吉川英治のレビュー一覧
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いまさらながらの平家物語。そして、いまさらながらの吉川英司。
文庫16冊という、この大作に手をつけるかどうか、迷うばかりであったが、いまこれに取りかかることに決めた。
悩むことはなかった。数ページを読んで、たちまちこの作品と出会ったことに感謝の気持ち。この読み手を一瞬に惹きつける力こそが吉川英司の凄みであるといえよう。
たんなる歴史小説なのではない。そこに書かれているのは、想い・苦しみ・悩み・愛憎・妬み・裏切り・確執などから逃れられない、生身の人間の姿。ひとりひとりの生きざまが歴史というものをつくりあげていく。
【このひと言】
〇愛情はすべてを越えた愛情であるときに、ほんとの美しさを持つ。冷たい母子も、あたたかい母子となってくる。
〇むずかしい説教や書物に訓えられないでも、女体の本質が、知っていた。時により肉体と本心を、二つに持つことを、余儀なくでも、悟っている。
〇無知な願いかも知れないし、憐れむべきかもしれないが、しかし、善良ではある大部分の衆生は、何かを、心に持ちたかった。持たずには、今を、生きていられない人びとであった。
〇「なんの、陽がかければ、月が出る。月が沈めば、陽が出る。あすの陽が、出ないわけでもあるまい」清盛は、たえて不平顔を見せたことがない。 -
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初めてこの作品を読んだのは、某無双ゲーム(灰色っぽいパッケージで、弩兵が最強なあれ)の影響で三国志に興味を持ったのがきっかけで、中学生の頃だった。
その後しばらく三国志からは離れていたのだけれど、つい最近、手持ちの本を整理していたら、半ば黄ばんだこの文庫本が出てきた。
懐かしいなぁ〜という思いから、第一巻の冒頭を眺め始めたが最後、半月くらいで全部読んでしまった。
三国志を初めて通しで味わった時の印象は、中盤までが劇的で面白いということだった。
貧しい劉備が決意とともに立って、呂布や董卓が討たれ、袁紹を平らげて着実に力をつけていった曹操が、孔明の登場によって赤壁で苦渋を舐め、孔明の意図通りに、天下が三分される。
言ってしまえば、三国志は三国になるまでがピークで、そのあとはおまけみたいなもんだと。
そんな僕が今回再読してみて思ったことは……
蜀末期の悲壮感にこそ、この作品の魅力があった。
読んで、想像して、思いを馳せて。
孔明の劉備に対する想いとか、彼にのしかかる重圧とか、そこには華やかなものは微塵もない。
けれど、派手な合戦や権謀術策よりも、「三国志」の「志」が一番染みてくるのはここだったということに、今更気づいたよ。
でもやっぱり確かに、映画化して面白いのは間違いなく董卓とか赤壁、これは揺るぎないっすね。 -
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日本史において貴族の時代が終わり、武士の時代が開幕するきっかけとなった事件が平将門の乱だ。関東地方の一豪族、平将門はをあっという間に周囲を征服、中央から派遣されていた役人たちを追い出し、その勢いで自身はもう一人の天皇と称して、京へ攻め上ろうとする。結局、京の指示を受けた武士たちが将門軍を打ち負かし、将門の乱自体は短期間で終わるが、それ以後、武士階級が注目されるようになる。
こうした歴史を知っていると、平将門とは粗暴で親分肌、革命家というイメージだが、吉川英治の描く将門は全く異なる。
将門は若いころ、京へ留学したことで、都や貴族社会にあこがれを持ち、貴族には頭が上がらない。他人の意見に流されやすく、騙されやすく、激情家で女に弱い。なんとも女々しく、素朴な田舎者だ。この人が乱を起こせるのかと心配になる。
そんな将門のケツを叩くのが、不死人という架空の人物。将門の乱とほぼ同時に瀬戸内海で乱を起こした藤原純友の命を受けて、将門をたきつける。世間知らずの田舎者である将門が、影の主人公ともいえる不死人に乗せられて、過激化していくというのがこの小説の面白さ。 -
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上杉謙信で連想するのは、川中島の戦い、毘沙門天、敵に塩を送るハナシ、等々。信長や秀吉と違って戦国時代日本のトップに立つことには興味がなく、自分の力の誇示に満足するアスリートのような印象がある。吉川英治が描く上杉謙信もストイックな戦いのプロ。戦の感覚を味わうために戦国武将をやっているってカンジだ。かといって、殺人大好きな残虐非道な性格ではなく、民にも臣にも愛情を注ぎ、バランスのとれた人間だった。
そんな他の武将とは違う価値観を持った上杉謙信が、ライバル武田信玄と川中島の戦いに挑む。信玄はキツツキ作戦で謙信をおびき寄せようとするが、謙信はその裏をかき、単身で信玄の本陣を急襲する。そして、謙信の太刀を信玄が軍扇で受けるという一連の名シーンが蘇る。
それにしても、上杉謙信の戦国武将らしからぬ信念や覚悟は独特すぎる。彼に後継者ができなかったことも納得だ。