吉川英治のレビュー一覧
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私は六巻が一番好きである。平家物語の番外編とも云える南海の孤島・鬼界ヶ島に流された俊寛らの現地暮らしがはじまる。俊寛の物語は能や人形浄瑠璃でも題材になっており、よく知られている。人の幸福とは何かを考えさせられる不思議な物語だ。
そして義経。平泉から叔父・新宮十郎行家を頼り、那智に渡る。そこでひとりの老婆・さめと出会う。静かな暮らしは続かず、平家方の探索の手を逃れるため、都を目指す。さめが連れていってほしいと泣きつき、義経がそれを許すところが印象に残る。本当に優しい青年だよ、義経は。応援したくなるでしょ、これは。旅の中途で江ノ三郎を供に加え、都の仁王小路の一軒家で義経、鎌田正近、さめ、三郎の四人暮らしが始まる。さめと江ノ三郎がいいコンビで、何ともほのぼのとさせてくれる。やがて行家と堅田で再会するが、そこから義経の危機が訪れる。それにしても時忠は大物だなぁ。平家にとって良かったのかどうかは分からないけどね。そして本巻で一番の見せ場は無論五条大橋での義経と弁慶の出会いである。そこからの下りは涙なくしては語れない。 -
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もちろん吉川英治は愛国者である。戦前は 「宮本武蔵」 などの作品群で国民を鼓舞し、勇気を与えた。また保守・右翼界の人たちとの交流もあったようである。しかし思想で固まっていた人ではない。左翼の学者から教えを請うようなこともあり、自らの座右の銘である「我以外皆我師」の実践者でもあった。そんな彼にとって、敗戦は例えようもない挫折であったろう。実際にGHQによって公の場からの追放の憂き目をみる。多少とも愛国的であるとされた人間はそういう扱いを受けた時代である。復帰して書かれた本作品の平家は"悪"に描かれていない。悪だから負けたのか?そんなわけはない。この物語の底流にある無常観には吉川の先の大戦への思いが感じられるのである。
この巻から登場する人物は多い。後に義経の近臣となる佐藤兄弟、那須兄弟、そして藤原秀衡。頼朝と政子の出会いとの恋情があり、北条一族も登場。"怒め坊"弁慶がまた彼らしい登場を見せる。それにしても当時の坊主ってのは悪いのが多いね。多田行綱の密訴により、いわゆる「鹿ケ谷の陰謀」が露見し、時代は風雲急を告げていく。 -
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本作品は"国民作家"吉川英治の代表作で、昭和25年から32年まで「週刊朝日」誌に連載された。25年はまだGHQ占領時代で、娯楽も少なかったこともあって、日本的な美意識や生き様を描いた本作は大変な評判を集めることになった。その盛り上がりは昨今のベストセラーの比ではなかったようだ。来年の大河ドラマは平清盛を主人公に据えることが決まっているし、本書の注目度も上がるかもしれない。平家物語を描いた作品には、ほかに橋本治や宮尾登美子らの手になるものがある。平家作品が増えるのはファンとしては大歓迎であるが、その中でも本書の輝きは図抜けていると云える。
第三巻は平治の乱の決着とその戦後処理が主題となる。義朝が非業の最期を遂げ、多くの源氏が捕らえられるが、池ノ禅尼の嘆願もあり、頼朝や義経らは一命をひろう。それが歴史を変えたのはご存知の通り。仏教思想が生きていた世だったからこその処置であろう。保元の乱で崇徳上皇側の武士が処断されるまで、約三百年間死罪がなかったという。平安の世が乱世と化したのは死罪がきっかけだったようにも思える。