面白かった…。切なかった。
好きだったのは「堤防」「花火」「桔梗」「ひよこの眼」など。何人もの私がいて、何人ものあの人がいて。
「堤防」
「じゃ、おまえは、欲望のエネルギーが、運命の方向を変えるという事実をどう考える?」(p.44)
どう考えればいいのだろう、ある種類の瞬発力がこの世の中にはあるということを。そして何故か発揮できる時と、発揮できない時があるということを。
「私、ある男に夢中なのよ」
「へえ、いいじゃん。なんで、それで、投げやりになるわけ?」
「だって、奥さんも、子供もいる人なんだもの」
「まずいよ、それは」
「そんなの解ってるよ。解ってるから、腹立つんじゃない。どうして、あんな男を好きになっちゃったのかなあ。全く、どうかしてる。ねえ、これを運命だなんて言ったら、私、怒るよ。男と女の間ってね、そんなちゃちな言葉で、納得できるものじゃないんだからね」(p.49)
私にはこれこそが運命だと思うけれど。自分が相手に夢中なことも、相手のことが好きなことも認識して言語化できる京子の強さが眩しい。
「花火」
「だって恋に落ちちゃったのよ」(p.69)
「そういう思いやりを持つことが、男を愛するってことなのよ。あの人に会いたいって恋焦がれてる時って、自分を愛してるのよ。自分の欲望を宥めるためにその男を思うのよね。同じ会いたいと思うのでも、その人を愛し始めた時は違う。もっと、静かだし、もっと悲しいものよ」(p.80)
「あーあ、本当に、私たちどうなるのかなあ。男と女って、まったく面倒だわ。体で魅かれ合って、それに飽きた瞬間に、離れられない関係になる。体が離れられないなんていうのは、まったくの嘘。離れられ無くなるのは心が結び付き始めるからよ。体も心も結び付いて離れられないのは、だから一瞬なのよね。両立しない。すぐに消えちゃう。まるで花火みたいなものよ。素晴らしい瞬間だけどね」(p.81-2)
人を本当に愛すると、女は終わりを見てしまうものなのかもしれません。そして、その終わりが来ないように演技者であろうとする姉の気持ちが解らなくもありません。(p.82)
「桔梗」
彼女は、明け方、首を吊って死んでいたそうです。(p.108)
私の分身
「ひよこの眼」
彼は、あの公園で、確かに生きようとしていたのに。そして、私の手をきちんと握ったのに。…それから、何度か、私は偶然、ひよこの目に出会うことがあった。…片手を握りしめながら、私は、こう尋ねてみたい衝動に駆られてしまい、慌てる。もしや、あなたは、死というものを見詰めているのではありませんか、と。(p.214)