況下で8,000m級の山に登る精神的、肉体的な辛さがこれでもかというくらい伝わって来た。苦しい中で自分の弱さと向き合う姿には普遍的なものを感じた。
とても面白かったけど、もう一回読みたいかと言われると微妙かも?アニメや映画など他の媒体のものを見てみたい。
Posted by ブクログ
どこまでも写実的に登山という行為にかける人々を描いた物語。山のことはぼくはよく判らないのだけれど、結局のところ男というのは何らかの「山」に登る生き物なのですよ。「そこに山があるから」というのが誰の言葉であるかさえこの物語を読むまで知らなかったけれど、その言葉に妙に納得した気分になってしまうのは、やはりぼくも夢とやらを捨て切れない男のひとりであるということか。夢枕氏がうらやましくなってしまうのはぼくだけだろうか。かなり毀誉褒貶がわかれているようだけれど、ぼくは傑作だと思う。何よりも熱い。忘れていた何かを思い出させてくれるような、そこはかとなく暗い熱さだよな。かつて何かを追い、そして果たせなくて歯噛みして泣いた経験のある男たちならば、この熱さが判るはずだよな。女性たちもまた夢を追うことがやっと可能になった時代だから、自分の中にくすぶる思いとしてこの物語に賛同してくれる女性の方々もいるだろうし、よしんばそうでなくても、自分の傍らにいる男どもの熱さとして感じて下さった女性たちもいらっしゃるだろう。何かを捨てられずにいるということをあほうな男どもは理解してほしいと思っているものなのですよ。これ、そういう意味ではじつに男に都合よく描かれているかもなあ。何にせよ、「書き残したことはありません」という作者の言葉には何の虚勢も計算もないんだろうと思うぞ。写実的にやっているはずなのに、幻想的でさえあるものなあ。ラスト数ページで不覚にも涙があふれてきて俺は困ったぞ。くそう、やるじゃないか。俺もこんなふうに燃えてみたいものだ。ぬるま湯の生活に、しかし見切りをつけられる男たちなど数えるほどしかいないのもまた事実、それだからこそこの物語は男どもにとって大いなる慰めになるのだよ。
Posted by ブクログ
友人に勧められて読んだ。
山に興味がないので自発的に手に取ることはない本だがとても興味深かった。
そもそもエベレスト登山と簡単に言っても、実際に開始するまでに準備が大変なことも知らなかった。そしてそもそもの話、なぜ山に登るのか。
理解できるとは言わない、だって、なぜ生きるのかさえ答えがないのだから。
だけど、納得はした。
Posted by ブクログ
孤高の登山家、羽生丈二の生き様がすごい。燻る中年カメラマン深町との対比で際立ってくる。
8000メートル超の極限世界の自然描写とそれに挑む登山者の心理描写が凄まじい。なぜ山に登るのか、素人には全く理解できない世界だけど、ぬくぬくした平地の温暖な部屋で読んでいてもヒリヒリした感覚が伝わってきた。
Posted by ブクログ
ほぼノンフィクションを読んでいるような感覚でした。
こんなにも死が迫る状況を詳細かつ、臨場感を持って書く。
本当は登った?
実際にエベレストを登ろうとは思わないけれど、
山という名の自分だけの目標に登りたくなる。
なんのために登るのか。
Posted by ブクログ
やっとよみました。上下巻の感想です。
漫画の方を読みたいなと思って数年たってしまい、結局読んだのは小説の方。有名なだけあって面白くないわけはない。これだけ長いのに漫画のようにするすると読めてしまった。
ひとつ気になったのは女絡みの話が多いこと。
山の話をわざわざ手に取る以上、山に人生を捧げた狂った人間の話が一途に読みたいところ。
主人公がやたらと別れた女や新しい女に言及していてうんざりしてしまった。女々しい。。。羽生との対比が際立つにしても、もう少し主人公には格好良くあってほしかった。
特に誘拐とか現地妻とかそのあたりの話はいらなかったなぁというのが、恋愛ものが苦手な自分の率直な意見である。
Posted by ブクログ
あらゆるものを犠牲にし、とてつもない時間かけて準備して山に挑む羽生の姿がすごい。
極寒の絶壁で羽生の筋肉が熱をもって、迷うことなく登っていくみたいな表現があって、これはもう神の領域だなと思った。それだけ神聖な状態になった人間に圧倒されさた。これは神になろうとした男の物語だった。
途中ちょっとついていけなくなるくらいの自問自答シーンに戸惑ったり、予想通りのラストに苦笑いしたりだったけど…
それをひっくるめてもお釣りがくるくらいの熱量の物語だった。
Posted by ブクログ
極地探検家や登山家はどのようなことを考え、なぜ危険な状況へ身を置くのかを知りたいと思って読み始めてみたが、予想していた以上に骨太の人間ドラマだった。
作中様々な「山屋」が登場するのだが、語り部の深町を含む多くが何らかの形で仕事などの現実に縛られているのに対して、どこまでも人間関係に不器用ながら一途に山に生きる羽生が好対照をなしていると思った。また、実際にエヴェレスト登頂を試みたまま帰らなかったジョージ・マロリーのカメラをめぐる謎解き要素もあり、読んでいてだれることがなかった。山に登る人間以外にも、現地で出会う元グルカ兵や老シェルパなどのキャラクターの人生や、外貨獲得の手段に乏しいネパールは観光客を呼ばなければならないが、その自然が観光客を呼ぶほど破壊されていくというネパールの現実が物語により深みを与えていた。
8000メートル級の山の中では、あまりにも空気が薄いのでただ眠るだけで体力を消耗し、おびただしい数の脳細胞が死んでいく。幻覚さえ見え始め、高山病で死んでしまうこともある。羽生の手記や地の文で高山病の症状が現れた影響に触れられている箇所がいくつかあるが、手袋をしているから脈をとれないことに気づけず、脈をとろうとして手袋を外してしまい、外気にさらされたために脈が取れなくなるのに自分の中で意識が堂々巡りしてそれに気づけない描写が特に生々しく恐ろしかった。何故こんなことをしているのか、投げ出してしまえば楽になるじゃないかと自分が語り掛けてくるところは長距離走の最後の方できつすぎてよくわからなくなってくる時間を思い出して本を読んでいるだけなのに苦しくなった。
当初の目当てだった山を登る人間の心情は細かく描写されているし、山を登ることへの理由は、深町が羽生のことを調べ始めてからの内面的変化の過程にその答えが語られている。羽生に影響されて深町がそれを自覚したように、読者も深町を通してそれを感じることができると思う。
Posted by ブクログ
山岳小説を読むのはほとんど初めて。
タイトルからしてただ山に登るだけのストーリーかと思っていたが、人間ドラマが濃密に描かれた、人の生きざまを描いた作品。
ネパールのカトマンドゥ、怪しげな古道具屋で主人公があるカメラを手にとったことで物語は動き出す。
そのカメラは、かつてエヴェレスト登頂に挑戦して帰ってこなかったイギリスの登山家、ジョージ・マロニーのカメラと同じ型のものだった。
そのカメラを通して、羽生という山に生きる男と出会い、主人公は羽生に惹かれていく。
本作品の発刊後、ジョージ・マロニーは遺体で発見されたのだが、カメラは実際見つかっていない。
マロニーはエベレストの初登頂を果たしたのかどうか。
そのカメラのフィルムには、真実が写っていると言われている。
上記のような史実をミステリー要素として組み込み、上下巻のボリュームでもさらさらと読めていく。
発刊されたのは20年以上前だが、気になることは特にない。
羽生というキャラクターは実在した日本人の登山家をモデルにしたと言われている。
カトマンドゥの町の熱気、高山病、標高5000mより上の登山環境、ベースキャンプの様子など、緻密に描かれており、特に高山病の描写(幻覚、幻聴など)は読んでいるこちらまで苦しくなる。
「エヴェレスト南西壁冬季無酸素単独登攀」、人類が成し遂げたことのないことへ挑戦する羽生と、それをカメラで追う主人公。
最後に羽生が残した手記が心に刺さる。
「ありったけのこころでおもえ。想え。」
Posted by ブクログ
複数感を平行に読破で残していた1冊。たかが半年ぶりだし、内容も濃いので余裕。
伝説の登山家、羽生を追ってネパール入りしたカメラマン深町と元羽生のアンザイレンだった兄を登山で亡くした岸涼子。マロリーのものと思われるカメラは取り戻したが、本当の目的はカメラではなかったはずだ…。
ということで、登ります。しかも単独登攀なので、本の真ん中辺りからはひたすら自問自答が続く。また、極限状態で思考がままならなくなるあたりも、経験がなくともわかるように描かれている。
上巻に比べると、資料をたくさん織り交ぜると言うよりは、とにかく力技でグイグイ押すタイプの話になっているが、内容の濃さと登場人物を絞り込んだことで、長編と感じさせないスピード感があるであろう。
Wikipediaによると、モデルとなった森田勝という人のエピソードとは相当変わっているようではあるが、これがまた別の山の話に移っていたら、こうはならなかったであろう。
作者も「全て書ききった」と書いているが、本作の圧倒的なパワーは一読する価値があるであろう。「作家には15個の椅子があるが、今ひとつ空いている。少し前まで『新田次郎』という作家が座っていた椅子です」には笑った。
Posted by ブクログ
非常によい山岳小説だと思う。
ということはすなわち、愉しめたと同時に、とても辛い思いをしたからだ。
中国の山ででなくなった親しい人のことを思い出したから。
Posted by ブクログ
上下どっちでも主人公がずっと言ってた、
人は問題をクリアにして次に進んでるんじゃなくて、問題を抱えながら、また次の問題にも立ち向かってるっていうことはすごく理解できた