【読書レビュー 579】
原作・吉川英治、画・石森プロ、シナリオ・竹川弘太郎『マンガ三国志Ⅱー赤壁の戦いと三国の攻防』飛鳥新社、2020年
上下巻、合計約1000頁のマンガで『三国志』をまとめたものの下巻。
『正史』か『三国志演義』か随時、注記で出典が示されているので「これは史実かも」「これはフィ
...続きを読むクションぽい」と確認しながら読み進める事ができます。
横山光輝60巻は無理な方にはお勧めです。
以下は巻末の渡邊義浩氏(早稲田大学文学学術院教授)の解説の抜粋です。
本書は劉備と諸葛亮が物語の中心として描かれている。
劉備像は『三国志演義』以降に語られてきた劉備像とは大分違っているが、史実に近いと思う。
語られてきた劉備像は情の人、古き良きアジアのリーダー像。
この漫画で描かれる劉備はもともと強くて、傭兵隊長としての能力も非常に高い。
個人的な武勇も高いし、決断力もある。
曹操も認めるだけの軍事能力を持っている。
諸葛亮は史実からすると、優秀な指揮官だが軍事的には無理。
中国では戦争というのは基本的にだまし合い。
諸葛亮は誠実なので、だまし合いがあまり得意じゃない。
諸葛亮はグランドデザインを描く人。
グランドデザインの事を戦略というのであれば、それは超一流の戦略家だと思うが、戦術単位の話だと普通の優秀な指揮官。
個々の戦いは得意では全然ないし、個々の戦いでマジックを使う人でもない。
参謀役として自分の政治基盤をカチッとつくっていった。
自分の具体的な支持基盤をつくり、劉備が警戒するほど権力を固め、がんがん官僚を操り、内政をきちっとやった。
ただ、ナンバーワンになる気持ちは全くない。
諸葛亮は悲運の人。
彼は漢を復興したかった。
なんのイノベーションもないが、その志のために生きた。
諸葛亮が曹操を破って中国統一したりしていたら、全く興味は湧かなかった。
でも、志半ばで五丈原で亡くなる。
馬謖には裏切られ、部下に優秀な人材は少なく、本当にかわいそう。
そこにロマンや悲運を感じずにはいられない。
『三国志』は何を求めて読むかによって見えてくるものが変わる。
様々な人物像が出てくるところに『三国志』の面白さがある。
だから劉備や関羽に学ばなきゃいけないという事もないし、曹操になろうが、董卓のように生きたいと思おうが、全然構わない。
自分が好きな登場人物から、学べるところがあれば、そこから学べばよい。
自分の生きていく事に影響を与えられるような人を見つけられる事が大切。
『三国志』は、中国という超大国が大きく変わっていくところ。
日本の戦国時代とか明治維新もそうだが、歴史が大きく動いていく時代には人々の個性がきらめくので、それに惹かれるのは人のドラマがあるから。
特に、今のように価値観が混迷している時は、過去を振り返る、歴史を見る、古典を読む。
そういう時に非常に魅力のある古典の一つ。
三国志は史実だし、日本にも大きな影響を与えているので、他の物語とは重みが違う。